ソシャゲが原因で悪魔と契約しちゃったけど、霊能力者だけが通える高校で青春もバトル無双も叶えたい!

国立神霊学園

序章

01◆霊能力者だってガチャくらい回す

私・木屋根 桜は、2歳の頃から幽霊を視認することが出来た所謂“霊能力者”だ。

といっても、視えるだけじゃない。声を聞いて会話したり、匂いを嗅いだり、身体に触れたり(触られることの方が多いけど)も出来る。


年の割に優れたこの霊能力は、意外と実生活に役立っている。

朝は幽霊に起こしてもらったり、失くし物を見つけてもらったり、時にはブラインド系のグッズの中身を教えてもらったり。

端からみればラッキーな奴にしか見えない地味~な使い道なんだけど、寧ろこういうことにしか使えないんだから、いざって時に確実に役に立ってもらわなきゃ困るのだ。


絶対に、困るのだ!!



「なんで来ないんだよおお…いつもは無課金で来るだろうがああ…」


スマホを前に、土下座して布団にゴスゴス顔面を擦り付ける私。

今日は、なかなかスマホゲーが続かない私でも唯一続けられたソシャゲ『異能青春学園~異能力者の美男美女に揉まれても私TUEEEE~』が2周年を迎え、その記念として限定ガチャが開催されていた。

普段は無課金石30連以内に推しを引き当てられるのに、今日はマジで全然1ミリも上手くいかない。既に3万円も課金してるのに、他のキャラのSSRが出るばかりなのだ。


おい周りの幽霊!昨日死んだ時の話聞いてあげたじゃん!協力してよ!!


「もう10連分しか石がない…次で当たらないと、5万円台になっちゃう…」


無課金勢が一度課金を覚えてしまうと、すっかり金銭感覚が狂って財布の紐が緩みまくる。ただでさえ緩みまくっているのに、これ以上緩めたら、もう…

でもでも、今まで推しのカードは全て集めてきた私だ。2周年のだけ持ってないなんてそんなの…絶対イヤ!プライドが許せん!


「…よし、次で絶対引き当ててみせる!いざ、しょーーーぶ!!」


そう人差し指を振り上げたその時。

左の耳元から、声が聞こえた。



《白い薔薇を用意してごらん》



弦楽器を鳴らしたような、暖かみのある優しい男性の声。

その声は紛れもなく、私の推しの声だった。

勿論こんなボイスは実装されてない。というか、イヤホンもしてないのに耳元で聞こえる訳がない。


まさか、この短時間で推しの声優が死んだ!?


