第2話 魔力の魅力と戦力

インジュが下水道で出会った男は、何事もなかったかのように言葉を発した。


「君って前もこの辺に居た子だろ、訳ありならうちに来るかい? こう見えて私って結構昔は優しい人って好評だったのですよ」

「ははは・・・(怪しい人の間違いじゃ・・・!)」


苦笑いを浮かべながらも心の中では一応は警戒しているインジュ。それでも心身共に今のインジュに選択肢は少なかった。直近での出来事の多くの中、安らぎとも思える可能性がある瞬間の魅力には逆らえない。


「まぁー色々あったみたいだし、はいどうぞお入り」


暗い下水道の道を案内され辿り着いた先には木材で出来たボロボロの扉、数年程度の劣化では無いと一目でわかり、下水道という場所にはある意味でつり合いの取れているある物であった。


「お、お邪魔しま・・・す」


背に腹は変えれない。自分でも今必要なものが休息である事がわかっている。何があったか思い出す為にも、これから先を考える為にも。

そんな苦い気持ちを持っていたインジュの気は、開けられた扉の中にある光景を目の当たりにして一新した。


「これ・・・”龍脈還元器”!!?」

「おぉー! よく知ってるねー。そうこれが、不要になった魔力を龍脈へと還元する為、私が長い年月を掛けて作った装置、”還元君3号”だ!! 王都アルバスが他の国々よりも魔力が関係で常にトップでいられる要因の一つでありー、これの機能は他n」

