ヒーロー達の青春後日談
蜂峰文助
【第0話】クライマックス
戦いは、クライマックスを迎えていた。
人類を恨み、人類を滅ぼそうとしている悪の超能力者――アダンは激しく息を切らしていた。
彼の力は――触れた万物を消滅させる。という凶悪な力。
世界最凶と呼ばれる力。
しかしそんな最凶の力を持つ彼は今、追い詰められていた。
目の前に立ちはだかる十二名の戦士達の手で、追い詰められていた。
その十二名の内の一人が、諭すように口を開く。
「なぁアダン……最後にもう一度だけ問うぞ……考え直せねぇのか?」
アダンは答える。即答で。
「愚問だな。お前達が何を言おうと、私の考えは変わらない――私は……この世界から、ありとあらゆる人類を消し去る。全てを消し去り、私も死ぬ。それが私の使命なのだ!」
「そうか……残念だ」
「だからこそ!! 私の使命の邪魔をするお前達をここで滅ぼす!! 覚悟しろ!」
「覚悟するのはお前の方だ!! アダン!!」
十二名の戦士、その中心人物であろうその男性が声を上げる。
「行くぞ皆!! これが最後のコンビネーションだ!!」
「おぉっ!!」と、残り十一名の戦士達が雄叫びのように返事をし、それぞれが行動に移った。
「太陽くん! アダンは正面から、最後の力を振り絞った消滅波動を放つつもりよ!」
「……おっけー! サンキュー白金!! 皆聞こえたか!?」
他十名、それぞれが行動をしながら頷いた。
先ずは【読心念話】の力を持つ女性――
その愛梨の後ろで、立っている女性が一人。
「皆! 臆せず突っ込んで! 波動に当たって消滅したとしても、私が必ず治癒するから!!」
「頼むぞ! 姉貴!!」
中心人物である男性の姉であり、【治癒】の力を持つ
傷は全て癒してみせる。だから安心して突っ込め――と。
そんな心強い後方支援を受け、他の面々は思い切って飛び込む事が出来る。
「木鋸先輩っ! 土門先輩っ! 幾ら皐月先輩の援護があるとしても、アレをそのまま撃たれるのはマズイ!! 少しでも威力を弱めたいから、手伝ってくれないか!」
突っ込む戦士達の一人である女性が、そのように協力を要請すると。
「りょりょりょ、りょーかい!」
「承知した!」
【透明化】の力を持つ
先ずは千草が、協力を要請した女性の腰にしがみついた。
その瞬間、二人の姿が瞬く間に消えた。
目に見えなくなった。
その状態で女性は叫ぶ。
「土門先輩っ!」
「分かっている! 能力発動――海波静と木鋸千草をアダンの背後へ飛ばせ!!」
次の瞬間――女性と千草が、アダンの背後へと瞬間移動した。
隙あり――女性……こと、【借力】の力を持つ
「全身全霊――――シズちゃんパンチ!!」
「こざかしい!!」
アダンの右手で振り払われ、パンチ自体は防がれたものの、アダンがこれから放とうとしている消滅波動のチャージを、ほんの少し鈍らせる事に成功する。
静とチグサが凄まじい勢いで吹き飛ばされ、地面を転がって行く。その最中、シズとチグサは叫ぶ。
「今だ! 皆!!」
「やっちゃえぇえっ!!」
愛梨、皐月、千草、静を除く、残りの面々が二人が作り出した隙を突くかのように猛接近を行う。
しかしアダンも簡単には近付けさせない。
チャージが鈍った消滅波動を放ったのだ。
「消し飛べ!! 人間共ぉ!!」
消滅波動が、面々に襲い掛かる。
「火焔先輩!! 月夜!!」
「分かってる!!」
「一々指図しないでよね!! 馬鹿兄貴!!」
二人の男女が先頭に立ち、それぞれが消滅波動へ向けて手を掲げる。
「月夜! 龍だ!! あれが一番突破力がある!!」
「了解っ!!」
二人の内、男性――【炎操作】の力を持つ
炎の龍が消滅波動へと向かって行き、激突――
「うおおぉおおおおおっ!!」
「おぉおおおぉおおおおっ!!」
