3月24日 後処理はもう、任せて大丈夫そう。




 桜木花子の問題に関しては眠る前に気分を切り替えた筈が、目の前にはソロモン神。

 家の縁側で動物達を撫でている。


『買い被り過ぎですよ』

《本当に、そうでしょうか》


『映画館で少し最悪の未来を、孤独死する桜木花子を観せた以外。介入は何もしてませんよ』

《なら》


『知りたければ観るか、聞くかですね』

《私が、でしょうか》


『さぁ、どうでしょうねぇ』






「おはよう、先生ちゃんと寝てる?」

《はい、おはようございます》

「おはようございます、早いですね紫苑さん」


「な、早寝過ぎたわ」


 6半時。

 ショナ、先生が居間に、早起きなのか寝てないのか。


 計測、中域。


 在庫整理に何種類かの盛り合わせを出すと、タイミング悪く蜜仍君が来てしまった。


「フィンランドで作ってたのですよね?」


「おう、ワシ製な」

「良いなぁ、下さい」


「未知の細菌が」

『スクナや』

『居ない、問題無い』

「もー、どうしてなんです?」


「もー、不味いからダメ」

「じゃあ経験の為にも頂きますね」

《ふふふ、カールラもクーロンも欲しいなら欲しいと言わねば、コヤツは無視したままじゃよ?》

《ほしい》

『たべたい』


「美味しいですよ?」

「たまたまだ、もう、はいどうぞ」

《やった》

『いただきまーす』


「余計な事を言うかねクエビコさん」

『整理するなら皆さんで食べた方が早いのでは?』


「ソロモンさんまで余計な事を」

「あの、僕も1つお願いします」


「もー、良い、はい、へい、お待ち」


『おはよう』

「おう、白雨も要るか?」


《ハナの手作りじゃよ》

『要る』

「もう立ち入り禁止にしようかな」


《誰をじゃろうなぁ》

「お前さんよぅ」


「おはよ、皆で何食ってんの」

《手作りじゃよ、コヤツの》

「いやー、もう品切れな」

《どうぞ》


「ソラちゃん」

《少しでも自信をと》

「上手いのに」


「子供舌用なんでな、上手い言う奴は全員子供舌とします」

《では、エミールへ》

【はい、移動させておきました☆】


「総出で、なんなんなん」

《ちょっと誂っとるだけじゃしぃ》


「出禁にするか」

《おうおう、情報、要らのかぇ?》


「ほう、クエビコさん」

『そうだな、鈴木千佳が正式雇用された』


「おぉ、お祝いしないと」

「パスタとクレープにしましょ!」

「なら買い出しですかね」


「たんま、ドリアード。言わんならナイアスやミーミルさん使うが」

《ぐっ》

『まぁまぁ、そう詰めるな。情報を聞くべきは』


「ショナか」

「例の、提出された魔道具が認可されました」


「おぉ、早い、執行はいつじゃろか」

「不明です」


「勝手に付けても、ダメか」


『もう暫く、時間の猶予をやってはくれんか』

「なぜ」

《人間の選択の時間じゃ、我等はソレをどうする事も出来ん》


「あぁ、そっか。大罪シリーズはどうしてんの」

「昨日の時点で俺が戻した」


「現地に様子見は可能か」

「はい、ただ、紫苑さんでお願いします」


「へい」


 幾つかの盛り合わせを並べ、一服へ。


 ロキさんや、ずっと外か。


『おはよう』

「おはよう、召し上げはコレでも可能か」


『うん』

「お子達の、出生の事を聞いても良いか」


『オーディンとの子は居ないよ』

「そっか」


『居たら嫌だった?』

「紫苑になれなくなるのが嫌かな」


『そうだったとしても受け入れるのに』

「気が引けると言う概念が有るんでな、遠慮出来る偉い子なんじゃよ」


『映画館、本当に良いの?』

「おう、ロキなら全部でも、本当に大丈夫」


『ショナ君には見られたく無くなった?』

「ピンポイント。でもな、それも何か違う気がするから、観たいなら観せる。向こうも、良い大人なんだし」


『先生、ちゃんと案内してあげたら?』

「あ、そうね、言ってくる」


『うん、行ってらっしゃい』


「先生、ドリームランド案内するのはどうしますか」

《思い出して頂けましたか?》


「すまん、ロキに言われて思い出した」

《疲れてたんですよ。いつにしますか?》


「いつでも、先生の都合が良い時で」

《じゃあ……》


 先ずは現地視察、それから海で水泳。


 その後、お昼寝の時間に、となった。


「おう、準備するわ。視察のメンツどうするよ」

「僕だけで大丈夫ですよ」


「おう」




 ネイハム先生からの助言で、今回は妖精紫苑さんと共に視察へ。


『紫苑さんで、宜しいでしょうか』

「おう、おはようございます」


『おはようございます』

「どうですか」


『滞り無く』

「みたいですな」


 長く真っ白な髪をした紫苑さんを、国連の人間は直ぐに受け入れた。


 そして現地の人間も、寧ろ愛想良く接する。

 同一人物、桜木さんなのに。


 桜木さんも紫苑として普通に接し、それを受け入れて、負担では無いのだろうか。

 どう足掻いても、桜木さんの負担になっているんじゃ無いだろうか。


『念の為に確認しますが、彼は、同じ方ですよね』

「はい」


『そうですか。変身魔法を使え無いからでしょうかね、こう、変わるモノなのでしょうか』

「そうですね」


 良い事なんだろうか。

 変身した姿や態度の乖離、周りのこういった態度。


 全てが、桜木さんの為にならないんじゃ無いだろうか。




 何事も無く視察は済み、コンちゃんの回収へ。


「ごめんね」

《いえ》


 コレはもう、ハグは拒否出来ない。

 マサコちゃんは帰っちゃったんだし、理由が有るとは言え、ずっとココに放置だったんだし。


「言い訳して良い?」

《大丈夫です、ちゃんと分かってますから》

《仲間なの》

『ご主人様のだから大丈夫なの』


「ワシのかぁ、コンちゃんの場合はどうしようかねぇ」

『ドリアードが、ヘルに暫くはどうかとな』


「あぁ、そうね、触れるんだし、良いと思う」


 一旦は浮島へと連れて帰ると、ロキが案内を申し出てくれたので、任せる事に。


《ふふふ、喜んでおるぞぃ》

「はぁ、番問題がなぁ」

『そう急くな、1つ1つだ』


《そうじゃな、幾らでも居て良いと言っておるんじゃし、神獣の寿命は長いんじゃ》

「すまんが、お言葉に甘えさせて貰う」

『あぁ、海にでも行くと良い』


 そして紫苑のまま海へ。

 この前漁業権をゲットした場所で、先生とショナ、アレクを連れ到着。


 向こうは釣り、コチラは素潜りへ。


 もう人魚とは会わない様にするつもりが。


 居る。


「ショナ君や、また居るんだが」

【大丈夫ですか?】


「大丈夫は大丈夫なんだが、人間に慣れて貰っては困るかと」


 妖精も人魚も狩られ、数を減らした存在。

 人間なんかと遭遇しないに越した事は無いのに、灯台の命運か、憎らしい。


【無理に追い立てると、何が有るか分からないので、今日は穏便に】

「そうよな、強いしな。卵生なんだろうか」


【らしいですが】

「あ、イチャイチャしてんだけどー」

「して無い、されてる。子種、無いんだ、ごめんね」


「灯台って、凄いな」

「灯台は花子の方の筈なんだがな。ねぇ、子種は上げられないんだ、ごめんね」

『ココでは両方、灯台だそうだ』

《その人魚には、本質が分かるんじゃろ、くふふふふ》


「面倒くせぇ」

「満面の笑みのくせに」


「見た目が良いは正義だからな。でもだ、ごめんよ」




 人魚からのアプローチにより、海は中止。

 急遽プールへ向う事に。

 どうしたって、桜木さんの負担になってしまう。


「すみません」

「何でショナが謝る。つか教えてくれよ」


「いえ、教えるも何も出来てますよ」

「そう?」

「俺も練習しよ」


「秒で上手くなったら臍を曲げるからな」

「もう曲がってんじゃん」


「捩じ切れるわ」

「臍無しは変身出来なくなるんじゃね?」


「それは困る」


 本当に、普通に泳げている。

 泳げないと言ってたのが嘘みたいに、フィンが有るとはいえ泳げている。


「教える気でいたんです、泳げないって聞いてたので。教える為の勉強もしたんですけど」

《そうは思えない程、普通に泳いでますね》


「はい。もう、何をどう足搔いても、これからは桜木さんの負担に、迷惑になる事しか無い気がするんですが」


《そうですね。紫苑が無傷な事を、人格や心の乖離だと心配する輩も出て来ましたし。津井儺君は、どう思いますか》


「それの、何が悪いんでしょうか」

《花子が抑圧される懸念でしょう》


「両方、桜木さんなのに」

《そうですね。寧ろ、コチラの状態が素の様ですし》


「先生にも、そう見えますか」

《資料からも、そう見えますね。やっと、大事なモノを取り戻したのかも知れません》


「資料だけで、充分なんでしょうか」

《映画館ですね、ソロモン神にお声掛けされたので行ってみようと思います。なので、津井儺君は控えで、私の報告の後に行って頂けますか?》


「はい」




 プールも終わり、疲労感たっぷりでオヤツ。

 それからお昼寝へ。


 寝れない、何故。


【先生が警戒してらっしゃるので、アナタはまだ入れられませんよ】


 あぁ、じゃあストレッチすっか。


「ショナや、寝れん、ストレッチ手伝っておくれ」

「はい」


 治ってくれと思いながらストレッチ。

 痛い所は治癒。


「静かやね」

「ですね」


「花見の時期じゃろか」

「はい帝都は咲き始めました」


「温かい所はもう満開?」

「行ってみますか?」


「行って良いんだろうか」

「僕が行きたいって言ったら、軽蔑しますか?」


「いや、ナンパがセットなら歓迎する」

「じゃあ止めときます」


「えー、一緒にしようよぅ」

「えー、それはちょっと、どちらでですか?」


「紫苑で、あ、治さないとな。フィンランドは良いんだっけ?」

「はい、ですが本格的には」


「誕生日には治して欲しいべな」

「いえ、心の整理は必要ですから」


「別にもう良いのに、なんか、もうどうでも良いし。ただ逆にそんな気持ちで、あ、厄災終わったから無理か」

「僕が聞いてきましょうか?」


「いや、もう終わったから聞ける。単独は可能か?」

「フィンランドは同行者をお願いします」


「ショナ、もう終わったから休め」

「無理ですね、先生がダメだって言ってたんで」


「マジか、クソ、本人寝てる」

「ですね。何でだと思います?」


「引き籠るから?」

「本当にそれで良いんですか?」


「ん?どっちの意味だ?」

「一生、引き籠る気ですか?」


「はい。それに今、今のワシが外を知ったら、どうなると思う?」

「それは」


「知ってしまったら、どうなると思うよ」


《我が言って良いかの?》

「だめ」


「嫌な事が有れば、落胆して、益々引き籠るか」

「下手をすれば誰かを傷付けるかも知れない、何故なら沸点が低いから。そして献身した自覚も有るから期待値が高い、だから何か有れば容易く落胆し、傷付く。場合によってはまた魔王候補にもなり兼ねないし、もうそうなったらそれを抑制する気も無い筈だ。ココが思った通りの優しい世界だとしても、相性が有る。灯台だし、何もしなくても何かが来るかも知れないから」


『だから、天の岩戸に引き籠るか。実に馬鹿らしい』

「でしょ、バカだもん☆」

《床にへばりついてフルスマイルとは、マジでバカじゃろ》


「だからバカ言うてるやん。ショナ、落ち込むか、自信が無いか」

「無いですね、僕からして既に、嘘をついたり誤魔化したりで。観上清一の様に誠実では無いですから」


「張り合うなや、アレは甘やかされたウブじゃし、君は従者なんじゃから、つくべき嘘も誤魔化すのも大変なのは理解してる。あ、外すよ魔道具。ワシも、この世界に身を任せる側じゃろうし」

