ホシゴト* 〜星を集めるだけのお仕事〜

御角

プロローグ

星降る夜に落ちた僕

 星のカケラ、それは全ての力のみなもとぼくの住む惑星わくせいでは、そのエネルギーがなければだれも彼も生活することすらままならない。暗い夜を照らす明かりも、まちを走り飛びまわる車も、今まさに自分が乗っている宇宙船も……。僕らのくらしを豊かにする様々な道具は、みんな星のカケラによってその役目をはたすことができるのだ。

 だから僕は星をあつめる。星のカケラの元となる小さな原石を、わざわざこんなにとおいところまでさがしまわって一つ一つひろい上げる。それが僕にあたえられた唯一ゆいいつの仕事だ。

 いっしょに来ていたはずの仲間たちはもう星をあつめ終わったらしく、いつのまにか僕は知らない宇宙にひとりぼっちとなっていた。まだこの仕事を始めてまもない僕を待ってくれるようなお人好ひとよしは、残念ながら一人もいなかったみたいだ。

 ただよう星をおぼつかない手でつかみ、転送装置てんそうそうちに向かって放り投げていく。こんなにみにくくて汚いただの石ころが、本当にあの、きれいで美しい星のカケラになるのだろうか? ただ星をひろいあつめるしかのうがない僕ではそんな事、いくらかんがえたってわかりっこない。


 ふと、まわりをただよい流れる星がそのいきおいをしたような気がした。いつもより数が多い。これは、またとないチャンスだ。

 僕は流れる星を必死ひっしで追いかけ、次々と宇宙船うちゅうせんにつめこんでいく。母星ぼせいへの転送が追いつかないほど大量の原石。こんなにあつめたのはきっと僕が初めてにちがいない。転送先でこしをかす仲間たちを思いうかべると、思わずみがこぼれてしまう。僕は無我むが夢中むちゅうで手を動かし続けた。「必ずまわりを警戒けいかいする」という仕事における基本中の基本なんて、この時はすっかりわすれていた。


 不意に、体全体に衝撃しょうげきが走って、宇宙船がぐらりとかたむく。大量の、おびただしい数の隕石いんせきの雨。あわてて旋回せんかいしようとした時にはもうおそく、船は眼下がんかの青い惑星に引きずりこまれ、僕を乗せたまま、周囲しゅういの星にじって大気圏たいきけんをころがり落ちていった。

 もはや操作そうさはきかない。自分には不つり合いなほどハイテクノロジーな相棒あいぼうが、悲鳴を上げながら空にしずんでいく。それでも形をたもっているのは星のカケラのおかげか、それとも船の素材そざいのおかげか、えさかる宇宙船の中でそんなのんきなことを考えながら、僕は全身に走る重力にたえられず、からっぽの意識いしきをそっと手放てばなした。


 ——そして気がついた時には、動力を失いガラクタと化したすっからかんの宇宙船と、仕事に失敗したあげく、見知らぬ惑星に墜落ついらくしてしまった出来そこないの僕だけが、あれた大地にさびしく取りのこされていた。どうやら宇宙船を動かしていた五つの星のカケラは、全てあの流星群りゅうせいぐんにまぎれてちらばってしまったらしい。

 このままでは、宇宙船は動かない。つまり、家に帰ることが出来ない。当然、むかえが来るはずもない。母星と通信することすら、星のカケラがなければ不可能なのだ。


「……そうだ、マニュアル!」


 非常事態ひじょうじたいにそなえ、船にはたくさんの書類がはりつけられていた。衝撃ではがれかかったその紙を一枚、乱暴に取ろうとすると、おまけだと言わんばかりにいくつもの紙が僕の体をおおっていく。どうしてこうも、自分はどんくさいのだろう。


「えーっと、なになに……? 星のカケラを紛失ふんしつした時の対処法たいしょほう。その一、星のカケラは強いねがいに反応し、その心にひかれる性質がある。その二、心にひかれ、その中に溶けてしまったカケラは、願いがかなう、あるいは、あきらめられるまで取り出すことは出来ない。その三、カケラは支給されたコンパスをつかって探せ。……これだけ?」


 コンパスとはあつめる星を探す時にもちいる、いわゆる仕事道具のことだ。首からだらしなく下げられた、まだ真新しいその道具が、たしかに少し光りかがやいているようにも見える。あれはてた大地のその先……森をかき分けた先に見える、大きなたてもののれ。暗闇くらやみにともる光に混じって、たしかにきらめく希望きぼうのカケラ。


「……そうだ、あつめるのなんて、いつもやっていることじゃないか」


 いまだふりそそぐ光の雨をあおぎ見ながら、僕は決心をかためた。

 いまこそ、星に願いを。僕がきちんと仕事を終えて、無事ぶじに家まで帰れますように。


 とおくの方で、出おくれた流れ星が一筋、キラリと僕にほほえんだ気がした。

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