ヒーロー達の青春後日談〈冬〉

【第79話】努力は裏切らないもの


 最後の季節がやって来た。

 冬……。

 吐く息が白くなる、寒く暗い季節が……。


 とは言っても、時は既に年末。


 クリスマスが過ぎた頃である。

 学校生活は既に長期休暇を迎えており、街は新年を迎える為の準備に大忙しだ。


 万屋家もまた、その年越しの準備に勤しんでいた。


「ぬわぁー! 片付けしてもしても終わんねぇー!!」


 太陽が半ばヤケクソのように叫んだ。


「大掃除なんて嫌いだぁ!!」

「まぁまぁ太陽、落ち着いて落ち着いて。今年一年の汚れを落とすのは大切な儀式よ? 綺麗な部屋で気持ち良くハッピーニューイヤーしたいじゃないの。大丈夫、少しずつでも終わりは近付いているから。あともう一踏ん張り頑張りましょう」

「いやいや……皐月姉……その考えは素晴らしいと思うよ? ただ………だとしたら――――



 何っで! 月夜の奴がいないんだよ!! 逃げやがったなあんにゃろう!!」


 「仕方ないでしょー?」と皐月。


「月夜は透士郎くんの家の大掃除手伝ってるんだから、やってる事は同じよ」

「へっ! どうだか? そんなの建前で、イチャイチャイチャイチャしてるだけなんじゃねぇのー?」

「それならそれで良いじゃない」

「良くねぇよ! こっちは必死こいて掃除してるってのによぉ!」


 ブーブーと、太陽は情けなくも文句ばかり口にしている。

 口が完全に3を型どっている状態だ。

 拗ねていた。まるで子供のように拗ねていた。


「つーか、アイツら付き合ってから、幾ら何でも会い過ぎじゃねぇか!? 暇があれば会ってるだろ!? 飽きねぇもんなのかねぇー?」

「それに関して言わせてもらうと。愛梨ちゃんと付き合い立ての頃のあなた達も似たようなものだったわよ?」

「え……? そうなの……?」

「うん。毎日毎日会ってて飽きないのかなぁー? って、あの時の月夜も言ってたわ。あなたに対して。……ふふっ、兄妹揃って同じ事して同じ事言い合ってるーって、見てて聞いてて面白いもの」

「ふ、ふぅん……そ、そうなのかぁ……オレもあんな感じだったのかぁ……ふぅん……」

「付き合い立ての頃は、どんなカップルも似たようなものだから……月夜の場合、たまたまその時期が今ってだけだもの、攻めるのは間違ってるわよ」

「ふむ……言われてみれば……確かにそうか……」


 と、納得する太陽。

 このまま大人しく大掃除を再開――するのかと思いきや……。


「あ、でもやっぱ無理だ……しんどいよぉー」


 太陽のぐずりは続いた。

 「仕方ないなぁ……」と溜め息を吐く月夜。


「少し休憩にしましょうか。クリスマス会の時のケーキが、丁度二人分余ってるから、食べて元気を蓄えましょうか」

「ケーキ!? 賛成賛成!! そうしよう! そうしよう!!」

「その代わり――――ケーキを食べたら、大掃除をやり切る事。分かった?」

「分かってる分かってる!」

「約束よ? よし、ならお茶も準備するから、待っててね」

「オッケー!」


 ケーキっ! ケーキっ! と大はしゃぎしている太陽。

 そんな可愛らしい弟の姿を見て「やれやれ……」と息を落とす皐月だった。

 一先ず掃除を中断し、休憩という名のケーキタイムへ。


「ケーキ、ケーキ、うっれしいなぁー!」


 ウキウキ気分で食卓へ座り、ケーキを待つ太陽。

 しかしふと気付く。

 自分一人しか座っていない食卓を……その殺風景な風景を見て……ふと、我に返った。


(ん……? ケーキが…………?)


 クリスマスの日を思い出す。

 我が家に、姫や大地、宇宙や忍、静と千草、月夜と透士郎、そして自分と愛梨と皐月が勢揃いし、どんちゃん騒ぎでジングルベルしたあの日の事を思い出す……。

 ケーキ二人分……。


「…………。そういや皐月姉……クリスマスあの時にケーキ食べてなかったよな……」


 そうなると……話は変わってくる。


 残った二つのケーキの内、一つが皐月の物だったと仮定すると……。

 もう一つは恐らく――――


 クリスマス会に……つまり――火焔剛士のものであると、推察される。


「…………皐月姉、やっぱケーキは要らねぇわ」

「え? どうしたの急に?」

「いや……何となく、欲しくなくなっちゃって……あはは……お茶だけで良いや」

「……そう? ならお茶と……バウムクーヘンでも添えておくわ」

「オッケー。サンキュー」


 そんな訳で、休憩時間にはお茶にバウムクーヘンを添えていただく事になった。

 それらを口に運びながら、太陽が問い掛ける。


「剛士さん、勉強頑張ってるんだな……」

「うん、そうね。この間の模擬テストも調子良かったし……まぁ、以前ギリギリのラインではあるけれど……頑張ってるわ」

「凄いよなぁ……あの人……去年まで、勉強なんて一ミリもした事がないような阿呆だったのに……今、合格が見える所まで成績上げてんだもんなぁ……本当に……尊敬するよ」


 と、太陽は言った。

 皐月は嬉しそうに微笑み……「そうね」と一言。


「皐月姉はもう、合格決めてんだよな?」

「うん。私は学校推薦だからね。一足先に、受験生からは卒業してるわ」

「流石は皐月姉」

「ふふっ、ありがとう」

「…………」


 太陽はカレンダーを見る。

 カレンダーには、皐月の文字で、剛士の受験日程が書き込まれていた。


 一月中旬に共通テスト。

 二月に二次試験。

 三月の頭に合格発表。


「…………受かって欲しいよな……剛士さん……。報われて欲しい」

「受かるわよ……きっと。だって……努力は裏切らないもの」

「…………そうだな」




 ……場面は変わり。


 太陽と皐月がそんな会話を交わしていた、丁度その頃――――


 話題の剛士宅に、一人の人物が来訪していた。


 ピンポーン……と、インターホンが鳴る。

 剛士が「はいはーい」と、玄関を開けると……そこには――


「こんにちは、火焔先輩」

「白金? 珍しいな……何か用か?」


 太陽の彼女である、白金愛梨の姿があった。


「突然連絡もなく来てしまい申し訳ありません。ですが少し……お話、良いですか?」

「か……構わねぇけど……?」


 剛士は愛梨を家の中へと招き入れる。




 とまぁ……こんな感じで、最後の季節――


 《冬編》開幕です。

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