「いえ、身を守って頂くのには」


「それも、この世界の人間に任せる。なんならヤる、どうぞ」

「いえ、思い出の品でも有るでしょうし」


「他に有る」

「でも」

《なら、機能を封印させれば良かろう》


「可能なのか、そうか、やっぱフィンランドかな」

《ふふふ、次はマティアスへ嫉妬かショナ坊》

「え、いえ、申請してきますね」




《おはようございます、ストレッチですか?》

「いやそれはもう終わった、メシ食ってダラダラしてただけ。どうだった?」


《報告に無い事が沢山知れましたね。エンジェルトランペット事件、偽女媧事件のホテルでの詳細、巫女事件における自刃に、最後の帰還も》

「あれ」

《概要は開示しました》


《守る為ですね》

《はい》

「ショナ、報告しなかったんか」


「はい」

「なんで」

《それも、守る為》


「はい」

「だから何でよ、もう、今から、何からどう守るのよ」

《主は近しい者から。近しい方々から傷付けられてきました、私はもう、ソレを増やしたく無いのです》


「でもだ、知る権利が」

《知られない権利も御座います。厄災が終わった以上、全て開示する必要は無いかと》


「いや、先生には知ってて欲しい。おかしくなる前に制御して欲しい」

《自己管理を放棄するんですか?》


「自己管理はするけど、自覚が、病識が無いのは良く有る事じゃない」

《おばあ様の事ですね》


「おう、子供の頃も、そう言う人を見て来た」

《そしてリリー、巫女、小野坂氏、そして今度は》


「マキさん、だからもう、ココで良い」

「それは誤解で」


「聞いたの?好きか聞いた?」

「いえ、ですけど」


「好みと違う、理想と違うなんて。ココは違うの?」

《いえ、ザラです》


「ほら。勘違いなら良いんだよ、他の人のキラキラした眼差しも見て来たし、マジでワシと君の関係に憧れてるだけなら良いさ。でもね、もう同じ轍は踏みたく無いんだ、ちゃんと君にもマキさんにも考えて欲しい。ただ、それもイヤなら、結局はハンを諦めて引き籠るだけだ、君子危うきにだよ」


