第42話「夢の月」

 遠い月のような夢。見慣れたはずの光景。


 お父さんがいて、お母さんがいて、おじさんもいて、みんなで誕生日を祝ってくれた夢。


 そうだ、誕生日の時にお父さん、お母さん、おじさんに聞いたことがある。


「わたし、どうして『夢月むづき』って名前なの?」って。


 お父さんとお母さんは最初、「夢」という漢字を入れるつもりだったけど、あと一文字ほしくて、頭を悩ませてたらしい。そこでおじさんが「『月』を入れてみたらどうかな?」と提案したんだって。「光一にしては悪くない」って、お母さんにからかわれていたみたい。


 夢月。夢の月。わたしの夢。


 でも、その夢は長く続かなかった。


 お父さんとお母さんは死に、わたしはおじさんに引き取られた。何があっても大丈夫なように、おじさんは色んなことをわたしに教えてくれた。与えてくれた。最後のプレゼントはヨルワタリで——この子の操縦の仕方も徹底的に教えてくれた。


 おじさんはわたしをかばって死んだ。


 ヨルワタリのコクピットの中で、どれだけ泣いただろう。


 もう、失いたくなかった。


 もう一度おじさんに会えた時——本当に嬉しかった。まだ若くて、他人行儀でなかなかわたしのことを名前で呼んでくれなくて。それでもなんだかんだで、気にかけてくれていた。


 あの時。もう一度、わたしの名前を呼んでくれた時——本当に嬉しかった。ありがとうって言いたかった。


 恥ずかしいけど、大好きって言いたかった。


 わたしがあの子と引き換えに命を投げ出した時——おじさんは泣いてくれただろうか。


 悲しんでくれただろうか。


 もし、そうだったら少しだけ嬉しい。


 わたしはおじさんにとっての、特別な存在になれたってことだから。

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