キルコのステータス
◆キルコのステータス
ボクが現世と聖神世界を行き来できることを、メルは王位に由来した力なのではと仮説を立てた。
吉祥寺から下北沢に戻る井の頭線の車内で、ゆっくりと彼女は話した。
ゲーム内で使われた魔王レームドフの力について。
まずは『隷属魔法』……真名を奪った相手を使役させることができる力。これについては、ボクがやべこに対して既にしている。尻尾で胸を貫いた時、尻尾の先に「やべこ」と名前がついていた。真名とはプレイヤーがつけた名前のことらしい。
次に『空間跳躍』……異世界を行き来できる力。これも昨日と今日で2回している。現世と聖神世界の行き来。ゲーム内では聖剣により隔たれていた光と闇の世界とを移動していたとか。
3つ目に『転送召喚』……魔物を遠くに送れる力。冒険する勇者たちの前に毎度毎度と敵が立ちはだかるのは、魔王が送りつけているから。ボクも世界を行き来する時、やべこがついてくるのはこのためだろう。
最後に『異界創造』……闘う上でのご都合空間を作る力。強い敵と闘う時、空間が変わるのは他のゲームでもあることだし、反則的だけど頷けないこともない。
「それに加えてさ、キルコだけが持ってる力もあると思うんだよね」
「もしかして、先ほど鑑定した際に崇高な固有スキルを見つけたんですか?」
「いや、違うんだ。キルコはね、イベントの流れで勇者の親父と闘うんだよ。かつて最強と謳われた勇者の親父とね。で、その時に尻尾の不意打ちでなんと返り討ちにしちゃうのよ。アタシが思うに最強を倒した尻尾は全ての勇者に有効だと見た。対勇者用の無敵の尻尾」
「だといいけど……」
「でもともかくさ、その時、勇者はさぞキルコを恨んだろうねぇ?」
メルはイタズラっぽく笑い、やべこに視線を送った。
「なっ! 誤解しないでくださいキルコ様。私は決して……!」
「大丈夫だよ。あとね、もっとくだけた感じで話してほしいな……?」
「いえ、主に向けるお言葉はいかなる時も丁寧であるべきです」
真面目だな。メルが昔こういう風になりたかったのが意外だ。キャラクターはプレイヤーの想像や思いに影響されるという話だった。主人公勇者に対して自分の理想像を投影していたんだよね。「やべこ」はあだ名ということだったし。
「そうだ、ボクのステータス値ってどれぐらいだったのかな……?」
ボクはずっと気になっていたことをたずねた。自分の能力を数値として知りたい。それはこわいことでもある。人の価値は可視化できないということが、ボクみたいな強くもない人にとっては救いでもあったから。
もしかしたら、とんでもない数値かもしれない。
そんな期待があるからだ。でももし低い数値だったら立ち直れないかもな。でもやっぱり知りたい。
「キルコのステータスはね――――」
「メルさん! 失礼ですよ、キルコ様を数値化するなんて! 全部が可能性無限大に決まってるでしょ!」
あまりフォローになってない。
「たしかに、ゴメン。またデリカシーがないことしちゃったわ」
「私はききません!」やべこは耳を塞いだ。
「いいよ、メル。覚えてる限りで教えて?」
「キルコがいいなら、教えるよ? キミのステータスは――――」
HP4106 MP106 他、攻防俊敏器用魔攻魔防運気すべて106
「それって……どれぐらいなのかな?」
「HPがずば抜けて高い。ボス並みに。あとは、まぁ勇者たちのレベルで言うと50レベルくらいかな? 99レベのやべこがHPMPが600くらい。あとは300くらい」
「そうなんだ」
「気を落とさないでよ。現世で経験値なんて稼げないだろうし。村人や農夫たちよりは何倍も強いよ」
「そうだよね……」あくまでボクは魔族の末っ子で9歳だったわけだし……。
レベル50相当か。喜んでいいのか、いまいち分からない。高いとも言える。でも魔王の数値としては、低いに違いない。
「でも気になるのはさ、106って数字なんだよね。なんか意味があるのかな。キルコが聖神のゲームに影響されてるなら、これはもともと設定されていた値なんだよね。ゲーム上のキルコは、勇者の親父とイベントバトルで出てくるだけだから、本当ならステータスなんてどんな値でも意味ないんだよ。だからさ、まぁテキトーかも」
「そういうことなら、ちょっと元気出てきたよ。とにかくボクは、ずば抜けてHPが高いことが取り柄だってことだね」
「そうそ! ずば抜けてHPが高い子」
履歴書に書いたら笑われるだろう。
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