場所えらび



◆場所えらび



 まずは場所選びからだった。

 勇者たちの話を聞き、世界の状況を整理していく。


 現世ではメルが聖神の攻略本を広げており、時折り口を挟みながら、候補地を挙げていく。聖神世界とゲームでは、スケールや構造が違うため、ゲームの全体マップにいろいろと書き込んでいるようだ。ペンを走らせる音が聞こえてくる。


 メルが使い込んだ攻略本はどこも書き込みだらけだった。好きが高じて、独自に研究をしたのがうかがえる。その成果もあり、最終的な候補は2つに絞られた。


 1つ目の候補は、見捨てられし村、ダートムア。

 ここは昔々魔物たちを率いる魔族と王都の騎士団がぶつかった戦場にほど近い村。ゲーム設定段階から既に荒廃しきっていた村で、その後も魔族と人間の両サイドからも見捨てれていたとのこと。


『イチから街を作ろうってんならここね』

 メルのイチオシだ。


 ボクらは実際にダートムアの地に足を運んだ。運の良いことに、前にお隣さんから借りたカセットの最終セーブ地点がダートムアの近くだった。馬車に乗り、ほどなくして荒れ果てた村にたどり着いた。


「キルコ様。ここは荒廃しているのに目をつむれば、立地はとても良いですよ」

 夜のせいもあり、暗澹たる雰囲気に満ちていた。


 今のアパートを内見した日、もう一軒見させてもらった物件を思い出す。なんだかじめじめしていて、それでいてホコリっぽい。不動産屋のお兄さんがドアを開ける直前まで、幽霊でも棲んでたみたいに陰があった。その部屋の空気と似ていた。


「オイオイこんな辛気臭せとこよぉ、いくら綺麗にしたって人なんか来ねえだろうよ」

 ドウジマさんが頭を掻いた。花火師のハナコさんが彼を肘で小突く。

「夜空に大輪の花を咲かせりャいいだろうよ。毎日お祭りにしちまえ」

「毎日お祭りを開くにもお金が要るんですよ、ハナコさん。まずは資金や資材の調達をすべきです」


 そこで2つ目の候補地、宿場町ヤジキタである。

 ここはゲーム内の住人が厄落としの旅の途上に立ち寄る町の一つ。その中でも1番大きく、賑わってる場所だとか。ダートムアとも近い。


『ここのミニゲームでずっと遊んでたなぁ』メルが懐かしそうな声を出す。

「ここでまずはお金を稼ぐんです。幸い、私たちはエンタメ色が強いので、厄を払った後、精進落としをしに来る旅人たちをターゲットにできます」


 花火師や、芸人3人組、たしかに人を楽しませるのは得意だ。ドワーフのドウジマさんも、ダートムアを再建するのに物作りのノウハウを発揮してくれそう。


「じゃああーしはとにかく旅人たちの財布から小銭をくすねればいいわけねー?」

 盗賊のあー子が言った。

「いえ、それはやめましょう。治安が悪いとの噂が立つのはよくありません。あー子さんは引き続き、メルさんの飲み仲間……失礼しました。メルさんの護衛を」

「りょ~~」あー子が嬉しそうに答える。

「あの、その町って養鶏場なんて、あったりしますかね?」


 おずおずと発言した彼は、今朝ボクを襲撃してきた勇者だ。職は、ひよこ鑑定士。名前はぴよきちさん。

「僕は先ほど言ったように、ひよこのオスとメスを仕分けるしか能がないので……。戦闘向きじゃない職ですけど、これでもレベル80で、結構すごいはずなんですけど……」

 誰も彼も黙りこんでしまった。


 ひよこ鑑定士なんて、大道芸人やリアクション芸人、モノマネ芸人たちのようなネタ職の一種であるのは間違いない。


「さ、探してみましょう! どこかにありますよ」

「そうともよ。適材適所ってぇやつだ」

 みんなが慰める。苦笑するひよこ鑑定士のぴよきちさん。

「数年越しに日本にたどり着いたのに……」

「えっ?」

「いえね、僕、海外にあった聖剣神話のゲームカセットから出てきたんですよ」

「オイオイそりゃ大変じゃねえか。おれでも静岡県だったぞ」

「あたいは青森から新幹線で」

「いくら遠くたって日本ならいいじゃないですか。ゴートマの雑な転送魔法のせいで、僕は何年もマレーシアで足止め食らってたんですよ。下北沢だって分かる前から日本に行こうとしてたけど、まず……まずひよこを探してる自分が情けなくって! 定時連絡として向こうから連絡があったじゃないですか? でもそれも途中から無くなって、見捨てられたって知って、うううっ! 近頃は孵化前に赤外線照射なんかしてオスメス分かっちゃう技術もあって……」

 泣き出すぴよきちさん。


 そんな大変な思いをしながら下北沢を目指していたなんて。

 なんか、ごめんなさい。


 とにもかくにも、ダートムア復活計画がここに始動した。


 やべことあー子は現世に。他のみんなは宿場町ヤジキタへ。

「宵越しの金は持たねえ主義だが、魔王の計画のためとなりゃ守銭奴にもなるぜ」

「あたいも節約を心がけるよ」

 ひとまず食費で破産することは無さそうだ。

 ホッとした。


 心配なのは、ゴートマが勇者たちを戦力にしようとして、みんなを襲わないかだ。


「目立たないようにするから!」

 芸人勢が大口で笑う。心配だけど、心配じゃなくなってきた。


 106、富むための第一歩になればいい。


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