第29話 トモダチ(2)

「ただいまー」


 セル社の社宅へ戻って来た真見は誰もいない部屋に向かって呟く。部屋の鍵はドアノブの指紋認証しもんにんしょうとインターフォンの顔認証かおにんしょう開錠かいじょうする。真見はそのままベッドに倒れ込んだ。


(疲れた……)


 新たな環境、人間関係。知らず知らずのうちに気を張っていたらしい。疲労感が真見まみを襲う。真見の五感がずっと緊張状態だったようだ。


(学校は見たことないものだらけで楽しそう。今までよりも快適に勉強できそうだし。それに友達もできたから!)


 真見はベッドの上で小さく笑った。まだ胸の中がぽわぽわする。


天笠あまがささん……瑠璃るりって格好いいな。あんな風に堂々とした子。初めてかもしれない)


 初めは敵視するような視線に恐れを抱いていたが、誤解ごかいを解けばそんなことはなかった。さっぱりとしていて、意外と天然で面白い子だ。


(少し休んだら授業のカリキュラムと組もう。私、何を勉強しようかな……)


 ワクワクしながらベッドの上でタブレットを起動させる。母からのメッセージを見て真見は口を噤んだ。


『調査の方はどう?』

(そうだ……。浮気調査)


 思わず大きなため息が漏れる。昨夜の出来事を思い出して頭を抱えた。真文まさふみに近づく女性の影。まずはそれを追わなければ……。


(まだ確かな情報じゃないから。お母さんには適当に誤魔化ごまかそう)


 真見は「進展しんてんなし」とメッセージを返す。

 ベッドに仰向けになりながら思考を続ける。現在、命島に上陸することできるのは元から住んでいた住民かセル社の関係者だけだ。


(それでも数千人はいるのよね。その中から一人を探し出すなんて……どうすれば……)


 真見はまぶたを閉じる。ふと、佳史けいし端整たんせいな顔を思い浮かべると、頭の中にかみなりが落ちるがごとく、ひらめいた。

 直感がはたらく時、真見は脳内に電気か何かが貫いていくのを感じた。


命島広報部めいじまこうほうぶの活動に参加すればセル社に自然と近づけるかも!ナイスアイデア!)


 真見は起き上がると命島学校に通う生徒だけがアクセスできるアプリを起動させた。そのアプリは世間に出回っていないもので、スーパーアイランド計画の機密事項でもあった。

 学校内の情報や授業の設定は全てこのアプリで行われる。島内のニュース及び、セル社の情報も同様に専用のアプリが存在する。

 この島であったこと、目の当たりにした新技術は他言無用たごんむようとされ、命島では厳しい情報統制じょうほうとうせいされていた。島を出る時も厳しいチェックを受けるのだと真見はセル社の本部で聞かされたのを思い出す。そのため外部との連絡も家族以外には検閲けんえつシステムが働いた。


(技術が盗まれたら大変だもんね)


 真見は広報部の活動記録を漁る。


「あ。相模さがみ君」


 りょうが映し出された写真を見つけて真見は手を止めた。そこにはイルカのロボット、クロと共に島周辺を探索する良の姿があった。最新の記事を見て真見は息を呑んだ。


『セル社開発のロボット、シー・リサーチャーが人命救助じんめいきゅうじょ


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る