第14話 もちろん全部しってた(嘘)

 え? また接近戦?

 学習能力ないな、接近戦だと駆け引きもクソもないからつまらねぇんだよなぁ。

 お、さっきより速いな⋯⋯これは魔将軍でも見たことのないレベルだな。


 あ、剣に松明の光が反射した、眩しっ!

 一瞬、目を瞑っちゃったよ。


 んじゃとりあえずパンチ⋯⋯っと、あっぶね、死んじゃうじゃん。

 寸止めしたものの、どうしよっかな。


 ⋯⋯なんか、動き止まったな。

 とりあえず、デコピンでもするか。

 流石に死なんだろう。


 えい、ペチィ!



 ⋯⋯って感じで、戦いは終わった。

 いや、戦いでもないか。


 んじゃ、あとはコイツが目を覚ましたら、勇者の居所でも聞き出そう。

 

「だ、旦那⋯⋯大丈夫かい?」


 ロクサーヌが心配そうに話しかけてきた。

 

「ああ。大丈夫だ。こいつはちゃんと生きてる、殺しちゃいない」


「そうじゃないけど⋯⋯大丈夫そうだね」


 ロクサーヌがほっと胸を撫でおろすような仕草をしていると、鎖巻かれ男⋯⋯マウンだったか? が話しかけてきた。


「お前⋯⋯いや、あんた何者だ? あのオラシオンをあっさりと⋯⋯」


「ん? 俺か? 俺は魔王⋯⋯」


 そこまで言って考える。


『魔王直属軍、魔将軍のウォーケン』


 これが俺の自己紹介の作法だと、じいやと魔王様に叩き込まれている。


 でも、ここは敵地で、勇者探しは一応極秘任務だ。


 なので言い直すことにした。


「いや⋯⋯とりあえず、ただのウォーケンってことで」


 すると──少しの間固まったのち、突然マウンは跪いた。


「わかりました、ウォーケン様。命を救っていただき感謝致します。私は魔族たちの村、バライアが戦士長マウン。これまでの数々の非礼ご容赦頂きたい。これからはウォーケン様の手足として、この身をいかようにもお使い下さい」


 急に畏まったな。

 ははーん、あれだ。


 村の掟で、命を救われたらその借りを返すまでは頑張る、みたいなやつだな。

 まぁ、人手があったほうが勇者探しも楽だろう。


「わかった。力を借りることもあるだろう。まぁ、困ったらお互い様ってことで、あんま恩に着せる気もないからな?」


 そもそも、コイツのことなんてここに来るまで一切知らなかったし。

 だけど、利用できるなら利用する。

 それができる男って奴だ。

 できる男に俺はなる!


「おお⋯⋯なんという懐の深さ⋯⋯ありがとうございます!」


 何かすごい感謝された。


 それに、なんか、こいつの態度気持ちいいな。

 あのいけ好かないグルゲニカに追従する時の参考になりそうだ。


 俺はどんな事からも学べる男でありたい。


 そんな事を考えていると⋯⋯。


「う、うーん⋯⋯ここは⋯⋯あ、そうか⋯⋯」


 うめき声を上げたのち、オラシオンが目を覚ました。

 まだ戦う気だとしても、この距離なら必勝だ。


「よぉ。じゃあ話してもらおうか」


 すでに勇者に用があることは伝えている。

 それはこいつも分かっているだろう。


「⋯⋯全てお見通し、いや、そうか、そこの二人は何も知らないもんね、わかったよ。敗者は勝者に従う、それがルールだよね」


 こいつ、ものわかりがいいな。

 そう思って眺めていると、オラシオンはロクサーヌの方を向いた。


「君を助けるためとはいえ、怖い思いをさせたね、ごめん」


「ど、どういうことさ!」


「君と一緒に暮してるおばあさん、あの人は変態貴族に、少女奴隷を斡旋しているんだ。ある程度の年齢まで育てて、そのあとで高値で売る、調べた限り、もう何人もそうしている」


 ⋯⋯なんか、全然興味ない話始まったな。

 でも、『人の話はちゃんと聞け』って教育されているからな、黙っとこう。


「う、嘘だ!」


「残念だけど、本当だよ。私が若い女奴隷を買い集めているのは知っているだろう? 昔⋯⋯とても世話になった人がいてね、見ていられないんだ、若い女奴隷が、不幸になるのは⋯⋯」


「じゃ、じゃあ、若い女奴隷を買うたびに、しばらくして『壊れちゃった』とか言ってるのは、なんなのさ!」


「ん? ああ、なんでかわからないけど、最初私はとても怖がられてしまうんだ⋯⋯すごく壁を感じるんだよね、その壁が壊れる時、それが嬉しくてたまらないんだ⋯⋯あとマウン」


「なんだ?」


「さっきはごめんね、私は勇者の出来損ないって言われると、頭に血がのぼって⋯⋯あと、昼間の話の続きだけど、奥さんと娘さんから伝言があるよ」


「そんなこと言ってたな、なんだ?」


「『最近良いものを食べ過ぎて太りました』だって」


「は?」


「いやぁ、二人はなんとか奴隷にならないように、村で保護して、私が匿ったんだけどね。それでうちで面倒をみているんだけど⋯⋯ちょっと食費が凄いから、できれば早く連れて帰って欲しい」


「⋯⋯ダメになっちゃった、ってのはなんだ?」


「なんか私は奴隷を甘やかしすぎるみたいでねぇ。みんな最初は遠慮するんだけど、すぐ『こんな生活してたら、ダメになっちゃうー』って言って、実際ダメになっちゃうんだ」


「あんた紛らわしすぎるわぁあああああ!」


 ロクサーヌが叫んだ。


  


 何かよくわからんが。

 ここまでの話からすると、コイツそこまで悪いやつではないっぽいな。




  まあ、こいつが良い奴かどうかなんて一切興味なーし!

