第107話 真を見極める子(6)

 暗闇の中で鋭い発砲音が響き渡った。


「なん……だ?」


 右肩を撃ち抜かれたのは田切たぎりだった。湊の拳銃が零れ落ちる。左手で持っていたテーザーガンを手放し、肩を押さえた。


「どうして早く気が付かなかったんだ……。もう一人いることに」


 田切は弱々しく微笑んだ。

 撃ったのは、島タクシーの影から出てきた帯刀たてわきだった。

 島タクシーはドアを閉めれば自動的に停車場に戻る。ドアを開けっぱなしにしていたのはタクシーを帰させないためであり、帯刀の存在を隠すためでもあった。

 悲痛な表情を浮かべた帯刀が声を上げた。


「……雪野ゆきのさんがぎりぎりまで待ったってーのに。お前と言う奴は。救いようのない悪人だな」

「よく言う。……此方こちらが先に手を出すのを待ってたんだろう」


 田切が吐き出すように答えた。右肩から血が流れる。田切は止血するように力強く握った。


「お前、俺の父が有害な人間だと思うのか?」

「……」


 帯刀の振り絞るような言葉に田切は答えない。


「島の安全を守って来たあの人を!どうして……」

「……事件を探ってるっていうから先手を打った」

「は……?」


 帯刀が目を見開く。田切は息も絶え絶えに続ける。


「国造りのためには仕方がなかった。そうまでしても、僕は……明るい未来が欲しかったんだ」


 歯を食いしばると帯刀は拳銃を持つ手に力を込めた。


「僕はあんたにとっちゃ悪人かもしれない。それは仕方のないことだと思ってる。人は永遠に分かり合えないからね。

でも誰かにとっては僕の行いは希望だ!だから……僕は理想のために歩みを止めない。止めるわけには行かないんだ」


 田切の怪しい笑みを見て、帯刀の瞳が光を失う。


「そうかよ……。俺の父の死は仕方のないものだと?」

「帯刀駐在員!しっかりして!」


 湊が声を上げると同時にもう一台の島タクシーが止まる。ドアを開け、飛び出てきたのは……真見まみだった。


「お父さん!」

「……連れて来たか」


 真見の姿を見ると田切は笑みを深くした。真見を横目で確認しながら田切はテーザーガンを左手に持ち直し、荷台を桟橋近くまで押す。電動の荷台は、小さな力でも簡単に動かすことができた。

 後からよろめくようにして田切が桟橋の縁に立つ。


「何をする気だ、止まれ!」


 帯刀の制止も聞かず、田切は荷物を蹴とばした。拘束された真文が姿を現す。


「神野デザイナーの命が惜しければ……神野真見かんのまみ以外、桟橋さんばしから離れるんだ!」


 そう言って真文にテーザーガンを向ける。真見はその光景を見て頭を殴られたようなショックを受けた。


(どうしよう……。お父さんが。お父さんが……危ない)


 恐怖で体の底から震えが起こる。震えを押さえるように、真見は自分の身体を抱きしめた。


(落ち着いて。私は、必ずお父さんと、この島を助けられる。だって、私の直感がそう言ってるんだから……!)


 真見は顔を上げると、れた目元のまま本物の田切と向かい合う。


 



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