貧しくならないために
◆貧しくならないために
億万長者に、ボクは成る!
ていう希望的観測と願望にやられて、朝から気分が良かった。
今日はバイトがディナータイム出勤……夕方の4時半からだ。お昼ご飯をやべこと、近所の食堂に食べにいった。ちょっと前に丸ごと建て直しした小学校のすぐそばにある中華のお店。
「キルコ様はよくこちらに来られるのですか?」
「たまにね」
本来ならば貧乏人は外食なんてすべきじゃないけれど、ちまちまお金を使ってコソコソ生きるのが嫌で、月一ぐらいのペースでどこかへ食べにいくようにしていた。
その中でもここは度々足を運んできたお気に入りのお店。そういえばいつかの夜、工事中の小学校の敷地内が水浸しになっていたことがあった。どうやら水道管にトラブルがあったみたいで、電話を借りにここへ来たことがあったっけ。
店内では、腰の曲がったお爺さんが客先から見える厨房で腕を振るっている。注文してから提供までけっこう時間がかかるけど、厨房から聞こえてくる中華鍋の音を聞きながらゆっくり待つのが好きだった。
やべこはニラ炒め定食を頼んだ。ボクはアジフライ定食。
「楽しみです」
「うちじゃいつも焼きうどんやジャムパンばっかでごめんね」
「とんでもありません!」
待っている間、そばの席で食べていた男性と、その子供であろう小さな男の子をそれとなく眺めていた。
男の子はラーメンを食べていた。小さなお椀に分けてもらって、慣れない箸で頑張っている。お父さんの方が先に食べ終わって、今はスマホをずっといじっていた。男の子は、食べ終わったよという顔でお父さんを見上げる。お父さんはスマホから顔を上げない。ちょっとして男の子は、再び器に向き直って、小さなネギを食べ始めた。
ボクはそんな光景を見ながら、幼少期のことを思い返していた。それからボクの戸籍の女性を想像した。不思議な苗字のお姉さん。あとは、ずっと海外で過ごしていたらしいぴよきちさんのことなど。
「食べた?」お父さんがきいた。
「たべた」男の子が答えた。
手を繋いでお店を出ていったことに、ボクはなんだかホッとした。
ボクらも食事を済ませる。出ていく際、店員のおばあちゃんに、
「今日は友達と一緒ね」と言われた。
「あっ、そうなんです。ごちそうさまでした」と、それだけ言って店を出た。
覚えてくれていたのが嬉しかったけど、急だったからろくなことが言えなかった。
また来月に行こう。ファストフードばかりのメルも気に入るといいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます