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@amami-kira
第1話《お前の顔は忘れない》
PM22:45
華やいでいる街から少し離れ、
暗い道の路地を曲がると古びた一件のBARがある。
店内には酒に酔いしれた老人や、恋に堕ち愛を語り合う男女。
それぞれが、それぞれに合った酒を楽しんでいる。
そんな中・・・
BARの奥の方から大きな物音がし、大声で怒鳴る男の声が聞こえてくる。その辺りにいた客人達は、どうやら喧嘩が今にも始まりそうな雰囲気を感じ、その場から離れようとしていた。
店内の奥で「7対1」の喧嘩がはじまり、喧嘩相手の7人のうちの一人がビール瓶を手に握り締め、一人で立ち向かってくる黒い服の男の頭をめがけてビール瓶を振り下ろす。
すると、
ビール瓶の割れた音と同時に、瓶の破片があたりに散らばる。
痛みからなのか、ビール瓶で頭を殴られた男の動きが一瞬止まる。だが次の瞬間、黒い服の男が、これ程にもない凄まじい激しい動きで7人を相手に立ち向かい反撃をする。
先ほどビール瓶で頭を殴られたが、黒い服の男には効果がなかったようだ。黒い服の男は、怯むことなく7人相手に激しい動きで立ち向かって行く。
その黒い服の男の名は、リック。
やがて、
店の外では無数のパトカーがサイレンを鳴らし、
喧嘩が行われている古びたBARへと向かっている。
一方、
BARの店内の中で激闘をしているリックは、遠くから微かに聞こえるパトカーのサイレンに気付き、喧嘩相手のボス風の男を除いた6人を一撃ずつで仕留めていった。
あまりのリックの強さに腰が引けているボス風の男は、後退りを始める。
リックは振り返り、ボス風の男にゆっくりと詰め寄る。
横たわる椅子にぶつかり転倒したボス風の男は、尻を地面に擦りつけながらも後退りをするが、横たわっているテーブルに背中がぶつかり、後退りが出来ない状況に陥った。
更に、リックはボス風の男との距離をゆっくり、ゆっくりと縮める。
このままでは殺される、、、
恐怖のあまり、この世の終わりを迎えるかの様な表情を浮かべているボス風の男に、やがてリックは辿り着く。
目の前に立ちはだかり鋭い視線で睨み付け、ボス風の男に向けて
強烈な蹴りをリックは放った。
今、この場の全ての事から逃れたいと祈るような気持ちで強く目を閉じているボス風の男は、ゆっくりと瞳を開け、リックの蹴りによって壊れたテーブルを横目に、その場に倒れ込む。
リックは、倒れ込んだボス風の男の上に圧し掛かり
ゆっくりと人差し指をボス風の男に向け
そのあと人差し指を自分の頭に当てながら、こう言った。
「お前の顔は忘れない」
そう言い残し、
ゆっくりと立ち上がったリックは、古びたBARを後にする。
喧嘩によって大騒動となったBARの外には、数台のパトカーの赤色灯が辺りを照らし、警戒をしている警察隊の姿が伺える。
一人の警官がリックの姿を目撃し、無線機で全警察隊に報告する。
その様子に、素早く気付く。「またか…」
そしてリックは、一瞬立ち止まり、ゆっくりと瞳を閉じる。
~瞳の裏側~思考回路~脳内~
リックの瞳にモヤモヤと微かにと浮かぶ街の景色は、この状況を抜け出す為の脱出路の様な地図に変わり、鮮明にリックの瞳に映し出される。
華やいだ街の大通りや、あまり目立たないような暗がりにある小路や廃墟。
そして今にも蕾が開花しそうな植物や若葉の目など、一度でも脳裏に取り入れた情報は忘れる事無く、記憶に焼き付ける。
リックの記憶力は人の領域を遥かに超えていた。
警察隊の動きを予測し、警察隊の手から逃れる為の抜け出せる道をみいだす。
「捕まえられるものなら、この俺を捕まえてみろ」
リックは、ゆっくりと深呼吸をし、「ゲームスタート!」
辺りを警戒しながら、「レディーゴー!」
夜の暗闇の中、街の中を走り出すリック。
警察隊はリックが動き出した事を確認すると、逃げるリックの後を追う様に走り出す警官や、パトカーに乗り込む警官。
「また上手いこと、逃げきられちゃうんじゃないですかぁ~」
などと、既に結末を口にする新人警官までいる。
すると、新人警官の上司にあたる男が言った。
「知っているか?働かざる者、食うべからず。っという、
日本の古い言葉があることを」
その言葉の意味を真剣に考える新人警官だが、
答えが見つからない様子を感じ取った上司の警官が言った。
「お前みたいな奴の事を言うんだよ。
働かざる者、食うべからず。ってな」
驚いた表情を見せる新人警官の肩を軽く叩きながら
「働かない奴は食う資格がないって事だ。
働かない奴に給与を与える必要がないって事だ」
上司の警官がそう言うと、新人警官の表情が一変する。
「職務を真っ当致します」新人警官は敬礼をする。
「理解したら、さっさとあの男を捕まえてこい!」
「待てぇ~~~」
リックに向かって全速力で新人警官は走って行った。
やれやれといった表情を浮かべる上司の警官。
その頃、
リックは道に迷う事なく、
自分自身で見出した逃げ道をひたすら走り続けている。
リックが警察から逃げだすのは今回が初めてではなく、
リックは幾度も警察隊を嘲笑うかの様に、巧みに逃げきっていた。路地を曲がり、暗闇の階段を上り、警察隊の検問というありとあらゆる場所に張り巡らされた網から逃れる。
「ここを過ぎれば…ゲームセットだ」
難無く、リックは警察隊の手から逃れる事が出来た。
リックが暫く暗闇の道を歩いていると、暗闇の向こう側に、
うっすらと人影が見えるのをリックは素早く気付いていた。
やがて、その人影はゆっくりとリックの方へと身体の向きを変える。
「?」
何かを感じたリックは、その人影に向かって全速力で走り出す。
暗闇の中の人影の横を通りすぎるころ、その人影の手の中に
うっすらとではあるが懐中時計らしき物があるのが一瞬見えた。
数十メートル離れた所でリックは立ち止まり、
少し息を切らせながら振り返り、暗闇の中の人影の方を見る。
だが既に、暗闇の中の人影の姿は無い。
「懐中時計…」
リックはポケットから煙草を取り出し、
上着の左ポケットにあるジッポライターを取り出して、
煙草に火を付けて夜空に向け、煙草の煙を吐き出す。
やがてリックは夜の暗闇の中へ、ゆっくりと消えていった。
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