仕事が終わったら
◆仕事が終わったら
現世に戻る。やべこと静かな食事をして、2人で町へ。
レヴナと同じように、やべこもキロピードに負けたことを酷く悔いていた。ボクをバイト先まで送り届けると、「では私は哨戒にあたります」とパトロールへ。
やべこはこれまで、ボクがバイトに勤しんでいる間、町でボクを探してウロつく刺客を倒してくれていた。実力行使ができない場所や状況では、敵勇者にゴートマ勢のフリをして嘘の情報を流したりなど。
たくさん頑張ってくれたのに、お役に立てませんでしたと目を伏せたやべこの顔が頭から離れない。ボクの方こそ、大した労いもできていないから、ごめんなさいの気持ちになる。
それにだ、魔王としても主としても決断力に欠けた。そのことで勝手にショックを受け、やべことレヴナへのアフターフォローをおろそかにした。
ダメな魔王だ。いや、だから王冠はもう無いんだ。
それも、後でメルに謝らなきゃ。
そのメルとやべこが2人でお店にやってきたのは、夜の9時頃だった。
「やっほー。来たよー」
明るい表情で手を上げたメルの後ろで、気まずそうにしているやべこ。ボクは喧嘩している友達とそうでない友達とを同時に接する人みたいになって、ぎこちなく応対した。いや、友達なんていたためしはないけれど、あくまで例えだ。
「いやさー、やっぱりアタシのイメージを吸ってるだけあってこの子とは話しやすいわ。今軽く飲んできたとこなんだけどね? まぁ飲んでたのはずっとアタシなんだけど」
メルが笑いながらメニューを広げる。やべこは未だにシュンとしている。
「お仕事中にすいません……」
「お仕事中を狙ってきたのよ。知ってる? この子、キミのシフト全部暗記してるんだって。ねぇ、明日休みなんでしょ? 今日は終わったらウチにおいでよ。たまにはちゃんと遊ぼう」
「あ……」
お冷を置いた姿勢で固まってしまった。
こんな気持ち初めてだったからだ。お仕事が終わった後にお楽しみが……予定があるということは、今までは無いことだった。
「いいの?」
と聞く。それはメルに確認をとるためと、自分がそんなことをしていいのかという、自問自答。
「当たり前じゃん、逆に何でダメなのよ。明日休みなのにさ」
メルはボクが握ったままだったお冷を取って一口飲んだ。
彼女の何気ないセリフで、思考の渋滞の原因だったブロックは外されたようだ。
「うん。急いで行くよ」
「キミが急いだって時計のスピードは変わらないから。時間になったら駅前にいるから。ほら、やべこ、何にするか決めた?」
「あっ! い、いえ」
あたふたするやべこ。
彼女も10分後に運ばれてきたカレーを食べたら、少し明るい顔をしてくれた。
2人が店を出ていった後、例のごとくキッチンに立っていた龍田さんは妙に興奮していた。
「ねぇねぇ、さっきの絹繭メルだよね? 違う? そうだよね? 知り合いなの? うわーマジかー。カワイイ人の知り合い多過ぎない? 羨ましいわー」
龍田さん、意外とミーハーなんだな。
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