15◆初めての友達

慌てて入り口に向かうと、やっぱり黒ギャルのあの子が私を呼んでいたようだった。


「窓から見てた。ァンタ、優しんだね」

「え?」

「マジで相手のことキズつけなかった。ゃるじゃん、悪魔使ぃ」


彼女は、見た目のイメージとはかなりかけ離れた、花がぱっと咲くような可愛らしい笑顔を見せた。

え、かわい…いやそれより見てくれてたの!?そうなんです!!私、傷ひとっつも付けなかったんだよ!!あの頑張りを見てもらえてたなんて嬉しいなぁ…


「センセ、結構スパルタなんだ。メチャ洪水からのビッショち゛ゃん」

「アハハ…先生がタオル持ってきてくれるみたいなんだけど、こんなんじゃタオルでどうにもならないよねぇ」

「だぃじょぶ、アイナに任せて」


自分のことをアイナと呼んだ彼女は、制服のポケットからスマホを取り出すと、音楽を流し始めた。

ウクレレの音がゆったりとあたたかい、南国風のミュージック。

彼女はなんとその音楽に合わせて、フラダンスのようなものを踊り始めた。


腰を左右に緩く揺らしながら、手で大きく下から上に円を描き、交差してからふわりと開く。

左腕を伸ばして、右手で広く頭上を撫でるようにして回すと、くるりとターンした。

最後に波を流すように手を柔らかく揺らして、しっとりと自分の身体を抱き締めるようなポーズをとる。


次の瞬間、彼女の背後に赤々とした豪炎が勢い良くボワァッと燃え上がった。


「うおぉ!?え、え!?何!?」


マジックのように突然発火した火は段々と人の形に成り、やがて一人の女神が現れる。


優しげな顔立ちと、プルメリアの花輪を頭に乗せ、赤のハイビスカスを隙間なく敷き詰めたドレスを着こなす、南国的美女。焦げ茶色のウェーブしたショートヘアが凄く似合っている。


「これ、アイナの女神サマ。ペレちゃんだょ」

「ペレちゃん!?めちゃめちゃハワイだ!!」

「アイナ、ハワイ人だから。アロハ~」


ええぇそうなの!?全然知らなかった!!

じゃあ、黒ギャルなのは、ハワイでよく日焼けしたからだったのか!!てかダンスで召還するとかカッケ~~!!

…でも、なんで女神サマを呼んでくれたんだ?


「乾かしてァゲて、ペレちゃん」


するとペレちゃんは、先程のアイナちゃんのように波を流すような振りをする。

その直後、彼女から特大ドライヤーを浴びせられたような猛烈な暴熱風が吹いてきた。


「あばばばばアツいアツいアツいアツい!!」


ほんの3秒くらい、アチチな風が吹き荒れた。

制服カラッカラ。汗ビッショビショ。なんだこれ。

でも制服が透けてたのは解消された!素晴らしすぎる。ファインプレーだわ。

てかめちゃめちゃ優しくないアイナちゃん!?流石ハッピー委員、私をハッピーにしてくれた!


「あ、ありがとう…!」

「アイナ、ァンタのこと割かし好きかも。これから仲良くしょ」

「えっ、いいの!?」

「モチモチのモチでしょ。ょろぴ、さくさく」


さ…さくさく…!この学校に来て、初めてのあだ名を貰えた!う、うれじいよぉぉ…

最初はどうなることかと思ったけど、やっと、話せる友達が出来た…!何とか今朝言ったことを有言実行出来そうな気がするよ!


「よろぴ、アイナちゃん!!」

「違う。ょろぴ」

「ハイ!!ょろぴ!!」


そんなやり取りをしていると、突如背後か「友達出来たのか?」と艶無先生の声がした。

光速で振り返ると、そこにはゴワゴワした真っ白いタオルを持っている先生が立っていた。


「ぁ。スパルタセンセ、アロハ~」

「あ、ろは……アロハ~」

「おぉ無理やりノってる」


先生からタオルを渡してもらうと、やっぱり手触りもゴワゴワしていた。というかガサガサ?

でもこの感じ、なんだか家を思い出すよね~。柔軟剤使っても家の洗濯機じゃこうなるもん。

丁度良いや、これでビッショビショの汗が拭ける。


「2時限目まであと5分だから、そろそろ急いだ方がいいぞ~」

「嘘!?早く帰らないと!」

「そか。んぢゃね、センセ~」

「わ、ちょ、アイナちゃん!?」


アイナちゃんは私の手を掴むと、そのまま軽やかに走り始めた。地面をぴょんぴょんと飛ぶように駆け抜けていく。

なかなかトリッキーな走法に戸惑いながらも、私の頬は思わずにんまりと緩んでしまった。


…あ、体育祭について聞くの忘れた。でもいいや、友達できたもんね。






《サクラちゃん、オトモダチ出来て良かったわねぇ~!んふふ♡》

「サキュバス……あぁ、そうだな」

《ミッくん、私たちもナカヨシ…しよ?》

「勤務中だからダメ~」

《あーん!ミッくんのイ・ジ・ワ・ル♡》




















「ねぇねぇ!天野さんて神道派?」

「そうだけど」

「やっぱり!見た目でわかるわーうんうん!」


1時限目終わりの休憩時間。席に座って一人勉強していたら、面倒臭いのに絡まれた。

わざわざノートを開いて、ペンを動かしているのが見てわからないのかしら。如何にも冴えなそうな男子だけど、あなたも勉強したらいいのに。


「もしかしてさ…天野さん、あの“日本天野大神宮”の家系じゃない?」


その問いかけに、私は不意にペンを止める。


「…そう、だけど」

「わーやっぱり!じゃあ、天野さんは将来的に巫女さんなるんだ?いいなぁー!天野さんの巫女姿見てみてぇー!」

「…違うけど」

「え?巫女さんじゃないの?」

「神主。私、神主になるの」


…やめてよ。

その想定外みたいな反応、やめて。

ああもう、大嫌い。皆が皆そんな顔をするんだもの。優しさで答えてあげるんじゃなかった。


「…不愉快」

「えっ?」

「すごく、不愉快。自分の席に戻ってくれる?私、あなたみたいな人と関わるつもりないの」


嫌い。大嫌い。

今の彼も、あいつらと同じ。

でも…すぐに目に物見せてやる。

優秀な成績と、確かな実力を持ち帰って、誰にも文句は言わせない。



私こそが相応しいって、言わせてやる。

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