召喚者の病弱日誌ー永住を決意したのは良いんですがー

中谷 獏天

第1章 厄災の後処理や、今後について。

3月23日 厄災後の後片付け。

 15時過ぎ、桜木さんはドゥシャを双子達の護衛にと送り出してから、エミール君と共に浮島へ。

 僕らはそのまま事務処理や救護へと動いた。


 桜木さんが居なくなった事で、再び場が荒れるかも知れないとは思ったが。

 それはそれで、桜木さんが有益だと証明されるだけなので、もう大した問題じゃ無い。


「ショナさん、機嫌が良いですね?」

「そうですか?」


「はい、何を考えてたんですか?」


「もし、下です何かが起きても、桜木さんが有益だと証明される可能性が有るなと」

「ふふ、急に図太くなりましたね。聞きましたよ、武光様が桜木様の大事な何かだって言おうとしてたって」


「それは、ただ軸だって言いたかっただけですよ、きっと」


 ただ、気分が良いのは間違い無いし、ハッキリ言って、今は凄く嬉しい。

 魔王も撤回され、桜木さんがちゃんとココに残ってくれたのだから。


「ふーん。あ、僕の映像の送信終わりました、じゃあ浮島に戻りますね」

「はい、宜しくお願いします、アレク」

「おう」


 次は。国連の関係者をこの場に連れて来る事。

 それもアレクにお願いし、指定座標の空間を開いて貰う。




《身分証と、書類です》

「はい、拝見させて頂きます」


 サクラの感情波及が影響してるのか、厄災が終わった喜びがまだ影響しているのか。

 惨状を目の前にした国連の人間ですら、少し浮き足立っている。


 特にショナなんかはもう、喜びが滲み出そうな営業用の笑顔だし。


 俺も、早く浮島に帰りたい。


《従者の、死者の報告が有ったそうで》

「はい、小野坂氏の従者のタブレットが、コチラです。座標は大体、ココだそうです」

《じゃの》


《先住の方々の地区ですね、お詫びに行かねばならないかと》

「はい、召喚者様のお2人方は、特に桜木さんは今、血を……もう戻って来ちゃったんですか」


 サクラは真っ白い髪に、真っ黒な衣装。

 ケガして無い方を帽子で隠して、第2世界で貰った服で現れた。


「おう、ササッと、どうせまた入るし、今はエミールが入ってるし。で、この方達は?」


《国連の者です、現状把握に来させて頂きました》

「げっ、どうも、桜木花子です」


《国連配属の従者の死体が出ていまして、それがココ、先住民の方々の地区なのです》

「あぁ、謝りに行かないと、清めないとだろうし」

「はい、それで」


 カールラから泣きそうな声で、死体を発見したと。

 コレ、コッチの方が優先だよな、向こうはもう生き返らないんだろうし。


「サクラ、死体、新しいのが向こう有るって」

「すんませんが、そのご遺体は」

《お主の蘇生は無理じゃ、もう数日経っておる》


「あぁ、天使さんも、無理か」

《でしたら、我々が先に行き回収して参りますので、コチラはお任せしても宜しいでしょうか?》


「はい、アレクは大使に付き添いに行って」

「おう」




 申し訳無いが先住民への謝罪を後回しにし、コチラの蘇生へ。

 浮島でも天使さんに謝罪されたが、ただ場を譲ってくれただけな気がする。

 この衣装も、その時に勧められた服だし。


 取り敢えずはアレクに教えられた座標へ空間を開き、ご遺体の場所へ。

 カールラが打ちひしがれている。


「あぁ、死んでない死んでない」


 掻き集められた部位を接着し、蘇生へ。


 うん、問題無く目覚めたは良いが、めちゃくちゃ怯えられてる。


 魔王撤回を知らないらしい。

 顔もこんなだし、ですよね。


《避難所へお送りしますよ》


 拘置所の前に空間を開くと、カールラにお礼を言い足早に去って行った。


 こう、えも言えぬ後味よ。


「良く堪えた。もうワシ姿を消して」

《ダメです、堂々としてらっしゃるべきです、誤解は必ず解けます》


「ショナ、姿を消して治すのはダメか?」

【出来れば、堂々と治して頂きたいんですが】


 鋼の心を持てと。

 キッツイぞコレ。


「へい」


 もうどうしたって怯えられるんだろう。

 召喚者、桜木花子の顔はコレだ、畏れよ、恐れよ、馬鹿野郎が、覚えとけよクソが。