見事、消滅波動のど真ん中をぶち破り、道が出来た。
そこを残りの面々が駆け抜ける。
そしてその時――愛梨から、脳内テレパシーにて指示が飛んだ。
『アダンはこれを予想して、こちらへ接近して来てる! 見えない角度からの消滅波に注意して!』
「――と、なると……出番だ透士郎!!」
「おっけぇ!!」
【千里眼】の力を持つ、
「分散した消滅波動、四時の位置にアダンを発見! 白金さん! オレの視覚情報を皆に念話で送ってくれ!!」
「分かった!!」
透士郎が千里眼で突き止めたアダンの居場所を、愛梨が読心念話で全員に伝えた。
全員がアダンが隠れている箇所へと一目散に走って行く。
残った、四名がアダンへの接近に成功。
先ずは【催眠洗脳】の力を持つ、
「洗脳!? 煩わしいわ!!」
しかしそれは、易々と振り払われる。
だが、ほんの僅かな隙を作り出す事が出来た。
その隙に――
「行くよ大ちゃん!!」
「おうっ!!」
「撃て! 式神軍団!」
「分身の術!!」
【霊能力】の力を持つ
【分身】の力を持つ
しかしそれらは精々目眩しになる程度。
意図も容易く――アダンの消滅波によって全て打ち消されてしまう。
だが、目眩しにはなった。
その間に、彼が動いていたのだ。
忍の力――【瞬間移動】を使用し、戦士達の中心人物である男性……【再生能力】の力を持つ、
完全なる無防備の背後から、太陽は――人間の限界を超える力で握り締められた拳を振るった。
「「いっけぇー太陽!! やっちまえぇーーっ!!」」
瞬間――
戦士達の心が一つになった。
太陽の拳は見事、アダンの腰に直撃。
それをまともに受けたアダンは、瞬く間に吹き飛ばされ、数十キロ先の建物へと激突した。
勝負あり。
アダンは、戦闘不能となった。
ゆっくりと太陽が近寄り、声を掛ける。
「……人間のコンビネーションも、悪くねぇだろ?」
息も絶え絶えなアダンが返答する。
「あ、ああ……見事だった。まさか、この私が、敗北するなど……想定すらしていなかった」
「そうか? オレにはバリバリ想定出来てたけど?」
「ふっ……そうか……」
アダンは、薄く笑った。
「万屋太陽……一つ良いか?」
「何だよ?」
「人間は――お前達みたいな奴ばかりじゃないぞ」
「ああ……知ってるよ」
「世界を……人類を救ったお前達にすら、時には牙を剥く……愚かな生命体……それが人間だ」
「……そうだな」
「そんな愚かな生命体を、お前達は……何故、許す事が出来るのだ?」
その問いに対する、太陽の返答は……。
「許すも許さねぇもねぇよ。それが人間なんだ」
「……それが……人間?」
「世の中には色んな人がいる。だから色んな問題が起こる。人間の悩みの九割くらいは、人間関係っていうくらいだからな。けどな――それは普通なんだよ」
「普通……? それが可笑しいのだ。私は人間共に散々痛め付けられたのだぞ? 最愛の人を――奪われたのだぞ? それが普通であってたまるものか!」
「だな……あんたの過去は知っている。オレも聞いた時、人類という生命体について忌々しく思ったよ……こんなオレ達は、生きていて良いのかなって、本気で考えた。けどな? オレ達はお前とは違ったんだ。だから、オレ達はお前を止めたんだ。全力で――人類を、守ったんだ」
「それは他人事だからだ!」
「そうだ、他人事だ。けどな? さっきも言ったが……世の中には色んな人がいるんだ。お前の最愛の人を奪ったような、悪い奴もいれば……オレの仲間達みたいな――良い奴らだっているんだぜ?」
太陽は続けた。
「だからお前だって道を踏み外さなきゃ、いつか出会えてた筈なんだ。良い人間に。そして、そいつらと出会っていたら、人類を滅ぼすなんて馬鹿な考えは浮かばなかった筈だ。だからオレ達は、守る事を選んだ。悪い奴らのせいで、良い奴らがとばっちりの如く殺されるのは良くないと思ったからな。それは絶対に良くない。良い奴らは幸せにならなくちゃいけねぇんだから」
