どこまでも王道的な異世界転生をしてしまった俺は女神と共にリア充生活を送ります。
カイト
第1話 やっぱり王道の異世界転生
いつも家に引き篭もっているニートな俺ではあるけれど、たまには外の空気を吸いたいと思いコンビニへと向かった。
久々に吸い込んだ外の空気はなかなか美味かった。空気に味があると言うべきか。
ここは山奥ではないが、それでもマイナスイオンのようなものが働いているのかもしれない。
マイナスイオンの効果なんて今までは半信半疑だったけど。
まあ、自宅の俺の部屋の空気はかなり澱んでいるし、その反動で外の空気が美味く感じられるだけかもしれないが。
コンビニは自宅から徒歩、三分の距離にあるので、かなりありがたい。このコンビニがなかったら俺は一歩も家の外に出ることはなかっただろう。
時々、このコンビニのから揚げが無性に食べたくなるんだよな。リニューアルと称して度々、味が変わるのが難点だが。
ま、味が向上してくれるのなら文句は無い。から揚げだけでなく肉まんとかも美味しいから食べるのはそっちでも良いしな。
俺は食い物だけでなく、たまにはゲームの雑誌でも買ってみようかと思いながら道路の真ん中を歩いていた。
この道路は閑静な住宅街の真っ只中にあるので車が通ることはあまりない。だから、どこを歩こうと事故に遭う可能性はほぼ無いのだ。
実際、俺がこの住宅街で暮らし始めてから十年以上が経つが事故なんて一度も起きてないし。
こんな場所で車に轢かれる奴はよっぽどの馬鹿に違いない。
が、今日に限ってはそんな安心感が仇となった。
何と道の向こうから猛スピードでトラックが迫ってくるではないか。明らかにこの道の制限速度を超えている。
運転手の野郎は何を考えているんだ!
俺はすぐに道の端に駆け寄ろうとしたが日頃の運動不足も相まって足がもつれてしまった。
クソ、こんな時に足が攣るなんて!
無様に倒れた俺にトラックが猛然と迫る。ブレーキを掛けている音も聞こえてくるがスピードは一向に落ちない。
ギィーとタイヤと地面が擦れ合う甲高い音が聞こえてくる。
こいつはヤバい!
そう戦慄した瞬間、上半身を何とか起こしていた俺にトラックの車体がモロに命中した。
俺の体はサッカーボールのように宙を舞う。フワリとした夢の中にいるような浮遊感を感じた。
まるで天国に誘われているような錯覚すらする。
それから、俺の体は凄まじい衝撃と共に地面へと叩き付けられて、それと同時に俺の意識はブラックアウトした。
人生の走馬灯なんて見えやしなかったな。
が、トラックに盛大に撥ねられたはずの俺はどういう訳か、すぐに目を開けることができた。
気がつけば俺は見たこともない場所に立っていた。どこを見ても住宅街の景色は影も形も無いし、病院とも思えない。
ひょっとして、ここは天国か?
「ようこそ、神の国へ。私はあなたを天国か異世界に導く役目を持った女神アルネリアスよ」
そこには混じり気のない豪奢な金髪を腰まで伸ばし、青色の瞳と透けるような白い肌をした女の子がいた。
身につけているのはブレザーの制服を自由奔放に改造したような変わった感じの服だ。
神々しい雰囲気も纏っているが、どこかアニメのコスプレをしている外国人ぽさも漂っている。
失礼かもしれないが、この女の子からは何となく神らしからぬ俗物さが感じられてならないんだよな。
まあ、女神なら悪い人間ではないと思いたいが。
とにかく、こんな非の打ち所がない可愛さを持つ女神様と会話ができるのは、生まれてこの方、女気なんて無かった俺にはけっこう幸運に感じられた。
いや、トラックに撥ねられたんだから幸運のはずがないか。
「何が何だかさっぱり分からないんだけど」
俺は動揺を何とか押し殺して、なるべく平静を保ちながら尋ねた。
ちなみに俺がいるのは神殿みたいな場所だ。白亜の床や壁があり、太い柱が規則的に並んでいる。
こんなに立派な神殿はお目にかかったことがない。
あのギリシャのパルテノン神殿でもここまでの荘厳さは感じられないだろう。神のいる場所としては文句のつけどころがないな。
「あなたは死んでしまったの。だから、あなたにはこのまま天国に行くか、剣と魔法の世界で生きる人間に転生するか、二つの選択肢あるわ」
女神アルネリアスはにんまりと笑いながら指を二本立てた。こいつはどこか俺の状況を楽しんでいる節がある。
その態度が俺の不安を煽り立てるし、上手い話には乗せられないようにしないと。
この女は食わせ物だと本能が囁いている。
「天国ってどんなところなんだ?」
「世界を円滑に動かすための仕事をするところよ。ま、工場で単純作業をするような場所ね」
死んでも無に帰るわけではないことにはホッとさせられたが、あまり楽観できる話でもなさそうだ。
労働なんて俺の性にはとことん合わない。でなきゃ、とっくにアルバイトくらいしている。
こんな俺にできることと言ったら自宅警備員くらいだろうな。
「それなら異世界に転生した方が良いかも」
「でしょ? 私が管轄している異世界はアルレガイアって言うの。アルレガイアは問題が山積みになっていて世界を平和にするような人材が不足してるのよね」
「まさか俺に勇者にでもなれって言うんじゃないんだろうな?」
その展開はあまりにもベタ過ぎるぞ。
もっとも、とことん使い古された展開だが逆に王道と呼べるような気がしないでもない。
気を衒う話は大抵ろくなものではないし、案外、この王道さは悪くないかもしれないな。
「そこまでは期待してないわよ。ただ世界を平和にするのに貢献して欲しいってだけ」
「じゃあ、異世界に転生する方を選ぶよ。そもそも俺は働くのが嫌いだからニートなんてやってるわけだし、死んでまで単純作業なんてしたくねぇ」
俺はまだ十七歳だ。
理想は大きく持ちたいし、世界の平和を守るために活躍できるかもしれないなんて夢のようじゃないか。
この誘いを断る理由がどこにある。
はっきり言って、この千載一遇の如きチャンスを逃したら俺の人生には二度と光は差さないぞ!
「なら決まりね。世界の平和を守るためにせいぜい貢献してちょうだい」
アルネリアスがそう言うと俺の足元に幾何学的な模様の魔法陣が現れ、体は魔法陣から発せられる眩い光に飲み込まれていった。
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