 次々に出て来る怪我人をひっ、とかひゃっ、とか言われながら治し、死者を蘇らせていく。

 もう、ただ黙々と治す。


 何を言っても、今は無駄。

 今だけ、今暫くの我慢。


 怪我が無くとも翼のあるカールラより見劣りするんだし、まぁ、仕方無いか。


【桜木さん、行方不明者捜索用の隊が手配されました、もう少しです】

「へい」


『この悪魔め!』


 子供の声と衝撃に振り向くと、刺されてた。

 あっつい。

 油断したわ。


 急いで痛覚を切り、傷を治す。


 服を触ると、血も切られた跡も無し。

 この服便利かよ。


《ご主人様!》

『ヨシュア!』

「何も無い、ぶつかっただけ。だよな、小僧」

『ひっぃ』


『あぁ、ヨシュア、すみません、申し訳御座いません召喚者様。違うのヨシュア、魔王じゃないのよ、間違いなの』

『でも、さっきまで、だって、ママも』


『違うの、間違ってたの、誰でも間違うの。私が間違ってたの、お許し下さい、悪意は無いんです』

《悪意が無ければ、人を刺しても良いんですか。この刃物の血は、間違い無くこの方のですよ》


『申し訳御座いません、代わりに私が』

《代わりに何の意味が》

「いや、魔王と思っての事なら、歯向かった英雄として憤怒さんと怠惰さんに褒めて頂きましょう。凄く良い方達ですから、ほら。憤怒さんですよ」


『ママぁ』

『すみません、どうか私だけ』

「コレは、どうなってるんだろうか」

《この子供が、ご主人様を刺しました》

「被害は0、ほら。魔王と思って刺したから褒めてあげて欲しい、マジで、出来たら怠惰さんからも」


「あぁ、そう言う事か。どの道、避難所はコッチだ、詳しく話しを聞こう」

『はい、本当に、申し訳御座いませんでした』

『ママ、ごめんなさい』


《宜しいんですか》

「厳しくするなら君も拘置所送りにせにゃならんぞ、アレは褒めるべきだ。ムカつくけどな」


 もう、魔剣でも置いて刺せって看板でも背負ってやろうか。

 罪無き者だけが、石を投げられるんじゃ、そうか、無垢か。


 それからも、それを見ていた人間達のヒソヒソ話し、値踏みする視線に晒されつつ治療して周り、漸くアレクが戻って来た。


「刺されたって、大丈夫か?」

「無理、もう纏めて治療するから交代してくれんかね」


「分かった、そうする」


 塔に戻ると国連の従者の遺体袋が。

 中を診ても、確かにかなり日数が経っていて、本当に蘇生は無理だった。


「桜木さん」

「一服させてくれ」


 一服。


 クッソ美味いわ、クソが。


《あの、撤回が遅れた事を謝》

「追々で、他に何か」


《いえ、お怪我は》

「してません、物証は憤怒さんが持ってます。ワシは触ってません」


《そうでしたか、失礼致しました》

「いいえ」


《機嫌が悪いのぅ》

「生理中なの」

「え」


「冗談、業務に集中してくれショナ」

「はい」

《ふふ、ウブウブ》


「ウブウブは困るのぅ」


 生理前の方がイライラするが、まさかコレは違うよな。

 胸は変わらずだし、血液検査でも何も言われて無いし。


「失礼します桜木さん、医師団の派遣が決定されたので。もう治療に回らなくても大丈夫だそうですが」

「あー、難しいなそれ。念の為に一応は立ち会いたいんだが」


「ですよね、その方向で調節しておきますね」

「お手数おかけします」


「いえ、では」


 再び一服。

 連絡来ないな、大丈夫か。


「アレク、大丈夫か」

【問題無い、怪我人だけ。死者無し】


「簡潔で宜しい、怪我は医療でいけそうか」

【おう】


「分かった。医師団を迎えに行くのはいつでしょうか」

《出来れば、今、お願い出来ればと》

「場所はコチラで」

《了解》


 吸いながらを羽衣を使い、塔の下に移動し、空間を開く。


 医師団にすらギョッとされたが、直ぐに誰なのか気付いたらしく一瞬気まずそうにし、深々とお辞儀された。

 医師もか、マジで治さんといかんのかコレ。


 そのまま設営を見届けつつ、アレクへ連絡。


「医師団、来たぞ。動かせるか」

【むり、緊急事態】


「マジか。ちょっと数人良いですかね。アレク、塔の下で教会側」


 直ぐにも担架と機材と共に、数名が目の前にやって来た。


 アレクに空間を開いて貰い覗き込むと、患者の出血を押さえていたらしい。

