第18話 祭りの影

 ワイワイだのガヤガヤだの、そんな表現が似合うであろう今の状況を、僕は一切理解していなかった。

 祭りかなにかであろうか?普段から屋台はいくつか並んでいたが、今日はそれとは比にならないほど多くの出店が並んでいた。


「どー見ても祭りだな……これ」


 祭りなら楽しまないとなぁ。さて……何を買いますかねぇ


「って高!!」


 そこに書かれていたのはフランクフルト500メアの文字だった。

 フランクフルトなんてコンビニなら200円出してお釣りが来るぞ……。

 流石は祭り……足下見てやがる。

 よりにもよってグリモア買った直後にこれだしなぁ……。

 こんなことなら昨日の犬倒して少しでも増やしとくんだったな……クエストじゃなくても魔石を売れば多少は手に入るし。

 今の所持金は金貨2枚と小金貨4枚と銀貨7枚、つまり24700メア持っている。これが所持金にして全財産……なんとも心もとない。宿代は先払いしてあるから大丈夫だとしても、2万メアは残しておきたい。

 やっぱ祭りは楽しまないと損だよな。

 4700メアは自由に使うとしよう。


「おっちゃん!串焼き1つ頂戴」

「はいよ、400メアだぜ。」

「400?500メアじゃないの?」

「坊主最近冒険者になったばかりだろ?それに今日が祭りだってことも今知った見てぇな顔してっからな……碌に金持ってねぇだろ?おまけしておいてやるからしっかり食いな」

「ありがとうございます!!」


 このおじさんいい人だな。

 ありがたく貰うとしよう。

 受け取った串焼きにかぶりつく。


「美味い……」


 濃厚なソースと肉の脂が口いっぱいに広がる……少ししつこい気がしたが焼き鳥のねぎまのように挟まっている瑞々しい野菜によってスッキリとした味わいになっている。

 この味なら500メアも頷ける。

 もう一本くらい買うか?いやいや!!もっといろんなものを食べよう。祭りがいつまであるかは知らないし、そもそもなんの祭なのかも分からないけど、今日はクエスト休みにするとしてね。

 その後、僕は本能のまま様々な店を回り、様々な料理を食べ続けた。

 そんなことをすれば人間はどうなるか、そんなもの考えるまでもなく分かる。


「気持ちわりぃ・・・」


 僕はとてつもない吐き気に襲われていた。

 バイキングとかで元を取ろうとして食べ過ぎることは誰にでも1回はあるだろう。

 それを僕は食べ放題でも無いただの出店でやってしまった。

 金の方は問題ない。ちゃんと2万メア残っている。

 つまり僕は、ぼったくりな値段の食べ物を4700メア分食べたのだ。

 1つ500メアの料理を8種とおまけしてもらい400メアになった1種合わせて9種の食べ物は、そのどれも食べ歩きに最適な大きさで、片手で持てるサイズのものだった。

 引きこもりやってた時にやってた一日一食生活とここに来てすぐの絶食生活で食べない生活に慣れていたのか、量を食べるのが苦手になっていたらしい。

 それにしても気持ち悪すぎる・・・料理に変な薬とか入ってないよな?


《異物が混入していた場合、観察スキルで見破ることが可能です》


 マジか……。

 というか最近勝手に回答してくるようになったな。進化でもしたのか?


《……》


 これには答えねぇのな


「探したぜ」

「ん?」

「あんた……どこから来たんだ?」

「そんな事よりあなた誰です?」


 話しかけてきたのは僕より2つか3つ程歳上と思われる青年だった。だいたい高校2年といった所だろうか?


「おっと……自己紹介はまだだったな。俺はカイト、柳井海斗だ。出身地は……これを見ればわかるんじゃないか?」


 カイトと名乗る青年はローブの中に着用しているTシャツを親指で指した。

 なるほど……日本人か。


「ご丁寧にどうも、僕はユウキ、舞城祐希です。出身地は……もう分かってるのでは無いですか?」

「何故そう思う?」

「Tシャツですよ。あなたは自身のTシャツを指して「これを見れば分かる」と言いました。でもTシャツはこの世界の技術で作られるものでは無い。そんなものを見て、出身地が分かる人は同じ日本人以外ありえない。あなたは僕がそれを見てあなたが日本人であることを理解すると知っていたからそう言ったのでしょう?だからですよ」

「随分長い推理だな」


 長くて悪かったな!!


「だが残念だったな。お前の推理は間違ってるよ」


 なんだ違うのか。


「俺がTシャツを指したのはそれを見た反応から転生者かどうかを確かめるためさ」


 それ……どう違うんだ?


「確かめて……どうするつもりだったんです?」

「魔王を討伐する」

「はい?」


 魔王討伐?なんでそうなるんだ!!


「転生者はな、転生して新しい肉体を手に入れる時に何かしらの強力なスキルか武器を入手する……せっかく異世界に来たんだからそれらしいイベントこなしてぇだろ?」

「そういうことですか……つまり僕が手に入れたスキルを利用したいと?」

「言い方には語弊がありそうだが大体はそんなもんだ。俺は転生者だけのパーティを作ってる……お前も入らないか?」


 とても魅力的な提案だな……魔王討伐なんて楽しそうなイベント……もちろんやってみたい。

 でも……。


「お断りします」

「そうか……まだ諦めるつもりは無いけど今日は帰るよ……また会おう」


 そう言って彼は消えた。


「なんだったんだ……あの人」


 これが、ほかの転生者と初めて出会った瞬間であった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『貴様……何者だ!!』

「ダーク・ウルフのネームドモンスターか……興味深い」

『何者かと聞いている』


 突如目の前に現れた黒いローブを被った者……性別はおろか、人間なのかすら分からない。

 奇妙なことに、陸の王者たるダーク・ウルフの嗅覚を持ってしても、何も感じない。

 無臭なのだ。

 その者がふと笑った気がした。

 ザシュッ。

 なんだ?これは……痛み?いや……熱い!!

 体に力が入らぬ。こやつ……主よりも……強い!!


『私が……なんとかせね……ば……』


 そこで、私の意識は切れた。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 ふと、嫌な感じがした。


「クロガネに……なにかあったのか?」


 理由は分からない……でも分かった。

 クロガネが危ないと。

 急いで武器を手にし、森に走る。宿から森まではおよそ15分。

 頼む……思い違いであってくれ!!


「見えた!!」


 そこは夜の闇に沈んだ、深い森であった。

 それでも僕はクロガネを見つけられた。

 サバイバーの便利なスキル、暗視の効果だ。


「クロガネ!!しっかりしろ!クロガネぇー!!」

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