「…………っ!!」
「あのままお前が、人類を滅ぼしていたら。お前は、お前の大切な人を襲った悪い奴ら以上の、悪い奴になっちまう……それだけは絶対に、止めてやりたかったんだ」
ここで、太陽の目から涙が零れ落ちる。
そんな彼の姿を見て、アダンは唖然としてしまう。
「何故……お前が泣くのだ?」
「分からねぇ……分からねぇけど……何か出て来るんだよ……涙が……」
「…………そうか……」
何やら、アダンは納得した様子で……。
「良い奴……か…………どうやら私は……視野が狭くなってしまっていたようだ……」
「誰にでも失敗はある。ま、お前の場合、やり過ぎだったけどな」
「良い奴は幸せに……その気持ち、今なら分かる気がするよ」
アダンは言う。
「私は今、お前に……幸せになって欲しいと、思っている」
「はぁ? オレに?」
「ああ。お前に……」
「何でだよ。藪から棒に」
「良い奴は――幸せにならなくちゃいけないのだろう? お前は良い奴だ。だから幸せになって欲しい……いや、ならなくちゃいけない」
「そうか? オレ、お前から見たら間違いなく悪い奴だろ?」
「いいや……お前は良い奴だよ。何故ならお前は――
こんな私の為に、泣いてくれたのだから」
アダンは優しく笑いながら……そう言ったのだった。
彼は続ける。
最期の言葉を、綴る。
「万屋太陽……そしてその仲間達。貴様らの今後の人生は、貴様ら自身が勝ち取ったものなのだ。誇りに思え……そして、思う存分――幸せになれ」
その言葉に、太陽が答える。
「ああ、勿論だ」
その言葉を聞くと、アダンは再び、優しく笑った。
「……そろそろ……時間のようだ……色々と迷惑を掛けて済まなかった……」
「ほんとそれな」
「ははっ……………………待っていてくれ……イヴリス……もうすぐ……君の所へ……行く、から…………」
「……アダン?」
そしてアダンは息絶えた。
この瞬間、人類の存亡を掛けた戦いが幕を閉じた。
ラスボスであるアダンの死によって……終結した。
世界の平和を守る為戦っていた戦士達が、世界の平和を守った英雄となったのだ。
知る人ぞ知る――英雄に……。
ヒーローに。
「ねぇ、太陽くん……」
「何だ?」
徐に、愛梨が太陽へと話し掛ける。
「アダンさんは……イヴリスさんと再会する事が、出来たのかな?」
「……そりゃ分かんねぇよ。お前の得意な読心で読んでみたらどうだ?」
「……死者の心は読めないわよ……流石にね」
「そりゃそっか…………オレは――無事、再会出来たんじゃねぇのかな、と思う」
「何でそう思うか、聞いても良い?」
「聞かなくても、いつものようにオレの心の声読めば良いだろうが」
「その答えは直接聞きたいから……あなたの口から、直接」
「はぁ? 何だそりゃ?」
「良いから、そう思う理由……教えて」
「良い奴は、幸せにならなくちゃいけねぇと思うからだ――それが理由……悪いか?」
「ううん……」
愛梨は首を左右に振りながら、ニコッと笑った。
「太陽くんらしい答えで、安心した」
「そっか、なら良かったよ…………幸せにならねぇとな、皆も」
「太陽くんも……ね?」
「……ああ。そうだな」
戦いは終わった。
けれど、彼ら彼女らの人生は……この先も続く。続いて行く。
むしろ、ここから先の方が長いのだ。
これ迄の戦いは、長い人生のほんの僅かな一ページにしか過ぎない。
ほんの僅かな……。
終わりは始まり。
太陽とその仲間……英雄達の新たな物語。
青春の後日談が今――――始まろうとしていた。
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