 そら余裕無いよな。


「ごめん、瓦礫を退かしたら刺さってたのが」

「しゃあない」


 そうして医師団へ。

 手際は良いが、出血量が凄い。

 腹部大動脈の損傷。


 手を出さないと死ぬが、どうしたもんか。


『あの、すみません、このままじゃ』

「良いんですかね」


『お許し頂けるんであれば』


「それとコレは分けて、請うて欲しい」

『はい、お願い致します』


 大動脈と、その他の大きな血管の修復のみ。

 造血も、バイタルをギリギリまで戻した。


「他にもしますか」

『いえ、ありがとうございます』


 そのまま病院まで転移させ、血塗れのアレクは浮島へ戻らせ、再び塔の上へ。


 一服していると、空間が開いた。


「エミール」

『手伝わせて下さい』


「だめ、寝る時間でしょうに」

『寝付け無くて』


「そうかそうか、なるほどね」


 心配そうなパトリックにだけ見える様、透明な鍵を出す。

 頷いた、そうして了承を得た瞬間にエミールの首筋へ。


《もう、すっかり慣れたもんじゃな》

『じゃの!』

《そんな事しては、後で》

「良いんですよカールラ。ありがとうございますハナさん」

「いえいえ、浮島で良いかなパトリック」


「はい」


 エミールを抱えたパトリックを浮島へと送り返し、再び巡回へ。

 先頭はカールラにしたかったのだが、先程の件で後方に回られた。


 驚愕の眼差しを向けられ続けつつ、街を巡回。

 早く帰りたい。


【桜木さん、後続部隊の派遣をお願いしたいんですが】

「はい」


【座標を送ります】


 武装して無いか少し空間を開けて確認。


 アカン、武装はアカン。


「アカン、武装は最小限にさせて」


【それでも、最小限だそうで】

「却下、閉じまーす」


【少し相談させて下さい】

「宜しくどうぞ」


 こういう時にこそ、タケちゃんが居たらと思う。

 タケちゃんは、タケちゃんなら良い指導者になれたろうに。


【ナイフは、ダメですか】

「何で持つのよ、奪われてどうにかされたらどうするの」


【では、個人専用のスタンガンは】

「ならよし」


【はい、少しお待ち下さい】

「あいよ」


 治療師は足の切断までは治せないのか、治さないのか、軽い傷しか治さない。

 治すのは、不味いんだろうか。


 まぁ、良いか。

 骨と神経と筋肉だけ、そうしてまた先へと進む。


【桜木さん、お待たせしました、お願いします】


 武装チェック、オッケー。


「クーロンとカールラは空中で巡回へ、守ってあげて」

【了解】

《はい》


「お待たせしました、どうも、桜木花子です」


 意外にもこの外見に驚かない、もう顔写真が出回ってるんだろうか。


 第1部隊、第2部隊と各所に配置。


 衝突や揉め事は無し。


 続いて車両部隊、瓦礫の撤去らしいが。

 仕事を奪うべきかどうか。


 試しに何処に持って行くのか聞くと、ベガス手前のリサイクルセンターだそう。

 瓦礫を車両に移動させ、車両ごとリサイクルセンターへ空間移動で行ってみる。


 一気に処理とは行かないらしく、瓦礫を置き、再び転移。

 そうしてフラフラと各部隊を回っていると、アレクと鉢合わせた。


「メシ」

「減って無い」


「なら果物とか、何か胃に入れないと」


 マスカットを食いながら、懐かしい歌を思い出しながら瓦礫撤去へ。


 各部隊を周りつつピストン輸送、時々治療。


 普通に歩き疲れた。

 疲れって、治るんだろうか。


《休憩に行きましょう》

「おう、トイレ行くわ」


 浮島まで戻り、トイレへ。


 もうチャリで移動したいな。


 直ぐに塔に戻り一服しつつ、これから先どうなるのかショナに確認。


 インフラ整備はガス漏れ等が無いか確認されてから、電気系統を止めているのは国連の指示だそう。

 そもそも自治区はライフラインの全てを他所に依存してるんだとか、ただ水は止められてはいない。


 復興はかなり早そうだが。


 勿体無いな、教会。


「すみません桜木さん、上空からの捜索隊も宜しいでしょうか」

「うい」


 指定座標の上空に空間を開く。


 ヘリ6機、クソかっこいい。

 眺めてたいが。


「桜木さん?」

「のりたい」