「凄い・・・これが魔力の還元、魔力の循環、人と龍脈の結び。母様の言った通りだ、本当に凄い!」


「あれ聞いてない」と男は肩を透かしているのを他所に、隠す事の出来ない程に目を輝かせるインジュ。


「かなり話せる口のようだが、これは君でも知らないだろう?」


男が懐から何かを取り出した。還元器に釘付けだった視線をインジュは向けるも、正体はわからず首を傾げながらもそれを差し出された物を手に取った。


「私が改良に改良を重ねた新型魔力器具”ウィザライト”だぁー!! よーく聞きたまえこのウィザライトはだn」

「ウィザライト・・・。この光り、還元器にも付いてる魔力石に似てる。つまりこれは魔力が備わってる」

「そ、そうそそ。こほん、そしてこれh」

「空気にも多く含まれてる魔力、それを吸う人は魔力を体内に取り込んでいる。そしてこのウィザライトは・・・魔力の増長器具!?」

「あ・・うーんそう、そうです。全部仰る通りですはい」


解説説明を全てインジュに取られてしまってしょげる男。相変わらずその反応に対して見向きもせず、インジュは手渡された器具をまじまじと見ていた。

ウィザライト。インジュが今手にしている物が本当に自分が思っているような物であれば、間違いなく使えるはず。


「起動には、そこのスイッチを押すんだ」

「・・・はい!」


変に緊張が走っていた。頭の中ではもっと細かい事を聞く必要がある事がわかっている。けれど、今目の前にあるウィザライトに心を奪われ、詳細を聞くなんて出来ないでいた。


そして、息を大きく吸い。スイッチを入れた。



「・・・・・・あれ?」

「・・・ん?」


カチッと音だけが部屋にこだました。何かの間違いかとインジュは再びスイッチを入れるも結果は変わらなかった。


「どれどれ貸してみ。あれーおっかしいな、動作不良かnぶあぁああああああー!!!」


男がインジュと同じようにスイッチを入れた瞬間、ウィザライトから大量の炎が噴き出した。


「あぢっ!! うぉおおお!!!?」

「うあぁ!! と、止めて下さい!!!」


再びカチッとスイッチを入れて炎を消した。あまりに唐突だった事に二人は息を上げ、驚きを落ち着かせていた。


「いやぁーー、ふぅーーごめんごめん。ちょっと調整をミスってたみたいだねー。はははは・・・」

「そ、そうですか」

「それにしても、動作は一応していた。ウィザライトに問題は無いはず・・・となると」


男がインジュへと顔を向ける。


「問題は恐らく僕です」

「ほう? 何ゆえか聞いてもいいかな?」

「それは・・・僕が・・魔力を使え・・・な」


全て言い終わる前、インジュは糸が切れたかのようにその場に倒れてしまった。その様子に動揺することも無く男はしゃがみこみインジュを抱え上げた。


「ふーむ、非常に気になるなこれは。まぁ私はこう見えて優しいって評判だった事だったし」







「報告します!」


インジュが下水道である意味で保護された同時期、王城の騒ぎは続いていた。


「対象感染者の消息が不明。警備兵が一名が死亡、現在王城内の」

「そのような報告をルージェルト様、王位継承3位のルージェルト様の前でするでないわ!」

「も、申し訳ありません!! すぐさま捜索を!!」


王城のとある一室。感染者と呼ばれる者の報告が行われていたが重い空気が漂っていた。


「それにしても、先日処分したはずの感染者がまだ生きていたとは」

「バルグ卿、それはルージェルト様への批評に当たるぞ。口を慎みなさい」

「はっ! 過ぎた言葉でしたお許しをセンナ兵団長。このバルグ、感染者捜索の前線指揮を勤めたいと思いますが」


頭を下げるバルグという男。その場にいる者達の視線が一つに集中する。センナ兵団長と呼ばれる女性騎士もまた目を閉じ返答を待っていた。


「いいでしょう。早急の対処に尽力願いますわ」


ルージェルトの言葉に部屋の中で待機していた兵士達がバルグを先頭に続々と退室していった。

その光景を静かに部屋の中で見守る二人。


「センナ。計画の進捗は?」

「滞り無く。ただルージェルト様が懸念されている通り、感染者の存在が・・・」

「そうですわね。この王都の一番の問題、いえ世界と言っても過言ではない問題ね」


この世界の大きな問題の一つ。それが感染者であった。

魔力という存在をどの国よりも熟知し進み秀でている、そんな王都アルバスでさえ感染者の解明は難航を見せていた。


「帝国との争い事も大切だけど。原因不明の不治の病、症状によっては多くの被害が出てしまう。まったく、継承2位様の感染対策本部とやらは機能しているのかしら」

「ルージェルト様、あまりそのような言葉を口に出されては」

「わかっているわセンナ、愚痴を口にしても意味が無いって事ぐらい。まぁいいわ、まだ踏ん反り返ってればいいのよあの女。王位継承2位は私が、いや”玉座”は必ず」


玉座。それは王都アルバスのトップを意味する言葉。そこに座するという意味を履き違える者はいない。そしてその道のりはあまりにも未知数である事は誰も知らない。


王位継承の資格を持つ者であろうと。







「んっ・・・あれ、僕・・」

「お目覚めのようだねダークエルフ君、いや正確にはハーフダークエルフ君とでも言った方がいいかな。おはようハーフダークエルフ君」

「・・・インジュです、僕の名前。それと」


辺りを見渡し、自分が寝ていたベッドを見る。前回のような実験台の上で無い事に安堵し純粋な感謝の言葉が湧いた。


「ありがとうございます。その・・・助けて頂いて」

「いやいや気にしないでくれたまえ。それにしても相当疲れが溜まっていたようだね、ほぼ丸一日眠りに付いていたよ君」


丸一日寝ていた事に少し驚きの表情を浮かべるインジュ。神経を自分の身体に向け確認するも特別大きな外傷も無く疲れも少しだけのダルさ程度しか感じなかった為に改めて一息ついた。


そして改めて脳内を整理しようにも、思い出される事は先日の下水道から始まり逃げてばかりの数時間の事しか思い出せない。


「よかったらこれを飲んで見てくれ、リラックス効果がある・・・はずだから」


表情が強張ったインジュに相変わらず真っ白の完全防備服の男はマグカップを手渡した。

少しだけ警戒したインジュだったが、受け取ったカップから出る湯気と香りにその警戒心は解かれた。


「これ・・・凄く良い香りです。それに・・・美味い」

「おぉーいける口でよかったよかった。私お手製のお茶さ、これを飲むとリラクゼーション効果に加えて脳処理速度が3倍になり全神経の伝達速度も飛躍的に向上・・・理論上はね」

