3月30日 やっぱり、ドリームランドは楽しい。

 途中で蜜仍君も加わり、ドリームランドでたっぷり遊び、目覚めた。


 ハワイは7時、日本は夜中の2時。


 チャラい方の紫苑になり、賢人君にショナとアレク、リズちゃんとスーちゃん達をモーニングにと、ハワイ本土へと送り出した。


 皆が帰って来るまでハワイの浮島でミーシャと柔軟、エナさんは日光浴。


「私じゃ重さが足りないですね」

「軽いもんね、高い高いしようか」


「ケガされたら困ります」

「じゃあお姫様だっこの練習、どう持つのが最適か」


「どちらの最適ですか」

「ミーシャが楽な方」


「今のままは、少し不安になります」

「抱き着けば良いのでは」


「誂いますか」

「誂い半分。もっと、こうかね」


「どうして、そうなっているんでしょうか」

「ミーシャは軽いから、お姫様だっこの練習に変更になった」

「ショナもどうぞ」


「流石に難しいのでは」

「いや、意外と小さいし」


「そうですね、紫苑さんよりは小さいですね」

「すまんすまん、花子より大きいから大丈…ごめんなマジで、最初女性かと思っ」


「何をしたんですか桜木様」

「いや」


「ショナ、言いなさい」

「その」


「着替えをね、ウッカリ目の前で」

「見てませんてばミーシャさん」

「なら良いです」


「あぁ、朝食は?」

「どうぞ」




「大丈夫かしら、あの2人」

「まぁ、ミーシャさんが居るんだ、大丈夫だろ」

「桜木さんとショナさん、仲悪いんすか?」


「いや、ショナ君が好きになるかどうか、でな」

「あー、従者心得をどこまで考えてるか、っすよね」

「は、なにそれ」


「友情で繋ぎ止めるのか、恋愛で繋ぎ止めるかって。ただ性的対象が不明っぽいんで、難しいんすよね」

「賢人君は友情でしょ?」


「そうっすね、妹っつーか、同級生って感じなんで。ただ、ショナさんっすよね、恋愛出来るんすかね」

「あ、あの女従者どうした」


「居ますよー、意外と誰も何もしないから安心してるんですけど、それもそれで寂しい気もするんすよね。義憤に駆られないのかって」

「逆も有るわよね、あの子の為に我慢してる」

「なら、あの女はどんな気持ちなんだろうな?」


「気まずそうにはしてたっすよ」

「まぁ、なるのに大変だし、フラれたから良いとか思ってるんじゃ無いかしらね」

「心得知ってるなら、そっか、もう関わらないだろうってか」

「邪魔なら俺が落とそうか?」


「え、えー?!アレク君が?そう言うの、嫌じゃないの?」

「別に、身体的な接触はしないし」

「お、おう、最悪は頼む」

「俺は何も聞こえなかったっす」


「それより、よ」

「だな、賢人君でも恋愛は無理そうに見えてるんだよな」

「そうっすね、女っ気も男っ気も無し、合コンは拒否られるし、そもそも人間ぽさが無いっつーか、機械っぽいって。今は違うんすけど、そう皆に見られてたんで」

「俺にしたら人間臭いけどな」


「どの意味よ」

「二重の意味で」

「機械人間に恋心を目覚めさせるには」

「神様でもないと、超難問じゃないっすか、マジで」


「だから、それも悩んでるのよ」

「え、好きなんすか?」

「いや、若干、両方にその気が無さそうだから難しいんだ」

「サクラは好きになれるよ、しないだけ」


「は」

「え」

「マジっすか」

「だって、キラキラして見えてるから」


「それ、我慢してるって事?」

「ううん、友情の方が大事だから、奥深くで眠らせてる感じ」

「確かに、機械好きだしな」

「そこっすか?!」




 不便だし、結局は妖精の紫苑へ。

 楽。


「っしょい!」


「まだ体調が悪いんですか?」

「紫苑は平気な筈なんだが、花子は微熱のままだし、低値だからかなぁ」

「どうして戻さないんですか」


「鎮圧、殺し易いでしょ」

「殺させないです」

「どうして殺され、なら殺される前に召し上げられて下さい」


「民意」

「ショナ、最悪は」

「そうですね、テロでも起こしましょう」


「ショナ、唯一の反対者で良心なのに、ダメでしょうよ」

「桜木さんに死なれるのは嫌なので」


 召喚者で従者だから。

 桜木花子個人への想いでは無い。


 そうか、だから桜木花子が死ねば。


『ダメですよ、その案は多数決で既に却下されました』


「桜木様?」

「いや、何でも無い」

「紫苑さん、やっぱり身近に神様や精霊が居て、見聞き出来てますよね?」

《この勘が良い方に働けば良いんじゃがのぅ》

『こう、上手くいかんものだな』


「黙秘じゃ」


「おう、もう食い終わってんのか」

「遅いぞリズちゃん」

「足りた?」


「全然」

「はい、追加の」

「パンケーキっすよー」


「ありがとう、赤い玉どうなった?」

「停滞中っすね、あ、紫苑さんの玉ですよ」


 賢人君、妖精紫苑がマジで別に存在してると思ってるのね。

 ピュアだなぁ、そして真っ赤やん。


「真っ赤」

「年功序列なら、アレクさんが、俺が真っ赤じゃおかしいだろって。で、妖精の紫苑さんが最年長じゃ無いかって」


「確かに、でもそうなると妖精は不適…あ、柏木さん」

「あぁ!あー、でもなぁ、協力してくれるかなぁ」


「させる」

「お、宜しくお願いします!」

「まだ続いてたのね」

「もう意地だろ」


「それで、進捗はどうですか」


「まぁ……その、土蜘蛛族は。すまん、そこもまだだ」

「ですよねぇ、無力化させる?」

「どうやるの?」


「もう全部、縁を切らせたら良い、死の天使さんが能力を封印してくれるし、それか制御具で抑制」


「それ、極端じゃ無いっすかね」

「自由の対価だから、見合わないと思う人間は、しなければ良い」

「でも、どうしても出たいなら、出られるのよね」

「長が出来るんだろ、なんでお前がするんだよ」


「可哀想じゃない、身内ぞ。つかそこまで知ってるのね」

「まぁな」

「転生者様にもするつもりのようです」

「は、バカじゃないの?!」


「まぁ、バカではある。だって顔出しちゃったんでしょ、危なくなる、だから切りたくない人と集まって、それ以外切ったら良い」


「でもだ、そしたらカーネーションズが」

「認知は歪まない、絶対に思い出せないワケでも無い」

「私はしない、家族は居ないし、ハナもエミール君も出してるんだし」


「でもリズちゃんには家族が居る、ほら悩んでる」


「俺は、国も父さんも信じ」

「海外には行かないつもり?結婚は?兄妹に何か有ったら責任を感じない?その子孫は?名前も顔も変えるの?」


「もしそうなったら」

「花子が生きてたらね、能力封印されて無きゃだけど」

《意地悪じゃのぅ》

『だな、最悪を想定するのは構わないが、問題は』

『確率、その確率は高いと思う?』

「でもだ、その、確率的にはだな」


「可能性が低いからって無いワケじゃ無い、そしてそれを毎日積み重ねるんだよ、そして確率は下がるだけじゃない、上がる事もある」

「最悪の場合よね?」


「まぁ、心配性なのは自覚してるけど、老衰以外で知り合いには死なれたく無いでしょう。そっちも」


「俺は、桜木の事だけを、神様や精霊に頼もうと思ってた。でも、そうだよな、あんな事が有ったんだし」

「心配しなくて済む方法は、神様の介入。それも全部民意、でも反対されてもリズちゃんだけは切るつもり」


「うん、頼む」

「ほら、名案でしょうよ」


「だけど、ごめんなさい、私だけで出てれば」

「それでも反対するわ」

「だよな」


「でも、覆面じゃダメなのよ。信頼を得て、本気だって示すにはコレしか無かった」


