朝目覚めたら、隣で美少女が寝てた件

えびちゃ。

第1話 目覚めたら


 目が覚めると見知った天井だった。

 

 築三十年超えの年季の入った天井は俺が毎朝見慣れた光景だ。窓から陽光がさしこんできており、すでに明るくなっている。


「そういえば、昨日……」


俺はそこまで言葉を発した途端、頭が言いようのない痛みに襲われた。


 ――二日酔いだ。


「痛ッ――」


 俺は頭を手で擦りながら、昨晩の出来事を思い返す。


 そういえば、昨日は大学終わったあとに、合コンに誘われたんだったか。


 そして、二次会まで行って……


 あれ? ちょっと待ってほしい。思い出せない。


 二次会まで行って……俺は二次会まで行ったのか? そういや、昨日の並木女子大の子たちと一次会で調子に乗って飲みすぎたんだったか。


 鈍い痛みに襲われながらも、一次会の出来事を思い出すが、途中からは記憶がない。


「はぁぁぁ、やっちまった」


 ベッドから体を起そうとすると、俺の左手をマシュマロのような柔らかい感触が支配した。


「ふえっっっ」


 突然、発せられた甘ったるい声の先を見ると美少女が寝ぼけ眼をこすりながらコッチを見ていた。


「――――誰ッ」


 俺は飛び起きると、さっと部屋の隅へと距離をとった。


「なんでそんなところにいるの? ここおいでよ」


 美少女は今しがた俺の寝ていたベッドをポンポンと手で叩いた。


「誰だ?」


「昨日家に呼んでくれたのに覚えてないの?」  


 美少女はキョトンとした表情でこちらを見つめている。


 どうやら、俺が招いた客らしい。しかし、肝心な記憶がごっそりと抜け落ちているため、この子がどこの誰かはさっぱりだ。


 そんな俺の態度を見て察したのか……ああ、と感嘆の声を上げながら宙に一度目を逸らしたのちに、


「昨日のこと覚えてないでしょ?」


 美少女は微笑みながら言った。


「えっ……覚えてる。覚えてる。昨日呼んだよね」


「うん。昨日は激しかったなぁ〜」


「ああ、激しかった。激しかったって……」


 適当に相槌を打ってから、気づいた。何が激しかったんだ。ふと、目の前の美少女の一糸まとわぬ姿を想像してしまった。


「俺が、お前と?」


「お前って呼び方嫌い。私には茅ヶ崎玲奈ちがさきれなってちゃんとした名前があるよ。あっ玲奈でいいよ。私も君のこと太一たいちって呼ぶから」


 玲奈れなは俺の名前を知っている。ということはやはり俺は昨日玲奈と知り合ってそのまま家で、


「俺は玲奈とヤッたのか?」


「私に聞くってことはやっぱ昨晩のこと覚えてないんだ」


「すまん。酔っていて何も思い出せないんだ」


 正直に告白した。あまりにも状況がつかめないため、玲奈に聞いたほうが早いと判断したからだ。


「最初から素直に言えばいいのに」


 玲奈はぶつくさと小言を言いながら、ベッドから起きあがると続けた。


「じゃあさ、昨日の……責任、とってよね?」


 責任、責任、責任、責任。


 俺の脳内で『責任』という単語がリフレインする。玲奈はどう見たって見た目は幼くて、もしや……


「未成年に手を出してしまったのか」


「失礼な。私こう見たって今年でハタチ。大人だよ」


 そうぶっきらぼうに言い放った玲奈の全身を眺めると、背は低いが、出るところは出ており記憶していないのが悔やまれるほどの抜群のプロポーションだ。


「ああ、たしかに大人だ」


「胸ガン見しながら言うかなぁ、普通」


「すまん」


「いいよ。別に見られて困るもの持ってないし」


「じゃあ責任ってなんだ?」


 もう俺の中ではある程度結論が出ているのだが、思わず確認してしまった。それほど、俺は焦っていると言うことだ。


「もうわかってるでしょ。もっかいヤッとく?」


 玲奈はとろんとした目つきで俺の腰に手を回したと思うと、そのまま抱きついてきた。ふたつの豊満なバストが体に当たる。 


「なっ――――」


 やばい。理性が壊れそうだ。


「きっと気持ちいいよ?」


「それはどういう……」


 そのとき、俺は気づいた。


 ――玲奈の手がかすかに震えてることに。


「もしかして緊張してんのか?」 


「はぁ? 別に。一回しようが二回しょうがかわんないし、それに私経験豊富だから。それに、それに……」


「わかった。やめとく」


 玲奈の手を優しく振りほどいた。


「いいの……?」


「ああ、なんか調子くるうわ」


「そういうことにしとく」


 あっけらかんとした表情で答える玲奈。


「……やってしまった」

 

 たった一夜にして今後の人生を左右することになると思わなかった俺は冷や汗を流しながら立ち尽くしていた。


 そんな俺とは対象的に、玲奈はいつの間にか冷蔵庫からプリンを運んでくるとベッドに腰掛けて舌鼓を打っていた。


「ん〜うまい。起きたてのプリンは最高」


「おい、それ俺のプリンだ」


「昨日冷蔵庫の中のやつは勝手に食べていいっていってたよ?」


「ホントか?」 


「うん。ホント、ホント。それとここで一緒に暮らさないか? お前を幸せにしてやるよって決め顔で言ってた」


 玲奈はニヤリと頬を緩ませながら答えた。


「俺の記憶がないことをいいことに事実を捏造するな」


「ははは、バレた。でも好きなだけここにいていいって言ってたよ」


「俺そんなこと言ってたのか……」


 昨日の俺をぶっ飛ばしてやりたい気分になった。この部屋は8畳のワンルーム。それに俺はまだ大学生という身分だ。責任という単語が俺の肩に重くのしかかった。


「責任どうやってとろう……」


 俺はその場にしゃがみこんで頭を抱えてしまった。その様子に玲奈はくすりと笑ったあと、あっけらかんとした態度で言った。


「そんなに重く受けとらなくていいって。私としてはしばらく泊めてくれるとうれしいかな。よろしくね、太一」


 かくして、よわい20歳の俺は知らない女と知らない間に関係をもってしまったわけだが、俺にとって人生初体験が記憶に残っていないというのもちょっと寂しい。


 だが、それよりも目下のところ問題は玲奈の『責任とってよね』というあの言葉だ。夢ならば覚めてくれと頬をつねってみるが痛みは止んでくれそうにない。






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