【第78話】泡水透士郎と万屋月夜⑧


 衝撃のネタばらしから三日後……。


 万屋月夜は、帰って来た。


 元々、二年もの間海外へ滞在すると思っていた為、パンパンのキャリーバッグを引き摺り。

 気まずそうな表情で、帰って来た。


 何が気まずいって、あちこちに別れの挨拶を済ましていたからだ。

 感動的な別れの挨拶を……お別れ会たるものも開催してくれた。にも関わらず、実は二年ではなく三日でしたぁーなんて、どの面下げて言えば良いのだろう。


 まぁ……そのお別れ会を企画したのが、静達中学メンバー出身の元ヒーロー達であったのは幸いだった。

 一般のクラスメイト達だったら、恥ずかしさのあまり不登校になってもおかしくなかった……。

 何食わぬ顔で登校したら、気まず過ぎる雰囲気間違いなしであった……。

 本当に幸いだった……と、月夜は胸を撫で下ろす。


 それと同じくして、疑問が浮かぶ。


(静達は、どこまで知っていたのかしら? ひょっとして全て知っていたのかしら? だとしたら……あのお別れ会の時、どんな心境だったのかな? 顔では悲しそうな顔していても、心の中では大爆笑してたんじゃ……そう考えると……立つわね……腹が!)


 月夜の表情は、怒りで満ち溢れていた。

 その目が、メラメラと燃え滾っている。


「月夜ちゃん! ありがとねぇー!!」


 改札を越えた所で、又旅に抱き締められた。


「それと変な感じになっちゃってごめんなさぁい!! まさか太陽くんがそんな面白――コホン……酷い企みを企てていただなんて私知らなくてぇ!! 本当にごめんなさぁい!」

「猫田さん……今、面白い企みって言おうとしてました?」

「してないわぁ」

「説得力がないなぁ……」


 何せ又旅は、行きの飛行機の中で事情説明をした際、腹を抱えて息が出来なくなる程爆笑していたのだ。

 少なくとも彼女は、この一件を『面白い企み』と、思っている事は間違いない。


「ま……まぁ? でも、こうして帰って来れた訳だしぃ……太陽くんに、酷い事するのはやめてあげてね? ねぇ?」

「死ぬまで殺し続けます」

「怖い!! ワンワンくん! 月夜ちゃんが怖いわぁ!! 鬼の目をしてるぅ!!」


 月夜の般若のような顔を目の当たりにし、市一の後ろに隠れる又旅。

 市一が溜め息を吐く。


「何にせよ……感謝するぞ万屋月夜……この三日間、有意義な時間となった……。お前から取れたデータは、間違いなくポルターガイスト撃破に役立つ事だろう……。誇れ、お前はまた世界を救ったのだ……」

「あ……いえいえ……それはその……恐縮です」

「一時的とは言え、お前を再び……こちらの世界へ引き寄せた事を詫びよう……青春の邪魔をして済まなかった」

「いえいえ……こちらこそ、お役に立てて良かったです。頑張ってくださいね――世界平和の為に」

「……ああ。ありがとう……」


 市一が笑って頷いた。

 すると又旅が、トンっと月夜の背中を押した。

 前に転げそうになる月夜

 又旅と市一が手を振っている。


「青春――――頑張ってねぇ」

「幸せになれよ……ヒーロー……」


 その言葉を受け、深々と月夜は頭を下げた。

 「はい!! ありがとうございます!!」と、頭を下げた。

 そして走り出す。


 月夜を見送る又旅と市一。

 少し感慨深そうにしている。


「大人になったねぇ……月夜ちゃん……」

「そりゃそうさ……子供は大人になるものだ……」

「まさか、月夜ちゃんと透士郎くんがねぇ……驚いちゃったわぁ……。他の皆もぉ、あの二人みたいにくっ付いたりしてるのかしらぁ? 例えばぁ……太陽くんと愛梨ちゃんとかぁ、皐月ちゃんと剛士くんとかぁ」

「さぁな……。まぁ……奴らは奴らで、青春している事だろう……」

「うん、そうだと良いわねぇ」

「さ……帰るぞ。オレ達は、そんな彼女達の為に世界を守らねばならんのだ……」

「うん!! あの子達や……そして――――



 の為にも……ねぇ……」



 そう言って又旅は、自らのに優しく触れた。

 市一もまた、そんな彼女の腹部を一瞥した後……。


「……そうだな」


 優しく……微笑んだのであった。




 一方その頃――月夜は、足を止めていた。

 空港内のロビーで、目当ての人と出会えたからだ。


 目当ての人――最愛の人――――泡水透士郎と。


 気まずそうに微笑み合った後……二人は見つめ合う。


 そして先に口を開いたのは透士郎だった。

 となるその言葉を口にする。


「月夜……。



 オレはお前が好きだ――愛してる。この一件が終わったから……一緒に暮らしてくれないか?」


 しかしここで、透士郎は訂正する。


「ま……一緒に暮らすのは却下だな、まだ早いか」

「そうね。それは後々考えましょ」

「そうだな。……で? もう一個の方は?」

「そんなの……決まっているじゃない――――




 私も……透士郎の事が好きよ。不束者ですが、どうぞよろしくお願いします」



 「ああ……こちらこそ」と、透士郎は月夜を抱き締めたのであった。

 しばらく抱きしめ合った後、抱擁が解かれる。

 顔を合わせて月夜と透士郎は声を揃えて言う。


 「「さて」」と……。


「「恋人になってといきましょうか」」


 その共同作業とは――


「あのクソ馬鹿クソエロ糞あんぽんたんな糞兄貴を――――」

「あのクソ腰抜けポンコツ猿知恵野郎の太陽を――――」



「「ぶっ殺す!!」」


 禍々しい言葉とは裏腹に……月夜と透士郎は楽しそうだった。

 二人の手は、しっかりと結ばれている。

 固く硬く……握り締められている。

 二人は歩幅を揃え走り始めた。


 はじめての共同作業を成し遂げる為に――

 輝く未来へ向かう為に――


 この後……太陽が散々で無惨で凄惨な目に合う事になるのだが……それはまぁ一先ず置いておいて。


 いよいよ秋が終わり。

 本格的な寒さが街を包み込んでいた。



 春夏秋冬――最後の季節が、到来する。











 エピソード5『泡水透士郎と万屋月夜』――〈完〉

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