「自由なんて、そんなに要らないのに。管理社会万歳、保護管理は嬉しい、放置放棄よりずっと良い。適度なら」

「そこなんだよぉ」

「ハナの適度が分からないのよ」


「都度調整で良いのでは、花子周りだって心変わりするかもだし」

「お付き合いとかどうするのよ」

「かと言って、無理に子孫は作って欲しく無いんだが」


「それも都度で、誰をどう好きになるのか分からんのだし」




 妖精紫苑の格好をした桜木の話しに納得していると、アレクがマイケル補佐とルイ補佐を連れて来た。


『皆さん、お早い。遅れましたかねマイケル補佐』

『大丈夫でしょう、おはようございます、朝食は食べられましたか?』

「おはよう補佐、食べた。あ、元大使の名前は?」


『ルイ・ヘディンガー、定規だそうです』

「定規に縁が有るなぁ、宜しくルイ」


 桜木が紫苑になると厄介だ、大使が落ちた。

 どう落ちたかは分からんが、落ちた気がする。


「人たらしよね」

「だな、だけど、灯台が来たら嬉しいもんなんだろうか」

「星とか、太陽なんじゃないっすかね」


「あぁ、良い匂いの星か、そら嬉しいか」

「良い匂いの宝石、魔石」

「しかも暗闇でも自家発光するんすよ、ヤバいっすよね」


「どれもこれも、本人が望んで無いのにな」


 そしてアレクと賢人君は、意外とマジで仲は悪く無い。

 辞める気配が有ったのに、逆にアレクのお陰なのかも知れないなコレ。




 紫苑さんが元大使を落とした、ミーシャさんもそれに気付いたのか、八つ当たりされているし。

 僕ぬ、どうしろと。


「ミーシャさん」

「ショナが全部悪いんです」


「なんでですか」

「愛想を振り撒かせたらダメ、注意して」


「ご自分でどうぞ」

「誂われるだけ、ショナの注意が利く」


「お断、冗談です、連れて帰って来ます」

「早くそうして」




 分かっていても、つい惹かれてしまうのは、召喚者様への錯覚なんでしょうかね。


「紫苑さん、ミーシャさんがお話が有ると」

「おう。じゃあ後で休憩に、皆でフィンを取りに行きましょう」

『はい』


『優しいお方でらっしゃる』

『あ、あぁ、大丈夫ですよ、身の程を知っていますので』


『いえいえ良いんですよ、選ぶのは桜木様なんですから』

『そうですね、希望の光ですね』


 ただ、複数の番犬が待ち構えた狭き門。

 それが良い事なのか悪い事なのか、しかも最初に攻略すべき相手は従者、それも良い事なのか悪い事なのか。




「なに?」

「え、あ、ショナ」

「愛想を振り撒き過ぎると良くない、だそうです」


「あぁ、すまん、紫苑も灯台か」

《良い匂いのする魔石、宝石、星じゃと、くふふふ》

『良い匂いのする星』


「エナさん、嬉しくない」

『なになら良い』


「普通が良い、中身を愛されたいの」

『匂いのする花の水晶が本体』


「天使さん、封印して」

【無理です、死んじゃいますよ】


「あー、あはー、死ぬか灯台か、引き籠もり万歳」


 桜木様が、地面へ両手を付いて嘆き始めた。

 誰かに土下座するみたいに。


 灯台、周りにとっては、良い事?




「なに、どうした桜木」

「死ぬか灯台か、召し上げか。普通から始めたいのに」

「そこは結構、普通の感性なのね」


「普通なんだよ、普通、平凡なの、だから普通で平凡じゃないと落差で失神しちゃう、埋まりたいぃ」

「服が汚れるぞ、ほら」

「そうよ、汚れちゃうわよ」


「洗う、もう良い、あー、穏やかをくれー」

「ちょ、巻き込」

「セーフ、なにあのゴロゴロ」

「初めて見ましたけど」

「桜木様、駄々こねてもダメですよ」


「マジで詰んでるんだもの」

「分かったから離してくれ、酔う」


「軟弱者」

「んー!」


「本当に駄々こねてるのね」

「はい」

「みたいですね。紫苑さん、大勢に見られてますよ」


「知るか」

「んーー!」


「紫苑さん、酔いますよ」


「もう酔った」

「やっとか、ばかめ」

「桜木様、お昼寝しましょう」

「そうですよ、少し戻りましょう」


「うい」


 初めて、桜木さんが駄々をこねた。

 他人を巻き込んで地面を転がって、自傷行為と言うか、何と言えば良いんだろうか。


 そうして日本の浮島に戻り、一服。

 オモイカネ様を風上に置き、何かを話している。




 もう、普通で良いのに。


『覆える方法は』

「デカい愛か複数だっけか、アホか、ハードル高過ぎる、無理、引き籠もるぅ」


『アレクも白雨も居る』

「家族、自信無い、親はリズちゃんとスーちゃんが良い」


『そしたら婚期が遅れる、皆のが』

《そうじゃよ、最高ではあろうが最善では無いんじゃよ》

『それを省き、再考するんだ』

『役割りは当て嵌めなくても良いんですよ、ただ、傍に居ても大丈夫な人間を、考えてみるんです』


「性別は」

『どちらでも構いませんが…まだビッチと言う言葉に怯えますか』


「紫苑は平気」

《ビッチは褒め言葉じゃろ?》


「もうずーっとさ、ドリアードさんが1番厄介なのよ。つかそれ、モテモテと違うやろが」

《本質は、そう変わらんと思うんじゃが?》


「まぁ、多分?」

『はな、モテモテは嫌?』


「調子乗っちゃったらどうする」

《ミーシャかショナ坊がなんとかするじゃろ》


「はぁ、まだストライキすんのか、もう突っ込むのに耐えられないんだが」

『良く出来てる、よしよし』


「褒めるタイミングじゃないんだよぉ」

《くふふふ》




 ミーシャさんと、ただ桜木さんを眺める。


「桜木様、また落ち込んじゃった」

「凄いデカい溜め息も、そんなに嫌なんですかね、モテるの」


「ショナはバカだから困る、桜木様ー」


 一抹の不安、一体何を。


「はい、どした」

「モテるのが嫌か、とショナが」

「ちょ」


「味合わせてやろうか」

「そうですね、神様にお願いしましょう」

「そん、すみませんでした、軽率でした」


「許さん。鍛冶神様達、モテる大変さを従者に味合わせたい、頼む」

「「あ」」


 紫苑さんが蝋燭を泉に投げ込むと、暫くして何かが泉から出て来てしまった。

 どんな道具か、誘惑の魔法が掛かっているのかは不明。

 ただ、神々は悪ノリすると知っている、完全に軽率だった。


「ありがとうございます」

「本当に、すみませんでした」


「まぁまぁ、ちょっと体験してみようや」

「いえ、大丈夫です、本当に」


「何が大丈夫なのかね」

「ご苦労は充分に」


「ほう、君はそんなにモテるのか」

「いえ、ですが」


「何で嫌なのかな?」


「面倒だからです」

「なんで面倒なの」


「揉め事は嫌なので」

「揉めなければ良いんだな?」


「そもそも、結婚する気がそんなに」

「恋愛は結婚だけが、全てですか」


「いえ、ですが」

「では何故、君はしないんだ」


「暇も何も」

「暇は作るもの」


「そうですが」

「で、嬉しくない?」


「はい。すみませんでした、モテたく無いです」

「ワシもなんだが、共に同じ苦行を味わおう、ショナ君や」




 桜木様がショナに指輪を嵌めた、凄く嬉しそうに。

 でもアレは誂いの顔。


 そしてショナは顔が真っ青、本気でモテたく無いらしい。

 ならどうして、軽口を言ってしまったのだろう。


「コレ、本当に魔道具なんですか?」

「さぁ〜、トイレ〜」


「ショナ、どうして軽口を言いましたか」

「後悔してます、どうしてなんでしょう?」


 本当になんで、こうなる事が分かって。

 こうなりたかった?


「ふぅ、外さないのかね」

「外して大丈夫なんですか?」


「さぁ、楽しいなぁ、傷付けない八つ当たり最高」

「引き籠もりたくなる気持ちは、良く分かりました」

「だけですか、桜木様。お説教させて下さい」


「お、頼んだ。ネットで買い物して良い?」

「あ、はい、どうぞ」

「ごゆっくり」


「おう、宜しくどうぞー」


「ショナ、モテたいんですか」

「嫌ですよ、あの件ですら嫌なのに」


「嫌?どうして?何が嫌」

「桜木さんに誤解されたく無いんです」


「桜木様は皆の子供が見たいのに、何で拒否するの、喜ばせたく無いんですか」


「喜ばせたいですけど、他の方法にさせて下さい」


 なんだ、ヤキモチだったみたい。

 真っ赤なショナ、撮っておこう、桜木様が喜ぶ。




『やるな、エルフ』

《じゃの、見直したわぃ》

『そうですね、庇護欲がこう動くのは面白いですねぇ』

「もー、気になる話しをする」


《お、ヤキモチか?ヤキモチじゃろ?》

「残念、何が起きたか気になるだけ、ミーシャは間違っても何かする事は無い」

『信頼の偏り方がエグいですねぇ』

『まぁ、個性の1つなのだろう』


「それは認める」


「桜木様、お説教しておきました」

「ありがとう、どうだいショナ君や」

「はい、反省しております」


「さよか。どれが良いと思う?このホットプレート」

「え、外してくれないんですか?」


「はい。ねぇ、どれが良いと思うよ」

「えっと、量が量なので、用途別の方が良いかと」


「あぁ、盲点。でもなぁ、クレープはそんなに作らなさそう」

「桜木様、コレならきっと、ミルクレープ作れます」


「天才か、作って」

「ショナにもお願いします、きっと手が届かない」

「良いですよ」


「あー、お手間では?」

「頑張ります」

「大丈夫ですって」


「何で、コレは面倒じゃ無いのかぁ」

「はい、揉めないので」


「あぁ、じゃあお願いします」

「はい」

「ワッフルは良いんですか」


「保留、寧ろホットケーキだな」

「いっそ、鉄板付きのテーブルにしてはどうでしょうか、もんじゃとか出来ますし」


「あー食いてぇなおい、天才か。明太もちチーズ」

「ノーマルのベビースターラーメン入りで」

「食べた事無いです」


「買おう、コレだな、たこ焼き器付きと、普通の」

「後で買いに行ってきますね」


「あぁ、まだ真夜中か、他のも選ぼうか。エナさん、何が食べたい?」


『ぴざ』

「ピザ窯かよ、ふふ、土間に作って貰うか」

「炭火焼器もお願いしましょう、七輪より楽です」

『承ったそうだ、酒を置いておいてくれとな』

《美味いパイも食えそうじゃのぅ》


「パイか、ミートパイ、リンゴとカスタードクリームパイ、パイは正義」

「お腹空いてます?」


「まだ、一緒に作る料理の候補なんだが、食べたいのある?」

「ピーマンの肉詰めですかね、あの丸々の」

「私はパイが食べたいです、甘いパイ」


「パイ生地から?」

「はい」

「もう、養鶏場購入します?」


「ふふ、卵好きだけどやめとく。あ、シラスと半熟玉子のピザ」

「食べたいです」

「今度、ソース作りませんか?」


「良いね、つかハワイのスーパー行って無いな」

「行きますか?」

「なら私はお留守番してます」


「そう人は居ないかと」

「何が嫌?」

「小さいし、非力なので」


「男でもそうなのかな」

「貸して頂けるんですか」


「ノリ気やん」

「はい、男には変化出来無いので気になります」




 何故、背が伸びるのかは置いといて、初めて男性性の体を体験した。

 新鮮な視界、体が軽い気がする。


「やっぱイケメンやなぁ」

「ショナに勝ちました」

「そうですね、全て完敗です」


「そこまで小さくは無い、どんまい」

「こうなると、ショナが少しは可愛く思えます」


「な、可愛いよな」

「拗ねてますね、それともヤキモチですか」

「複雑な心境ではあります」


「眼福」

「イチャつきましょうか」


「今度にして、失神しちゃう」

「遠慮なさらず」

「2人がかりで誂うのは勘弁して貰えませんか」


「これは、面白いですね」

「でしょう」


「はい、とっても」

「うむ、よし、買い物に行きましょう」

「はぃ」


 桜木様が紫苑で誂う気持ちが分かった、そしてそれが楽しい事も。

 何でも可愛く見えて、ちょっかいを出したくなる。




「ステーキ弁当ってマジか、安い気がするんだが」


「はい、後で買いましょうね。で、トマト、ニンニク、油と」

「まだ拗ねてますかショナは」


「ですな、身長なんて胸のサイズ程度の重要性なのに」


「でしたら、紫苑さんには重要では?」

「大きい方が好きだけど、無いよりは有った方が良い程度」

「じゃあ、無くても良いんですね」


「まぁ」

「料理の話しに戻って良いですかね」

「どうぞ」


 少し拗ねたままのショナと男ミーシャ、紫苑、傍目からはむさ苦しそうなメンツでのお買い物。


 奇異な目で見られないだけで、優しい世界だと思うのはハードルが低過ぎるんだろうか。


「ショナ、スイカ、スイカ欲しい」

「水分が多い果物が好きですよね?」


「だね、イチゴよりスイカかも」

「ハワイ農園を作られては?」


「あぁ、じゃあパパイヤも植えよう、南国の楽園だ」


 綺麗に飾られたカラフルなピーマン達、玉ねぎにスイカ、パパイヤ。

 お肉は部位で購入、2度挽きして貰う最中、ヌイグルミを厳選している間にカートが追加された。


 可愛いケーキを1つ。

 お惣菜とドーナツを全種類とシーフード、ウインナーやチーズ。

 ジュースとワインを積み、冷凍コーナーへ。


 冷凍食品にアイスをアホ程買い、お会計。


 まだ買いたいが、今日は我慢。


「紫苑さん、まだ欲しい物、有りますよね?」

「何でバレる」


「インスタント食品、見て無いので」

「チーズマカロニな、凄い種類が有ったんだもの」

「まだお会計が終わるまで掛かります、少し見ましょう」


 そしていくつか足し、お会計は終了。


 近くのアイス屋へ。


 カラフルなふわふわカキ氷をお持ち帰り、海辺で日光浴しながら食べる。


 うめぇ。




「夏にはカキ氷器が欲しいかも」

「良いですね」


「ショナは何でも良いって言う」

「ダメならちゃんと言いますよ」


「例えばなに」


「いきなり、海に入るとか」


「ミーシャ」

「はい」

「ちょっ、電子機器がまだ」

《収納しました、問題有りません》


「よし」

「よしじゃないですってば、カキ氷も」

《しまいました》

「さ、行きましょう」


 桜木様と一緒に、ショナを海へ。

 力は正義、良いですね男性体。


「もー」

「さ、次は桜木様ですよ」

「いやいや、ミーシャが先」




 桜木さんとミーシャさん、揉み合いの末に桜木さんが抱き付いたまま倒れ、自爆攻撃が成功。

 全員平等にびしょ濡れに。


「ふふふ」

「お、ミーシャがちゃんと笑ったの初めて見た」

「ですね」


「男性体、堪りませんね」

「でしょ」

「そんなに違いますか?」


「はい」

「次はショナが女になってみたら良いよ」

「いやー」


「是非、違いを感じるべきです」

「うんうん、今なっとく?」

「良いですけど」


「良いのか、そのままだとエロくなるが」

「あ」

「そう言う事、気を回さないといけないから面倒」


「なー」


 暫く海で遊んだ後、そのまま浜辺から浮島へ。

 川の下流で再び水に入り、そのまま服を。


「紫苑さん」

「え、ダメ?」

「ショナは気にし過ぎです」


「な、もう君は後ろ向いてなさい」

「ですね」

「はぃ」


 服をしまい、お風呂へ。


「ミーシャ、どうよ」

「男性体が羨ましいです、ショナ、交換しましょう」

「交換って」


「【変身解除】はい、どうぞ」

「な」

「濁り湯万歳」


「先にあがります、では」


「誰でも、あんなに変わるんでしょうか」

「さぁ、ワシは変わってるつもりはそんなに無いが」


「良く笑いますよね」

「コッチの顔面の方がマシだと思ってるから、事実は別ね、コレは化け物とは言われて無いだけ。上がる、のぼせないでおくれよ」


「はい」




 シオンの時の桜木様は、いつも大体はご機嫌。


 ショナに魔道具を貸し、先に小屋に戻ると既にキッチンが改良されていた。

 窯に炭焼き器、この浮島がどんどん充実していく。


 私が神様や精霊だったら、もっと役に立てたんじゃ無いだろうか。


「ミーシャ、お、凄いなコレ」

「【ドライ】私は、もっとお役に立ちたいです」


「いや、充分。いつもありがとうございます、そのままで、このままで大丈夫」


「なんで抱っこしますか」

「愛しいので、役に立とうと思ってくれた気持ちが嬉しい」


「甘過ぎます」

「どう厳しくしろと」


「皆にもっと要求すべきです、叶うかは別ですが」

「善処します」


「あの、何かあったんですか?」

「残念な事に何も有りませんが」

「ただ抱っこしてただけ、料理しますかね」


 私が出来るのは簡単なお手伝い、洗い物や下拵えを一緒にするだけ。

 洗濯や魔法は得意、人の傍に居るのが好き、でも人里は嫌い。


 こんなに我儘なのに一緒に居てくれる、桜木様は不思議な人間。




 ミーシャは黙々とピーマンのヘタを抜き、ショナは玉ねぎの微塵切り、自分はピーマンの中に粉をはたきストレージへ。


 ショナ、シュノーケルのマスクは狡いだろう。


 次に玉ねぎはバターで炒めて貰い、ピーマンの次はナスをスライスして貰う。

 これも粉をはたきストレージへ入れる。


 次に肉ダネ作り、塩と胡椒と玉子、炒めた玉ねぎを入れて混ぜる。