 これまで俺は口を挟むことなく黙って聞いていたが、もう良いだろう。


「そろそろ本題に入れ」


「うん、そうだね⋯⋯」


 オラシオンは頷くと、俺を誰かに紹介でもするように手を向けながら、またしてもロクサーヌとマウンへと話始めた。


「この人は既に知ってるけど⋯⋯実はこの街で、奴隷による武装蜂起の計画がある」


 ⋯⋯知らんが。

 でも知ってる感出した方が、有能に見えそうだな。

 もう少し黙って聞こう。


 とりあえず、ウンウン頷いてみた。

 オラシオンの言葉に、マウンは驚いた表情になり、ロクサーヌは首を傾げた。

 お子様には武装蜂起ってのがピンと来ないようだ。


 まあ、俺もよくわからんがな。


 聞き返したのは、マウンだった。


「武装蜂起だと?」


「うん。そもそも話はバライアへの侵攻に遡るんだけど⋯⋯侵攻を計画したのはマーラン伯爵。教団の幹部で、魔族排斥派なんだ」


「聞いたことがある⋯⋯確かその立場を活かして奴隷売買で莫大な利益をあげているとか⋯⋯」


「そう。ただ現在では教団は魔族排斥派と融和派に揺れていてね」


 融和派? 魔族は友達、怖くないよ! ってな感じか?

 ふーん。

 人間は皆魔族を奴隷にしようとしてるのかと思ったが、そうじゃない奴らもいるのか。


 俺も『俺は悪い魔族じゃないぞ!』とか言った方がいいのかもな。


「バライア侵攻に際して、排斥派はマウン、君を騙して村に侵攻し、村の戦士を全て皆殺しにする予定だった⋯⋯その計画を知った私は、彼らより先に村へと侵攻し、できるだけ生かして奴隷船に乗せたんだ」


「そうか、それで⋯⋯ほとんど死者は出ず、捕虜としてこの街に連れてこられたと聞いてはいたが⋯⋯」


 ああ、そのせいでくっさい船にパンパンに奴隷が積まれてたってことか。


「そう。それで、計画を挫かれた排斥派は、この倉庫に武器を集め、不満を溜めた奴隷を煽動し、武装蜂起させて今度こそ戦士を根絶やしにする予定だった。弱い女子供を従順な奴隷として売買し、利益を上げようとしてる、ってことさ。つまり君が生かされたのは、その武装蜂起の首領として先頭に立たせるためってこと」


 しち面倒な事を考えるもんだ。


「でも、ここにこの人が来た。武装蜂起は成功するだろうね。でもそうなると人は『やっぱり魔族は恐ろしい』と排斥派に傾くかも知れない。結構難しい状況なのさ」


「お前はなぜこの街に派遣されたんだ?」


 マウンの問いに、オラシオンは肩をすくめてから答えた。


「私は融和派一の実力者だからね。武装蜂起で死ねば御の字、もしかしたらどさくさに紛れて暗殺くらいは考えているかもね」


 物騒なことだ。

 でもわからん事が一つあるな。


「なぜ俺と戦うことにした?」


 俺の疑問に、オラシオンはふっと笑みを浮かべた。


「わかってて聞いてるよね?」


「⋯⋯念のため、確認しておきたくてな」


「意地悪だなぁ」


 そこからオラシオンが語ったのは⋯⋯。


 オラシオンは結構坊ちゃんで、実家には奴隷が複数いたらしい。


 その中に、オラシオンと同世代の少女がいた。

 名はフェリス。


 オラシオンは彼女と一緒になるために、人間と魔族、その両者が手を取り合える世界を目指そうと頑張った。


 その為に勇者を目指し、魔王を倒して発言力を高め、人間と魔族、その二つの上にまずはオラシオンが立つ、と考えた。


 だが、勇者認定戦の途中、自宅へと戻ったオラシオンが見たのは、フェリスを慰み物にした父だった。


 激昂し、父親を殺害したオラシオンは認定から外され、フェリスはコイツの父親の行為と、それによってオラシオンの夢が破れた事、その二重のショックに耐えられず、自ら命を絶ったらしい。


「それ以来精神的に不安定で⋯⋯勇者のなり損ない、と言われると、彼女の無念が思い起こされて⋯⋯だから、さっきは本当にゴメンね」


 オラシオンがマウンに頭を下げると⋯⋯。


「す、すまなかった! おまえがそんな奴とは知らず、失礼ばかりを⋯⋯おおお、俺は、俺はー!」


 マウンが号泣しながら叫んでる。

 暑苦しいな。

 そんなマウンを苦笑いしながら見ていたオラシオンだったが、やがて俺の方を向いて言った。


「だいたい話すべき事は話した⋯⋯かな?」


 いや。


 勇者の話をせんかい!

 と俺が思っていると、オラシオンは「あっ」と声を上げたあと、また話始めた。


「大事な事を忘れてたね」


 思い出したか。

 それまで横になっていたオラシオンは起き上がり、俺の前に跪くと⋯⋯。


「元勇者候補が一人、オラシオン。あなたの力、そして何より優しさ、それが胸に穿たれた楔となりました。彼女の無念を晴らすためにも、そしてなにより魔族と人間の融和、その為に粉骨砕身尽くします。是非あなたの旗下となることをお許し下さい」

 

 いや⋯⋯どういうことだ?


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