第26話 解釈



ルジェが息巻いた瞬間。


建物の各所で爆発が起き出した。各階層に設置していた光鳥が自爆を起こすようにして建物の柱を次々と破壊し始めたのだ。

一瞬、ワクレギは気を取られるも目の前のルジェ目掛けて溜めた魔力を撃ち込む。

確実に命中した、しかしそれと同時に目の前のルジェが誘爆したかのように大爆発を起こした。


「これは一体・・・!?」


建物は次々とその姿を崩し始める。

感染兵が立っている床にヒビが入り始める。

ワクレギはすぐに感染兵をその場から離れるように指示を飛ばすが。


「何ッ!!? 何故ッ!!?」


感染兵が飛び立とうと踏ん張った瞬間、足が爆発を起こした。

これは建物の爆発とは違う、ワクレギは目を見開いて驚愕していた。あれ程ルジェが大量に浴びせた光鳥でも外装に傷1つ付かなかった自分の感染兵の足が吹き飛んでいたのだ。

それだけでは無い。

先ほど得意げに見せた感染兵の腕も共に吹き飛び、完全に身動きが取れなくなった。

原因は単純な物、流し込まれたのだ。

見えないほどに小さな光鳥を感染兵の体内に入れていたに違いない。タイミングなどあの時以外には考えられない。


ワクレギは思考を巡らせた。全てルジェの策略だったのかと。


建物内の構造を熟知しわざと血を垂らし、魔力で自らの分身を作り上げ、諦めたように見せかけて隙を伺い、全てのタイミングを見計らって居た。

しかし、ワクレギには1つだけ疑問に思う事があった。

ルジェが魔力に長けているのは元々熟知していた。分身の仕立て上げ、建物1つを崩壊させる破壊力、タイミング良く感染兵に光鳥を忍ばせる。それら全てには多くの魔力を行使し続ける為にある程度の距離に居なくてはならないはず。