「はい・・・何となく・・・はい」


格好だけ見たら完全な不審者である者にインジュは笑顔で返した。インジュは男の言葉を疑うつもりは一切なかった、何故なら手に持っているカップから感じる温もが全てを物語っていたからである。


「さてさて、それじゃあ雑談をさせてくれたまえ。いやもちろん話したく無い事は無理に喋らんでいい、ただの雑談だ」


そう言い男は向かい側にある椅子に座り気楽な体勢を取った。


「君って魔力使えないよね?」

「ッ!」

「あ、ごめーん。聞いて欲しく無かった事だったかい」

「いえ・・・あ、いや」


一瞬思考が止まってしまったインジュ。まさかそこから聞いてくるとは思っても見なかったからかお茶をこぼしてしまいそうになっていた。


「はい・・・僕は魔力が使えません。なんか生まれつきなのかどうかわかりませんが、ハーフだとしても種族としての適性はあるはずなのに」

「やっぱりなー。そりゃあんな爆発起きるわけだわ・・・。あーあの時はごめんね、ついつい新しい実験材料・・・じゃなくてサンプル・・でも無くてえぇーっと」


言葉が上手く見つからない男。あまりにも物騒な物言いだが、インジュには引っかかる部分がその言葉の中にあり、インジュは大きく息を吸った。


「原因・・・! わかるんですか!!? 僕が魔力を使えない理由!」

「え!? まぁ・・・何と無く」

「教えて下さい!! 昔から原因を突き止めようと必死に調べていたんです! いっぱい調べたんです! でも、それでも見つからなくて」


「ふむ・・・」と男は腕組みをして少し考えをまとめている様子を見せていた。その表情はマスクの上からは当然わからない。それでもインジュは自らに抱いた好奇心を捨てる事は出来ない。長年にも渡って探し求めた答えがここにあるかもしれないと。


「長年探していたっていう事は恐らく間違いではないのだろうね。うちの還元君3号を見ただけである程度の理解を示したところを見てもわかる。それでもわからない理由は、単純だ、解釈の違いだろう」

「解釈・・・ですか」


男は懐から円盤型のウィザライトを取り出し宙に浮かせて見せた。


「ライゼーション」


掛け声で起動させるとウィザライト中心に立体図が広がる。そこには、人型のモデルの映像が現れた。目の前で広がった光景に驚くインジュを置き話を進める。


「龍脈と魔力の関係性は知っているね? 君が還元君3号を見た時に言った通りで間違ってない」


説明しながらもウィザライトを操作してその詳細を簡略して見せた。地面から湧き出た粒のようなエフェクトが魔力、地面の下に流れる一本の太い線を龍脈に見立てていた。龍脈から出る魔力を人型モデルが取り込みそれを任意の形に放出している演出が何度も繰り返し再生されていた。


「けれど、その法則には一つ欠けている物がある。それは・・・」


靄のエフェクトが消され、映像には人型モデルと龍脈の太い線だけが残された。


「龍脈と・・・人、ですか」

「そうゆう事だ。従来の関連性で言えばエルフや相応の魔力適性がある人、いや生命と言った方が適切か。魔力を扱う者は限られていたはずだった、今の君のように使う事の出来ない人の方が多かった」

