新魔王城 玉座の間 闇黒三美神の業務報告



■新魔王城 玉座の間 闇黒三美神の業務報告



「もう一度言ってごらんなさいッ!」

 ゴートマ様のお声に、闇黒三美神は肩をびくつかせ、失敗続きの指示待ち人らしく、次なるお言葉を待った。

「ケルベロスがいながら、またぞろ手ぶらで帰ってきたのですか!? ええッ!?」


 こうも毎度、ゴートマ様に睨まれて怒鳴られているのを目の当たりにしていると、羨望すら湧き起こる。仕事ができないくせに、ゴートマ様を独占し過ぎだ。


「申し訳ございません、ゴートマ様」

「またしても勇者の邪魔が入りまして……」

「そうですっそうですっ!」

「その口を閉じなさい! 言い訳はケッコーです!」


 ゴートマ様は息を切らされ、お言葉の合間に水をお飲みになった。俺が幽遠山脈の奥地から汲み上げてきた湧水が、ゴートマ様の喉を潤わせたと思うと、こちらの心まで喜びで浸潤していった。


「キルコ坊やの尻尾により、勇者が戦力にならないというキロピードの報告もあったのに。それを知っておきながら、イタコの勇者までとられるなんて……。敵に塩を送ったも同義ですよ!?」

「はい、ごもっともでございます」

「しかしゴートマ様、その情報は……」

「えとえとっ…………」雷電かつゆのエクレーアがちらりと俺を見た。

 ジッと見つめ返すと、そのまま口を噤んだ。


「はぁ……。新魔国をつくるため、この世界の勇者を滅ぼしましたね。光の国が世界を統治するその水面化で募った兵と共に、ワタクシが魔王となるために。実のところ……闇黒三美神のポストをアナタたちに与えた際、ワタクシすら誇らしく思ったものなのですよ」


 嫉妬するばかりだ。誇らしいだなんて。


「変幻自在の氷魔法を操るプルイーナ、強力な雷魔法を扱うエクレーア、そしてギリギリで炎の一柱に立候補してきたリビエーラ。アナタたちの下っ端根性、下克上の気概が、ワタクシの眼鏡に適ったわけです。だから――――」


 闇黒三美神が顔を上げた。

 俺はその間抜け面を引っ叩きたい衝動を抑えるのに必死だった。


「最後のチャンスです。次こそキルコ坊やから魔王の王冠を奪いとってくるのです!」

「ありがとうございます!」

「必ずや……」

「がんばりますっ!」

「しかし今回は、彼にも行ってもらいます」


 ようやくだ。


「闇黒騎士、キロピード! ここへ!」

 はやる気持ちを抑えながら、俺はゆっくりと暗闇から歩み出た。

「我が魔王みずからのご指名、光栄至極と存じます」

「そう畏まらなくてもいいですよ。さぁ我が右腕よ、これを」


 ゴートマ様は俺にある物を下さった。

「交通ICカードです。電車の乗換が楽になりますよ」

「感謝いたします」

 俺は内心ほくそ笑んだ。ヤツらは今も券売機でちまちまと切符を買っているという。

 これが期待値の差だ。


「移動中はくれぐれも三美神から離れないように」

 ここ近年はゴートマ様の転送魔法の精度も上がり、転送場所が日本から外れることはほとんどない。しかしやはり電車移動は発生する。悔しいがそれまでは先輩方の後を行くことになるか。


「宜しくお願いいたします。この闇黒騎士キロピード、先輩方の足枷とならぬよう尽力いたします」

「よっ、よろしくな」

「…………」

「…………」


 あぁ、ゴートマ様。

 貴方様がお好きな下克上の気概なるもの、このキロピードも持ち合わせているのですよ。この三美神を踏み台にし、一刻も早く王冠をお届けすることを誓います。


「キロピードもいて失敗することはないでしょう。あー……無事に王冠を手に入れたら、そのままどこかへ観光にでも行きなさい。ひょっとしたらワタクシも忙しいので、呼び戻すのを忘れてしまうかもしれませんし」


 ゴートマ様、連日の勇者投入によりかなりお疲れのご様子。我々を呼び戻す余力がないのは至極当然であるのに、観光のお時間をいただけるなんて。


 そうだ。呼び戻す人数が3人減ったら、ゴートマ様のご負担も減るだろうか。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る