ユリ科のゆりちゃん

第1話 ユリ科のゆりちゃん

 えっと、じゃあお話します。

 それでその、ここをもう少し歩いていくと急カーブになってるんですよ。ガードレールぐちゃぐちゃになってるのに全然直してなくて、直す気がない感じで。僕が小学生の時だから10年以上は経ってますよ、

 まあ、もうご存知だと思いますけど。  

 定期的に道路脇に花が添えられているのでご遺族の強い意向があるのかもしれません。

(紙ナプキンが擦れる音)

(食器が小さく音をたてる)

 ……すみません。ナポリタンちょっと無理そうです。ごめんなさい、食べながらそういう話をしてって流れなのに。やっぱり内容がアレですので。

(男性が小さく謝罪する声)

(男性の声がもうひとつ重なり謝罪する)

(片方の男性が食べているのを見る分には一向に構わないという旨を伝える)

 本当、すみません。あ、オムレツ来ましたよ。オムレツって内臓みたいですよね、パカって中に入ってるから。

(笑い声)

 僕に構わず食べ始めてください。

(テーブルの影が小刻みに動く。撮影者の男性が何度か会釈している)

(食器の鳴る音)

(ホワイトノイズ)

(数秒の無音)

 すみませんでした。付き合ってもらってしまって。話しますね。

 話すと言っても僕こういうのが苦手で何から話したらいいのか。起承転結っていうのかな、そういうのが駄目なんです、小さい頃からずっと。当時の新聞に載っていたものとかのそのままの言葉になってしまうんですけど同級生の女の子が亡くなって遺体が悲惨だったっていう話です。

(男性の鼻歌)

 チューリップの歌ってあるじゃないですか、さーいーたー、さーいーたーって、僕あの歌詞苦手で。チューリップの歌自体は多分初めて覚えた童謡だったんじゃないかと思うんですけど。

 あーか、しーろ、きーいーろって歌詞あるじゃないですかあそこのところが駄目なんです僕。どうしてもあの子の遺体を思い出してしまって、チューリップの色のことなんですけどわかってるのに割り切れなくて。

 あの■■ちゃん、あっ……

 すみません、名前出してしまって今のところ編集で聞こえないようにしてもらえませんか。

 歳の離れた兄がいるんです。その兄が医学部に通っていたんですけど、よく家で人体解剖図を色分けしてたんです。内蔵を黄色とか赤とかで、黄色なんてあるのかよって疑いたくなるような色で塗っていたんですよ。

……そんなことわかっていてもあれはびっくりしました。びっくりって言い方は良くないし僕もあの子とは仲良かったから良くないと思うんですけど。

 やっぱり話長くなってしまってごめんなさい。毎回思いますけどもの食べる場所でする話じゃ全然ありませんよね、もう出ましょう。

 それにしてもここのレストラン、花壇のある位置だけ大きい窓ガラスを嵌めてあるから外からでも花が見れて良いですよね。

 この席、丁度あの事件で■■ちゃんの遺体が乗り上げた花壇の横です。

(タイヤ音)

(ガラスが割れる音)

(客の叫び声)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ユリ科のゆりちゃん @murasaki_umagoyashi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