第15話 合流


 ──タタタ! タタタ!


 スリーショット・バースト。二度引き金を引いて、二人の膝を撃ち抜いた。

 着弾を確認して、すぐさま森の中を駆ける。


「敵襲!」

「撃て!」


 ──タタタタタタ!


 俺のいた場所が銃撃されるが、遅い。そのときには、俺は既に敵の側面に回り込んでいた。


 ──タタタ! タタタ! タタタ!


 今度は三度引き金を引き絞った。


「グッ」

「うぅ!」

「どこからっ!?」


 うめき声と共に三人が倒れる。同時に小銃から手を離して腰の刀に手をかけて、一気にダッシュをかけた。


「うわっ!」


 敵が気づいたときには、俺はもう目の前だ。


「なんだ!?」

「撃て!」

「撃つな! 味方に当たる!」


 ──ザシュ! ザン!


 通り抜けざま抜刀と共に二人を斬る。彼らには、俺が刀を抜いたことすら分からなかったはずだ。


「馬鹿! 通すな!」


 倒れ伏した兵士の一人が叫んだ。それに応えて、銃を構えた兵士が二人。


 ──タタタ! タタタ!


(〈見切り〉!)


 ──ピコン!


 いつも通り意識の中で考えると、音が鳴ってスキルが発動した。


(見える!)


 ここは現実じゃない、VRの世界だ。そして、俺のPCは数千時間をかけて鍛え上げた『剣士』。


(スキル〈見切り〉は、レベルマックスだ!)


 『剣士』だけの固有スキル〈見切り〉によって、弾道がはっきりと見える。


 ──キン! カキン!


 銃弾を刀でいなした。


「まずい!」

「止めろ!」


 ──ザシュ!


 さらに向かってきた兵士を斬り伏せて、一気に扉に取り付いた。


 ──ドン! ドン! ドン!


 左手で引き抜いたハンドガンで鍵を壊す。


 ──ガキン!


 最後に俺を狙った弾丸は、跳ね上げた扉で防いだ。

 ひらりと扉の中に飛び込むと、そこは真っ暗闇の竪穴だった。暗闇の中を、ひたすら落下していく。


『右肩にライトがあります』

「これか」


 右肩のライトのスイッチをオンにすれば、かなりの光量で周囲を照らしてくれた。俺が落下しているのがコンクリートの壁に囲まれた竪穴だということが分かる。ライトを下に向けるが、まだ底が見えない。


「暗視モードは?」

『使えません』

「不便だなぁ」

『暗視ゴーグルが背嚢に入ってますが……間に合いませんね』

「下に着いたら装備します」

『まずは、無事に着地を』

「了解」


 話している内に、底が見えた。身構えて、足に力を込める。


 ──ダン!


「くうっ!」


 足の底からしびれが伝わってくるが、なんとか着地に成功した。


『すごいです。並のプレイヤーなら死んでます』


(落下耐性上げといてよかった)


「まあね」


 得意げに言いながら、さっと壁に身を寄せてライトを消した。どこから敵が来るかわからないのだ。背嚢をおろして、光量を絞ったライトを頼りに暗視ゴーグルを探す。


「そういえば、4人の装備はどうなってるんですか?」

『【蘭丸】さんと同じものを渡しています』

「4人とも、銃器の扱いは大丈夫そうでしたか?」

『【エウリュディケ】は、そもそも専門の訓練を受けているので問題ありません。他の3人もそれなりに。【蘭丸】さんほどではありませんが』

「なら良かった」

『まず、三人をロストした地点まで向かいましょう』

「了解」


 暗視ゴーグルを装着。今度は小銃ではなくハンドガンを左手で握る。咄嗟の時に刀を使えるようにするためだ。


『右へ』


 吉澤の指示通りに暗闇の中を進む。


『10メートル進んでください』


 地下施設の中は、吉澤が言っていた通りダンジョンのような作りだった。現実世界の【オルフェウス】の地下施設のように狭くもない。戦うのに十分な広さのある通路は、右へ左へ複雑に入り組んでいる。かと思えばときどき広い空間があって、そこには敵兵が配置されていたりする。


『その階段を下へ』


 敵兵の監視の目をかいくぐりながら、先へ進む。


『ここが4人をロストした地点です。ここから先は、マップもありません』

「了解。とにかく動き回って探しましょう」


 新規エリアの攻略をするときと同じだ。とにかく地道に踏査してマップを作成することから始めなきゃならない。ここで焦ってはいけないと、【REDレッド】さんに口酸っぱく言われている。


 用心しながらしばらく進むと、また敵の姿が見えた。3人の兵士が周囲を警戒している。


「ここも迂回します」


 遠回りになって時間はかかるが仕方がない。今の俺は1人。会敵せずに進むべきだ。


「なんだ?」


 敵の一人が、はっきりとではないが俺の気配に気付いたらしい。こちらに向かってくる。


(見つかった!)