《前半は賢明ですが、後半は》

「なら、最適解は?」


《そうですね、少し時間を下さい》

「おう」

「あの、フィンランド行きなんですが、許可が出ましたが」


「7時かぁ、その前にちょっとイルマリネンさん所に行くわ、それで公式の方で合流じゃアカンかね」

「はい、大丈夫かと、なのでお返しします」

《それは、どう言う経緯で?》

《ショナが観上清一に嫉妬してのぅ》

『それより誠実では無いとひねてな』


「別に良いのに」


 それは、従者だから。

 普通なら良い雰囲気になっても良いモノを、2人きりにすると何故こうも良くない方向に。


 だから、私が必要なんでしょうか。


《少し、ソロモン神とお話しさせて頂いても?》

「んー」

『では、少し外へ行きましょうか』


 桜木花子の意志に関係無く、ソロモン神が影から現れた。

 そうして外へ。


《全部、お聞きになってらっしゃいましたか》

『はい、枯れ木病は甚大ですね』


《どちらの?》

『どちらも』


《どう、なさりたいんでしょう》

『両方治せたら、世界がより良くなるとは思いませんか?』


《悪くなるとは思いませんが》

『幸せが広がると思うんですけれど』


《皆様は、どう思われますか?》

《過度な介入は禁止じゃしぃ》

『そうだな、もう厄災は終わったのだからな』


《桜木花子のフォローは、もうお辞めになったんですか?》

《本人にはするがの》

『そうだな』


《人の手に委ねますか》

《召し上げも予想されておるしの》

『どちらになっても、良い様に準備はしてある』


《クエビコ神、全てをお知りですか》

『そこは心配せずとも大丈夫だ、オモイカネとワシは確実に全てを把握している』

《我はアレの綺麗なモノだけじゃ》


《彼は、彼らは綺麗に見えましたか》

《じゃの、良く手を出さんかったわ》

『良くも悪くもだろうよ』

『その感情を出せば帰って来れなかったかも知れない、そこをまだ桜木花子は』


《コレ、ヒントをあげるで無いよぅ》

『失礼しました、では退散しましょう』

『だな』




 どうして、召喚者と似たオーラの人間が、ココに居るのだろうか。


『君は』

「おはようございます、封印して欲しいんです、コレ」


『その前に、君は、桜木花子?』

「あ、はい、変身してます、シオンです」


『そう、どうぞ』

「お邪魔します」


『それで、どうして私に?』

「向こうのアナタが作ったらしいので、アナタに封印して欲しい」


『まだ全てが終わったワケでは無いのでは?』

「ほう?でも、もう全部現地の人間に任せようかと」


『もう1人、召喚者が居た筈だけれど』

「この存在すら言ってない、幼いし何かを思わせたく無いから」


『人間に、凄いプレッシャーが掛かるね』

「んー、掛かり過ぎますか」


『どう思う?』

「どうも思わない、害されなければ」


『じゃあ、大きな嘘で封印が外れる様にしようか』

「おぉ、流石天才、お願いします」


 3つの世界を渡った子。

 2人の私と3人のロウヒを知る子。


 だからこそ、もっと好きに生きて欲しいのだけれど。


『はい、出来たよ』

「ありがとうございます。他にも封印した方が良いの有ります?」


『そう、自由に生きる気は無いんだろうか?』

「有りますよ?どうして引き籠もりが悪いみたいになるんです?嫌なんですか?引き籠もってるのに」


『それはまぁ、そうなのだけれど。まだ若いのだし、恋や愛を知ってからでも』

「それ、ロウヒさんの事ですよね?」


『まぁ、そうだけれど』

「お嫌いで?」


『いや、私はこう、憧れと言うか、それと申し訳無さで』

「ほう、ではお礼に、向こうにも聞いて来ますね」


 あっと言う間に飛んで行ってしまった。


 こんなにも心が動かされるのは、いつぶりだろうか。


 魔道具を封印しただけで、こうなると予測出来ただろうか。




「桜木花子兼シオンですがー」

《ふふふ、兼って、ふふ、いらっしゃい》


「戸口でお願いします、聞きたい事が有るだけなので」

《何かしら?》


「イルマリネンさんを殺しましょうか?」

《え?》


「だって、許せないですよね?」

《あぁ、少し違うのよ》


「いや、大丈夫ですよ魔王候補に戻っても問題無いので」

《違うのよ本当に》


「何が違うんですか?本人から聞きましたけど、クソ野郎ですよ?」


《彼の弱さに怒った事も有るけれど、彼は、元はただの人間だったの。老いや病を恐れるのは正常でしょう、だから、もう良いの》

「じゃあ彼は何でココに?鍛冶の神々が歓迎すると言ってるのに」


《彼なりの、償いなのよ、きっと》

「ロウヒさんは地に縛られてるんですか?」


《いえ、違うけれど》

「会いたくない?」


《え、いえ、それは彼》

「人生初のお姫様抱っこ、どうですか?持ち方変ですか?」


《あ、ダメよ》

「なぜ」


《また、悲しませてしまうから》

「悲しんだら殺します、じゃあ行きましょうね」


 この前は女の子だったのに。

 男の子になって。


 そして、私を抱えて。


 イルマリネンの家に。




《あぁ、ダメよ》

「ソラちゃん、ベール」

《了解》


「ほら安心、どうしますか?」

《どうしてこんな事を?》


「好き合って無いならイルマリネンさん殺そうかと、引き籠もる前の最後のお節介行脚です」

《どうして殺そうと》


「出来るから、クソは少ない方が良い。どうも思って無いなら、アナタを鍛冶神達の所へ送り届けます。ココの守りが心配なら、妖精を蘇らせるので大丈夫ですし」

《でも》


「それだけじゃ足りないなら移住しますよ?」

《そうじゃ無くて》


「あ、他の事が良いですか?」


《どうして?》

「出来るから。重ねてるし恩着せがましいでしょうけど、何かしたいんです、ロウヒとイルマリネンに。アナタ達が喜ぶ事をしたい、嫌なら帰します、帰したら殺します」


《ふふふ、向こうの私達は、凄く、アナタに良くしたのね》

「はい、居なかったら沢山心が折れてた、こんなに早く帰って来れなかった。凄く、とても、いっぱいお世話になったんです、なのに」


《そうなのね、ありがとう。大丈夫、もう覚悟したわ、降ろして貰える?》

「逃げません?」


《こんなに可愛い男の子が泣いてるのに逃げ無いわ、一緒に来てくれるかしら?》

「はい、勿論」




 ドアがノックされた。

 癖の有るノックの仕方、懐かしいノック音。


 どうして、魔道具を封印しただけなのに。


「開けないと壊しますよー」


『少し、待って欲しいんだけれど』

「だめー」

《まぁまぁ、ふふふ》


「ごめんね、修理代はこの方で」

《あら、それじゃあ足りないわよ、ふふふ》


「じゃあ、魔石で」

『あぁ、そんな床に、ばら撒くなんて』

《凄いわね、地に宇宙のまで》


「でしょう、ワシは凄いの。イルマリネンさん、殺しに来ましたぞ。クソ野郎は成敗しないと」

《私が帰ってからじゃ無かったの?》


「どっちでも、ロウヒさんが好きな方で」

《私が死にたいと言ったら?》


「うん、殺してあげる。楽になるのが1番だから」

《ありがとう、東武はやめておくわね。イルマリネン、お久しぶりね》


『はい』


《もうとっくに許しているから大丈夫、だからもう鍛冶の国へ》

『許して欲しくは無いんです、例え愚かでも』

「好きか嫌いか聞きたいんだけど、ワシ短気」


『愛しています、前より、ちゃんと愛しています』


「はぁ、良かった。殺した後がもう、怖くて怖くて」

《ふふふ、アナタでも怖いモノが有るのね》


「この年で怒られるのは誰でも嫌ですよ」

《ふふふ》

『私は、怒られたいです、まだ足りないんです』


「マゾめ」

