06◆悪魔はあくまで悪魔
「俺も快楽の為に悪魔に魂を売った人間だからな」
そう言って先生は懐からタバコの箱を取り出して、その中の1本にライターで火をつける。
目の前に生徒が居るというのに、平気でスパスパ吸い始めやがった。生徒に平気で受動喫煙させる辺り、本当に快楽の為に魂を売ったのがよくわかる。
まぁ私の両親もよく吸ってたし特に嫌悪感はないけど、タバコ嫌いな子には嫌がられるだろうな…
「ちなみに、どんな悪魔と契約したんですか?」
「サキュバス」
「ブッッ」
思わず盛大に吹き出した。唾スプラッシュごめんなさい。
だって、さ、サキュバスって、2次元でよく見る大手コンテンツじゃん…!えっちいやつだよ…
ちょっと、15歳にそんな話しないで!!やめて!!
「嘘。サキュバスは契約はしてないが、使役はしてるな」
そう言いつつ、先生はまた懐から何かを出す。
なんとそれは、可愛い薄ピンク色のハンカチだった。華奢な白いレースで縁取られていて、赤いバラの刺繍がされている。
明らかに女物であろうそのハンカチで、先生は私の唾スプラッシュした口をごしごしと拭いてくれた。
…ちょっと待って、情報量が多いんだけど。
「サキュバスは夜中に勝手に寄ってきて、俺を襲おうとしたんだよ。だから逆に手篭めにしてやったら見事に懐かれてさ~」
「ああああそんな情報はいいです!!それより、そのハンカチ!女の人のですよね!?」
「あぁ、これか?最近知り合った女性が貸してくれたんだよ。他にもこんだけある」
すると先生は懐から10枚ほど女物のハンカチを出してきた。
パステルカラーの薄手のハンカチやら、ブランドモノの高級そうなハンカチ、他にも豹柄ハンカチやら…
…いや、これハンカチじゃない。
パンツだ!!女の豹柄パンティーだ!!なんて過激なもの入れてるんだ!!
「ちょちょちょっと!!なに懐に入れてんですか!!」
「あ、やべ…これ昨日のだ。また上からお叱り受けちまうな」
先生はいそいそとそのハンカチやらパンティーやらを懐にしまっていく。
いや、なんでまた懐に入れるんだよ。持ち歩いてんじゃねーよ。
「…ま、こういう訳だ」
「どういう訳ですか!?」
「あー…悪魔のおかげで、俺は女性に持て囃されてるってことだな。これはサキュバスじゃなく別の悪魔のおかげだが」
「別の悪魔?」
「グレモリーだ。ソロモンと契約した72柱の内の一柱で、過去・現在・未来や隠された財宝について語り、また女性の愛をもたらしてくれる」
ソロモン72柱…アガレスと同じだ…
確かアガレスは、地震を起こさせるとか、あらゆる言語を教えられるとか…あと、滞っているものを流す、その逆も然りって感じの能力だったよね。
アガレスと契約してから悪魔について興味を持ったけど、みんなそれぞれ違う能力があるんだなぁ。なんかポ○モンみたいで面白いや。
「俺はサキュバスとグレモリー以外にも、あと2体の悪魔と契約してる。ウェパルとナベリウスだ」
先生はそう言うと、右腕の内側を私に見せた。
そこには、縦に3つ並んでそれぞれ違う印章が刻まれている。
先生曰く、ウェパルもナベリウスもソロモン72柱の一柱なんだそう。それら全員と契約出来るなんて…この先生凄いな。
サキュバス含めてどれも有名っぽいし、相当力のある悪魔たちと契約してる。この先生も霊能力がめちゃめちゃに強いんだろう。
全然先生らしくなくて心配してたけど、この人は“一応”尊敬出来る凄い人なんだ。ちょっと安心した。
「俺、若い時は全然モテなくてさ。悩んでたところにグレモリーが現れて、契約持ち掛けて来たんだよ。んで契約してみたらたちまちコレ」
また懐からパンティを出す先生。しかも今度は的確にパンティだけを引き抜いた。
本当にロクでもない人だ…悪魔的過ぎる…
「お前の契約してる悪魔は?ウコバクか?インプか?」
「アガレスです」
「ブッッッ」
「うわ汚い」
「ッ悪い…凄い名前が聞こえたもんで…」
「パンティで拭かないでください!!」
先生は豹柄パンティで自身の唾スプラッシュした口を拭き上げると、また懐にしまった。どうしよう、えげつな汚なすぎる。
「そんなことよりも…マジか?本当にアガレスと契約してるのか?」
「はい。ほら、これ」
私は右手のひらの印章を見せると、先生は鼻先が着く程近づき、目を皿のようにしてじっと見つめた。
私の手を掴んだり、印章を指先で擦ったりしている。
次に、私の首もとのループタイに目をつけた。
「そのループタイ…アガレスの連れてる鷹の目玉だな」
「なんでわかるんですか!?入学祝いに貰ったんですけど…」
「そりゃあ先生だからな。しっかし、こりゃマジらしい…しかもツレの鷹の目まで渡してると来た。相当入れ込まれてるな…アガレスって言ったら、俺の使役してる悪魔より格上なんだが…」
「え!?そうなんですか?」
「ソロモン72柱の中でも序列がある。アガレスはそのトップ2だ。そんな奴と、年若いお前がねぇ…」
先生は感心したように目を見開いて驚いている。
私…もしかして、霊能力者の中でも結構凄い方なんじゃ…
そういや、アガレスたちも特別扱いしてくれてたもんね…
「ンフフフ…」
「キモい笑い方だなぁ」
「先生も本当に凄いと思いますよ!だってソロモン72柱の…どこの順位かわかんないけど、3体も使役してるんですから!」
「うぜーフォローはやめなさい」
まぁ、アガレス使役してるって言っても、普段は忙しいから部下連れてるんですけどね…
先生は私のウザめのフォローに呆れたようにため息を吐くと、「…それにしても、大丈夫だったか?」と付け足した。
「何がですか?」
「契約内容だよ。その様子だと、お前悪魔についてほとんど知識無いだろ?一方的に不利な契約させられてないか?」
うーん…一方的に不利な契約…
まぁ契約内容は結構嘘吐かれてたけど、どれも許せるものだしなぁ…不都合はないから…
「いや、全然大丈夫でした」
「…そうか」
その瞬間、キーンコーンカーンコーンと人工的なチャイムの音が鳴った。
「終わりか…今日はここまでだな」
「あ、ありがとうございました!」
「あと…」
先生は右手で私のアゴを掴んで自分の方に向けさせると、低く静かに言葉を発した。
「…いいか?悪魔はあくまで悪魔だ。お前がイニシアチブを取らないと、簡単に殺されるぞ」
「それじゃあな」と言って、先生は背を向けて音楽室を出ていった。
…心臓がバクバクしてる。
急にあんなイケおじにアゴクイされたせいもあるんだけど、何より最後の言葉が…
イニシアチブを取らないと、簡単に殺される。か…
…それはそうと、バトルの話まだ?
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