現に今建物は崩壊を始めながらも爆発は起きている。それはまだ何処かにルジェが潜んでいるという証拠。

つまりそれは自爆、自殺覚悟であるという事なのか。

ワクレギが知るルジェがそんな事をするとは思えない。やるのであれば分身の様に潔く死を受け入れるはず。


必死にその場から動けない感染兵から周囲の状況を確認する。

してやられた事は変える事が出来ない。それでもワクレギは血眼になって調べ上げていた。


そして答えを導き出した。

ルジェを見つけたのは、感染兵が瓦礫に埋もれ活動が停止する寸前の話だったのだ・・・。




「はぁー。どうしてこうも、暗い所ばかりにいるのかしらわたくしは」


崩壊が収まったと同時に感染兵の気配も感じられない。

まさかのまさかで勝てるとは、ルジェ自身が驚きを隠せないでいた。


「自分で勝算が生めない無いなら、敵が勝算を生んでくれるかもしれない・・・おとぎ話の台詞も馬鹿には出来ないわね」


敵が勝算を生んでくれた。まさに今回の勝利はワクレギの自爆と言っても過言では無かった。

無駄に自分の感染兵を自慢したいが為に内部なんて見せるからと、ルジェは溜息と苦笑いを浮かべた。


「それにしても、この建物に地下があるなんてね」


感謝を告げたい気持ちが無くはない思いでいっぱいのルジェだが、事実上先生の情報により難を逃れた。

先生と通信が切れる前に見た地形にこの建物の詳細も記載されていたのだった。

王城の記録に記載も無ければ、視察で来た時も同じで、地下の存在を一体誰が知って居たのか、それとも魔力で見つけたのか。


「あーもう本当に、不快極まり無いですわ!!」


地下からの脱出。

瓦礫の山を動かしながら進みようやく地上に出られたルジェ。

一気に疲労がルジェに襲い掛かる。

魔力回復は出来るだけ避け、敵の迎撃に尽力していた為に身体はほぼ殴り飛ばされてから何も変わっていない。


流石にこのまま協会へ向かうのは心配を掛けるに違いない。

不本意ではあるが、あそこに戻るか。



そう、考えているルジェの前に・・・。



「よう、ドリル頭・・・いや、謀反者様って言った方がいいか?」

「なん・・で、貴方がここに・・・ゼッガ・・!」


両手をポケットに入れて面倒くさそうに立っていたのは、あのゼッガであった。

あまりにもボロボロの姿のルジェを見てゼッガは鼻で笑ったが、嫌味を込めた物では無かった。

それをルジェは見逃さなかった。そのゼッガの様子はまるで、あんな物にここまでされやがって、と言っている様に感じたのだった。


「まさかとは思うけど、貴女も私を殺しに来たのかしら? 珍しいわね、尻拭いの尻拭いなんて」

「黙ってろ雑魚」


完全に返す言葉が無かったルジェ。

それも当然のものだった、ワクレギの様な人物ならば少しは考える猶予は持てると思うが、目の前に立つ者は違う。


「謀反だなんだと、はっきり言って俺は興味無いがな。はっきり言ってお前、もう死んだ方がいいんじゃないのか」

「・・・は?」


ゼッガの言葉にルジェは唖然とした。ゼッガの言う意味がわからなかったからだ。


「老害共みたいに言うつもりはねぇーがよ。もうお前十分だろう」

「な、何を言って・・・」

「お前の先は潰えた。それ以上もそれ以下も無いだろ、巫女の為に巫女の為にってガキの頃から馬鹿みたいに叫んで結局」


まるでルジェ自身を悟すように、ゼッガは語り掛けた。


巫女の為に。

ゼッガの言う通りである。幼少の頃に出会った巫女、そのおかげで今の今まで人生という物に尽力してこれた。

ルジェの尽力は他を上回った。それは王位継承の資格という王都アルバスの最大の名誉をもって証明された。

巫女の為に。

それは、王位継承3位になっても変わる事は無かった。

どれだけの事があろうと、自分がこの王都を守る、間違いが起きれば王都を正す、全てを制御出来ないかもしれないけれど尽力する事に意味はある。


そう、全ては自らに光を見せてくれた巫女の為だった・・・。



「結局謀反もいつまで経っても終わらねー戦争を終わらそうと動いただけ、他の国から感染が怖くて逃げて来た奴等を匿って私兵にして、気が付いたらってな」


ゼッガは北区を見渡す。

荒れ果てた街並み、誰が好き好んでこんな所に住むのか。王都アルバスに生まれたのであればこんな所に住む理由なんて犯罪者でも無い限りありえない。

しかしそれでも北区から人が居なくならない。

その答えをゼッガは知っていた。その理由が目の前にいると。

ルジェが他から逃げ延びた者達をここへ匿っていたのだと。


支援はするつもりだが、それはあまりにも微々たる物。

北区は、秩序もほぼ無い無法地帯。ほとんどが自給自足、全てが自己責任である。その代わりに、感染者の出現率が異様に低かったのだった。

それが風の噂で巡り、不思議と人が集まってしまったのだった。


だからこそルジェは動いた。

自分の力で人々が集まったとは思ってはいない。けれど責任はあると。

感染者の研究に進展は無い、一切の情報も知らされる事が無い。それは全てを任せてしまっていたから当然だった。


「てめぇーも見たろ、ワクレギのクソ野郎が作ったあれ。つまりはそうゆう事だ」

「まさか・・貴方も知ってッ!?」

「いや、知ったのは一昨日。まあ知った所で何もしないがな」

「じゃあ・・・なんで」


ゼッガはルジェへ向けて歩き出す。

ルジェは考えた、興味ないと言いながら何故ゼッガは自分を殺しに来たのか本当に悟す為だけに来たのか。

そんな性格で無い事はルジェ自身がわかっている。


「貴方・・・だから私に死ねなんて・・・まさか貴方の”お母様”ッ!?」

「やめろ、わかってるなら言わなくていい」


ゼッガは歩みを止めない。

それに対してルジェは動け無いでいた。


「わたくしは・・・」

「もう喋るな。確実に終わらせてやる」


感染兵での戦いが尾を引いているから動け無いのでは無い。

ゼッガが言った事が全てだったからだ。


これ以上足掻いて何になるのか、自らに問いかけてしまった。

もしかしたらこれ以上の事は自分が慕っている巫女の為にならない可能性を考えてしまった。


幼少の頃以降、ルジェお見えになる事が無かった巫女。

走馬灯の様に過去を巡るルジェ。


『これ以上は、見るに耐えないわ・・・お飾りだけのルージェルト』


それはあの時言われた言葉。

血は繋がっていないが姉妹同然に扱われ共に育ってきた妹にも思っていた存在から放たれた言葉。

思い出したくも無いのに鮮明に脳内に浮かび上がる。


『何を言っているのセンナ?』

『センナ? その名前を二度と口にしないで!!』


それが妹と思っていたセンナとの最後の会話だった。

まるで溜まりきった憎悪を解き放ったかのようなあの目付きをルジェは今も忘れられない。

何故そこまでのモノを自分に向けられたのか、今でも謎めくばかりだった。


しかしそれが今の結果に結び付いているのだと理解は出来る。

自分がやっていた事全ては、あの妹によって利用されていたのだと。勝手に志しは同じなのだと思い込んでいた自分を恥じるルジェ。


「・・・どうして」


もはや全てが後の祭り。

妹分の思惑を見抜けなかった事、自らの行いに悔やみ苦悩したとしても、もはや意味を持たない。

だからもう半分以上受け入れていた。ゼッガの言葉を。


潰えた。

その言葉に尽きる限りだ。

何も思い付かない、何をどうすればいいのかもわからない。何かが見えているようで結局何も見えないのだと。


だからもう・・・十分では無いだろか・・・。


「どうして・・・!」


呪詛の様に繰り返す。

もはやそんな言葉しか、出せなかったからだ。


自分はもう、十分なのだから・・・だからこのまま終わらせてもいいはずなのだ。


それなのに・・・。






「あんたはどうしてわたくしを助けるのッ!!!?」


知らぬうちに涙を流しながら叫ぶ様に言い放つルジェ、その目の前には、自分よりも小さな背中が1つ。


ゼッガを止めるように立ち塞がっていた。




「母様が言っていました。女の子を助けるのは、男の子が少し見栄を張りたいからって理由で十分だって」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る