「それは後程で、一旦はコレで移送完了ですから。ちゃんと休憩を」


「いや、まだあるやろ」


 先住の方達に謝罪をしに行かんと。


 人数は、最初に、最小限が良いだろうか。

 キセルを持ち、国連から派遣された人間と、ショナと共にご遺体の有った場所へ移動。




 桜木さんが清浄魔法を施し終えると、ハバスで出会った風体とは違う老人がやって来た。

 桜木さんのキセルに似たモノを持ち、桜木さんにだけ何かを話し、何かを渡している。


 笑ったり、ニコニコしたりと普通に話している様子だが。


「桜木さん」

「あ、気にしてないって。それよりそっちは大丈夫かって心配してくれてる、手伝える事が有れば言ってくれって」


「そうですか、そちらに何か、他の被害は無いんでしょうか?」

「ふふ、違う違う。無いって、黒い靄は避けたから、だから、そっちの心配してるらしい」

《そうでしたか、有り難う御座います》


「あー、まだ気が早いですよ、せめて復興してからで。いや、ぶっちゃけワイルドなのはちょっと、いや、マジで無理っす。あ、何か話したいみたいなんで、どうぞ」

《あの、改めてコチラからも謝》

『謝罪は結構だ、それより賠償を彼女にすべきでは無いのか?真の被害者は誰か見極めろ、それとも神託を降ろさねば考慮すらせんか?ふっふっふ』


 強烈な凄みを利かせながら、僕と大使にだけに聞こえる様に囁くき笑った。

 そうして再び桜木さんの元に戻り、何か話し、去って行った。


 確実に分かる事は、限りなく神や精霊に近い何か。

 大使の顔色が悪くなってしまった、初めて神性と出会ったのだろう。


「気を取り直して下さい、じゃないと桜木さんに気を遣わせる事になります」

《すみません【カーム】》


 鎮静魔法で持ち直せたのか顔色が戻り、桜木さんの元へと向かった。

 桜木さんはお酒を撒き、貰っていたベリーを発芽させている。


「どっこいしょ。それで、どうしますか」

《お手数お掛けしました、塔の下へ、戻ろうかと》


「うい」


 こんな風に桜木さんの手間を取らせるなら、透明な鍵を受け取っておくべきだった。

 桜木さんを眠らせる事が出来るだけでも有用なのだし、欲を言うなら、せめて空間移動を持っているべきだった。


 まだ、鍵は受け取れるだろうか。


《有り難う御座いました、後は我々に》

「却下、まだ大丈夫」

「桜木さん」


「却下、せめてエミールが起きるまで。もう数時間だけだ」


 欧州はまだ朝の7時過ぎ、先程眠ったばかり。

 魔素の消費も多かったそうで、昼に起きるかどうか。


「フルで動く気ですか」

「昼寝はする、ココで寝る」

《宜しければ、出血は最小だったそうですが、検査をさせて頂けないでしょうか》


「ほう」

「まだ魔王の不名誉は晴れませんか」

《これは純粋に、検査内容をご確認頂いて結構です》


「そうさせて頂きます」


 感染症、白血球数等の必要最低限の検査のみ。


 念の為にと横になり採血して頂く、疲れていたのかそのまま眠ってしまった。

 無防備にも程が。


《日頃、お昼寝される方だそうで》

「はい、容量が大きいので。魔道具で抑える検討でしょうか」


《そうでは無いのですが。はい、検討は既になされています、ご本人もお望みでらっしゃるとか》

「何でも望みを叶えれば良いワケでは無いのが、分かりませんかね」




 完全に、目の敵にされている。

 今までの国連の動きとしては、こうされても、こう思われても仕方無い。


 ただ、我々は反対派だった。

 最後まで桜木花子の味方だった、けれど、現に賛成派を抑えられずこの事態になったのだし、言うまい。

 賛成派をココに呼ぶワケにもいかない、コレも呑み込むのが我々の仕事。


 例え、本人に届かないとしても。




 サクラが眠ると、ショナがピリピリを全開にした。

 うん、大人気ない。


 アレも。

 何で、アレは嫉妬なんかになったんだろうか。


「なぁ、質問して良いか?」

《はい、私の答えられる範囲は限られるかも知れませんが、どうぞ》


「なんで、嫉妬なんだ?」


《皆さんの、まして桜木花子様のせいでも無いのですが。羨ましかったのです、様々な方々に囲まれて。この画像をどうぞ、教会のカメラの画像と、神獣コンスタンティンに共有された、マサコの記憶です》


