第13話 もしかしてだけど……デート?

  キーンコーンカーンコーン……


 グラウンドにチャイムが鳴る。下校時間だ。


 悔しい、本当にくやしい……今日も、一回も勝てなかった。そして、もっと悔しいのは、ついにアリアちゃんが代田くんから一セット取ったこと。先にやられてしまった。

 三回目のレイアウト変更で、ついにアリアちゃんが、代田くんを抑えて三本先取で勝利した。わたしは、その瞬間、


「すごいね、とうとう代田くんに勝っちゃった」


 って、うれしくて顔をまっかにしているアリアちゃんの勝利をたたえた。こころからたたえた。笑顔で言いながら、内心ものすごくムカツいていた。アリアちゃんにじゃない。わたし自身にムカついていた。


 三本先取は本当に難しい。いつも、二勝までならなんとかなる。今日なんて二回もいけた。でも、三勝目が遠い。マッチポイントの勝利が本当に遠い。


 わたしかアリアちゃんが二勝してマッチポイントになると、代田くんはとたんに本気になるからだ。本気になった代田くんは本当に手強い。進路妨害を巧みにやって、勝たせないようにしてくる。


 今日の三セットは、全員二勝で並んだから、本当にチャンスだった。でも、わたしはそこで操作をミスった。一番大事な時に左手の握力が弱くなっていた。左手がプロボにふれるポイントがちょっとずれるだけでも、左手にかかる負担はかなり変わってくる。長時間になればなるほど、操作は安定しなくなってくる。


 その点、アリアちゃんの操作にはミスが少ない。慎重に慎重に、移動、ホバリング、移動と、ていねいにドローンをあやつって、確実にテーブルや椅子の下をくぐり抜ける。練習量のたまものだろう。


 それに比べてわたしはどうしても練習量で負けてしまう。わたしの左手は親指しか動かないし、練習をしすぎるとだんだんとしびれてくる。左親指の筋力が少なすぎるからだ。でもこればっかりはしょうがない。とにかく、リハビリを地道にやって、筋力と可動域を少しずつ増やしていくしかない。


 今日から、左手のリハビリメニューを少し増やしてみようかな? わたしは、ムカムカしていた。でも楽しかった。本当に楽しかった。真剣勝負って、本当に楽しい。アリアちゃんって言うライバルの登場が、わたしは本当にうれしかった。


 みんなが後片付けをしているのをぼんやりとながめながら、そんなことを考えていると、胸ポケットに入れたスマホがブルブルとふるえた。お母さんからのLINEだった。


「みんな。今日は、先に帰って。お母さん、ちょっと遅れるって」

「了解。じゃあ、ここは閉めておくから、斑鳩さんは教室で待っていてくれるかな?」


 わたしは、校長先生のことばにうなずいた。


「それじゃあ、また来週」


 とじまりをした校長先生が言うと、みんなで校長先生にお別れのあいさつをした。

そして、校長先生とアリアちゃんは、スタスタと階段にむかって行った。


「あれ? 代田くんは?」


 わたしが聞くと、


「教室まで送るよ」


 と言って、車椅子をおしてくれる。そして、代田くんは突然聞いてきた。


「なぁ。斑鳩、あさってって……ヒマ?」

「え? な、なに?」


 え? 本当に何、ヒマってなに? もしかしてだけど……本当にもしかしてだけど……デート?


 わたしがドキドキしていると、代田くんは、エレベータのボタンを押しながら、とんでもないことを言った。それも笑顔で。


「もし、予定なかったらさ、オレの家に来ない?」


 え? いきなりお家⁉︎ 代田くんの家に遊びに行くの? でも、たしかに外で遊ぶよりもいいかも? 車椅子で行けるところってやっぱり限られちゃうし、それに、車椅子ごと入れるトイレをさがすのって結構難しい。代田くん、わたしのこと結構考えてくれているんだ……うれしい。


 わたしは、つとめて冷静に、平静をよそおって返事をした。


「うん……その日はちょうどヒマだったから……いいよ」

「了解。じゃ、日曜日の十時に、斑鳩の家のマンションにむかえにくから」


 そう言いながら、代田くんは開いたエレベーターに、わたしの車椅子を押して入った。エレベータのせまい空間は、わたしが今、代田くんとふたりっきりになっている事実を、ことさらに意識させた。たった今、デートの約束をしたことを、これでもかと意識させた。


 わたしは、左ポケットがふるえるのを感じた。スマホじゃなくて、胸の奥がドキドキしたからだ。

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