第4話 夢の先に出会えて


ライゼーション。

インジュが口にした物、その瞬間に町、警護兵、とインジュから離れる感染物達が一斉にその動きを止めた。全ての感染物が拘束されていた。


光の鎖。

淡く光る鎖が無数の感染物のを捕らえ、その進行を阻止している。

鎖の根元、その正体は、インジュだった。


「これって・・・魔力!?」


自らは魔力が使えない。そのはずが今目の前で、自分の左腕のガントレットからその魔力が生まれていた。ガントレットを包み込むように光り輝く魔方陣がゆっくりと廻り動いていた。そして一本の鎖がその魔方陣から生み出していた。


その一本の鎖が敵と同じ数枝分かれし多くの鎖へと変化し感染物を捉えていた。


「あーあー、やっと起動してくれたか。どうなるかとヒヤヒヤしたよまったく、まぁ説明しなかった私も悪いっちゃ悪いけれども」

「え!!? 先生!? ど、何処に!?」

「通信通信、今は君の聴覚に直接語り掛けてるだけ。それよりも早く立ち上がった方がいい。来るぞ」

「え・・・。ッ!!!」


先生に言われるがままインジュは瞬時に身体を転がした。

間一髪でインジュが居た場所が吹き飛び、地表を飛び散らかしていた。


「ゴ・・・ガグ・ッ・!!!」

「感染者・・・! って・・・あれ僕の身体、背中・・痛っ!」

「流石にウィザライトで完全完治は難しい、この私でも物理的ダメージ全てを回復させるオプションはつけられなかったよごめんねー。今は自動回復で頑張りたまえ」

「回復・・・オプション?・・・自動回復」


インジュは再びガントレットいや、ウィザライトと先生が呼ぶ物を見た。そして理解した、今まで自分が使えず夢にまで見た魔力を扱う、それがただこれを装着しているだけで使う事が出来ると。

回復。今自分に起きている事を思えば先生が間違いを言っていない事が証明されている。更に言うなれば、先生の声、遠隔通信を可能に出来るようになったのも、何よりの証拠だった。


「やれ・・・すね」

「ん?」

「やれるんですね・・・僕は!!」


魔力を扱う、子供の夢の様に思って居た。それが今叶った。故に、今この状況を打開出来る、最良の答え。


「あぁ。 さぁ、救ってみな・・・君の夢で」


「はい・・・!」


想いを込め、再び地面を蹴り・・・高く飛び立った。


「君のウィザライト、現段階の詳細を転送する。3秒で確認したまえ」


自由落下に移るまで時間、先生から送られた情報がインジュの全身を覆うように無数の立体映像が出現する。その量はあまりにも膨大だった。

ウィザライトの詳細、魔力との細かい違い、魔力による自動身体強化、負傷時の自動回復・・・。インジュが身に付けているガントレット型ウィザライトのありとあらゆる情報だった。


「把握・・・しました!」


足元に魔力を散らし、自由落下の速度を極限にまで減らす。そして左手を空に掲げインジュのウィザライトを覆う魔方陣が大きく膨れ上がる。

視線は下に、全ての感染物を視界に捉えた。


そして先生が送った情報を本当に全て把握したと、それを見せ付けるかのように発した。


「トップセレクト「ツインパイル」! エネミーオールロック!」


視界に見える感染物全てに文字が刻まれた。


「いっけぇえええええええ!!!!」


掲げていた左手を勢い良く下へ突き出す。

インジュのウィザライトから再び一本の鎖が伸び、感染物に向けて枝分かれした。


そして鎖の先端が感染物を貫く。

二本の杭、鎖の先端には感染物を一撃で貫く為の杭が新たに構成されていた。初めて使用した時、ただ鎖を絡めて動きを止めるだけだった。だが、インジュは光の鎖を攻撃へと変貌させて見せた。


光の鎖が次々と感染物を貫いて消滅させていく。

感染物も本能で理解した、あの鎖に触れてはならないと。人々が自らに恐怖した物と同じ物を抱いた。

だからこそ、動いた。感染物は次々と鎖から”逃げた”・・・はずだった。


鎖は直角に曲がり逃げる感染物を貫いた。

追尾性、それが感染物を完全に追い詰めていった。どれだけ逃げようと、襲い掛かる鎖を避けようと、無駄だった。


感染物の完全処理。その結果に時間は一切掛からなかった。


「ゴガァアアガアアアアー!!!!」


感染者が真下から襲い掛かるが、インジュは鎖を伸ばし自らの身体を引っ張るように回避し、そのまま地上に舞い戻った。


「中々凄いな君は。本当にあんな雑な投げやりで完全に把握してるとはね」

「いえ・・・でも」


上空で翼を広げインジュを警戒する感染者。それをインジュは見上げまた顔をしかめる。


「マニュアル?でしたっけ、あれを見返したのですが、その・・・。あれが全部なんですか」

「全部? そうだね、現段階でのウィザライトはあれで全部だよ。むしろ楽しくなっちゃって余計な事まで書いちゃったレベルでね」


先生の言葉を聞いてもなおインジュの曇る顔は解けることはなかった。強大な力を今手にした。恐らくは警護兵の人達、そして町への被害を出す事はこれで無くなった。

だからこそインジュは踏み込みたかった、その先を。


「あー、なるほどね。君・・・あれ助けたいって事かい?」

「・・・出来れば」

「んーーーーーー」


通信先で長い苦悩が聞こえていた。感染者を助ける、ここでの意味はこれ以上苦しませない為処置、つまりは息の根を止めるということでは無い。言葉通り、感染者を元の人間に戻す事は出来ないかということだった。


