犯人は私です

@tonari0407

◼️ドミノ◼️

【お詫び】この話は2022.7/14加筆、改稿して結末が変わりました。(当初は1話のみ)

 勝手な都合でご迷惑をお掛けして、大変申し訳ありません。

9/4以降、話の筋は変えずに矛盾点解消のための改稿を予定しております。




 私は九つの命を奪った罪人です。どうか私を罰して下さい。


◼️…◆・◆◆・・◆…◆…◆・・・・◆◼️


 私が殺しました。


 本当です。

 生まれる際に肉親の命を奪うなんて、私の人生はイバラの道を歩むことが決まっていたのでしょうか?

 わかりません。でもそれでもいいと思っています。


 私の生涯は罪深くも充実したものでした。


 私が母を殺しました。


 ◼️


 妻を亡くし、幼子を抱えての父の子育ては想像を絶するものだったでしょう。父について思い出せるのは、痩せて血管の浮き出た腕に目元の深い皺、年々増える白髪くらいでしょうか。

 他人事に聞こえる?

 当たり前です。自分以外は『ほかのひと』つまり、他人ですから。


 別に恨んだりしていません。父は頑張っていたと思います。憎き殺人犯である娘に対して一切文句も暴力も、言わず、ふるわずに、時間の限り私に尽くしていたのですから。

 努力は認めます。ただ、受け手の問題です。相手が悪かったとしか言いようがありません。


 私が無駄に勉強が得意だったばかりに、父は無理して余分に学費を稼ごうとしました。

 最後の顔は安らかでしたね。笑っているようにも見えました。


 私が父を殺しました。


 ◆


 別に私はどうでも良かったんですが、世間一般には小学生は一人で暮らしたらいけないんですって。

 自分の世話くらい自分で出来ます。

 余計なお世話ってものですが、それでも私は恵まれていると思わなくてはいけないのでしょう。


 絶縁していた母の実家はお金持ちの名家でした。父がいた頃は会ったこともなかった祖母の家が私の行き着いた先。

 なに不自由のない生活ってやつですか? お金ってあるところにはあるんですね。世の中の不平等さに驚きました。

 私は無意味に溢れているものでさえ、浪費していいとは思いません。贅沢し放題の環境に対して、そんなことを思うのは倹約家の父の娘だったからでしょうか。

 汚いものに見えました。私にそう見えただけです。私は悪意に満ちたことは何もしていません。


 言われた通りにお餅を焼いて、祖母に出しただけです。細かく教えられた通りにお茶を淹れて戻ってきたら、もうこと切れていました。

 私のいた方向に向かって伸ばされた手も、醜く何処かを見つめる瞳も思い出したくありません。


 私が祖母を殺しました。


 ◆


 祖母が亡くなり、私は自由と、何でも願いを叶えられるだけの富を手に入れました。


 そういえば、甘い匂いを発する花に寄ってきたハエがいましたね。どうでも良いことなので忘れていました。

 自分にないものを持っているからって妬むのは、自身の愚かさを露呈しているだけなのに、本当に鬱陶しかった。


 一生以上に消えない刻印を刻んであげました。消しても消してもいくらでもデータは何処へでも飛んでいく。手を離れた蝶が鱗粉を撒いているようで、これは少し楽しかった。

 やったのは私の軽率な彼氏ですが、低次元の嫌がらせについて何も考えずに愚痴ったのは私。


 私が同級生を社会的に殺しました。訃報は間もなく、でしたね。


 ◆


 身内が全員いなくなり、人付き合いも嫌になって、死ぬか生きるかだけのモノクロの世界に彩りを与えてくれた人がいました。

 いつも寂しげに見えたのが、心優しい彼の気を引いたようです。


 愛しい貴方。貴方だけは特別でした。

 与えられるばかりで与えることのなかった私に、人の為に尽くす喜びをくれました。

 この時が私の人生の最良のときだったのかもしれません。


 夏の暑い日のことでした。

 青々と輝く緑に、光る水面、じりじりと照りつける太陽、曇りのない澄みきった青空。

 絶好のロケーションのキャンプは楽しかった。


 幸福感に気が弛んで息子から目を放した私と、ちゃんと見ていて対応した貴方。

 素晴らしい夫でした。


 私が、誰よりも愛する夫を殺しました。


 ◆


 空虚な日々に、騒がしさと生きる意味を与えてくれたのは貴方の忘れ形見でした。


 立派な人だった貴方の分も私は珍しく奮闘しました。

 男親がいないからといって、不自由させたくなかった。貴方のような真っ直ぐ健全な子に育って欲しかったのです。

 私の過剰な努力と期待はあの子の負担になっていたのかもしれない。


 人であったかもわからないものになったあの子のことは直視できなかった。

 ごめんなさい。ごめんなさい。

 同性が好きだなんて思いもしなかった。


 私が、精一杯の愛情をかけて育てた息子を殺しました。


 ◆


 私の近くにいる人は、私が全員殺してしまう。死にたかった。でも勇気がなくてできなかった。情けないけれど、これが現実。


 私は誰にも会わずに、家に引きこもるようになりました。

 幸いなことに、お金だけはあって不自由はありません。

 私は殺人犯なのに、周囲の人は私に同情するばかり。この罪深さを誰かに非難されたい。罰されたい。それが私の願いです。


 今回は誓って私からは何もしていません。仕方がなかったんです。迷い猫が庭に居着いてしまいました。ほっておけなかったんです。

 怪我をしていたので病院に連れて行って、夜通し看病しました。

 うたた寝から目覚めたとき、柔らかい小さな毛皮は冷たくなっていました。


 家の庭に亡骸を埋めたとき、殺人者が遺体を自分の近くに埋める気持ちが分かった気がします。私は自分の『罪』を隠すために、埋めたのです。これは許しがたいことです。


 私が、罪も汚れもない小さな猫を殺しました。






 ◆







 ワタシはだれともかかわりません。

 もうむかしのことしかおもいだせない。


 あなただぁれ?

 ああ、ごはんをたべさせてくれるの。すこしあじがうすいわね。

 おとうさんのチャーハンがたべたい。

 ほんとうはだいすきだった。

 ひとりでさびしかった。


 ワタシ、あなたのこときらいじゃないわ。

 にこにこわらって、いつもゆっくりワタシのはなしをきいてくれるもの。

 あなたならワタシをせめてくれるかしら?


「ワタシがりました。ワタシが、ワタシがぁ……」


「――さん、――さん。どうしましたか?」


「わるいこ。ごめん……なさい。ごめんなさいぃ……」


「――さんっ! 危ないっ!!あっ……きゃあぁぁぁっ」



 あれ?どうしたの?

 ワタシ、きれいないろのおようふくさわりたかったの。あんしんしたかったの。


 なんで、ワタシをしかってくれないの?


 いろがかわっていくわ。

 あのいろはみたことがあるいろ。

 なつかしい。なつかしい。


 ワタシもワタシも……



 がっしゃぁぁぁんっ




 ――ぜんぶ……はんにん……はワタシ……ごめ…んなさ……い……ばつ……を……


 ◆◼️

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