第31話 ハーレム野郎?に一撃を!

 自分でもよくわからない状況だった喫茶店を後にして、美郁が宣言したゲームセンターもあるアミューズメント施設に向かっていた。

 美郁はすっかり明日野を気に入ったようで反応を見ては楽しんでいた。

 俺と楓がそんな二人の後ろに着いて行く。


「はぁ」


 思わず自己嫌悪にため息がこぼれる。


「どうしたの諒也君」


 隣を歩いていた楓が心配そうに尋ねてくる。


「えっ、何が?」


「ため息。こんな美人に囲まれててため息を吐くなんて諒也君贅沢ね」


 からかうように楓が言う。

 ため息の原因がまさにそのことなのだ。

 そして、俺が言い淀んでいると、楓の目が真っ直ぐに見つめてくる。

 視線に耐えれなくなっちゃった俺か口を開く。


「……原因はそれだよ、なんか瀬貝に偉そうなことを言っておいて、結局俺も楓や美郁の好意に甘えて流されてしまったから」


 あれだけ二股を否定しておいて、同じようなことをやっている自分が情けなかった。


「うーん、でも瀬貝君とは違うと思うよ」


 楓が優しい言葉で俺を甘やかす。


「ありがとう。でも喫茶店でのあの状況。周りから見れば、とんだハーレム野郎だよ」


「まぁそこは否定しないけどさ。私は嬉しいよ。むしろあれだけやって諒也君が揺らいでくれないと、虚しいだけじゃん」


「んっ、どいうこと?」


「私は諒也君に気になる宣言した通り、もっと私を意識してもらいたいし、私自身が本当に諒也君のことをどう思っているのかを確認したい。でもそれって反応してくれないと分からないでしょう」


「それはさっきみたいな浮ついた気持ちでもか?」


「うん、だってそれって私と妹ちゃんとの間で気持ちを揺れ動かしてくれたってことでしょう。なら一般的に言うと脈アリってことだよね」


 恐ろしく前向きな楓の主張に驚く。

 しかし、だからこそ罪悪感も湧く。


「でも、二人に対して不誠実じゃないか?」


「どうして?」


 楓がなぜか首を傾げて不思議そうにする。


「どうしてって……」


「だって、まだ諒也君は誰とも付き合って無いでしょう。まあ、未練みたいのはあるかもしれないけど」


 美郁にしろ楓にしろそういうところは鋭いと思う。まあ相手は伯東だと思ってるのだろうけど。


「うん、だからまだ誰とも付き合う気持ちになれないのが本音だ」


「分かってる。だから、それを乗り越えた先で、また誰かを好きになって……その好きになった人が私なら嬉しい。そしてその時、私も同じくらい諒也君の事を好きになっていられたら良いなって思ってる」


 そう言ってくれた楓の目は真っ直ぐに俺を見ていて、青い瞳がまるで本物の宝石のようにキラキラと輝いて綺麗だった。


「こんな煮えきらない、情けない俺でも良いのか?」


 いまの正直な気持ちは前世の彼女に未練たらたらで、妹として接していくはずだった美郁にそれ以上の思いを抱き始めて……そして目の前の銀色の髪をした青い瞳のクラスメイト、その真っ直ぐに向けられる想いに惹かれている。

 自分でも嫌になりそうな、優柔不断で情けない男だ。


「今は良いよそれで……でも最後はちゃんと答えを出して選んでほしい。きっとそれは妹ちゃん……美郁ちゃんもそう望んでいると思う」


 その等言葉は期待の現れでもあるのだろう。

 俺ならちゃんと答えを出してくれるという。

 だから、もし本当に俺が、もう一度誰かを好きになったときには、彼女達に負けないくらい真っ直ぐな気持ちで好きだと伝えられたら良いなと思った。


「あー、お兄ちゃん達、内緒でなに話してるのさ」


 一通りからかい尽くしたのか、動きの止まっている明日野を置いて美郁が駆け寄ってくる。


「ふっふ、内緒って言いたいところだけどフェアじゃないから、美郁ちゃんには教えてあげる」


 そう言って楓は美郁を手招きすると耳元でコソコソと話す。

 俺と話した内容な筈なのに、なんで俺に聞こえないように、わざわざコソコソ話をするのかは分からない。


「ふーん、そうなんだー」


 ニヤニヤと俺を見て笑う美郁。急に妙な連帯感を見せる二人に戸惑う。


「もーお兄ちゃんは真面目すぎだよー」


 そう言って美郁は右腕を掴んで絡ませると引っ張るように歩き始める。


「あっ、美郁ちゃん抜け駆け」


 楓も負けじと俺の左腕にしがみつく、こっちはハッキリと分かる膨らみが感じられた。

 って、そんな邪念を読み取ったのか、美郁が頰を膨らませて、『ぷーっ』と怒るような表情を作る。


 そんな仕草が子供ぽっくて、思わず頭をポンポンして宥めようとしたが、両腕が塞がっているため出来なかった残念。


「僕だって、お兄ちゃんに揉んでもらえば大きくなるんだから」


 美郁が何か際どい発言を呟いていたが聞こえなかったことにし先に進む。

 フリーズしていた明日野が正気に戻り、俺達を見るなり言った。


「あっ、いつの間にか久方君がハーレム野郎に戻ってる」


 明日野の悪意のない客観的な一言が胸に刺さった。

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