慌ててSNSを確認するが、1分前に投稿がされているから全然健在。


…となると、私の気を引くために声を変えた悪霊の可能性が高い。

こういうことはよくあって、私自身母親に呼ばれたと思ったら悪霊に呼ばれていたことが多々あった。悪霊の常套手段だ。


《そこに、造花の白い薔薇があるだろう?それを3本手に取って、まずトライアングルを作るんだ》


戸惑っている私を気にもせず、勝手に話を進めていく悪霊。

確かに傍を見ると、私が推しの誕生祭の時に使った白いバラの造花が4本置いてあった。造花といっても、花びらがフェルトで作られた飾りに近いものだ。

あれ?これって、確か輪ゴムで12本まとめて置いてたやつなんだけど…わざわざそこから4本抜いて持ってきたのかな。

それに、なんで悪霊がここまで指示してくるんだろう…今まで悪霊と出会う機会はそれなりにあったけど、こんなことは今まで生きてきて初めてだった。

しかも、何故か私の中で警戒心のようなものが1ミリも湧かないのだ。不安や、疑心のようなものが一切生まれてこない。これも初めてのことだった。


とりあえず、言われるがままに造花3本を床に置いて、私は三角形を作ってしまった。


《最後の1本を中央に縦に置いて、その上にスマホを置いて。呪文を唱えてご覧》


呪文?そんなの知らないんだけど…

困惑してる内にも私の手は動いていて、三角形の真ん中を切るように最後の造花を乗せている。

少し不安定ながらも、何とかその上からスマホを置くと、両手を合わせて静かに目を閉じた。

脳に流れてきた文字列が、勝手に声にされていく。


「…アガラスタヤ・スエルゼルマン・ガラマルナ・ルキフゲ・ロフォカレ」


すると、目蓋の裏に2つの光の玉のようなものが見え始めた。白く、淡くぼやけながらも、自己主張するみたいに芯の部分が強く輝いている。


そのまま、ガチャを引くボタンをタップした。


「…!?うそ…」


私は目を見開いて、口を手で覆った。

スマホの画面を見ると、1ずっと引き当てたかった推しのカードがなんと2枚も来ていたのだ。

1枚でも良かったのに、まさかダブって2枚も来るなんて…

思わず、声が聞こえてきた左の方に顔を向ける。




そこには、悪霊ではない、幽霊なんかでもないものが、宙にふよふよと浮いて立っていた。



《…やぁ。初めてお目にかかったね》



パッと見、姿に幽霊と違いはないが、持ち前の霊能力で「幽霊でない」と察することが出来る。

幽霊というのは、視えた瞬間に年齢やその境遇などがパッと伝わってくるものだ。しかし、今回はそれがまるでわからない。

とにかく、年老いてはいないということと、男性であるということくらいしかわからなかった。


赤黒い褐色の肌に、ウェーブのかかった艶のある黒髪。

くっきりとした二重に、スッと通った高い鼻と、薄めの唇には微笑みを浮かべている。

黒のタートルネックに赤いコートを着た佇まいから、パリコレモデルのようなスタイルの良さが伺えた。

しかも、上品なのに、一度飲み込まれたら戻れないような危険な色香を放っている。不躾な色気ではない。知性を感じるくらいなのに、どことなく危うい、魅惑的な空気感がある。


「あ…あなた…誰…?」

《…アガレス》


アガレス。

その名前に、私は何となく聞き覚えがあった。確か、アニメとかで出てきた気がする。

汗も引いた乾いた指でスマホのキーボードを操作しネット検索をすると、検索結果のトップにwikimediaの本文が出てきた。



『悪魔学における悪魔の一人。ソロモン72柱の序列2番で、31の軍団を指揮する大公爵』




「悪魔…!?」


幽霊じゃなく、悪魔が私のところに…ていうか日本に悪魔来るの!?

確かに、霊能力がある程度強くなると、神や天使・精霊などの高次の霊的存在と話せるようになると聞いたことがある。

もしかして悪魔もそういう訳で見えるようになったってこと…?


《私と契約すれば、先のように君の望みを叶え続けることを約束しよう。ただし、可能な範囲にはなるけれど》

「可能な範囲?」

《私達でも、運命というものには抗えないんだ。君の運命の流れを邪魔しない、寧ろ促進するような望みであれば確実に、全て叶えられる》


運命の流れを邪魔しない、寧ろ促進するような…

…よくわからんけど、例えば私が高校受験に落ちる運命だったとして、そこで『高校受験に受からせて』という望みを叶えるのは無理ってことかな?

さっきガチャで推しを引き当ててくれたのは、私の運命に影響がなかったからなんだ。


…つまり、契約するだけで推しが当て放題ってこと!?推しを引き当てて運命に影響することなんてそうないでしょ!

持ち前の霊能力で当てられないこともないけど、今日みたいに当たらないこともこの先ありそうだし、最初の10連で確実に当たるようになれば石も貯めやすい…

…あ、でも、悪魔の契約って、魂を売るとかだったっけ…?

それって、多分ヤバいことだよね…


「その…対価って、やっぱり魂をどうこうする感じ…?」

《その通り。死後、君の魂を頂戴して我が物とさせてもらいたい。君の魂はどの人間よりも特別なんだ。是非、それを私におくれよ》


魂を我が物とするって、どういうことだろ…

も、もしかして…食べられたりする…?痛くされる!?嫌な目に遭ったりするかな!?


《食べもしないし、痛くもしない。君にとって不都合があるのは、精々転生出来ないことくらいだよ》


…まさか、脳内の話にも返事をして来るとは。

でも、転生出来ないことくらい、か…


うん、別にいいや。

普段霊能力で霊を見てると、生に執着する気が失せるんだよな。なんていうか、生きた後もどうせこうなるんだしって思って。来世を約束するような相手も居ないしね。

何より…この超絶イケメンに所有されるって…

え、良くない?全然良くない??


「…わかった。契約する!」

《ありがとう。では、握手を》


赤黒い、骨ばった大きな手が差し出され、それに応えるように握る。温度も汗も脈動もない、ただ皺のある皮膚に触れたという感触だけがあった。


《これは仮契約だ。明日、本契約に向かわせてもらうよ。それまでよろしく、サクラ》


そう言うと、アガレスは景色に溶け込むようにして姿を消した。


「…私、悪魔と契約しちゃった…」


彼が居なくなったことで、ようやく自分の状況が冷静に理解出来るようになった。途端に大それたことをしたような気がして、妙に焦り始める。


握手を交わした右手の平をふと見つめると、中央に何やらマークのようなものが刻まれているのに気づいた。

正円の中に、AGARESという文字と、顔の模様が描かれた壺のような形の、図形が描かれてある。契約の証だろうか。

指でゴシゴシと擦ってみるが、案の定消えない。まるでタトゥーのようで、それがわたしに後戻りは出来ないことを教えてくれているようだった。


「…よりにもよって、ソシャゲが原因かよ…」

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