《まぁ、もう、ふふふ》

『そうですね、そうなのかも知れません』


「罪悪感?」

『それもそうですけれど、償いをきちんとしたいんです』


「何が償いになる?」

《そうね、偶に来て、彼にヤキモチを妬かせて頂戴な》


「いや、死にたく無いんですけど」

《大丈夫、彼から守れる様に死の国の神に言っておくわね》


『それでも、流石に殺したくなる程の事はやめて下さいね』


「えー、どこまでなら殺さない?」

『口にキスはダメですね』


「ほう。もう、ベールを取っても大丈夫?」

《えぇ、お願い》


 とても、嫉妬してしまった。

 ベールを取った彼女の目が、この子に向いている事が。


 妬ましい。

 なんて、2人とも眩しいんだろうか。


『あぁ、今日はもうコレで、もう、充分嫉妬したので』

「あぁ、じゃあお手をどうぞ」

《ふふふ》


「殺せる魔道具も渡しておきましょうか?」

《大丈夫、もう沢山有るから》


「すげぇな、もう大丈夫?」

《えぇ、ありがとう》


『ありがとう』




 ロウヒの呪いは解けなかったけど、仲直りは叶った。

 後は、何をしようか。


『お節介行脚ですか』

「おう、ワシに出来る事をしたい」


『何処へ、帰る為に?』

「いや、そのつもりは、いや、最悪はそれでも良いか。良い実験になるし、お払い箱には丁度良いし、流石天才」


『記録係や準備が必要では?』

「だね。ショナ」

【はい】


「もう終わったんだけど」

【はい、コチラは何時でも大丈夫ですよ】


「おう、吸い終わったら行くわ」




 大使館前で召喚者様を待っていると、真っ白な長い髪の男性がやって来た。

 召喚者、桜木花子が来ると聞いていたのに。


「上機嫌ですね」

「おう、仲直りした、ロウヒとイルマリネンが」

『は』


「秒でヤキモチ妬かれた」

『え、本当に和解を?』


「あ、イルマリネンの家のドア壊しちゃった、ごめんね?」

『え、はい、あの、今日はその』


「あぁ、花子の方の腕の事で」

『その、ロウヒ様は』


「呪いはそのままだったけど、大丈夫っぽい」

『あ、はぁ』

「桜木さん」


「へい、ごめんなさい」

「怪我は無いですか?」


「ない、ただ定期的に殺され無い程度にヤキモチ妬かせに行く約束はした」

「どうしてそんな事に」

『すみません、コチラの事に巻き込んでしまって』


「いえ、恩返しなので。それで、腕は?」

『あ、はい、先ずは身分証を…』

「両方出して下さいね、紫苑さん」


 彼が、桜木花子らしい。

 桜木花子のパスポート、紫苑と言う妖精の身分証を2つ出して来た。


 写真の髪型は違うが、紫苑は顔は同じ、浅黒い肌で黒髪。

 花子も、肌色は白い方で黒髪で。


 同一人物と思えないのは、変化の魔法が無いからだろうか。


『ありがとうございました、では、この座標へ』


 空間魔法。

 本物だ。


「合ってます?」

『あぁ、はい、行きましょう』


「それで、どうしてそんな事に」

「引き籠もってるのに、何で引き籠もるのかって聞かれて、ロウヒの事かって。で、確認したらロウヒはもう許してるって、でも殺すって言ったら仲直りしてくれた」

『ココは私が。概ねそうですね、ただ他にも選択肢は示しましたよ、鍛冶の国へ行くかとも』

『あの』


『ソロモンです、誤解を招きそうだったので出て来ただけですので。失礼しますね』

「おう」

「またどうして、そんな強引な手を」


『そこまでしなくては、いけなかったんですよね』

「バカなのでそれしか思い浮かばなかった」


 そんな手すら、我々はしなかった。

 きっと、しようと思えば出来たかも知れないのに、しなかった。


 神々の恋に、愛に手を出してはイケナイと、勝手に思い込んでいた。

 手出しするなと、言われて無いのに。


『コチラです』

「おほーしゅごい、下さい」


『はい、どうぞ』

「え、なんで」


「あの、今回は見学だけとの」

『我々がしなかった事を成されたんです、この位は、この程度では足りない事を成されたんですし』

「してないかもよ?」


『嘘を見抜く魔道具が御座いますので』

「おぉ、有るんだ、何で?」


『第2の地球が出現した時点で、イルマリネン様からお借りしました、情勢が情勢だったので』

「あぁ、それを見抜けなくする魔道具、持ってますけど」


『え』

「コレも封印するか、あ、魔法の封印はどうするの?違う抑制魔法も有るんだけど」

「桜木さん」


「ココの人間にプレッシャーになるって言われたけど、知らんがな。それすら選んだんでしょこの世界は、頑張れ」


『え、あ、その、先程の話は』

「全部本当。嘘も言おうか?」


『あ、はい』

「エビ大嫌い」


 胸のベルが低く鳴った、機能はしてる。

 なら、魔道具も嘘を見破らせない魔道具も持っていたのに。


『あの、どうして封印を』

「だって、不安でしょう、魔王候補だったし」


 もう、神々と話している様な感覚に陥ってしまいそう。

 どうして、こんなに能力も何もかもが有るのに、順序や段取りを。


 だから、だからイルマリネン様やロウヒ様のように。


『それなら、引き籠もると言うのは』

「うん、たまに買い物に行く以外は引き籠もるつもり」


『なぜ』

「不安でしょう、神様本当に殺せるもの」

「桜木さん」


「マジ」

『なぜ、その事を』


「第2地球の人間に義体を与えたいから、神様だった人間、頭部を2つ所持してる」


『脳殻を』

「うん、お願いしたい。アレは全部ニンフと人間のせいで、彼は利用されただけだから」


『それは、1度検討を』

「お願いします、海を見せたいので。だから、腕も再検討で良いですよ」


『あ、はい』

「ただ、カラクッコの良いお店知りません?固くて塩味がちゃんとしたお店の」


『え、あ、何処でも宜しいんでしょうか?』

「うん、移動を許可してくれるなら。あ、寝台列車でも良いですよ、制御具は国連に預けてるんですけど、取って来ます?」


『制御具?ですか?』

「魔法を使えなくする道具、魔道具?」

「魔道具扱いです」


「だそうです」


『あの、少し、検討させて頂いても?』

「どうぞ」


 早朝から、特大の爆弾を持って。

 いや、特大の爆弾がやって来た。




 どうして、紫苑さんはこんな事を。


「どうして何でも話しちゃうんでしょうか」

「ショナなら知りたく無いの?あの腕、資源なんだよ?大事なモノぞ?」


「そうですけど」

「大事なモノをくれるって言うなら、信用が大事じゃない。後で聞いてないって言われたら殺しちゃうし」


「そう、あまり殺すと言うのは」

「嘘をつけと?ショナすら殺すかも知れんのよ?」


「そこは信じてます」

「じゃあ、自分自身は?世界を信じてる?ならマサコちゃんがあぁなった理由は、マサコちゃんのせいか?」


『記録係にはしないのですか?』

「え」

「あぁ、まぁ、誰でも良いんじゃない」


「あの、記録係とは」

『改めて、ココで何かを成せば、何処かの世界に帰れる可能性が有るのでは、と。ですので』

「ショナは何をしたかの記録係」


「桜木さん」

「0じゃ無いよ、2か3か。有り得ないとは思うけど、ココに居場所が無かったらね、逃げる場所は必要じゃん」


「召し上げは」

「元魔王とか魔王候補は周りが怖がるでしょう、それで北欧が攻撃対象になっても嫌だし。北欧じゃ無くても、ロキやヘルへの攻撃の口実になるのがイヤだなと」


「そんな」

「そんな世界じゃ無い?マサコちゃんをあんなに追い詰めたのに?」


『あの、お待たせして申し訳ございません』

「イルマリネンさんの家に確認に行く?」


『え、あ、はい、宜しけ』

「よし、行こう」

 