 ミーシャは洗い物、ショナはトマトの薄皮を取り、煮詰める。


「冷まさないんですね」

「面倒だし、肉冷えてるし」

「洗い物終わりました、お洗濯してきますが」


「お、お願いします」

「はい」


「ショナ、何で女体化しない」

「え、後でで良いですか?」


「ダメ、裸エプロン」


「こんな、ちゃんとした料理中にはどうかと」

「ですよね、火傷とか危ないし」


「それこそミーシャさんに頼むべきでは」

「今日はダメだな、平然とするかノリノリはつまらん」


「偶に、サディスティックですよね」

「普通じゃね?」


「普通の基準、偶に可笑しいですよね?」

「あ、ネイハム先生が平然と裸エプロンで料理するのは見てみたい、人によるなコレ」


「応用が凄いですね」

「照れると思うか?あの先生」


「確かに無さそうですけど、見たいですか?それ」

「タダで見れるなら」


「男性の体でもですか?」

「あぁ、先生の女バージョン美人だろうな、見たくない?」


「裸エプロンは遠慮しておきます」

「ウブウブ」


「もー、すみませんでした。詰めるの手伝いますから、指輪外して良いですか?」

「ダメー、手袋しなさい」


「分かりました。でも、何で左手の薬指なんですかね」

「人のモノってなるとモテる相らしいよ、君」


「それ、凄く嫌なんですけど」

「ね、やべぇのがこう、ワラワラとゾンビの様に」


「ゾンビ映画流します?」

「良いね、観てみたい」


「はい、どうぞ。もう、煮詰めるだけなんですが、他に何かしますか?」

「ご休憩どうぞ」


「じゃあ詰めます」

「働き者、ジッとしてると死んじゃう魚か」


「紫苑さんが働いてるので」

「じゃあダラダラしたら、ダラダラするんかい」


「時と事情によりますね」

「ですよねぇ」


 肉詰めをトレイに敷き詰め焼窯へ、次に茄子に挟みまくり、休憩。


 ポテチとジュースと映画、実に休日感がある。




 ピーマンの肉詰めが焼き上がると、大皿に肉を挟んだ茄子とトマトソースを入れ、たっぷりのチーズを乗せて焼窯へ。


 桜木さんにはもっと料理させるべきだった、ストレス値は低いし、楽しそう。


「すみません、もっとお料理して貰うべきでしたね」

「いやぁ、前は余裕無かったから無理だよ。余裕が無いと楽しくも無いし、逆にストレスになってた」


「そうなんですかね、他の世界での事を見て、もっと何か出来たんじゃ無いかって不安で」

「それは予想外の感想、全く問題無かった」


「今はどうですか?」

「ワシの過去も観たら?そう気にして貰えるのすら嬉しいレベルぞ?」


「閾値が低過ぎですよ」

「それは同意、でも慣れる気は無いぞ、勿体無い」


「勿体無いとは」

「少しの事で喜べるなんて良いじゃない」


「まぁ、良い面は有るとはおもいますけど」

「ショナは何が、どんな事が嬉しい」


「そう配慮して頂ける事ですね」

「一緒やん」


「そうですね」

「お洗濯終わりました、はい、どうぞ」

「ありがとうございます、もうお昼か、どうすんだろ向こう」




 ショナ君が来たのは良いんだが、後ろにはチャラい方の紫苑。

 何だ。


「おう、どした」

「お昼どうするん?」

「海の近くにキッチンカーが集まってるみたいだから、そこに行こうと思うんだけど」


「行く」

『では、ランチ休憩にすると伝えてきますね』

「おう、マイケルさん、お願いします」

「何か、良い匂いがするんだけど」


「え」

「あ、お料理の匂いよ」


「あぁ、ちょっと作ってた」

「食べたいんだけど」


「今度ね、キッチンカーは意地でも行くぞ」

「しょうがないなぁ」


 ミーシャは向こうの浮島で過ごすらしく、桜木とショナとスーちゃんと共に本土へ、海辺の広場にはキッチンカーの群れ。

 ロコモコ、ポキ丼、魚やチキンのフライ、そしてガーリックシュリンプ等々。


 多分、桜木は全部って言うなコレ。


「全部食う」

「ブッ」


「なんだよリズちゃん」

「いや、マジで言ったなと思って」


「そら言うやろ」

「だよな、お前は取り敢えずガーリックシュリンプだろ、俺はロールステーキだな、スーちゃんは?」

「ロコモコ!」


 先ずは其々に並んで注文し、砂浜ランチ。


 美味い、中のガーリックチップ美味い、上のチーズも美味いが、重い。


「重い、シェアしくれ」

「私のもー」

「やった」


「なんかすまんな、毎回残飯処理させて」

「美味いから問題無し、セロリなら食わんし、セロリで殴る」

「そしたら近寄らないでしょ」


「もうフレーメン反応しながら威嚇するわ」

「猫か」


「あー、もふもふしたいぃ」

「ココ、動物園有るのよね、水族館も2つ」

「行ってきたらどうだ」


「2人は?」

「俺らは引き籠もらないんでな、お前は今日結果が出るんだ」

「どうなるか分からないけど、下見してきて」

「良いですね、下見しましょう」


「下見ね、良い言い方」


 食事を終え浮島へ、賢人君にはステーキ弁当。


 桜木達はデートへ。

 外見は紫苑だけど、だから、デートだって思わんのかね。


「リズちゃん、ショナ君の指輪の事、敢えてスルーしてる?」

「は?アイツしてたか?」


「鈍いなぁ、しかも左手の薬指よ、シンプルなやつ」

「マジか、朝は無かった?よな?」


「うん、リズちゃんも鈍感よねぇ、それとも疲れてる?」

「かも、少ししたら昼寝しちまおうかな、ココで」


「そうね、アレクも賢人君も居るし、大丈夫でしょ」




 先ずは近くの小さい水族館へ、少し入った所でもう足止めされた。


「ヒトデさんや、何でそんな状態に」

「完全に移動をミスった感じに見えますけど、敢えてなんですかね」


「いっそ落ちてくれたら次に行けるのに」

「ですね。でも、毎回こうしてるのかも知れませんよ」


「したらば凄いサービス精神ぞ」

「本人にその気が有るなら凄いですよね」


 水槽の中の奥の縁に、1箇所だけ掴まってクライミングしている様な赤いヒトデ。

 何故、どうして。


「にしても何で、こんな上の方に」

「そもそも、どう移動したんでしょうね」


『お散歩ルートらしいですよ、そうして何か気配を感じると、どうするか考える』


「はぁ」

「どうしたんですか?」


「余計な茶々が入った、お散歩ルートらしい」

「やっぱり見聞き出来るんですね」


「ヒトデが喋った」

「そう言う事にしておきますね」

『すみませんね、つい聞こえたもので』


「やっぱり、想像の余地が有ってこその動植物の面白さよな」

「機械愛もですか?」


「だね、人間より単純であって欲しい願望も有る」


「それって、複雑さと言うか、人間の歪みの問題では」

「あぁ、確かに、でも歪みは良いのよ、何だろな、こう、難しいな、汚い歪みが嫌い、みたいな?」


「自己の利益の追求のみで、他人を害する、とかでしょうか」

「しかも、それを無意識に、何度も。気を付けないとと思うし、ムカつく」


「紫苑さんにとっては、誰でも鏡になるんですね」

「それだと自意識過剰っぽいなそれ」


「高潔で良いじゃないですか」

「神経質、ナイーブ過ぎ」


「そうですね、だから人を選んで接して下さいね」

「選んどいて」


「良いんですかね?」

「頼り過ぎ?」

『そうですね、少し』


「いえ、最低限の調査はどうしても廃除出来ませんし」

『選考基準が問題ですよねぇ』

「選考基準は知れる?」


「犯罪歴の有るソシオパスやサイコパス傾向の人間は、近付ける事はしません」

『それだけならまぁ、良いでしょう』

「いや、過保護、対話を経験しないと潜在的にそれが有る人間に対応出来無いじゃんか」


「そこは過保護にさせて頂けませんかね?」

『そうですね、歪められたら皆さん荒ぶるでしょうし』

「保留で」


 そうしてクラゲの水槽へ。

 ドリームランドに龍宮城無いかね、それかクラゲドームとか。


「紫苑さん、やっぱりタコを見ると」

「まぁ、でも、イイダコの方が食欲をそそる」


「それ、生で食べるかどうかで見てますよね」

「そのままはな、スライスしないと吸盤で死にそう」


「ですね、絶対にしないで下さいね」

「しないしない、そこまでバカじゃないわい」


「それから亀も、ココでも貴重なので」

「先手を打たれたか」


「食べれる場所は、一応調べてありますよ」

「マジか、味の感想は有るの?」


「鶏肉に近いらしいですよ」

「蛙系か、海臭い鶏肉、うみねこ」


「ペンギンの味の感想はまだ探せてません、キビヤックも」

「キビヤックの感想は保留だなぁ、バロットも。お、アザラシさんやん」


「プリプリとして甘いらしいですよ」


「ごめんな?変な事を調べさせて」

「いえ、僕も興味が有るので」


「ワシの肉」

「数年、桃だけを食べて貰って良いですかね」


「桃娘、桃息子?」

「性別で変わるんでしょうかね、味」


「雄鶏雌鶏の味の違いは分からんけど、人はなぁ、性差が外見的に凄い有るし」

「それなら、紫苑さんはどんな匂いにします?」


「檸檬?」

「あ、レモンステーキって知ってます?」


「地方の名物とだけ」

「この前親が作ってくれて美味しかったんですよ、さっきの薄切り牛肉で作るんです」


「ポン酢と違う感じ?」

「全然違いますね、もっと酸味が薄くて食べ易いんですよ」


「作って」

「はい」


「すまんな、食い物の話しばっかりだ」

「歴史の話しでもしてみます?」


「困るわー、こう、デートで話しそうな事とかさ、何か無いの?」

「僕にそれを要求します?」


「勿論ワザとだ、あはは、ヌイグルミだー」

「誂ったので買いません」


「お、やるね、コレどうよ」

「中々かと」


「多分、それが1番ふわスベだ」




