Day.2 金魚

 ヒトミさんが金魚を食べていた。

 長くて優雅な尾鰭を咥えると、氷のような硝子のようなパリンッという小気味良い音が唇から発せられて尾鰭だったものがヒトミさんの口の中に消えていく。

「それ、食べられるものだったんだね」

 思わず呟くと尾鰭を咀嚼したヒトミさんが僕に腹に棒が刺さった金魚を差し出した。差し出された金魚から香るのは、生臭い魚の匂いなんかじゃなくて甘い甘い香り。思わず生唾を飲み込んでしまったのは甘い香りに誘われたからで、間違ってもヒトミさんの食べているものを共有出来るからではないと思いたい。

「飴細工だからね、食べられなければ意味が無いだろう。ほら、サトウ君も」

 ヒトミさんの持つ金魚は綺麗な飴細工だった。

 そんな金魚の何にも考えていないポカリと開いた口が眼前に迫る。

 何てアホ面なんだろう。

 差し出され続けて、ついペロリと舐める。やはりというか、金魚は甘い。

「うーん、なかなか減らないね」

 そう言ってヒトミさんは金魚を舐めた。

「うん、甘い」

 ヒトミさんが舐めた。

 僕が舐めた金魚の口を。

 つまり、それは間接キスというやつじゃないか。

 僕の顔はきっと金魚よりも真っ赤に染まった。

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