 そうして施設を出ると、イルマリネン神の家に空間を開き、そのまま戸口で一服し始めてしまった。


 取り敢えずは紫苑さんを横目で見ながら、フィンランド大使館員と一緒に事情を伺う事に。


『あの』

『あぁ、心配しなくて大丈夫、少し魔道具の実験でね』

《ふふふ、その説明だけじゃ無いでしょう》


『あぁ、仲直りして頂いたんだ、苦労を掛けたね』

《ごめんなさい、恥と意地で迷惑を掛けたわね》

『いえ、とんでもございません、急にお邪魔してしまい』


《良いのよ》

『何か問題かい?』


『あの、元魔王候補の』

『あぁ、シオンがどうかしたのかい』


『その、嘘を見抜かせない魔道具や魔法をお持ちでして』

『あぁ、嘘を見抜く魔道具は封印したけれど、他も望むのかい?』


『出来れば、そうしようかと』

《人の指針には反対はしませんが、それで、本当に良いのかしらね》

『今ある人間だけの力で、あの子を守れるのかい?』


「失礼ですが。厄災は、もう終わった筈では」

《波をご存知?余波とも呼ばれている大波》

『火災さえ鎮火すれば、問題が消えればそこでいきなり解決し、終えたと言い切れるのかな?』


『いえ』

『なら、それはいつまでなのだろう』

《そうね、出来たらあの子には長生きして欲しいのだけれど、この世界の人間に出来るかしらね》


『どうだろうね、全ては人間が選ぶ事だから』

《そうね、私達はそれをただ見守るだけ》


「あのー、あんまりお邪魔しては悪いかと思うんだけど」

『すまないね、気を使わせて』

《もう帰るわよね、また今度》

『はい、失礼しました』

「はい、失礼します」


 プレッシャー。

 桜木さんが背負ってきたプレッシャーが、僕や人間に返って来た。

 神々や精霊、そして今まで桜木さんが関わった人達の思い、気持ち、願い。


 桜木さんをココに引き戻した責任。

 留め置いた責任が、プレッシャーが。


「何か言われたの?お2人よ、大丈夫か?」

『すみません、お2人が揃われたのを見て』

「はい、波の、余波の事を懸念しているそうで」


「あぁ、どんまい、がんば。それで、腕の話はまだ掛かりそう?」

『はい、申し訳ございません、これから報告に行き、検討を』


「カラクッコは?鉄道移動なら大丈夫そう?」

『あ、先ずはソチラを早急に』


「うん、一時的にでも追跡装置とか埋め込むよ?だから動ける様にする前提でお願い、出来るだけ協力するから」


『はい、畏まりました』


 何も言えない。

 僕らに全てが掛かってる。

 妥協して貰っている。


「余波が心配?もう問題起きてるんか?」

「あ、いえ、今の所は、大丈夫です」


「ホンマか?退役しないし動くよ?」


「あの、覆しても良いですか?」

「え、ダメだけど、何を?」


「退役して頂けないでしょうか」

「なぜ」


「一個人であれば自由に」

「それでも、所属する国が攻撃されたら困るじゃん」


「それは、ココの人間の問題で」

「もう切っ掛けすらイヤなんだが?」


 どうしたって、桜木さんを困らせてしまう結果に。

 どうしたら良いんだろうか。


「すみません」

「何をどう考えて、そんな追い詰められた顔してんのよ」


「どうしたって、桜木さんに苦労やご迷惑をお掛けする結果になるのが、心苦しいんです」

「例えば?」


「国連が制御具を施行すれば、不便に、不便どころかまた、病弱になるかも知れませんし。引き籠もる事にも、監視が付いたり」

「君は、前は、どうなると思ってたの?」


「もっと、誰もが桜木さんを受け入れ、歓迎すると」

「すまんね、エミールの従者になったら?そうなるよ」


「そうじゃ無くて」

「じゃあ何?心配はしてくれてるだろうけど。思い通りにならなかったから、問題が大きくて困ってる様に見える」


「違います」

「じゃあ何」


「どうしたら、桜木さんが幸せになるか考えても」

「君が思う幸せと、ワシの幸せ一緒かね?」


 分からないですと言えない。

 知ってる筈なのに、分からない。


『あの、追跡装置なんですが』

「どこにする?」


『いえ、通信機器の追跡許可を頂きたく』

「あの、それの検討を」

「えー」


「検討させて下さい」

「ただカラクッコが食べたいだけなのに」


『あの、そんなにお好きなんですか?』

「好き、あの固くて良い塩梅が好き、他の世界と同じ感じならだけど」


『あの、他に空間魔法を使える方って』

「他の元魔王になら居るけど」


『その方の許可なら可能なんですが』

「良いの?元魔王ぞ?」


『はい、無力化されているのは確認していますし』

「んー、それは検討したい。帰って良い?」


『はい』




「アレクー、起きてくれー」


「ん、なに、サクラ」

「シオンだわ、魔剣封印しに行く」


 シオンに起こされ鍛冶の国へ。


 そこで数々の魔道具を封印しながら、俺が貰った魔剣も取り上げられてしまった。

 なぜ。


「なんで」

「それはショナから」

「国連に報告して無いので、他国に行くには改めて封印すべきだと、桜木さんが」


「フィンランドでパン買う為にな、カラクッコ食いたいねんな、けどワシは動けんのよ」

『バカだなぁ、たかがパンの為に』

『仕方無い、力有るモノは恐れられる運命なんだ』

『だな、さっさと召し上げられれば良いモノを』


「容易く低きには流れないんですー」

『はいはい高潔高潔』

『それがどこまで人間に伝わるか』

『あぁ、楽しみだなぁ』


《そんなに苛めちゃダメよ》

《そうよ、まだまだこれからなんだから》

《ふふふ、綺麗な鞭ね》


『持ち回りで飾るんだからな』

『次はウチ』

『その次がウチだな』

「まだ有りますし、先ずはお酒をどうぞ」


 しかも、ショナがずっと思い詰めた顔をしてるし。

 前ならサクラは気にしたのに、シオンだからか、もう召喚者としての役目が終わったからか。


「なぁ、どうしたんだ?ケンカか?」


「今まで、桜木さんが背負ってきたプレッシャーが、人間に、世界に跳ね返って来てるんです」

「はぁ?」

《元とて候補、仮でも元魔王なんじゃ。周りが、人間が脅威と思えば排除されるでな》


「あぁ、サクラの幸せの事か。好きにさせれば良いじゃん」

「それが上手く行かないから、悩んでるんです」


「観れば悩まないと思うんだけどなぁ、力だって最初はちょっとだけで良いって言って、足りないなと思ってもう少しって望んだだけだし。ただ、返してるだけだと思うけどな」


「今まで有ったモノが、健康だって、能力も無くなるかも知れないんですよ?」

「それを望んでるなら、別に。イヤなら、そう望まない様にするしか無いんじゃないか?出来るなら、だけど」

《元魔王の癖に良い事を言うのぅ》


「色々と先輩だし」

《じゃの、元魔王や。この一連の行動をどう見る》


「俺も、魔王も最初からこうしてれば平和だったかも。ただ、こうして封印とか相談とか出来る状態じゃ無かったんだろうし、望めない理想かな。今サクラは最大限、譲歩してくれてるなって思う」