 目利き通り、最初に渡されたヌイグルミが1番ふわスベだった。


 そのヌイグルミを1つ、水族館限定のオイルタイマー、そして絶妙な柄の紫苑さん用のTシャツ、女性用のタンクトップは着て大丈夫かを聞かれてしまった。


 コレは僕が悪い、どっちの性別にしても、少なくとも上半身は男性と同じなのに、意識する方が悪い。


 そう分かっているのに、コントロール出来無いのが悔しい。


「すみません」

「え、何が?」


「その服の事です、慣れるまで時間が掛かってしまってて」

「あ、いや、大丈夫よ、すんなり慣れる方が可笑しいのよきっと」


「いえ、ソチラよりジェンダーの事は進んでて、知識も何でも有る筈なんですけど、すみません」

「気にし過ぎ、大丈夫、そうホイホイ着ないから大丈夫」




 買い物を終え、水族館が寒かったので海辺で日向ぼっこ。

 直ぐに暑くなってきた、堪らんな。


「暑く無いですか?」

「な、海に入るか迷うわ」


「人魚ですか?」

「流石に来ないとは思うけど、灯台だし」


《あの》

「はい、なんでしょ」


《ご旅行ですか?》

「はい、新婚旅行で」


《あ、そうなんですね、どうぞ楽しんで》


「紫苑さん」

「ナンパされたかった?」


「いえ、本当に慣れてますよね」

「基本的に最初はナンパと思って無いし、友達作りならまだ話し続けるかと思うんだが」


「あぁ、確かにそうかも知れませんね」

「だからアレはつまり」


「もー」

「良い体でしたな」


「そうですか」


「次はショナな」

「えー、はぃ」




 紫苑さんが一服しに行くと、また声を掛けられていた。


 しかもあしらった後にお爺さんと話し込んだかと思うと、珈琲を奢られているし。


「奢られた」

「見てました、ナンパも」


「大丈夫だって、直ぐにショナにも来るから。ワシみたいに脱げば?」

「生っ白いのでちょっと、どうなんでしょう」


「焼く?」

「似合うと思います?」


「んー、想像出来無い、何か写真とか無いのか」

「研修の時のは個人用に有りますけど」


「はい、早く」


「いや、コレ、恥ずかしいんで無理ですね」

「顔だけ、ちょっとだけ」


「少しなら」


「早っ、うん、似合わない気がする」

「紫苑さんみたいに顔が濃く無いので」


「見慣れないだけかも。濃い方だと気付いたのは紫苑になってからなんよな、薄いと思ってた」

「呪い、少し解けてるんですね」


「ね、マジで呪いだよな、認知の歪みエグい」


「どの位の偏差値だと思ってます?」

「ショナ位」


「僕には、僕より良く見えますけど」

「紫苑だし高めの設定ぞ、花子はメスショナに負ける自信が有る」


「もし本当にそうなったら、嫌では?」

「いや、可愛いなぁで終わるかと。失くす自信が最初から無いし、オスショナも普通に可愛いから問題無いが」


「可愛いですか」

「紫苑だと特に、小さきものは皆いとおかし」


「身長伸ばして貰えます?」

「断る、無理無理、無理だー、できねぇわー」


「そこをなんとか」

「格好良い方が良いか、可愛いは褒め言葉なのに」


「紫苑さんも、桜木さんもでは?」

「紫苑は可愛いも歓迎ですぞ」


「どういった心構えで?」

「格好良いも素敵もハードルが高いから、可愛い、可愛いは言い易い、エロいと同じレベルで言い易い」


「そこにエロいが入りますか」

「両方に言えるし、セクシーより言い易い。性的魅力が在りますね、と言う意味はほぼ含んで無い事が多い。寧ろ、他者がそう見てもおかしくないですね、位の気持ち」


「気軽に褒めてるイメージなんですね」

「そうそう、悪意0の良い意味のみで。コッチはね、相手は知らん」


「じゃあ、僕もそれで」

「紫苑でのみ受け付けます」


《楽しそうですね、お邪魔しても?》


 男性まで、凄いな紫苑さん。


「ショナ」

「あ、すみません、新婚旅行中でして、もう帰るんですけど、何か?」


《あぁ、そうだったんだね、すまない、じゃ》


「狡いぞ」

「禁じ手にされてませんでしたので」


「くそー、以降の禁じ手にします、亜種の恋人も禁じます」

「それは、困るんですけど」


「じゃあ取引だ」


「なんですか」

「初めてのナンパはいつ?どこで?」


「高3の、兄と遊んでた時に巻き添えを」

「単独は?」


「無いです」

「どう断った?」


「っ、興味無いんで、と」

「他の断り文句は?」


「無いです」


「あれ?沖縄観て無いの?」

「え?詳しくは観れてませんけど、葵さん以外にも有ったんですか?」


「あー、一服してくるぅー」

「ついていきますよ」




 失敗した。

 しかも詳しく観て無いとは、しかも資料に載ってないだと。


【はい、プライバシーですので。映画公開も極一部です】


 ソラちゃん。

 ソラちゃんんんん。


「はー、美味いなぁ」

「どっちでなんですか?」


「覚えて無いなぁ」

「そうですか、じゃあ禁じ手解除して貰えますか?」


「ビビってんなぁ」

「はい。コレ、何かしらの魔道具だとは思ってるので」


「新しい手も有るでよ、ただ中身は後で教える。どっちかだ」


「じゃあ、新しい手で」


「好きな人が居るのでごめんなさい。無理より柔らかいでしょ」




 この話は、誰の事だったんだろう。


「ですね、確かに」

「ワシじゃ無いよ、ワンコが使った手、先生は知ってるだろう」


「そうでしたか」


「いや、だそうだ」

「え?」


「ソラちゃんもダメなのか」

「も?」


「あー、もう喋らないー」

「嫌なら良いんです」


「嫌と言うか、聞きたいか?」

「はい」


「はいて、なぜ」

「知りたいんです、ちゃんと」


「帰還の為にヤッてたら、幻滅しない?」

「いえ、帰還の為で無くても、どうであっても、紫苑さんは人間ですから」


「えー、ワシは無理、エミールがそんなんだったらショック受けるかも」

「流石に自棄になってとかは、少しは幻滅するかも知れませんが。あの状況ですし、寧ろ諦め無かったのが凄いんですし。マティアスさんと、親しかったのは観ましたし」


 キラキラは観えなかったけれど、いつも視界にはマティアスさんが居た。

 殆どいつも一緒に居て、最後にお別れをした人。

 そして身柱も。


「は、無い無い、可愛いけどアレはお兄ちゃんみたいなもんよ、親戚とか、何も無いのは観たでしょ?」

「それは、さっき言ってた様に幻滅されたく無いと思って、我慢して頂いてたのではと」


「まぁ、我慢と言うか、自制は相応にしてるけども」

「してる、今でもそうなんですよね」


「あはー、もう黙るのはダメ?」

「今ココで、泣き叫びます」


「君も、凄い手を使うのね」

「自制でも我慢でも、過度な抑制はストレスになります。もう、そうしないで頂きたいんです」


「色欲のお店に行って良いの?」

「はい、ただ誰かしら同行はしますよ。僕が嫌なら誰か他でも」


「いや、ショナは絶対に連れて行く」


 ワンコさん、従者みたいだと言われた人の様なフルスマイル。

 悪い笑顔、桜木さんでは見ない表情。


「すっごい悪い顔してますよ」

「一緒に行くのが楽しみなだけですよぅ」


「もー、真面目な話しをしてたのに」


「ありがとう、大丈夫。ただ解放はゆっくりじゃ無いと、暴走しそうじゃない?」

「そうですね、いきなり全開は止めて下さいね」


「勿論ですとも」

「今から、もう行きますか?向こうは夕方の18時過ぎですよ」


「いや、昼寝したい。成長期だもんで」


「どうしたら身長を伸ばしてくれます?」

「可愛くなくなりそうだからダメ、絶対に許さん、伸ばしても縮めるからな」


「そこまでします?」

「お、縮めんぞ、ほーれ」


「ちょ、止めて下さいって、本当に」

「おもろ」




 ハナがハワイの浮島に帰って来た。

 機嫌は良い、ニコニコしてる。


『おかえり』

「ただいま、エナさん水分摂ってる?」


『うん、リズもスーも面倒見てくれる、なにかたべたい』

「サンドイッチは?」


『うん』

「はい。どう?」


『堂々巡り、コレはおいしい』

「まだ足りないか」


『結果を待ってる』

「あぁ、マジで国民に選ばせるんか」


『国連の人間も、選択には参加してる』

「でもだ、代表やろが」


『国の中もバラバラ、堂々巡りらしい』

「それは仕方無いが、ココでもマジでそうなのか」


『うん、何通りもグルグルしてる』

《自由にさせたいが、安全面が心配じゃったり》

『安全面が心配で、浮島に引き籠もるのに賛成であったり』

《ふふふ、敬意を示す為にも、アナタの意見を完全に尊重したり》

『アナタを守る為に、制約を設ける事を提案したり。様々な善意の行き違い、スレ違いなんですよ』


「天使さんまで。脳筋だから、コレでもまだ戦闘能力が有るから大丈夫だと示しても、ダメかね」

『反対はしない、けどデメリットも有る』


「今は緩々なんだし、まだ制約は受けられる」


『大演習、従者達と』

「おう、やる、楽しみや」




 主が気に入られた方、私をも受け入れた方。

 どこまでも尽くして下さる召喚者、愛しい子。


『私、ガブリエルからの提案を、お聞き頂いても?』


 広がるのは動揺、そして畏怖、少しの恐怖。


《あの、お伺いするだけでも構いませんでしょうか》

『はい、結構ですよ』


《では、宜しくお願い致します》


『召喚者を慮る気持ちは確かに伝わっております、ですがその配慮や心配は正当なモノかどうか。それを誰が、どう判断するのでしょう。我々に判断させろと言う事では有りません、見極めるには何が足りないのか、どう確認するかの提案です。ですので召喚者、桜木花子と従者達の大演習を実行してみては、と。提案させて頂きます』