 教会に有りそうな絵画の構図っぽい気もするけど、良く分らん。


 もう1つの映像のはキラキラしてるが。

 コレの何が羨ましいんだろうか。


「分らん、サクラはボロボロなんだし」

「この画像は?」

《大罪の強欲が桜木花子様と共同開発したと言っている魔道具の映像装置だそうで、試作にと、この映像を出力したそうです》


「あぁ、僕もその場に居ました。確かに、共同開発と言って良いかと」

《そうですか、更に検証すべきでは有りますが。そのままコレが証拠になるでしょう》

「何を知れば、どうして嫉妬したと分かるんだ?」


《ココの、宗教でしょうかね》

「えー、ショナは分かるのか?」

「はい」


「じゃあ良いや、ありがとう」

《いえ》




 元とは言え、魔王に礼を言われた事に驚いた、そこでまた自分の愚かさを理解してしまった。

 彼は人間に戻ったと知っている筈なのに、魔王では無いと分かっているのに。


 だから、この従者や召喚者に邪険にされているのかも知れない。

 ましてや嘘を見抜く魔道具を持ち、そして勘が良いと噂されている召喚者様の周りに居られる方達なのだし。


 そして先住の老人の言葉もそう。

 所詮、自分は国連の人間だからと穿ち、評価を見誤っていたかも知れない。


 侮りを、見破られたのかも知れない。


「なぁショナ、サクラが起きて何かしなくても良い様に、もう少し動きたいんだけど」

「そうですけど、誰か付けておかないと」


「蜜仍で良いんじゃないか、最悪は影に入れるって言ってたし」

「そんな、抜け出せ無くなったら」


「俺か長が何とかする、殺されるよしマシだろ」


「そうですね」

「だろ、呼んでくる」




 アレクさんに呼ばれ、桜木様に付き添う様にと言われたが。

 精霊さんも居るんだし、平気だと思うんだけどな。


「僕、もう少し動けますけど」

「桜木さんに活動時間を知られたら、皆が怒られるんですから、我慢して下さい」


「はーい。精霊さん、僕が居なくても平気でしょ」

《はい》


「ですよね、大人は心配性ですね」

《見栄、見栄え、威光。大事にしているとアピールするには不可欠です》


「そっか、今は、良い夢を見てるのかな」


《秘密です》

「ふふ、もし見てるなら、良い夢だと良いな。ココはこんな状況だし」






 トイレにと起きると、蜜仍君がコチラをジッと見ていた。

 何か寝言でも言ってたんかしら。


「おはよう」

「おはようございます。45分位ですよ、眠ってたの」


「君はもう帰りんさい」

「えー、ショナさん、起きたら帰投命令出されちゃったんですけど」

【でしょうね、帰って休んで下さい】


「そうだぞ、ほれ」


「でも」

「まぁまぁ」


 頭を撫でるついでに、透明な鍵に触れさせる。

 強いな鍵、凄いぞ鍵よ。


 そすいsて浮島に空間を開くと、目の前にはロキ。


『あーあ、怒られちゃうよ?』

「休憩させるだけだし、頼むよロキ」


『うん、ベッドに寝かせてくるよ』

「ありがとう、ごめんね顎で使って」


『ふふ、もっと使って、じゃあね』


 嬉しいが、後ろを振り向くと何人かが固まっていた。

 どれだ、どの。


 まぁ、もう良いか。


「国連のお方や」


《はい》

「制御具の事はご存じですか」


《はい》

「はい、どうぞ」


《え、あ》

「まだですが、ココが終わったら使って下さい。ワシに」


《いや、コレは》

「直ぐに皆さんの誤解が解ければ必要無いでしょうが、安心させるにはコレが2番かと」


《その、相談を》

「1番は死ぬ事ですが、生憎と死ぬ気は無いので、すみませんがコレで手打ちとして下さい」


《ダメですよ、お返しします》

「ほう、なら強制的に受け取らせましょうかね。今から国連に行きましょう」




 また、少し離れた隙に、桜木さんに強硬手段に出られてしまった。

 国連へ行き、制御具と工具にマスターキーまでも提出し、戻って来てしまった。


「桜木さん」

「渡しただけだ」


「それでも」

「見聞きした、驚き怯える顔、雰囲気、表情を見た。もうお腹いっぱいだ、安心させたい」


「すみません」

「いや、それは良いんだ。良い人間に酷い態度を取った奴は、後々で知って悔いて死ねば良い、でも、そうじゃ無い人間も居る。それを安心させたい」


