閑話『AQ革命時代の温故知新 中等學校之部』④
来場した皆々様は次々に作品を眺めている。
そうした中、俺は
そんな案内員は、確かに目立ってしまうものなのかもしれない。
そう反省し、俺は他の展示作品に目を向けつつ過ごすことにした。
特に立体造形の部の作品は、見る角度を変えれば見え方も変わってくれるものなので助かる。
金賞の『稲田姫之美琴』は、たしかに一番出来が良い。
チーム作品ならではだろう。
とても丁寧な解説がつけられていた。
県内氷川三社の一つ、
本作はその見事な立体複製品だった。
要は、伝統ある琴の形状の立体成形。
形状の再製にカンタム式素子を用いたことが新しいとのことだった。
また、琴の表面には様々に手が加えられている。
夏から製作に取り掛かり、シリコーンにも馴染むように漆を重ね塗りしていったとのこと。
皇紀元年の頃の稲田姫には櫛に変えられて姫に戻り天に還って琴となったという伝承がある。
秋の中塗りの後に、その伝承をオブジェとして描きこんでいったという。
やっつけで描いた俺の油絵とは異なり、カンタム式を活かした見事な温故知新となっていた。
俺の脳裡に焼き付いたのは、作品の裏に描きこまれていた黒球。
明治維新の頃、湿原から掘り出された古の黒の宝玉。
明治天皇の御行幸の際に氷川三社の下された宣託により
制作技術的には、漆の上塗りで撫仔物の黒宝玉を表現したというところ。
やんごとなき名字と思われる燕昇司先輩(つばめしょうじと読めばいいのかな)は、おそらくは藝大か叡智學園の予科に進學なされるのだろう。
この先しばらく、俺が絵画に関わっていられるのならば、撫仔物の漆塗りに関することを聞くことができるのかもしれない。
✧
俺は展示会場内を時おり移動しながら過ごした。
案内員の俺に、それからは声がかけられることはなかった。
夕刻が迫る頃、俺は演舞会場へと向かうよう先輩方に勧められた。
どうやら俺だけが休憩を取らずに弓道場に居続けたということらしい。
特に会場に留まりたいわけでもなく、勧めに従い演芸会場へと向かった。
道すがら、先ほど受け取った名刺を見返す。
ご婦人はあの間がどことなく記憶に留まっている、といった風だった。
俺に話しかけたのは、末の弟の娘さんだという姪御さんとの話題のためといったところか。
あの時ご婦人の視線が絵の塗り残しの白へと向いていた事を、妙に意識してしまっていた。
新聞特集にいう、情熱を持たず事なかれに生きる節エネ主義者には、似つかわしくないこだわりの意、というところか。
ま、どんな主義思想にも染まりきることは珍しい。
いかに臣民の國体精神の明徴せんとの昭和総動員時代の徳育であっても、同時期ソ連の共産党員入党の反革命分子の取締りであっても、その効果を内面まで追いかけることはできなかった。
まして、公序風紀に反しない限り、依るところは己で選ぶべしとされる今の世では、選んだつもりの
國語の期末試験で暗記したばかかりのそんな記述を真似っこしつつ、俺は物思いを打ち切った。
さて、普段は入ることが叶わない、上皇鴨場とはどんな場なのだろうか。
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