「ッ! そうだ、母様も最初は同じように言っていた」


原点に帰る。まさにインジュにとって盲点だった。魔力を扱う事の日常性は、生まれた時からある物。母親に教授してもらった時点でその力は世界中に広がっていたからである。


「さー!その法則を紐解けば自然と答えはわかるはず。思い出して行こう!」


男のテンションが無駄に上がっていった。目の前の映像がクエスチョンマークに変化し、文字が現れた。


{みんなが魔力を扱える様になったのは、いつから??}


目の前に現れた質問にインジュは息を飲んだ。その質問の答えを知っているからである。


「降臨戦争・・・」

「正解!」


インジュの脳内は思考で加速していた。先ほどまで止まっていたような脳細胞が急激に働き出していた。

降臨戦争の終末。降臨戦争と名付けられてからこの世界が変わった事は誰もが知っている事である。人類が勝利したと同時に繁栄が広まった。

脅威からの脱却とこれから見れるだろう明るい未来で人々は大きな飛躍を見せた。


その大きな要因の一つ、それが魔力。人がみなほぼ平等に扱う事の出来る魔力という技術だった。


「みんなが使える・・・違う、龍脈が使ってもらおうとした。人に。・・・それじゃあっ!」


加速していたインジュの思考が止まった。

そこから先を考えてはいけないないと脳では無く本能がそれを止めたのだった。


「人が龍脈を扱うのでは無く・・・龍脈が”人に力を与えていた”」

「そう、それが解釈の違いという事。故にそこから導き出される物、君が魔力を扱えない理由それは・・・」


答えは出ていた。インジュは認めたくない、事実。それがもう脳内から離れないでいた。思い当たる節、たった一つの理由。


「僕が、生まれ付きの感染者だから・・・」

「・・・ほぉ、そこまでは私の管轄外だったが。どうやら探し物は見つかったようだ」


それが以外の答えをインジュは持ち合わせていなかった。そんな理由、感染者は人にあらず。インジュはそんな単純明快な答えに落ち込みを隠せないでいた。


「ははは・・・そんなことが、そんな事が理由だったなんて。調べても調べてもわからないわけです。原因不明の病、それが僕に魔力を扱わせてくれない理由だったなんて」


もはや笑うしかない。今までどれだけの事をしてきたのか走馬灯のように脳裏に過る。多くの資料や情報を掻き集め多くの知識を得ても出す事の出来なかった答え。インジュの魔力を扱うという目的には大きく近付いただが、今目の前には、あまりにも巨大な壁が、この王都ですら解明出来ていない物が立ち塞がってしまったのだった。


「夢・・・だったんです。時折見せる僕の母親、母様見せる凄い物を僕もやってみたい。それが出来れば、もっともっとたくさんの事が出来るって。色んな事をやってみたいって・・・抽象的過ぎますよね、あはは」

「本当にそう思うよ。でもまぁ今に扱えもしない物の先なんて考えたってしょうがないって気持ちも理解出来る。それに夢ってのは、ふとした瞬間に考えふける物でもある。間違いでは無いさ」

「はい・・・ありがとう・・ございます」


男は何かの手作業をしながら会話をしていた。それでも伝えたい事はインジュにしっかりと伝わっていた。男が何をしているのかを気にするよりも先に決まってしまった事実をインジュは噛み締めていた。

自分が感染者である事実。そしてあの警備兵、インジュを感染者として捕まえようとし、悶え苦しみ死んでいったあの光景が頭から離れずにいた。


「だ・・ず・・・げで」


助けを求める声が何度も何度も再生される。脳に響く度に震えが起きる。自分は感染者では無いと否定していたはず、だが今ここでそれを確信へと変えてしまった現状では、その声はあまりにもインジュの心を蝕む。


「僕が・・・僕が殺した。僕は何て事をしてしまったんだ・・・!!」


どうする事も出来なかった。もしかしたら本当はもっと多くの人を苦しめていたのかもしれない。そんな負の連鎖を想像すればするほどにインジュの震えは治りが効かなくなってしまっていた。


(もしこのまま、僕が魔力を使えるかもしれない可能性なんかにすがって他の人に迷惑を掛けるようなら・・・なら)

「ん?・・・どれどれ」


苦悩に苛まれるインジュ。そんな中部屋に音が流れ出した。


「こちら・・部隊、感・・・・に襲撃を・・・応援を!」

「え!? 何ですかこれ!?」


室内に響く音に驚くもその音声は止まる事なく流れ続けている。


「繰り返す! 王城付近に感染モンスターの襲撃が起きている!至急応援を!!」

「この音は何ですか」

「まぁー簡単に言えば王城付近で使われる通信器具を探知してそれを勝手に流してるってだけの物、結構暇潰しになるんだよね」

「勝手に・・・」


驚き、呆れ、多くの感情がインジュに生まれる。その中で特質する感情、恐怖だった。最初は真っ白完全防備服で顔すらも防護マスクで覆われ一切の素性がわからないただの不審者。だが2回目の出会い、龍脈還元器、ウィザライト。そして王城内の通信の傍受。