『仕方がありません。突破しましょう』

「了解!」


 ハンドガンはホルスターに仕舞う。この人数なら、刀で戦った方が早い。

 刀を抜き、両手で柄を握りしめて上段に構えた。


(急所は外す)


 大きく息を吸って。


(〈雲耀うんよう〉!)


 スキル発動と同時にダッシュ。一気に敵に肉薄して、その勢いのままに刀を振り下ろした。


「ぐっ!」


 〈雲耀うんよう〉のは二の太刀いらず、先手必勝の鋭い斬撃だ。しかも俺はLv99。今まで、これを避けられた敵はいない。


「なんだ!」


 他の2人もこちらに気付いたが、遅い。ダッシュで距離を詰めて、2人目を斬る。その頃には、3人目の銃口が俺の方を向いていた。


(〈燕返し〉!)


 間髪入れずに、振り下ろした刀を反転。返した刃で3人目の胴を狙った。


 ──ガキン!


 これは小銃で防がれたが、銃身が曲がった。


(これなら撃てない!)


 そのままさらに一歩踏み込んで、柄を思いっきり振り上げた。


「ぐうっ!」


 柄の先が敵の顎にクリーンヒット。そのまま3人目も気絶する。


(よし。誰も死んでない)


 ほっと息を吐いた。


『そちらの3人は拘束しておきましょう。背嚢に抗束帯があります』


 言われた通りに背嚢を探るが、それらしきものがない。


「どれですか?」

『その、細長い板です』

「これ?」


 どこかで見たことがある形状のそれ。手首にパチンと叩きつけると、クルンと巻き付くあれだ。


『それを足か腕に巻けば、動けなくなります』


 一人の腕にパチンと巻きつけると、拘束帯が薄紫色に光った。


『自分では解けない仕様になっています』

「これも戦争のルール?」

『悪趣味ですよね』

「まったく同意です」


 こうしてPCの行動を縛るルールも存在するということは、【VWO】の中でも『捕虜』がいるということだ。


(尋問みたいなこともあるのかな)


 昔、映画で見た場面が思い出された。


(やめよう)


 今考えたところで、どうしようもない。


『進みましょう』

「了解」


 今はとにかく、仲間と合流しなければ。





 彼らを見つけたのは、それから数分後だった。


 ──タタタ! タタタ!

 ──タタタタタタタ!


 複数の銃撃音。


「銃撃戦だ! みんながいる!」

『間違いありません』

「援護に入ります」

『合流したら通信回線の回復を最優先に。左のポケットに『端子』がありますから、それを渡してください』


 言われて、戦闘装着帯のポケットを探った。小さな黒いデバイスが4つ入っている。


(これが『端子』か)


『お願いします』

「了解」


 音を立てずに廊下を進む。


 ──ガガガ!


 銃弾が当たって、壁の金属部分が火花を上げているのが見えた。その向こう、廊下の先にちらりと見えた。


(【REDレッド】さん!)


 特徴的な巨体だ。見間違うはずがない。


(無事だったんだ!)


 彼が無事なら、他の三人も無事だろう。

 銃撃戦が行われているのは、廊下と廊下が入り組んでいる場所だ。お互いに曲がり角を遮蔽物にして撃ち合っている。


(よし。敵を挟む位置だ)


 俺は、【REDレッド】たちとは反対側の曲がり角にいる。

 小銃をフルオートに切り替えてから構えた。まず背後から撃って敵を減らす。


 ──タタタタタタ!


 俺の銃撃で、3人が一気に倒れた。だが、すぐさま応射される。


(くそ。熟練の兵士が来てる)


 これは一筋縄ではいけそうにない。


(あっちと通信できないのが痛いな)


 あちらでも味方が来たことに気付いてはいるだろうが、これでは連携がとれないので挟み撃ちの意味がない。あちらの状況も不明だ。


(先に合流しよう)


 大きく息を吸い込んだ。


「そっちへ行く! 援護!」


 叫ぶと同時に、飛び出した。

 仲間たちの方から敵に向かって一斉掃射。当たり前だが、その中は抜けられない。


(だったら!)


 ──タンタン! タン!


 壁を駆け上がった。

 そのまま壁を走り抜ける。敵からも的になりそうなものだが、仲間たちの援護のおかげでこちらに銃口が向くことはなかった。


 ──ダン!


「【蘭丸】くん!」


 着地して曲がり角に入ると同時に、抱きつかれた。誰か、だなんて聞くまでもない。


「【蘭丸】くん! 【蘭丸】くん!」


 幼馴染が、俺にしがみついてわんわんと泣いていた。

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