 喜び、なんて不快な喜びの感情なんでしょう。




「紫苑さ、寝てます?」

『マジ寝してる、ハナは提案を既に飲んでる』


「また…神々とはご相談なさったんでしょうか」

『うん、リスクも承知した』


「あの、現在の」

『例えば、綺麗に半分だったら、どうする?』


「過半数を越えるまで再投票を繰り返す、それに同意するだけです」

『ハナの事でも?』


「はい、桜木さんは民意を知りたがっていますから」

『その結果、国連の命令で会えなくなっても良い?』


「嫌です、従者を辞めても僕は傍に居ます」

『夢だったでしょ、小さい頃からずっと。その為だけに、ずっと生きてきた』


「それはもう叶ったので。次は桜木さんの夢を叶える番なんです、僕はそのお手伝いがしたいんです」

『大変だよ、こんな子だし』


「そうですね、でも嫌われるまで、一緒に居ます」

『本人に言ったら良いのに』


「誰かと結婚させる為に拒絶や拒否されるのは目に見えてます、そうやって僕に結婚を促す時間が勿体無いので、このままで居させて下さい」

『苦労するかも知れないし、傷付くかも知れない』


「桜木さんと同じ位には受けて、耐えたいですね」

『そう、ふふふ、向こうでもふもふしてる』


「眠らなくても分かるんですね」

『分かるだけ、凄く遠くに感じる』


「キラキラ、観えますか?」

『ふふふ、秘密』




 桜木が眠っている間に、大演習が決定された。

 本人が承諾しているならと、話しは進み、大演習の日付までもが決定された。


「なんで、よりによって誕生日に」

「逆に良いじゃない、それで終わるなら。ケジメの日、記念日」


「今日決まれば」

「6割を越えなかったら、再投票の繰り返しになるんでしょう?現にその可能性が高いんだし」


「まぁ、ココでこうだからな、でもだ」

「大演習で何かが変わるかも知れないから、天使さんは言ったのかもだし」


「俺ら人間が、それを裏切るかも知れない」

「裏切る、は少し違うわよ、新しく選ぶんだもの」


「エミールがコレに納得するか」

「ハナが説得するわよ、ハナに会えなくなるワケじゃ無いし」


「あぁ、それを逆手に取られたら、従うしか無いか」

「そうよ、好きならね」


 問題は従者の選抜、桜木を良く知ってる人間は必ず入る。

 もしかしたら、国連は全員入れるかも知れない。




《ミーシャ、賢人、ショナ坊は確定じゃろ》

『蜜仍、白雨、アレクもだな』

『そうですね、弱点や攻略法を知る者達ですから。あぁ、生配信ではどうでしょう?』


『うん、良いね、そうしよう』

「あの、エナさん」


『大丈夫、良い方向に向かう筈、人々が願えば』




 夕焼けが綺麗。

 決まったのは日付と人数、366人。

 制限時間内に倒した人数だけ、引き籠もれる。


 参加者の中にはミーシャ、賢人君、ショナ、白雨にアレクまで居る。


 名目は天の岩戸の阻止。


 ウケる。


「おもろ」

「お前なぁ、戦うんだぞ?」


「ラグナロクと同じ演舞じゃろ、そういうのタケちゃんに教えて貰えば良かったわ」

「何でそこで心配性が出ないんだよ」


「寝起きだから?」

「もー」

「ショナ君とも戦うのよ?」


「チョロっ」

「もー」

「お前さぁ」


「ゲームの縛りプレイと同じじゃろ、都度制約設けて、追い込まれた時点で終わりなら、そっからは自由なんでしょ?違うの?」

「その、縛りの状態での自由なんだぞ?」


「戦略が要りますなぁ…オラ、ワクワぐふっ」

「ケガの心配とかしろよぉ」


「あ、神様か精霊の付き添いが無いと、他人の人体弄れないとかどうよ」

【承知しました】

「「もー」」


「自由への対価、問題無い。自分のは良いんだし」

「そこは回避するんだな」


「痛いのはイヤだもの」


「お前さぁ、ゲームで縛りプレイなんかした事あるか?」

「無い、エリクサーとっといて使わない派、つかアクション苦手、ガチャ押す派」


「しかも運痴」

「はい」


「ばか」

「知ってるぅ」


「誰なら、止められるの?」

「無理だなぁ、マティアスでもせいちゃんでも無理よ、眠らせて決行。あ、あー、コレは封印出来無いのよねぇ」

【はい】

「それに、魔素低値だろ、無理すんなよ」


「中域まではもってく、これから先も高値にはならない様にするし、なったら引き籠もるが。日数どうなるんだろ」

「前借りだろ、年度末調整とか入れるからな」

「4月1日が切替日って事ね、年末じゃ無くて」


「え、面倒」

「社会人はそうなんだ、諦めろ」

「書類上仕方無いの、退役してもね」


「こう、無難な日に生まれたかったわ」

「エイプリルフールだしな」

「良い日じゃない、私は好きよ」


「毎年、必ず引き籠もりたいんだが」

「式典は入れさせねぇよ」

「そうね、それは阻止する」


「死んだら誕生日が命日か、ウケる」

「手抜きして死ぬなよ」

「そうよ、従者が追い込まれちゃうもの」


「そっか、そこは気を付けます」

「絶対に、だ」


「はぃ」

「よし、交渉してくるわ」

「後でね、直ぐ終わらせるからフィン取りに行きましょ」


「ういー」




 交渉は非常にスムーズに終わり、桜木の条件は全て受け入れられた。

 そして今からは4月1日迄の自由時間、桜木にも制限は無し。


 先ずはフィンを受け取り、屋外プールで試し履き。


 楽しいなコレ。


「楽しいなコレ、楽だし」

「でしょ」

「私もう1個欲しい、リズちゃんと同じ長いやつ」


「作っちゃえ作っちゃえ」

「つくるー」

「お前もこうならなぁ」


「いや、ワシも作ったやん」

「後3つ、花子の2つ、ショート1つ」


「他にも有るし、追々ね」

「どうだか。家もだ、何も決めて無いだろ」


「普通に忘れてた、そうよな、家電製品使うなら地上よな。もんじゃ焼き用のテーブル買うねん」

「俺、食った事無いんだけど」


「田舎もぷ」

「ざま、あ、普通に泳ぎやがって」


「浮いてるだけ、上半身がまだ無理だ」

「教えて貰えよ」


「今度ね、ほれ、もう少し泳げや」

「おう」


「ぷは、本当に人魚みたいね」

「なにが?」


「潜って見てたの、フィンが水中でユラユラして、人魚みたいだった、見た事無いけど」

「見たい?」


「見たい」

「俺も」




 日本はお昼過ぎ、海は少し冷たいけどウエットスーツでなら泳げる程度。

 うん、ココにはココの良さが有るわね。


「便利よね、このウエットスーツ」

「こんな伸縮するのな、俺も初めてだわ」

「桜木さん、腕は大丈夫なんですか?」

「特には、ちょっと行ってくるお」


