Day.17 その名前

 夏休み直前のクラスで囁かれる噂。

『放課後の教室に独りで居ると、不思議と誰かがいる気配がする』

 それを僕は手遅れにも「独り」、「放課後の教室」で思い出していた。

 教科書を机に忘れて取りにきて鞄にしまっている最中のことだ。

 後ろに「誰か」が居る。

 その「誰か」には名前が付いていた筈だ。確か――。

「ダメだよ、サトウ君」

 凛と響く声は教室の入口から。

 途端に消える「誰か」の気配。

「ヒトミさん?」

 はたして教室のドアのところに立っていたのはヒトミさんだった。

「ヒトもモノも名付けることで存在しているから、ソレを呼んではいけないよ。名付けなければ、名前を与えなければ消えるのだから」

 それに、とヒトミさんは更に言葉を続けた。

「サトウ君は私の名前だって呼んでくれないのに、そういうモノの名を呼ぶなんて妬けてしまうじゃないか」

 ヒトミさんの名前を呼ぶなんて。

 そんな烏滸がましいこと、僕にはできないから僕は僕なりに反論する。

「ヒトミさんだって僕の名前呼んでくれないからお互い様だよ」

「私がサトウ君を名前で呼んでいいの?」

 悪戯めいたヒトミさんの笑み。

 そんなヒトミさんに僕の名前を呼ばれるなんて。

「やっぱり、だめ!」

 僕が恥ずかしくて死んじゃうから。

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