(二)-5

 それからしばらく経ち、戌の刻か亥の刻くらいになった頃であろうか。急に村のどこかで呼子笛の音が聞こえた。

 それは、谷川左内が柏原衛守と岡っ引きたち全員に配布した笛の音だった。賊を発見したら、その合図で笛を吹けと予め決めておいたのだ。その笛の音が今、鳴ったのである。

 左内も衛守も家の中から外を覗いて見ていた。真っ暗闇の中で草木が静かに音を立てているのがわかった。それは笛の音を聞いてどうするべきか対応に迷っているかのように、右に行ったり左に行ったり、さらに近くにいる者に近づき、何か小声でささやき合っているようであった。


(続く)

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