 真っ白な長い髪で海へと入って行く、フィンは半透明でラメがキラキラ。

 後ろ姿は完全に人魚なのに、きっと言っても喜ばないし、受け入れない。


「人魚みたいって言っても、きっと喜ばないのよね」

「だな、ぽいのにな、な?ショナ君」

「ですね。あーはいはい、で終わりかと」


「褒め甲斐が無いわよねぇ」

「でもだ、ありがとうなんて笑顔で返事するの、想像出来るか?」

「そんな事、出来るんですかね?」


「そう云う役目なら、ワンチャン有るんじゃ無いかしら」

「あぁ、バーで優しかったしな」

「ですね、身柱には、どう見えてたんでしょうね」


 あら、あらあら。




 桜木が見事に人魚を連れて来た。

 黒く長い髪と瞳、胸は無いが性別は不明。


「どっちでも良いのね」

「人魚の友釣りかよ」

「ね、美人さん、どっちなのかしら」


「雌雄同体、まだ無性らしい」

「話せるの?」


「いや、深く聞かないでくれ」

「クマノミみたいな感じか、なるほどな」

「卵生なのかしら?」


「らしい、スーちゃんはどう?」


「あら、フラれちゃった」

「だな、陸は怖いか?ココ、怖いか?」

「お、全貌が見えた、綺麗やなぁ」


 浜辺に身を投げ出した人魚、フィンより遙かに薄いヒレ、透明なのに水色の偏光カラーでテラテラ光る。

 胴体も濃い紺色、トビウオみたいだ。


「トビウオみたいだな」

「ハナは熱帯魚ね」

「あぁ、向こうの孤島の子はエメラルドグリーンだったよ」


「あら、分かるのね、ヤキモチ妬いてる」

「早くない?」

「寿命は、どの位なんだろうな」


「は、そう。不老だけど、産んだら死んじゃうのか」

「えー……」

「精霊の系統なんだな」


「らしいね、無理、重過ぎるわ、ごめんな」

「王子様は、知らなかったから出来たのよね」

「知ってたらエグ過ぎるな、怖いわ」


「ごめんな、もう来ないから他にして」

「この子、他を好きになれるの?」


「えー…縁を切」

「完全に止められてんな、見えてんのか人魚にも」

「ハナ、もうちょっと考えてあげたら?」


「重過ぎる」

「でも、逆なら切な過ぎじゃない」

「それこそアレみたいに、運命の番なんだろ」


「それ持ち出すのズルいぞ」

「ほら、良い成果じゃない」

「あぁ、悔しいけどな」


「そうなるとエメラルドちゃんは、あぁ、それは大丈夫なのね」

「会いたい様な、会いたく無い様な」

「スーちゃんは機能してるもんな、あ、お前もなのか?」


「いや、機能して無い筈、なのに」

「本能的だけじゃ無いのか」

「頭の中を好きになったのね、ハナの理想通り、だけど」


「ヤッたら死ぬは重過ぎる、時間をくれ、頼む」




 皆で日本の浮島に戻り、温泉に入ってバラバラに休憩。

 ハナは一服しまくり。


 ちょっと気分転換のつもりだったのに、凄い重い事になっちゃった。

 良い匂いの灯台、こんな事ばっかりだと、引き籠もりたくもなっちゃうわよね。


「ハナは、自覚して、自分を分かってるのも有るから、引き籠もるのよね」

「だな、しんどい、エグい、俺だってヤるかどうか」

『太陽、温かくて良い匂い、膜のせい。でも膜は変えられない、死んじゃうから』


「だからって誰からでもは困るじゃない」

『そうでも無い、嫌光性の生き物は沢山居る、神々も精霊も同じ、無関心も嫌いも居る。でもハナに会わない、合わない、ハナは合わない事を気にしない。でもそれは神々も精霊も嬉しくない、ややこしい』

「あぁ、ヤバい奴に、変に執着されたら困るもんな」


『うん、神々や精霊が介入して回避させてた』

「もしその加護が無くなっちゃったら」

「不味いな、人間は簡単に捩じ切れるって虚栄心が言ってたな、まして神々のストーカーなんて」


「神話なら周りが殺されちゃう」

「最悪は本人もな」

『会議への介入を拒絶するなら、そう云う事になる、介入は介入だから』


「エナ君、君はなんなんだ?」


『秘密、ガブリエル、伝言宜しく』

『はい』


 国連の人間には寝耳に水なのかしら、それともココまで想定出来てた人間が居たのか。

 現に私は想定して無かった、きっとリズちゃんもそう。


 神々や精霊の「介入」とは、こう言う事なんだ、と。




 桜木さんのストレス値は高値、吸い終わってはまた火を点け、エリクサーを飲んでいる。


「桜木さん、先生と話されてはどうでしょう」


「まだ無理、自分の中で意見が拮抗してるんだ。迷いは覚悟が出来無いから、コレは将来の伴侶に重く伸し掛かる過去になる。ただでさえ、もう異世界の子供だなんだと複雑なのに。ただ、人魚にとっては関係が無いのも分かる、子孫を残したい気持ちも。それすらも将来の伴侶に対してフォローするって、無理くない?」


「かも知れませんね、何も知らない平凡な人間が、桜木さんの口から、後から知れば」

「口下手ですからね」


「今さっきの説明は明解でしたよ」

「口に出しながら確認してた感じ。やっぱ話すか」




 先生を浮島に呼び、お花見面談。

 またさっきの話すのか、何か疲れた。


《疲れてますね》

「バカだからね。エナさん、頼んだ」


『人魚からの求愛、立場的に、将来の伴侶へのフォローが無理って思ってる』

《オモイカネ様は、どう思われますか》


『それすら受け入れてくれる人間は居ると思う』

《そうですね、では、逆の立場なら無理なんですか?》


「出来ると思ってても、実際は違うかもしれない、正しく耐えられるか疑問。結局は理想論、机上の空論」


『マティアスでも無理?』

「なんつー」

《彼が本当にココへ生まれ変わって、そんな運命を辿っていたら》


「マティアスは、分かってくれるとは思うけど」

《身柱が、それでアナタを忌避するか》


「自信無いから、不安がると思う、本当に自分で良いのか」

《身近で考えてみて下さい、そんな人、居ます?》

『アレク、白雨、魔王』


「魔王はもう、もう何でも受け入れてくれそうよね。アレクは、どうでも良いって感じで、白雨もかな、良く知らんけど」

『蜜仍』


「あぁ、このまま真っ直ぐ育ってくれたら、受け入れてくれそうよな」

『リズも、スーも、軽蔑しないと思う。賢人も柏木も』


「優しいからなぁ」

『ミーシャ』


「あぁ、受け入れてくれなかったら逆にショックかも」


『しょな』


「引くのでは」

《理由は?》


「常識人で、愛を知らない機械人間」

《機械はお好きでしょう》


「機械には機械の良さが有る、機械には機械のままで居て欲しい。アンドロイドに心が芽生えても、素直に喜べない。出来るならアンドロイドのままで、カエルのままで居て欲しい」


