06 鍛冶ギルドの失墜
――鍛冶ギルド ボヤスン視点――
俺はマイオスを鍛冶ギルドの外へと蹴飛ばした。
「はは、無様だな。お前なんてどこかで野垂れ死ぬがいい!」
――バタァンッ!
そう吐き捨てた俺は扉を勢いよく閉じる。
俺は受付の方に振り向き、店に来ていた冒険者達の笑い声の中を歩きライケルの所まで戻る。
「ふ、上手くいきましたね。ギルドマスター」
眼鏡をキラッと光らせるライケルは、不敵な笑みを浮かべながら話しかけてくる。
「その通りだなライケル。……そこにあるマイオスの作業着も含めて、このギルドにあるマイオスが管理していたゴミどもを全て捨てておけ!」
「畏まりました。ギルドマスター」
「ふふ……これで忌々しいロイダースの血筋の者はいなくなった。このギルドは完全に俺達の物になったという事だ」
俺はいつも多くの歓声を浴びていたロイダースの傍にいながらも、ロイダースと比較され出来損ないと馬鹿にされたツケを日ごろからロイダースのガキに八つ当たりをしていた。
そして、今回の勇者の武器を壊した件で溜まりにたまったロイダース一家への憂さ晴らしができたというものだ。
「ですがギルドマスター。よかったのですか? 王国から選ばれた指名勇者の武器を壊してしまうとは」
「ふふ、壊してしまったのはマイオスだ。俺はそのマイオスに制裁を課したまでだが?」
俺がとぼけた表情をするとライケツは含み笑いを浮かべる。
「……ふ、そうでしたね」
ライケルはそう呟きながら、マイオスが着ていた作業着を拾う。
「ギルドマスター、確かマイオスには各国から問題を抱える武器を押し付け……いや、保管を任せていましたよね。このマイオスの作業服と合わせて、作業部屋にある数多くのゴミに等しい武器達も廃棄しておきましょう」
「あぁ、頼む」
ライケルは頷くと、奥へと消えていく。
だが、しばらくすると勢いよくライケルが駆け戻ってくる。
「た、大変です! ギルドマスター! ロイダース様が残した聖剣や、いままでマイオスに押し付けた武器防具も全てなくなっています!」
「……なんだとっ!?」
耳を疑うようなライケルの言葉に、俺も確かめる為に自ら奥へと駆け出す。
すると、そこには空になった武器防具庫が広がっており、初めから何もなかったかのような状況になっていた。
「……バカなっ! 何故なくなっているんだ!? マイオスが……いや、そんな時間はなかったはずだ」
俺がそう呟くと、ギルドに来ていた冒険者達が騒ぎ始める。
「おーい! 預けていた武器を取りにきたぞ! 誰か出て来いよ!!」
「さっきから待たせ過ぎだ! 早く出て来い!」
「もう、武器を売るってレベルじゃねぇぞ、オイ!」
気性の荒い冒険者達の声が店の奥まで聞こえてくる。
「ど、どうしましょう!? ギルドマスター。冒険者から預かった武器もなくなったと伝えてしまっては我らのギルドの信用は地に落ちてしまいますっ!」
ライケルも動揺しながらも今の状況を言葉に表し、更に俺の動揺を誘ってくる。
「……うぬぅ。わかった。こうしよう! 修理に少し時間が掛かっているから、時間を空けてまた来てもらうように言うのだ! ……ライケル、頼めるか」
「わ、私がですか!? 嫌ですよ! ギルドマスターが説明してください!」
「なんだと!? ギルドマスターである俺に指図をするのかお前は!!」
「ギルドマスターだからってそんな指示には従えませんよ!」
ライケルと口論になるも、店の方から聞こえてくる罵声で我に返った俺は深呼吸を繰り返す。
今はライケルと口論をしている時間も冒険者達はくれない様だ。
「仕方ない。私は説明しよう……」
それから冒険者達に武器の修理に予想以上に時間が掛かっている旨をなんとか説明し、少し時間を空けて店に来てもらうように説得をする事に成功する。
◇◇◇
それからは俺やライケル、他の鍛冶ギルドに務めている鍛冶師達によって死に物狂いで消失した武器を作り直し、数多くの武器を用意してなんとか冒険者達に渡していく。
だが――
「なんだよこの武器は! 前みたいな使い心地もなくなったし、切れ味が悪いじゃないか! こんな糞みたいな仕上がりじゃなくて前みたいな仕上がりにしてくれよ!!」
「そうだそうだ! 俺の武器も全然だめだ! 前はもっと良い武器の手入れができたんじゃないのかこのギルドは!!」
「本当だな……こんな仕上がりじゃ、別の鍛冶ギルドに行った方がマシなレベルだぞ!」
俺達が
「なんだとっ!? 言わせておけば好き勝手に言いおって!!」
「お、落ち着いてくださいギルドマスター!」
ライケルがすかさず怒る俺を止めに入る。
……何故ここまで反発を食らうのだ……!
……そうだ、いつも面倒な武器の手入れは全てマイオスに
「……マイオス……一体どうやって武器の手入れをしていたというのだ!」
既に俺が鍛冶ギルドから追い出した手前、呼び戻すなんて口が裂けても頼めなかった。
それからすぐに俺達の鍛冶ギルドの悪評は瞬く間に冒険者の中で広がり、我らの鍛冶ギルドの信頼は地の底に堕ちてしまった。
「……なんでこんなことに」
一気に顧客の数が減りながらも、数名店に来てくれる冒険者の武器を修理や手入れをするも――
「……以前みたいな使い心地がなくなりましたね。次からは別の鍛冶ギルドで頼もうと思います」
そんな事を冒険者が呟く中――
――バァンッ!
勢いよく店の扉が開かれる。
「大変だ!! ダンジョンから魔物が出て来たぞ!!」
一瞬、耳を疑うような言葉が店内に響き、数少ない冒険者達が同様の表情を浮かべる。
「ま、待て! ダンジョンには魔物が地上に出てこないように冒険者ギルドが結界を張っているはずだが?」
俺は思わず知らせにきた冒険者に尋ねる。
「俺も直接見たわけじゃないから詳しくは知らないが……国王の使命勇者がダンジョンの結界を破壊したらしいんだ!」
「……なんだと!?」
――ざわざわっ
更に冒険者から耳を疑う言葉が出てきて一気に混乱する店内。
「細かい事は良い!! 動けるものはすぐに来てくれ! 王都を守るぞ!!」
「「「おおぉぉぉ!!」」」
駆け付けてきた冒険者の掛け声と共に、店に訪れていた冒険者はこぞって鍛冶ギルドから飛び出していった。
「……一体、何が起きているというのだ」
冒険者がいなくなった店内で俺は小さく呟いた。
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