《本当に、申し訳》

「ダメだ、終わってから、アナタは最後にだ。ワシに直接謝れないのも居るんだし、抜け駆けは良くないかと」


《はい、ありがとうございます》

「おう、どうぞ業務にお戻りなすって。他も、ショナもだ」


「はい」


 鍵を、受け取っておけば良かった。




 私も目を離してしまった。

 ご主人様が国連へ魔道具を提出し、帰って来た直後、ショナからもう離れるなとの命を受け、一緒に居る事になった。


「まだ落ち込みますか」

《申し訳御座いません》


「大丈夫、ワシは最低でも205人見殺しにした」

《ご主人様、ココでは》


「コレは、皆に知る権利が有る。過剰な崇拝がこの結果なら、そうは思わんかね」

《それでも、時期と言うモノが》


「そうしたから、こうなったんだろう」


 国連の人間にも、医療班にも聞かれてしまった。

 どうして。

 私が、落ち込んでいるから。


《申し訳ご》

「謝ったら送り返すぞ、まだ0才児なんだから」


《それでも》




 ショナに言われ、隠れてサクラを見張ってたが、案の定カールラも眠らせた。

 カールラより小さいのに、よろけて近くの隊員に支えられてんの。


「バカだなぁ」

「サイズ差な、紫苑だったら良かったのにな」


「直ぐ戻る、ショナはやめろよ、拗れるだけだから」

「おう、でもこうなったら君もするからな、覚えておけよ」


「おう」


 浮島のロキに任せ、直ぐに戻った。

 良かった、ショナはまだ眠らせてない。


「せんよ、アレは少し休憩が必要だったろう」

「だな、サクラも」


「仮眠したし大丈夫、もうアホ程寝たし。今日だけ、エミールが起きるまでだ」

「約束な」


「だからって起こすなよ、殺すぞ」

「しないしない、まだ殺されたく無いし。それより、もうベール被っても良いと思うんだけど」


「だが断る。普通に生きる為だ」

【アレク、救援をお願いします】


「ちょっと行ってくるけど」

「ついてく」


「だよねぇ」


 その返答に期待して聞いた。

 それからは一緒に治して周り、送り出したり、瓦礫の撤去を手伝った。


 疲れて、目が座って無表情、でも何にも言わないで。

 サクラにこんな事をさせて、バカみたいだ。


「なに、顔に何か付いてるか」

「いや、ショナ。そう言えば柏木さんから呼び出しは無いんだっけ」


【あ、はい。報告しに】

「嘘、バレてるが」

「コレもダメかぁ」


【ダメでしたか】

「休憩はする」

「頼む、体力無いだろ」


「まぁね、憎らしいよ」


 紫苑として出て来なかった事が、奇跡なんだよな。

 花子には何の執着も無いのに。


 多分、俺らの為に、花子で戻って来てくれた。

 それなのに、こんな事をさせ続けてる。




 アレクの分際で罠に嵌めようとは、中々に良い子に育ってるな。

 やっぱ、そろそろベールを被るべきか。


 いや、半分は一般人として動く為、もう半分は、意地だ。


 そしてココまでこう、感謝されないと逆に清々しいもので。

 なんなら、ハイな青鬼さんの気分なワケだが。


 ハイは不味いか。


 落ち着こう。

 直ぐ先の事を考えよう。

 帰ったら風呂に入って、先生と面談しながら飯だろう。


 その先は、どうしたら良いんだろう。


《なんじゃ、腹でも壊したか?》

「いや、どうしようかと」

『帰るなら、そっと帰るのが良いだろう。壮大な見送りをされてしまうぞ』


「あぁ、面倒くせぇ、考えとくわ」


 ソラちゃんに全力を出して貰い、瓦礫の撤去。


 重症者をじゃんじゃん治していると、左手が擦り潰されてしまった患者を見付けた。


 ワシので悪いが切り落とし、くっつけてみた。


 いけるんかい、流石や。

 遺伝子組み換えに骨髄の入れ替わりも問題無し、コレで免疫も何も問題無いだろう。


「ちょ、サクラ」

「短気なんだわ、後で補充する」


「足は止めて欲しいんだけど」

「それは不自由だからせんよ」


 手袋の交換はソラちゃんに頼み。


 うん、やっぱ治すの楽しいな。


「桜木さん」

「フィンランド、もう行けるんじゃろ」


「そうですけど」

「国連の、腕、良いか?」

《少し、連絡させて下さい』》


 その間にもじゃんじゃん治す。

