03◆オタクのハートがブンッブン

右ページには、卒業生のインタビューが載っていた。

女性2人、男性1人と載っているが、3人共テレビで見たことがあるような有名な霊能力者だ。教師にも、一流の霊能力者を採用しているらしい。


「『能力行使演習』、『交信精度向上実習』、『古文書精読』…聞いたことない授業ばっかりだ」


制服は白のブレザーに白のYシャツ、赤のタータンチェックの膝丈スカート。首もとのリボンなどは何でもOKらしい。写真に映っている女子なんかはロザリオを着けている。

校内には食料品・文房具が買える売店の他に、聖水・清めの塩などが買える売店もあるそうだ。また、体育祭専用の広大なグラウンドや、花園、滝などのあり得ない設備が揃っている。

学校全体に教師らが張った結界が張られていて、外部から心霊・呪いが流入することを防ぎ、セキュリティも万全とのこと。

…これが、国立なのか…


《お前のためみてェな学校じゃねェか。ここ行けよ》

「えー、でも私、別にこれ以上霊能力強くなくていいんだけど…」

《じゃあ、他に行きたい高校でもあんのか?》

「それは…」


それを言われると…無いんだよなぁ…

大体、今は中学3年生に進級寸前の3月だ。中2の夏で志望校決めてる人も少なくないのに、この時期まで決まってない上にゲームしてるってことは…ねぇ。

そりゃ志望校なんてあるはず無いんだよ。


《国立だから学費も安いし、ココにしとけば今更オープンキャンパスなんざ行かなくて済むんだぜ?》

「やけに受験事情に詳しいな…まぁ、そうなんだけどさ。それでも普通の高校行った方が就職しやすいと思うんだよねえ…」

《んなもん霊能力者か聖職者にでもなりゃいいじゃねェか!》

「えー…でもなぁ…」

《めんどくせェ奴だなオイ!いいか?霊能力、いや神通力ってのは、所謂“精霊の恵み”なんだよ!》


バドルが低燃費モードを解き、私の両肩をわしっと掴む。

ナイフより鋭い目付きで、私を見つめながら力説した。


《神を真似て作られたのが人間だ。本来人間は誰だって、その真似られたところを通じて神と交信出来るはずなんだよ。だけどそれに気づけない。精霊に気に入られるような清らかな魂を持った奴だけが、神通力に気づくことが出来るからだ》

「…そんなこと言われても…」

《この世に神と話したい奴らがどれだけ居る?大半の霊能力者は、オレたちのような高次の霊的存在を視ることすら出来ず、大半のチャネラァが、神やら天使やらを騙った下等な悪霊の声しか聞くことが出来ないってのに》


確かに私は、年の割に人より強めの霊能力を持っている自覚がある。全部こいつの言う通りだとも思うよ。

でも、それがこの学校に行く理由にはならないっていうか…


《異能力、学園、青春、バトル》

「きゅ…急になに!?」

《お前…そォいうのが好きなんだろ?》


あぁ…好きだよ。

大好きだとも!大大大大大好きだとも!!

小学生の時からそんなジャンルのアニメを嗜み、二次創作のチート主人公夢小説読んで育って来たんだよこっちは!

いつまでもッ、私の心は中二病なんだよォーッ!!


《この神霊なら、コレ全部叶えられるんじゃねェか?霊能力、学園、青春、バトル》

「…最初の3つは叶えられるとしても、バトルは無理でしょ」

《いんや。お前が悪魔と契約したように、ココには何らか霊的存在を贔屓した霊能力者たちが集まるはずだ。実際、テレビでも霊能力者が除霊する時に、祝詞のりと真言マントラ唱えたりすんだろ?大体の霊能力者は、そういった高次の霊的存在を信仰して力を貸してもらってるかんな》

「それはそうだろうけど…どうせその場でゴニョゴニョ唱えるだけでしょ?それじゃ私の夢見たバトルモノには程遠いよ~」

《まァまァ、コレ見てみろって》


アガレスの焼けた大きな手が、私の顔面をガシッと覆うように掴む。

その瞬間、脳裏にビジョンが浮かんできた。







三つ編みの制服姿の少女が、何やら装飾の凝った金色の弓をつがえる。

放たれた矢は対極に居る男子生徒の方へと進み、彼の眉間を今にも貫こうとした。

しかし、それは1枚のヒト型の紙によって防がれる。ペラっペラの紙であるはずが、まるでそれは鉄甲の盾のような強度で弓を跳ね返した。


「…萬物の病災を立所に祓い清め給い 祈願奉ることの由をきこしめして 大願を成就なさしめ給へと 恐み恐み白す」


小さかった紙は途端に大きな龍の姿に変わり、女子生徒の方へ一目散に飛んでいった。

龍の身体に体当たりされ、女子生徒は弓ごと吹き飛ばされてしまう。






ここでビジョンは終わった。



「え、え、今の何!?何今のかっこいいバトル!!」

《今のは神霊の学校生活の一部を切り取ったビジョンだ。神霊はどこかしらでバトルシステムを導入してるらしい。どうよ?入る気になんだろ?》


あんなん…私のオタクなハートがロデオ並みに揺さぶられるに決まってるだろ…もうブンッブンのグワンッグワンよ…

憧れに憧れ抜いた、自分でも創作しちゃうほど好きな“異能+学園+バトル+青春モノ”。

それが、地味な使い道しかなかった私の霊能力で叶えられると?


「絶対入るわ!!死んでも受かる!!」

《チョれェな~。んじゃ、受験頑張れよ》


こうして、見事志望校が決まった私。

憧れの学園生活に思いを馳せて、私は『異能青春学園』を起動した。

オープニング画面には、可愛らしい女主人公の周りを囲むように笑い合う美男美女のキャラたち。

こんな学園生活が…私を待ってる…






そう、思っていたのに。

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