まだまだ知見が足りない自負しているインジュ、それでも情報収集や勉学を疎かにした事は一度も無い。それなのに男が口にする物全てが自分の常識の範疇を超えていた。


「ダメだ! 数が多過ぎる! 撤退の許可を!」

「馬鹿野郎、ここで引いたら町はどうなる! 応援が来るまで食い止めるんだよ!!」


流れ込んで来る通信内容。それは明らかな劣勢の戦況状況の物。感染者と呼ばれる物の攻撃で兵達が苦戦している。そんな情報が耳に入る兵士達の声にインジュは拳を震わせていた。


自分の撒いてしまった種かもしれない・・・。


「・・・ッ! あの! 僕をこの人達のところへ向かわせられませんか!」


インジュは寝どころから立ち上がり、男に問い詰めた。


「向かう? 彼等の所にかい?」

「はい! 今すぐに。それと・・差し出がましいのですが、何か武器になるような物をお貸し頂けませんか、出来ればそこにある剣でいいのですが」

「別に構わないが、剣って・・・あれは何も無いただの物だよ?」

「お願いします!」


立ち上がってからの一歩が一瞬グラつくインジュだが、すぐに自分は動けるとずっと作業を続けている男に詰め寄った。

真っ直ぐな瞳でマスク越しから男の目を見るように願った。


「そこに転がってる物はただのガラクタばかりだから勝手に使いたまえ、ただ・・・」


男は言葉を渋った。けれどインジュはその様子を顧みずに武具の置いてある方へと歩み寄ったが・・・。


「君が行く理由は無いと思うんだが。今は劣勢かもしれないけど、きっと王城からの応援で間違いなく処理される」

「その間の被害は、ゼロと言えるのですか」

「・・・君が行ってもゼロにはならない」

「だとしたら!」


剣を手に取りインジュは目を閉じた。そして男に言葉を返すと同時に自らに悟す為、インジュは想いを口に出した。


「母様が言ってました。天に祈るばかりあまりにもダサい、常にカッコいい自分というのは何かを成し遂げる為に動く自分だ。と」

「・・・ほぉ、随分と豪快なお方で」

「わかってます。これが余計な事で、更に状況が悪化する可能性があるし、それ以前に僕自身が死ぬかもしれない事も。それでも、責任は持ちたい」


それが一番のインジュの想いだった。安易な魔力使用の探求、それが今起きている事態の原因なのであればその責任を取らねばならない。責任を取る為の行動、母の教えの為の行動。全ては自己満足と思われても仕方ない、それでももし、救えるものがたった一つでも増えるのであれば、インジュは動く。


「なるほ・・どねーっと! ほい出来た」


男は作業を終えた。そしてそのまま完成したのであろう物をインジュに投げ渡した。


「これは、”ガントレット”? しかも左腕だけ?」

「まぁまぁ、とりあえず付けてみたまえ・・・私の声が、”響く”かい?」

「ッ!!!?」


渡されたガントレットをはめた瞬間、男の声が2重になって聞こえた。


「魔力・・・なんで」

「それもウィザライトだ。ただ君専用に少し改良を加えたけれどね。まぁ詳しい話をする時間は無い」


インジュに方、正確にはインジュがいる方角に男は指を差した。


「そのガントレットを付けた状態ならその扉を潜ったらすぐに現場に向かう事が出来る」

「えっ!? でも、僕は魔力が」

「だから言っただろう、そのガントレットを付けている状態なら、と。 さぁさぁ行ってきたまえ、カッコいい自分、頑張ってこい」


理由付け、体裁、言い訳、多くを考え口に出したインジュに、男が選んだ物、それはインジュの母の言葉。それがインジュを送り出すのに最適な物だった。


「ありがとうございます!! ”先生”!!!」


思いっきり頭を下げて感謝を述べたインジュはそのまま何の迷いも無く扉を潜って行った。


そう、インジュにとって男の言葉や行動に不信に思うことはなかった。「君が行く理由がないと思うんだが」そんな事を言いつつもインジュが今身につけているガントレットを作っていた。その時点で答えは決まっていた。


この人は、きっと本当に凄い人なのだ、と。


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