 今だけ、非常事態だけ。


 妊娠初期の怪我人、気付いてるのかな。


 翠ちゃん、もう産まれたかな。


「おめでとうございます」

『へ、あ、え、ありがとうございます』


「初期なんで、改めて医者に確認させて下さい」

『はい、ありがとうございます』


 喜んでる、良かった。




【ショナ、アレ、良いのか?】

「先生と相談中です」


【あぁ】


 万が一、桜木さんが躁状態になればと抑制の許可は出ているが。

 躁状態と言うか、ヤケと言うか。


【それで、ヤケに見えますか】

「そうですね」


【躁で無いなら、辛そうで無いならほっときましょう。過剰な介入は、ストレスになりますから】

「でも」


【鍵、受け取るべきでしたね】

「はい、コレからでも間に合うんでしょうか」


【聞いてみたら良いんじゃないですかね】


「はい」

【では】




「桜木さん」

「へい」


「鍵はまだ間に合いますか」

「ダメでしょう、厄災終わったんだし」


 しょんぼりしてんの、初めて見るな。

 可愛いな。


『しょうがないのぅ』


 ミニシバッカルが触れ、ショナが崩れ落ち。

 危ない、医療班の人間がショナを支えてくれたから良いものを。


「すみません、申し訳無い」

『いえ。今車椅子を』


 車椅子が来たので急いで載せて貰ったが、危ない事を。


「マジでやめて」

『ふふ、お主の事じゃから最早、厄災は関係無いんじゃよぅ』

《うん、気に入ったぞぃ、やるのぅ》

『はぁ、すまんなハナ』

「君等さ、もう、一般の方には見えても聞こえても無いだろうに」


『素質が有るモノは別じゃよ』

《じゃの》

『今更、独り言と気にするか』


「おう、既に向こうで赤っ恥をかいたんでな」

『3じゃな、山奥で』

《ふふふ、後から知ってのぅ》

『まぁ、ココではまた別だろう。なんせお前は』


「召喚者、そして元魔王」

『似合っておるぞぃ白髪もな』

《苦労が良く現れておるでな》

『今もなお、苦労をし続けてな』


「今は仕方無い、で、いつ」

「桜木さん」


「早いな、あ、時間稼ぎか」

『ふふふ』

《さ、逃げるかの》

『だな』


「君ね、医療班の方に先ずはお礼を言いなさい。抱き止めて、車椅子まで用意してくれたんだぞ」

「はい」




 僕がお礼を言っている間に、また治療に戻ってしまった。


 嬉しそうに。

 そんなに、楽しいんだろうか。


『あの、今さっき倒れられたのは』

「あぁ、大丈夫です、お気になさらず。一時的な事で、もう無い筈ですから」


『噂は、本当なんですね』

「どの事でしょうか」


『あ、いや、シバッカル神です。少女を匿っていると、医療関係の間で噂になってまして』

「桜木さんには」


『言ってはいません、我々は業務以外話すなと言われてますので』

「そうでしたか、コレからも是非そうして下さい」


 イザとなったら、鍵を使おう。

 でも乱発したら、きっと本当に嫌われてしまう。




『おはようございます』

「エミール、もう良いの?」


『はい、でも直ぐに引き上げますよ、お腹が減って起きただけなんで。一緒に食べましょう』

「上手い、ロキか」


『はい』


「分かった。このまま帰るかな、ショナ」

「はい」


 アレクはほっといて、ショナとクーロンを連れ浮島へ。

 長く感じたのに、ココはまだ日が落ちたばかり。


 先ずは軽くお風呂、それから小屋へ。


「桜木様ぁ、ズルいですよー」

「念の為じゃ、許せ」

《んー》


「嫉妬ドリルさん、切り替わったか?」

《うん》


 エミールと先生、蜜仍君、ミーシャとショナ、カールラとクーロンと食事。

 観覧席にはロキ。


 しかも明石焼き、コレはズルい。


「コレはズルいわ、早食い不可で直ぐに戻れない」

『良いアイデアでしょ?』


「だな、まさか先生も」

《提案には賛成しました》


「過度の介入には」

『全部が終わったワケじゃ無いし、召し上げ前提だから甘くしても問題無し。でしょ?』

《じゃな、良くも悪くもな》

《まぁ、そう言う事ですので、全力でお力添えして貰います》


「先生までロキに汚染されたか」

《良い汚染なら受け入れるまでですよ》


「あぁ、ショナは汚染されてくれるなよ」

「善処はします。はい、出来ましたよ」


