ぼくらの島〜近未来化する島に隠された秘密と少年少女達〜
ねむるこ
第一部 少女の閃き
第1話 イルカと少年（1）
天に昇る無数の
手を伸ばしても伸ばしても、何も掴むことはできない。自分が生きている姿、そのものを体現しているようで
（私このまま……死ぬの？）
『2052年4月30日。ようこそ！少し先の未来が見れる島。スーパーアイランド、
その瞳はどこか不安そうで小動物のように
小柄でさして目立ったところのない、女子中学生だった。首から下げているネームプレートには「
（新しいものの香りがする……）
真見は鼻腔に微かな塗料とビニールの香りを感じ取る。
船は白い色で統一されていた。全長25ｍほどで乗車定員は200名だ。1階と2階に客室が備え付けられゆったりと海の上を移動することができる。
『AI、ドルフィンによる完全自動操縦。色の変わる船体からカメレオンにあやかり「レオン号」と名付けられました。日によって別の色の船に乗ることができます。※試験運用中のため船員、船長が運転の補助にあたっております。』
真見は手元のタブレットに映し出された船のパンフレットを眺めた。電子パンフレットの隅には星マークにローマ字で「CELL《セル》」と書かれたロゴがある。このロゴは船体にもデザインされており、真見が手にしているタブレットにも描かれている。
「見て！島が見えて来たよ！」
近くにいた小さな男の子が声を上げて展望デッキへ飛び出していく。そのあとを慌ただしく母親と思われる女性が追いかけた。
真見も自然と目を負うと大きく開放的な窓から島の一部分を見ることができた。
（うわあ……。ゲームの世界みたい）
真見の目の前に入って来たのは緑色の葉を付けた木々達だった。桜が散り、新緑の季節に入りかけた島の自然は目を見張るほど美しい。野生動物や巨大なモンスターがこっそり顔を出しそうな雰囲気を感じさせた。
自然だけではない、遠くに太陽光発電のパネルやビルと言った近代的な建物も見える。
島が近づいてくると共にデッキに人が集まっていくのが見えて真見は眉を顰めた。賑やかな声が大きくなるにつれて真見の心臓の鼓動も早まる。心なしか船内BGMも大きくなっている。
真見は急いで先ほどポケットに閉まったイヤフォンを耳にするとリュックを背負って足早にその場を立ち去った。
（……人の少ない場所へ行こう）
真見は展望デッキの程近く、船の側面部分にある休憩スペースまでやってくると手すりに寄りかかって一息ついた。リュックサックは重いので足元に下ろす。東京の自宅からこの神奈川県の島にやってくるのにかれこれ1時間以上は移動に費やしている。
真見が命島にやって来た理由は2つあった。1つは父、神野真文の転勤により呼び出されたのと……。
（お父さんの……浮気を探るため）
真見は
嫌いな自分の姿が映し出されて思わず眉間に皺を寄せる。だけど何故か目を離すことができなかった。
海面に何かが落ちていくのが見える。
「あ……」
もしかして自分のイヤフォンかもしれないと、反射的に手を伸ばす。ぽちゃんっという音と共に海に何か落ちた……ように見えた。真見はもっとよく見ようと手すりに寄りかかって海面を覗き込もうとした時だ。
軽く背中を押される感覚がして、海面に映った少女の顔が間近に迫っているのに気が付く。
自分の耳に手で触れ、確かめて真見はあることに驚いた。続けて何かの香りが真見の鼻を通り過ぎる。
「え？」
大きな水しぶきが起こって、真見は遅れて自分が海に落ちたことに気が付いた。春が過ぎ、初夏の陽気が迫っているとはいえ海水は冷たい。泳ぐことのできない真見は掴むもののない海の中でもがいていた。洋服が水を吸って重さが増し、真見を海中へ引きずり込もうとする。
口の中に海水が入り込み始めて呼吸もままならなくなっていく。
助けを呼ぼうとするのだが皆、島に夢中で気が付かない。それどころか賑わう船内。真見の声は誰にも届かない。
（私……このまま死ぬの？）
海面に顔が出せなくなった時だった。
水の中で島の方角から勢いよく此方に向かってくる何かが見えた。
（あれは……何？）
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