【第45話】万屋太陽と白金愛梨②


「もしもし……? 皐月姉? ごめん、今日帰るの少し遅くなる……。うん……もちろん気を付けるよ。うん…………晩ご飯は家で食べるから……うん…………分かった……じゃあ、そういう事で……」


 月夜は、皐月との通話を切った。

 スマホをポケットの中へ仕舞い、テーブルを挟んで座っている愛梨へと視線を向ける。


 二人は今、喫茶店に来ていた。

 夕食は家で食べるから、デザートならば付き合うという月夜の提案を、愛梨が飲んだ形だ。

 そして、『それなら良いお店があるわ』と、愛梨がこの店を紹介した……という運びである。


 開口一番、月夜が問う。


「で? 話って何?」

「言わなくても分かっているのでしょう? 私と……太陽くんの話よ」

「……また、私の心を読んだのね?」

「心を読まなくても分かるよ。あなたがバカじゃないって事、私は知ってるもの」

「ちっ……嫌味な女ね……私はね、あなたのそういう所が嫌いなのよ」


 イライラが隠せない月夜。

 「そう……」と、愛梨は淡々と頷いた。


「でも、こうして二人きりで喫茶店ここに来てくれた……。何より私は、それが一番嬉しいわ」

「それはあんたが――」

「あ、あのぉ……ご注文良いですかぁー……」


 険悪なムードをへし折るかのように、店員が話に割り込んできた。

 そう……ここは喫茶店なのだ。注文は一番にするべき事柄である。

 月夜は渋々、メニューを手に取り、サッと眺めた後「チーズケーキとレモンジュースで」と注文。


「私もチーズケーキとオレンジジュースお願いします」


 愛梨もそれに同調すると、月夜が怪訝な表情を見せる。

 店員が去って行くのを確認すると、月夜は一言。


「真似しないでよ」

「真似じゃないよ。私、いつもここ来たらチーズケーキを頼むの。美味しいんだよ? ここのチーズケーキ」

「…………あっそ」

「似てるんだね……

「は?」

「ケーキの好みも……の好みも」

「はぁ!? す、好きな人って! あんたねぇ!!」

「静ちゃんから聞いたわよ。月夜ちゃんは、だって」

「あ……あれは! あんたが先に!」

「私が?」

「…………何でもないわよ……」


 ここで愛梨が視線を落とす。


「私……もっともっと、月夜ちゃんの事知りたいな」

「あっそ……私は全然、あんたに興味なんてないけどね」

「うん……知ってる」


 苦笑いの愛梨。


「……その顔……」

「え?」

「私はあんたのその顔が気に入らないのよ! 【読心】だかなんだか知らないけど! その何でも理解してますって表情が気に食わないのよ!! 私の事知りたいなら! その得意な読心で、私の心も読めば良いでしょ!? そして、あんたは理解するの! 私が……如何にあんたの事が嫌いなのか! 理解するのよ! そうすれば、きっと私に許可を貰おうともせず、兄貴と付き合おうって考えになる筈だから!!」

「あ、心配しなくても、ちゃーんと心は読んでるわよ?」

「この野郎っ!!」


 月夜が机を強く叩いた。


「じゃあ何でわざわざ私の元になんて来るの!! 悪口でも言われたい訳!? ドMなの!?」

「ううん……むしろ私はSよ。ドS」

「聞きたかないわ! そんな事!!」

「心を読んだ……よ」

「……え?」

「月夜ちゃんが今言ったように……。こんな事しなくて、良かったのになぁ」

「っ!!」


 痛い所を突かれ、押し黙る月夜。そして彼女は深い溜め息をついた。


「……なるほど、やっぱり全てお見通しって事なのね……」

「ええ……何せ私は――他人の心が、読めるから……」

「…………」

「私は今まで……この力で、色んな人を不幸にしてきた……今、あなたにしているようにね……。この一件は、私の人生を大きく左右する出来事に他ならない……。、私はあなたと向き合わなくてはならないの……。不幸ではなく……太陽くんを、幸せにする為に……」

「……兄貴を……?」

「そう。ねぇ知ってる? 私が太陽くんを好きなくらい……そして、月夜ちゃんが、太陽くんを好きなくらい……太陽くんも、月夜ちゃんの事が、好きなんだよ?」

「………………」

「そんな太陽くんが、大好きな妹さんが嫌う女性と一緒になって、本当の意味で幸せになれるのかなぁ?」

「……知らないわよ……そんな事……勝手に幸せになればいいんじゃないの?」

「月夜ちゃん」

「何よ……」

「お願いします……。お願いだから……私と、ちゃんと向き合ってくれないかな?」

「…………向き合ってるでしょ? 今こうして……テーブルを挟んで……」

「嘘つかないで、月夜ちゃんだって本当は分かっている筈よね? 私が言っているのは、そういう物理的な話じゃなくて、だよ」

「はぁ? 何言ってんの? 意味分かんないんだけど」

「月夜ちゃん!!」

「っ!!」


 突然大声を上げた愛梨に驚く月夜。


「…………知ってた? 私……腹が立つと、こんな風に大声を出したりするんだよ?」

「あ……あんた、一体何を……」

「太陽くんと昔、なんて、ずっと彼に酷い事を言ってきたの……彼の胸を抉るような……エグい事をね。どう……? 、あなたには――知って欲しいって、言っているの」

「…………」

「私と、ちゃんと向き合って欲しいっていうのは、

「………………」

「人ってね……? 上手いのよ、猫を被るのが」

「……知ってるわよ……そんな事……」

「だからこそ……あなたには、。その上で、判断して欲しい」

「判断……?」

「そう……。太陽くんの事が大好きで――彼の事を一番見てきたあなたが――――私が、彼の横に居て良い存在であるのかどうかを、見極めて欲しいの」

「…………! 見極め、る……? 私が……?」

「それがあなたに認めて貰うという事……そして、それを問うている、今、この瞬間が――――よ」

「…………っ!!」


 月夜は見誤っていた。

 白金愛梨という女性の事を……。


 今までただただ嫌っていた月夜は知らないのだ……この目の前にいる愛梨という女性の――――を。


「ねぇ……月夜ちゃん? もう一度聞くわよ……? 私と――――ちゃんと向き合って」


 愛梨と月夜のバトルは続く……。


 

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