「それが、プレッシャーなんですよ」


「ショナだけが応えれば良い問題じゃ無いだろ、周りが、人間がどう応えるかなんだし」

《お主も、もう人間じゃよ?》


「な、寿命、少し心配だな。もう少しだけ見守りたいけど、それは我儘なんだよな」

「それは桜木さんが」


「それは多分違う、コレも人間が決める事。サクラは多分、そう言うかもだし」

「もう、桜木さんの家族なんですよ?」


「血の繋がりは親族だけど、家族じゃ無い。もうそう言うの、第2世界に置いて来ちゃってるかも知れないし」

《お、追加ダメージじゃな》


「どうしても、観ないと分からないんでしょうか」

「観ても分からなかったらどうする?」


 何か、凄い不味い事を言ったらしい。

 俯いて黙ったままで。


《クリティカルヒットじゃな》

「何か、ごめん」

「いえ、そうですよね、そもそも観れば分かる筈だって勝手に思い込んでました、ありがとうございます」


「あ、いや、うん」

《ナイスじゃ、褒めてやろぅぞ》


「いや、良い」




 キレたドリアードの声で振り向くと、ショナがコチラへ向かって来た。

 何かしょんぼりしてるっぽいが、どの事だコレ。


「桜木さん」

「おう、またドリアード怒らせて」


「え?あぁ、いえ、それは知らないんですけど、映画館の事でお話しが」

「はいよ、はいはい」


「観ても良いんでしょうか?」

「今更どした?監視要請来たの?」


「いえ、そうじゃ無くて」

「あ、嘘とか見抜く系の魔道具封印したし、もう大丈夫だよ別に、嘘言っても」


『残酷過ぎですよ』

「へ?何が?」


『善意でアナタの心を知りたい人間には、残酷ですよ』

「あぁ、ごめん、他意は無いんだ。でもさ、そんな分かり難いか?何も変わって無いよ?」


『そうですかね、子供なら首が据わる頃ですよ。それだけ、短くも長い時間をアナタは生きてるんです』

「2ヶ月と4ヶ月は確かに違うが、まぁ良いや、どうぞ」


「はい、ありがとうございます」

「じゃ、次は蜜仍君か、これこそ残酷だよな」


 今更、観たがる理由は何だろう。

 また、魔王候補の話が出てるんだろうか。


 なら余計に、能力を抑えないと。


「桜木様?」

「ごめんな、魔剣封印するんだわ」


「はい」

「お、素直」


「桜木様はお力が有ってお優しいので、当然の結果だと思います」

「ありがとう、また明石焼き食べに行こうね」


「はい」


 コレ全然、余計な事だったな。

 余分だった。

 もう、ワシも余分だったんじゃなかろうか。


「はい、これもお願いします」


『鎌か』

『しかも変形鎌だぞ』

『あぁ、良い』


「すみません、余計なお手間を」

『備えあれば憂いなしだバカ野郎』

『そうだぞ、備えない方がどうかしてる』

『これはウチが最初だからな』


 優しいなぁ、神様も精霊も。




「あの、コレに似たモノをお貸し頂けないでしょうか」


『なぜ』

『対価は』

『まぁまぁ、そう圧を掛けるな。どうした坊主』


「桜木さんを守る為です」

『そうか』

『だが残念だな、厄災は終了した』

『余波はお前ら人間の受け持ちだろう、こうなる前に、言ってくれればな、残念だよ』


 探し回ったり心配したり。

 すべき事を、全て間違えた。

 後の事を、もっとちゃんと。


「ショナー帰るでよー」

「はい」




 サクラに呼ばれて浮島に帰る直前、ショナが鍛冶神達に何か相談して、断られたっぽい。

 だからってそんな落ち込むかね。


「暗いぞショナ、マジでどうした。ワシまた魔王候補にでも、魔王確定しちゃった?」

「あ、いや、違うんです」

《そろそろ誕生日じゃろ、ズルっこしようとしたんじゃよ》

「あぁ、神様達に相談か、マジズルいな」


「おぉ、正統派っぽいのにズルっことは、なら観なくても言うのに」

《それでは楽しく無いじゃろう、こう、意表を突くモノを探したいんじゃろう》


「そんな事をせずプライベートを充実、あ、ナンパしたい、しよぅよぅ」

「いや、それはちょっと」

《アレクさん、少し良いですか》


「戻ってるおー」

「おう」


 何で皆、サクラの事に首を突っ込みたがるんだろう。

 何の責任も無いのに。


 あ、だからか


《リズさんか鈴木さんをお夕飯にと思ったのですが》

「なぜ」


《桜木花子の為です》

「詳しく聞きたいんだけど」


《嫉妬しないと1年以内に死ぬので協力して頂きたいんですが》


「不老不死だった元魔王が言う事じゃないだろうけど、ほっといてやったら?死が救いとまでは言わないけど、もう幸せのピーク過ぎてる気分なんだよアレ」

《映画館か実体験ですか》


「それも有るけど、他人が立ち入って責任取れないじゃん。責任取って死なないでしょ?俺は個人的に死ねるけど、アンタもショナもただの職業じゃん。別に死なないのに、何で無責任に立ち入ろうとすんの?」

《死ねと言われたら死にますけど、それなら良いんですか?》


「それは職業だからだろ?国や誰かに何か言われたら、結局は手を引くんだし」

《では、召し上げなら良いんですか》


「うん、サクラが良いならね」

《それこそ無責任では》


「なんで?」

《ご自分で寵愛なさる気は無いんですよね?》


「いや、好きだけど、俺は元が」

《他の方に委ねるのは、そう私と変わらないのでは》


「な、うん、寿命伸ばしてくるわ」




 桜木さんが欲しい物を率先して探していると、先生が珍しく慌てた様子でやって来た。

 さっきまではアレクと話していた筈なのに。


《すみません、アレク君が寿命を伸ばしに行ってしまいました》

「なん、なんでそんな事に?」


《アナタを心配しての事で、すみません、少し突っ込み過ぎました》

「転移先、何処に行ってるっぽかった?」


《お美しい女性が2人》

「ローマか、行ってくるが」

「はい、どうぞ」


「おう」


《すみません、協力を仰ごうとしてミスしました》


「先生でも、ミスする事は有るんですね」

《そうですね、職業として首を突っ込むなと警告されました。個人的に、死んで責任を取る事も出来ないのに、無責任だと》

「え?お2人は、死ねないんですか?」


《死ねますか》

「はい、また土蜘蛛族が里に封印される可能性は有りますから。離れて里で暮らすだけになるなら、僕はお側に居る為に何でもしますよ、捨て駒でも盾でも、誰かを殺すのも。ずっと、とっくに覚悟してましたけど、ショナさんは違うんですか?」