「できるっしょ」

「え?」


あまりにも軽く、あまりにも意外な答えにインジュは目を点にして言葉も出なかった。


「出来るんですか!? ウィザライトのマニュアルには、そんな項目なんて一切無かったし、それどころか感染者に対する事なんて何一つ・・・あ」

「あ、気付いた? そう、言ったよね”現段階でのウィザライトは”って。私はね・・・本当に”なーんもわかんない”の」


ふざけた様な口ぶりで返されるもインジュは表情は変わった。


絶望的状況。

それは、インジュがずっと抱え苦しんでいた物。どれだけ知見を広げ多くを試しても成果

が一切出せない日々の繰り返し。

けれど、それはもう過去の事。


希望の光は見えていた。

それは今のインジュが一番に感じていた。夢幻だと言われても相違無いほどの物が今自らの手に今も光を灯している。

だとしたら、それはもう未来と呼ぶに相応しい。


「何をすればいいですか」

「君の思うままにすると良い、その輝きは今・・・君の手中にあるのだから」


覚悟は決まった。さっきまでの表情は消えていた。掴み取る事が出来た自らの希望に重ねる。

希望は新たな希望を生み、さらなる夢を抱かせる。

先生の言った言葉が、インジュの背中を再び後押しをした。


「夢で・・・救う!」


左手を地面に当て魔方陣を展開する。

インジュが動き出した事で空中旋回で様子見をしていた感染者も動き出す。上空から感染物を大量に生み出し地へ向けて弾丸の様に打ち込んだ。


「デタッチ・ハイロール!」


巨大な鎖が一本高速で回転しながら上空に飛び立ち、放たれた攻撃を全て打ち消す。


「グガァアアアアアー!!!!」


感染物程度の攻撃ではインジュには届かない。届かないのであれば、自らの膨大な質量をぶつける。

回転する鎖に高速で急降下しその身をぶつける感染者。

ガリガリと音を立てながらも高度は徐々に落ちていく。僅差で感染者が押して証明だった。インジュの出した鎖の魔力が失われつつあった、感染者を食い止めようとヒビを入れながらも、踏ん張っていたが、それも時間の問題だった。


感染者が翼を広げ、最後の一撃と言わんばかりに自らを妨げる物を破壊した。

勢いは殺さず、インジュのいる地上へ巨体を叩き付ける。


「今だ・・・!」


衝突音が鳴り響く。感染者が地表を再び飛び散らかすも、そこにいたはずの存在、インジュの姿が消えていた。

視界が悪くなるほどの土煙が感染者を包む。クレーターが出来るほどの威力、インジュ共々吹き飛ばした可能性がある。

だが、草や土、全てをその場から吹き飛ばしてもずっと残り続けていた物があった。


「ゥッ!!!!?」

「これで・・・!」


魔方陣。インジュの手元から離れ、感染者が乗り上げている真下で魔方陣は起動を光り待ち続けていた。

感染者は自らの頭上を見上げた。視界に映ったのは先ほどまで使えなかった右手で鎖を握りぶら下がってるインジュの姿だった。


「アブソリード・フルバインド!!」


絶対全拘束魔方陣。インジュが展開した魔方陣が起動した。感染者を次々と光の鎖が絡みとっていき完全に動きを封じていく。

感染者の抵抗も虚しく、力任せに抗うも無意味であった。動き、体の隅を見せれば鎖は入り込みさらなる拘束を始める。

次第に感染者は目に見えてその質量を凝縮し始めて居た。

ただの拘束であればここまでする必要性は無い。だが目的が普通とは違う、インジュが求める物へ繋げるにはこの形が理想。極限までに計算し尽くし感染者を苦しませないように。死なれては何の意味も無いからだった。


「パチパチパチ、エクセレントアンドブラーボーー。有言実行、ここまで完璧に事を進めるとは思っても見なかった。鎖をデタッチ、切り離して防御に転用と同時に視界掌握、後は張った魔方陣のトラップに誘導するだけ。うん実にビューティフォー」

「エクセブラ、ビューティ・・・あ、ありがとございます、上手くいって本当によかったです」


インジュは少し顔を赤らめ照れていた。先生の言う通り、あまりにも綺麗に決まった。それはインジュが一番実感している事だった。ついさっき初めてその身で魔力に触れそのまま実戦で試すなんて事はあまりにも無謀。

インジュは左手のウィザライトの力を噛み締めた。ここまで上手くいったのは恐らくこの瞬間の為に想像に耽っていたから、いざという時のイメージトレーニングという名の届かぬ妄想を続けていたから。

そしてそれ以上に、先生が自分用に調整してくれたのであろうウィザライトの完成度が高かったから。今もそれを装着しているインジュが一番にそれを理解している。


「遠くからでもわかる。警護兵の方々は無事みたいですね」

「あぁ、君のおかげ・・・手柄だ。魔力初使用での功績、世界的にみたら微々たる物かもしれない。だが・・・誇りたまえ。そう誇りたまえよ、君が彼らを救ったのだと」

「・・・はい!」


これが全ての本当の始まり。下水道で目覚め右も左もわからずに振り回されてきたインジュという少年の始まりの始まり。


「んじゃあまずこの被験体をうちに持ってくることだが・・・」

「一応、考えてはいます。まだ僕の中の魔力とウィザライトも動かせますので」


そう、始まっていた。


「うむ、しっかりと先の事も考え・・・。ッ!!! インジュ少年!!!」

「え・・・?」


これは始まりの終わりでは無い。始まりの始まりである。


「ぁ・・・なん・・で・・・」


インジュの目の前にあった光の鎖で包み込んだ感染者が真っ二つに両断されていた。

状況が飲み込めていないインジュ、両断されて光の粒子に消滅していく感染者、その二つの奥に一つの人影。


「感染対象の処理完了。協力に感謝致しますわ」


そこに立っていたのは、1人の女性だった。

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