《祥那君も、普通の人間なんですよ》

「近くに居るなら、人間にならないで欲しい、綺麗なままで居て欲しい」


『泣くほどイヤ?』

「嫌、穢れてドロドロになって欲しく無い、綺麗な人と綺麗なまま、綺麗でいて欲しい」


《アナタにとってその適格者が、マキさんなんですね》

「そうなのかも、そうかも、うん、そう」




 その理想に自身が不適格だからこそ、奥深くに沈め、眠らせ、適格者を推し、薦める。

 自身に呪いを掛けてしまっている、魔法は何でも出来る。


 その対価、または反動。


《目を治す事は可能なんですよね》

「うん」


《一服されては》

「止めさせないのね」


《治せる以上、害は無いも同義ですから》


「ちょっと、行ってくる」

『行ってらっしゃい』


《淡く幼い初恋の様な甘酸っぱさですね》

『ね、そうだって気付いて無い』


《なんせ奥深くで眠らせてらっしゃるので、容易に気付く事は不可能》

『他に良い人が出来ても、その影は相手に見えちゃう』


《そして拗れるか、相手が離れてしまう。だから、嫉妬心を使い、目覚めさせるんですか》

『他に良い方法知ってる?』


《並の当馬では揺らがないでしょう、あの従者は》

『うん、すっかり覚悟してしまったから、凄く難しい。君とか良いのに』


《人間の社会生活上、非常に難しいのはご理解頂けてるかと》

『うん、選べる選択肢がまだ有ると思ってるなら、それを実行したら良い』


《あの、私に好意が有る前提なのが不思議なんですが》

『そうだね、私もそれは不思議に思ってる』


《他の神々や精霊と確実に組んでらっしゃいますね》

『暴くなら手を引く』


《気を付けます》

『うん、是非そうして』


「ふぅ、どうしよう先生、人魚」

《ヤれるかヤれないで言うなら》


「そらもうヤれますよ」

『よしよし』




 桜木が倒れ込んだかと思うと、先生が俺らに向かって手招きした。


 どうやら、寝たらしい。

 ネコかよ。


「猫、寝る子か」

「そう思うと、デッカい猫ちゃんよね」

《この人、恋の自覚が無いんですが、どうしましょうか》


「へ」

「ショナ君の事?」

《はい、綺麗なままで居て欲しい、綺麗なままで結婚出来る適格者は、雨宮マキだ。そう自身に呪いを掛けてるんです》


「あー」

「小学生かよ」

《そうですね、あの暴言もその年頃ですし。止まったままなのかも知れません》


「じゃあ、雨宮マキの件は大丈夫なんだな」

《いえ、最悪は無意識に魔法を実行するかも知れませんよ》

「魔法は何でも出来る、の弊害ね」


《はい、詰みました》

「いやいやいや、先生頼むよ」


《神々や精霊の介入が無いので、無理です》

「やっぱそこか」

「ね、実はさっき話してて」




 転生者曰く、全体の介入を含んでの介入の賛否らしい、と。

 それは確定でしょう、是が非でも介入して頂かないと。


《もう、最悪はテロか何かして頂きましょう》

「いや、まだ告知されて無いんだが、大演習が有る」

「天の岩戸の阻止、相手は従者。国連の会議で天使さんが言い出したの、そして決定された」


《あぁ、その時に何か動きがあるのでは、と》

「そうなの、否決されたら召し上げられるかも知れないし」

「従者達が反旗を翻すかも知れない、賭けだ」


《そう思い至る人間が居れば、問題は無い筈ですが》

「神々がストライキしてるなんて、知らんだろうし」

「国連は告知して無いの」


《再投票時に、告知するんでしょうかね》

「どうだろうな」

「実感を伴わないでしょうから、言わないんじゃないかしらね」




 紫苑さんが寝転び、転生者の方々と先生が何か深刻そうに話をしている。

 どの事なのだろう。


『ハナは寝てる、話は僕らの事「介入」』


「会議への介入だけでは無いんですね」

『気付いてる者は少ないだろうね、問題は国連が告知するか』


「再投票時に告知するのでは」

『期待も信頼もしてるけど、人間は時に予想外の事をする』


「そうですね」

『もうそろそろ呼ばれる、ほら』


 目を向けると手招きされた、そうして先ず桜木さんの様子を見ると、すっかり寝入って涎が。


《人魚の事がよっぽどストレスだったんでしょうね》


 先生に、先に拭われてしまった。


「あの、それで」

「どうするつもりなのかなーって」

「大演習」


「普通に、全力で戦いますよ」

「良いのか?」


「はい、僕らが抑え込めれば、これ以上の抑止は必要無いと示せますので」


「怪我させたら、罪悪感が出ないか?」

「その時は同じ怪我をさせられようかと、カールラやクーロン、ロキ神にでも」

「そこまでしちゃうのね」


「はい」


「お、アレク」

「ただいま、眠い」

「ちょ、ハン行きなさいよ」




 目を覚ますとほぼ全員が周りに集まっていた、寝落ちしちゃったか。


「寝てた」

《ですね、少しだけですよ》


「んんー、買い物するか」


 アレクを叩き起こし、スーちゃんとリズちゃんと共にハンへ行かせ。

 省庁に向かい、女性従者と共にお買い物、例の従者さんやん。


 ショナは隠匿の魔法で護衛に、なるほど、前もこうだったのね。


《あの、バイタルが安定してませんので、無理なさらないで下さいね?》

「はい。この度は、御愁傷様で」


《あ、え、申し訳御座いません》

「いやいや、邪魔したみたいですみません、ごめんなさい」


《いえ、本当に、無理だって思ってたので、大丈夫ですから》

「それでも、すみませんでした」


《コチラこそ、あの、そろそろ》

「あ、はい、お買い物します」


 良く見る感じの問屋街。


 まさか、この鉄板付きテーブルを買う事になるとは。

 もんじゃ焼きし放題、家で独りもんじゃ、シュール。


 他にもヘラだなんだと買い、次は食材。

 市場へ、すっかり元に戻ってる、良かった。


 もんじゃ焼き、広島焼き、たこ焼きの食材を買う。


《あの、ネギ焼きはどうでしょう?》


 牛スジと蒟蒻で、しかも醤油味。


「天才か」

《いえ、ショナさんからの提案です》


「なるほど、買います」


 お肉屋さんを回り牛スジとモツも買った、うん、モツ煮でご飯食いまくれる。

 オベロンさん食べるかな。


《下拵え用に調理場を押さえて有るのですが》

「行く」


 押さえてあった調理場内では撮影も一般人も無し、ただショナが隠匿の魔法を解いてお手伝いしてくれる事に。


 ショナに気まずさが無いのが気まずい、女性従者の萎縮感がエグい。

 余計にショナが苛々しそう。




 偶々なのか、柏木さんの真意が全く分からない。

 桜木さんの誤解は無さそうだけれど、桜木さんに気を使わせて。


《あの、他には》

「大丈夫、茹でこぼすだけ、大根宜しく」


《あの、モツの味付けは?》

「味噌、牛スジが醤油だから。濃い目にしてご飯にかけて食べる予定」


《わぁ、美味しそう》

「そう?健康的じゃ無い感じよ?」


《脂タップリのラーメンとか好きな方でして》

「凄いな、寧ろ苦手な方」


《ですよね、脂身がお好きじゃないのに不思議で》

「この後で滅茶苦茶脂を掬う、もいだ方がマシなんだけど、旨味が出るから」


《美味しいですよね、お肉のお出汁》




 大鍋には下茹でした大根、モツ、牛スジ、肉には早々に味付け、もう良い匂い。


 後はもんじゃの仕込み、女従者は洗い物、ショナにはキャベツの千切り、コチラは微塵切り器でシャコシャコするだけ。


 なんか話してて欲しい、人見知りなのに。


「ショナ、なんか話せ」

「ベビースターラーメン買いましたっけ」

《あ、すみません》


「駄菓子の問屋みたいなの行きたいな」

《さっき行った場所の近くに》

「花火の問屋も有りますよ」


「行く」




 お菓子、花火を沢山買い込み省庁へ。


 桜木さんが柏木さんに赤い玉を渡すと、無言で受け取り頷いていた。


 そして浮島へ。


 桜木さんのストレス値は高値、僕を連れ一服へ。


「なんでしょう」

「くっそ気まずかったわ、何か話してくれよ」


「個人情報バラしちゃって良いんですか?」

「別に構わんが」


「じゃあ、次からはそうします」


「他もこう、威嚇するんか」

「はい」


「なんで」


「何でだと思います?」

「大演習は関係無いだろ?」


「有りますよ、しようと思えば裏工作は出来るんですから」

「するかねぇ」


「僕ならします」

「あぁ、する?どうぞ」


「そのうちします」

「こわー」


「信じてませんよね」

「どっちの意味でだ?」


「どっちですかね、ウーさんは元気ですか?」

「君の目の前に居る」


「え」

「あははは、居たのは咲ちゃんだ、あはははは」


 僕を誂うと、ストレス値は下がるらしい。




 小屋が煮込みの良い匂い、熾火でとろとろ、トロトロ煮込む。


 暖かいし、眠い。


「もう、寝ますか?」

「だな、風呂入って寝るか」

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