スキルが1つで、何が悪い?

あっつー

序章

プロローグ➀

 俺の名前は、佐藤優紀。父は中小企業に勤めるサラリーマン、母は専業主婦の、ごく一般的な家庭に生まれた。我慢することもいくらかあったが、日常生活面では特に不自由なく幼少期を過ごし、地元の中堅公立高校に入学した。そして、高校の3年間を過ごす中で、教育分野に興味が出てきたので、隣の県の某国立大学の教育学部を受験し、何とか合格した・・・。

 その俺は今、壁も照明も何もかも真っ白な部屋に一人でいる。部屋の大きさは、だいたい10畳ぐらいだろうか。自分でこの部屋に来た記憶は一切ない。しかし、その理由は分かっている。非常にシンプルな話だ。

俺は、20歳という若さであっけなく死んだのだ・・・。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 今日は、たまたま休講が2つあり、1限だけしかない日だった。俺は、9時からの1限目の講義に出席し、いつも通り、感想レポートを書いて提出した。どのサークルにも入っていない俺に、特に親しい友人はおらず、講義が終わると、すぐに大学のキャンパスを出た。歩いてアパートに帰る途中、いつもの横断歩道で立ち止まった。俺は、つい最近買い替えたスマホを右ポケットからおもむろに取り出し、よく見ているニュースサイトを開いた。

 

 交通量はそこまで多くない交差点の横断歩道だったが、今日はいつもよりも少しだけ車通りが多い感じがした。横断歩道の信号が青になったのを確認した俺は、スマホを再び右ポケットにしまい、ゆっくりと歩き出した。今日の昼食をどうするか考えながら歩いていると、右側から徐々に大きくなる音に気がついた。すぐに右側を向くと、猛烈なスピードでこの横断歩道に突っ込もうとするトラックの姿が見えた。そして、それと同時に、運転席の人物がスマホ見ながら運転しているのが分かった。そう、トラック運転手は、信号が赤だと気づいていないのだ。俺はその瞬間、死を覚悟した。声をあげる余裕もない。交差点の規制速度は確か時速50㎞だったと思うが、トラックのスピードはそれをはるかに超えているだろう。今から全速力で横断歩道を渡っても、絶対に間に合わない。俺は心の中で、両親や高校時代の友人、バイト先の店長や同僚の顔を思い出しながら、静かに目を閉じた・・・。


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 つい先ほどまでの記憶を思い出し、改めて死んだことを自覚した。となると、自分が今いる真っ白い部屋は、あの世のどこかなのだろう。もしくは、あの世とこの世の繋ぐ入口のような場所かもしれない。

 

 「それにしても・・・」


 ここまでの経緯を頭の中で整理したが、一つだけ腑に落ちないことがある。それは・・・


 「いくらなんでも、死者を待たせすぎだろ。」


 そう、俺はこの真っ白い部屋でずっと一人で待機させられているのだ。体感では、もう2時間以上待っている。おいおい、さすがにおかしくないか。まぁ、この待ち時間のおかけで、頭の中で色々と整理できたのは間違いない。でも、それとこれとは別だ。ラノベや漫画、アニメのように、麗しい女神が現れて「ようこそ、死後の世界へ」とか、強面の屈強な閻魔大王が現れて「よくぞ来たな、黄泉の国へ」とか、そういう展開があって、しかるべきだと思うんですが!!

 

 いやいや、さすがに、2時間は待たせすぎでしょ・・・。時間ありすぎて、俺この部屋の隅々まで調べちゃったよ。何なら、暇すぎて、筋トレしまくったよ。白200色あるとか聞いたから、この部屋の白も何色あるか数えたよ。


 「・・・ったく、いつまで待たせるんだよ!!」 

 

  待たされすぎて、飲食店でよく見かけるクレーマーみたいなこと言っちゃったぜ。

 

 と、そのとき、上空から眩い輝きを放つ赤い光が突如として現れた。そして、明々とした巨大な赤光は急降下して、俺の目の前でピタッと止まった。


 「え、何これ?」 


 俺の疑問に返答はなく、燦然たる赤光は一気にその輝きを大きくした。


 「うわっ、まぶしっ⁉」


 眼前で強烈な輝きを放たれたため、俺は思わず瞼を閉じた。

 

 ・・・あぶな、網膜ごと焼かれるかと思ったわ。


 輝きが収まるのを待って、おもむろに目を開けると、そこには一人の美しい女性が立っていた。


 テレビで見るようなアイドルとは、一線を画す可憐な美貌、淡く透き通った紫色の長い髪、一流のモデルのような躰。見た目の年齢は、俺よりも2つか3つ下くらいか。

 童貞の俺がもし生前に出会っていれば、十中八九、いや間違いなく、恋に落ちていたはずだ。しかし、俺はその女性 ―まぁ恐らく女神の類だろう― を見て、非常に冷めている。実家の冷凍庫の中よりも冷え切っていると思う。うん、確かに、見てくれは完璧だ。ただ一つ、文句があるとすれば・・・・・・


 「おい・・・」


 俺は、静かに口を開いた。 


 「・・・」

 

 女神(仮)はバツが悪そうに、目をそらせながら、無言を貫く。


 「その格好・・・」

 

 そう、文句があるとすれば、その服装と右手にギュッと抱えている物だ。

 

 「・・・さっきまで寝てたろ。」

 

 女神(仮)の恰好から容易に推測できる正解を、俺は淡々と言った。すると、女神(仮)は俺の目を真っすぐ見て、最大限の微笑みを浮かべた。絶世の美女の微笑みだ、普段の俺であれば、一瞬で惚れていただろう。そして、女神(仮)は微笑みながら、左手でつくったグーを自分の頭につけ、舌を出しながら・・・

 

 「テヘペロ♥」

 「なめんなー!!!!!」

 

 全身パジャマ、右手にふわふわの高級枕を抱えた女神(仮)に向かって、俺は生前で出したこともないような大声で叫んだ。

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