花は散りそして世界は巡りゆく

 私は真っ暗な一本道を目的も無くただ歩いていた。私自身、ここが何処なのかはわからない。それに、いくら記憶を探っても、いつもの学校帰りにいつも通りの道を通って家に帰ってきた。という程度のことしか思い出せない。


 変わり映えのない真っ暗な道を歩き始めてから、おおよそ十数分ほど経っただろうか、疲れた私は荒くなった呼吸を整えようと膝に手をついた。


 カタン。


 暗闇に音が響き、反射的に顔を上げると、正面に微かな光を見つけた。


 そして私は、正面の微かな光を目標にして一歩ずつ歩き続けた。


 光の漏れ出る扉に辿り着くと、扉は私を招き入れるかのように開け放たれ、扉の先に現れた光景に息を呑む。


「············すごい棚と本の量······ここって図書館なのかな? それに上の階にも本がびっしり詰まってるし、天井もすごく高い······一体何フロアあるんだろ?」


 建物の中心部に位置すると思われる吹き抜けから上を見る。だが、吹き抜けは天井が存在するのか疑問になるほど高く、果てが見えない天井に吸い込まれるのではないかとさえ錯覚する。


 私はその感覚に、呆然と立ち尽くしていたが、どこからか聞こえた声で意識を引き戻された。


「ようこそ、僕の図書館へ。君はどんな物語をお探しかな?」


 声の方に振り返ると、そこには高級そうな机と椅子があり、机にはいくつもの本が所狭しと置かれており、椅子には私と同年代と思われる赤と黒が混在する髪の青年が腰掛けていた。


「さて、僕の自己紹介といこうか」


 彼は読んでいた本に栞を挟み、立ち上がる。


「僕は狩間かるま ごう。この図書館の管理者で司書も兼ねている。姓名どっちで呼んでくれても構わないよ」


 彼は言い、フワリと丁寧なお辞儀をした。そして机に積まれたいくつもの本の中から一冊を取り出して、開いた。


「折角の客人だからね。こんな物語はなしを知ってるかい? とある街の高校生カップルの話だ············」


 そう言って彼はその本を詠み始める。


 


「そのカップルが住んでいる地域にはとある一族が住んでいた。


 その一族には、少しばかり特殊なしきたりがあって、例えば『生まれてくる子供には花に関する名前をつける』。これは花そのものの名前でもいいし、花言葉を込めるでもいい。


 そして『子供は、名付けに用いた花をアクセサリーとして肌身離さず持ち歩く』


なんてものもある。因みに、彼氏の方がその一族の人間だということだけ、先に話しておくよ。


 


 


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とりかぶとさんの作品箱 とりかぶとさん。 @K_Shirasawa0316

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