《まぁ、仕事でしたら》

「だからアレクさんは召喚者では無くて桜木様の為に、命を賭ける為に行ったんですね。素敵だなぁ」

「蜜仍君、少し忠誠心が過ぎるかと」


「好きですし、ショナさんはどうなんですか?」


「僕は」

「ダメだったぁ、ワシと同じ寿命とか高等な事を」

「だって、一緒に死ねるなんて最高じゃん」

「良いなぁ」


「狂信者共め」

「地球救ったって事で、対価無しだし良いじゃん」


「無駄遣いを、また何か有ったら困るでしょうが」

「もう厄災終わったんだし良いじゃん」


「波、余波が有るかもなんだし」

「それは人間、ショナ達が頑張る事じゃん」


「君はココの人間なんだから、君も頑張るんだよアホが」

「シオンは?」


「外部、異物は大人しくしとく。分かったな?」

「考えとく」


「穏便に」

「分かったってば」


「宜しい、すまんねショナ、先生も、止められなくて」

《いえ、コチラが不用意な発言をしたせいで》

「先生ごめんね、悪かった。俺はもう心配しないよ」


 羨ましい位に満面の笑みでアレクが笑った、魔王と同じ顔なのに、全く違う印象。


 僕は、何が羨ましいんだろう。




 夕飯もストレージ整理、色々と0にするの大変やな。


「カールラ、クーロン、故郷に戻って下さい」

《まだ余波が》

『まだ狙われるかも知れませんし』


「それはココの人間の領分だと思う。退役はしないけど、出来るだけ安心して貰いたいから、離れて欲しい」

《なら》

『小さい状態でなら』


《寿命も多いですし》

『もう何十年かは』

「ワシに、どう生きて欲しいの?一生、一緒にどうやって居るの?君等を連れて結婚するの?召喚者として?」


《それは》

『お相手が現れたら』

「神獣2体だけじゃ無く、元候補、仮とは言え魔王だったのに?そんな良い人間ばっかりなの?先生、ショナ君や」


《全く会わないのも、おかしな話では》

「でもさ、最悪は仕方無くない?」


《記念日もダメなら、そんなお相手とは全員で別れさせます。嘘がイヤならコチラが準備しますので、活用して頂けませんか》

《お誕生日は無理でも》

『我々の誕生の日だけでも』

「僕も、僕の誕生日に来てくれるだけでも、凄く嬉しいんですけど、僕もダメですか?」


「君を優遇したら、ミーシャも、エミールもってなる、10人なら10日、謎の日が出来る、好きな人に10日内緒にするのは嫌じゃ無い?」

「んー」

《どうしても、普通が良いですか》


「だって、本来は普通だし。魔道具や皆のお陰で生きてこれたけど、借り物は返さないと、そうなったら普通になるんだし。それに何か、召喚者だから良いんだろって、思いたく無いし」


《必要以上に窮屈に、自分を下げる必要は無いんじゃよ?》

「それはココの」

《ココの人間が決める事、ですけど、ココの人間の為だけでは無いんですよね》


「おう、愛されはしたいもの、その為の努力の一貫って事ではダメだろうか」

『悪くは無いが、今居る誰かがお主を愛したならどうなる』


「ミーシャか、毎日居たら親しみ感じるのは心理学じゃん。召喚者ってデカ過ぎるじゃん、召喚者の付随じゃん、ズルいじゃん」

《その狡さを咎めるのは》


「自分で、自分が嫌。それを許す理由が無いし、我儘でゴメンな?」

《ご主人様が普通に生きるなら、もし人間が許しても》

『もう一緒には居られないんですね』


「それと一緒に居る期限は余波が終わるまで、我儘でごめんな」

《いえ、召し上げも有りますので》

『そうですね』


「それは最終手段ね」


 何でお通夜状態なのか。

 ずっと、そう主張して来たと思ったんだが、何かダメなのかね。




 夕飯もサクラの飯が食えたから、俺は機嫌が良いけど、空気が葬式のまんま。

 食事が終わってもそのまんま、何で悩むんだろう。


 サクラがココの世界の何処かで生きててくれたなら、俺はそれだけでも充分なのに。


《祥那君、アレク君、省庁へ少し良いでしょうか》

「はい」

「おう」


 省庁へ空間を開き、ショナの案内で柏木さんの部屋に向う。

 白髪増えたよな柏木の爺さん。


《完全に、本格的に引き籠もる可能性しか有りません。しかも他の世界に戻る事も、消えて無いかも知れません》

「え」

「あー」


「それを、回避するには?」

《世界全体の、民意次第ですね》

「退役しないと明言してはいますが、全てにおいて、民意に従うそうでして」

「散々ビビった態度見せてるんだもんな、許容する様には、もう見えて無いんだろ」


「では、もう、お心を開いては」

「それは大丈夫、開いてる、開いてるから話してくれてるんだと思う。ちゃんと話して、分かって貰おうとしてる」

《そうですね、愛されはしたいとも言ってますし》


「津井儺君は、どう思いますか」

「神々に、余波に向けての、魔道具の貸し出しを断られたので、お守りするのはかなり難しいかと」

《神々や精霊の協力は、あくまでも桜木花子に、だけですからね》

「召し上げは最終手段だって、魔道具も魔剣も封印したし」


「全てでは無いですが、思い出は別に有るからと。映画館の話をした際には、また魔王候補なのかと警戒されて。嘘も、もう言って構わないと」

《そんな事があったんですね》

「友達でも何でも無い、ただの従者なんだろ?仕方無くない?」


「そうですけど」

「じゃあ、国からの命令でエミールに行けって言われたらどうすんの?逆らったらクビなら、ショナはどうすんの?」

《アレクさん》




 ハナの意見は、前からそう変わってはいないだろうに。

 どうしてこう周りは、一喜一憂するんだろうか。


「白雨、やっぱ、魔王候補復活なんかな」

『そうか』


「いや、真面目によ」

『余波も終わったら、俺はどうしたら良い?』


「もう、一緒に死んじゃうか、アレクと3人で」

『それなら、アレクと殺し合う』


「天才か、天才だな、それで頼む」

『死にたく無いと言ったらどうなるんだろうか』


「理由による」

『ハナが、シオンが心配だ』


「どうしたら、心配じゃ無くなる?」

『誰かと、一緒になる事』


「むっず、そうなったら殺し合う?」

『そうだな、アレクが逃げなければ』


「じゃあ、白雨と一緒になったらどうなるの」

『アレクを殺す』


「アレクだと?」

『アレクを殺す』


「ふふ、一緒やんけ」


 我ながら良い発想だと思う。

 アレクが帰って来たら、この事を話そう。




 我、結構人心が分かる方なんじゃけど。


《ちょっと我、自信が無くなって来たんじゃが》

『今更、どうした』


《アレクと白雨と3人で死ぬとか言っておるし》

『ちょ、サクラちゃん大丈夫なの?』

『あぁ、今では無い、余波後の身の振り方の話だ。まだ時間は有る』


『あーぁ、にしたって、そんな事言わせるなんてなぁ』

《そうね、久し振りに人間が憎たらしくなって来たわ》

『私も、困らせるなんて許せないわぁ』

《エイル、そうでは無いんじゃよ、喜んでおるんじゃ》


《流石ハナね、相変わらず歪んでるわ》

『ヘルちゃん、喜んでる?』


《勿論よ》

『だよね、俺も☆』

『歪んでいるな』

『なのに、素直だったり真っ直ぐだったり』

《上手く、いくんじゃろうか、嫉妬心》

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