「あぁー、うまぃー」

『ですねー』

「良かったぁ」


 何個もの卵を食べ、ある程度満たされた所で妖精紫苑に変身し、今度は作る側へと回る。


 銅板、買って正解だな。

 普通に楽しいわ。


「こうなると、クレープ作って食いたくなるな」

「甘いのですか?」


「いや、粉物系から連想しただけで、ツナレタスとか普通に食いたい」

『ガレットじゃ無いんですよね?』


「あ、エミールは分からんか、こんなんよ」

『パンケーキって言ってますね』

「この、レシピですかね」


『そうです、四句節に…もう、僕も改宗しようかな』

「これ、天使さんが悲しむべ」


《良いんですよ、前の世界にも、ココにも縛られる必要は無いのですから》

『ありがとうございます。それで、ハ、シオンさんて』

「何て言ったら良いんだろな、全部信じちゃう派」

《それなんですが、転生者から謎の、空飛ぶスパゲッティモンスター教なる話を耳にしたのですが、知ってますか》


「あぁ、それな、それも好き」

『本当に有るんですか?』


「赤い玉と同じで、ちゃんと有りますし。リズちゃん知ってるかなぁ」


 それからはタブレットで、リズちゃんとの会議が始まった。

 リズちゃんは知らなかったらしいが、記録には有るらしく、解説から討論へと流れて行った。


『本当に、有るんですね』

「良い教義じゃろ」

「ですねー」

《そうですね、地獄には炭酸の抜けたビールが有って、ラスベガスと同じ。ですか》


『僕、コレにします。善なるもの全てを信じ、善ならざるもの全てに反対する』

「もう少し冷静に考えような」

【桜木の背が低いのは、スパゲッティモンスターに、頭をこう】


《何味なんでしょうね》

【俺はカルボナーラが良いな】

「たらこ」

「僕もたらこかなー」

『折角なら、ボロネーゼで』


「ショナは何のパスタが好きか」

「ナポリタンですかね、粉チーズをたっぷりで」

【何か話が、まぁ良いか。先生はどうなんだ?】

《ペペロンチーノで》


「あぁ、今度はパスタ祭りしよう」

『良いですね、クレープもしましょう』


 映画館で、何か観たのかと思わず聞きそうになってしまった。

 そうだとしても問題無いのに。


 それなのに、思い出が思い出を追い越して、上書きされて。


 ダメだ、マジで疲れてるのかも知れん。


「ちょっと外で休憩してくるわ、焼いといて」

「じゃあ、蜜仍君お願いしますね」

「はーい」


 今日の突拍子も無い行動のせいで、ロキが付き添いに。

 ショナは窓辺でコチラを監視。


『何か思い出した?』

「映画館、観た?」


『ううん、観て欲しいって直接言われなかったし。俺のせいで何かあったら嫌だったから』

「今日から観てどうぞ。第3の、身柱の好物なんよ、ナポリタン。最近増えた好物、本場のピザで目覚めて、喫茶店で食べて、家でも作って。トマトとチーズにドハマリよ」


『お嫁さんだっけ』

「まぁ、もう向こうでも、離縁にはなっとるかも知れんがな。時間の流れ、分からんし」


『また繭に籠もる?手伝うよ?』

「もうせんよ、逃げも隠れもせん」


『それこそもう、終わったんだから良いんじゃ無い?』

「エミールに負担がいく事はしないよ」


『なら頑張り過ぎちゃダメだよね、真似されたら困るでしょ』

「おう、疲れは自覚した。ナポリタンで思考停止したからな」


『じゃあ、ゆっくり休もう』

「おう」




 桜木花子がナポリタンでフリーズした。

 そして暫くしてから一服そ、いつも通り、報告書通りの行動をし、部屋で入眠したのを確認。


 相談する気が無かったのか、疲れか。

 または両方なのか。


《祥那君、鍵はどうでしょうか》

「あ、はい、まだ使ってませんが。コチラです」


《綺麗ですね、蝶ですか》

「はい、桜木さんの蠟燭蝶が思い浮かんだら、こうなりました」


 第3での報告に有った鍵に似ているが。

 コレが、こういった事が桜木花子へ何かしらの影響を及ぼす可能性は、否定出来ない。

 目覚める前に、無理にでも彼に映画館へ行かせていれば。


 いや、もしかしたらコレすらも、ソロモン神の意図なのだろうか。

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