第28話 妹は、手強い!
楓のことを尋ねてきた美郁の目が少し怖かったが、特にやましい事ではないので楓のことを正直に話す。
「ふーん、そうなんだ。やっぱり家でのアドバンテージはあるけど、学校が違うのは痛いかなー」
美郁の目が冷静さを取り戻すと考え込む仕草をする。
「そのなんだ、楓もそうだが美郁の気持ちにも、今は応えることは出来ない」
美郁や楓からの好意は素直に嬉しい。
だけど俺は、いないと分かっていてもまだ前世の彼女に未練を残している。
そんな気持ちを持ったまま、中途半端な浮ついた気持ちのまま、惰性で付き合うのは楓にも美郁にも申し訳ない。
「うん、それは分かっていたことだから大丈夫。やっぱり十何年と積み重ねた想いが直ぐに失くなるわけないもんね。だから、勝負はこれからだよ、言ったと通り、徹底的に僕の魅力を分からせるから覚悟してね」
俺の想い人は違うのだけれど、本当のことをいって、空想に恋する気持ち悪い兄とも思われたくない。
情けないことに、俺は美郁に嫌われたくないと思いつつ、踏み込ませる勇気をまだ持っていない。
だから軽い牽制のつもりで言った。
「ああ、ミィが十分に魅力的なのは知っているよ、だからほどほどにな」
「えっ、えっ、お兄ちゃん僕のことをそう思ってくれてたの」
美郁が急に顔を真っ赤にして体をくねらせる。
「どうしたんだ急に?」
「だって、予想以上にお兄ちゃんは、僕を見ていてくれたんだって思ってさ、ますます希望が見えてきたよ」
どこまでも前向きな美郁。
「凄いなミィは」
純粋にそう思った。
「ふぇ〜、もうお兄ちゃんはどこまで僕を喜ばせれば気が済むのさ」
目を輝かせ、体をさらにくねらせる美郁。
「あの、本当に、ほどほどでな……」
美郁から感じる熱っぽい視線。
美子さん達がいつ帰ってくるかわからない中、今日一日家にいたら色々と不味いような気がしてきて、外に出かけようと自分の部屋に戻ろうとする。
「お兄ちゃん、どこ行くの? もしかして、早速楓さんって人とデート……僕を置いて」
楓に対して牽制しているのか、熱い視線と打って変わって、うるうると捨てられた仔猫のように涙目を向ける。
「うぐっ、違うから。ちょっと図書館に行こうかと、その最近考古学にハマってて本を読み漁りしようかと」
これは本当というか、俺の趣味だ。
ただ諒也はまったく興味無かったので、子供の頃から知っている美郁には怪しい目で見られた。
別に浮気を誤魔化すわけでもないが、美郁が一番疑っているであろう楓とのメッセージアプリのやり取りを美郁に見せて潔白を証明する。
「良かった、本当だ!」
美郁が納得してくれたところで、なんのイタズラか見ていたようなタイミングでメッセージが届いた。
『諒也君、今日時間があったら会えないかな?』
「あっ」
美郁の声で慌てて俺も直ぐに画面を確認する。
「あっ」
気まずい空気が流れる。
別に今日予定があったわけではないので、楓と会うのは問題ない。ただ美郁に楓と合うのを否定して図書館に行くと言った手前、暇だから良いよとも返しにくい。
「……良かったら紹介してよ、その楓さんって人」
思いがけない美郁の提案。しかし友達と遊ぶのに妹を連れて行くのはどうかと思いつつ、ダメ元で聞いてみるあたり、どうやら俺にはシスコンの才能があったようだ。
『あの、妹も一緒で良いか?』
『構わないよ、あと未来も誘うつもりだったけど良いかな』
それこそ好都合だった。
わだかまりが解けたこともある。
一歩離れた立ち位置にいる明日野が居れば助かる。
『もちろんOKだ』
『じゃあ場所は昨日のアメリカンな所で良いかな?』
『さすがに気まずくないか?』
美人のウエイトレスさんはいい笑顔で許してくれてたけど店で騒いでいたわけだし、俺としては気まずい。
『えっ、なんで、確かに昨日は騒がしくしちゃったけど、今日は騒ぎの元になるような人いないでしょう』
確かに楓と美郁なら思うことがあっても昨日のような騒ぎにはならないだろう……とは思う。
明日野さんもいることだし、大丈夫だろうと判断した。
『分かった。で時間は?』
『12時、お昼そこで食べよう』
『へぇ、おすすめとかあるのか?』
『うん、あのねハンバーガー、昨日食べそこなっちゃたからね』
どうやらそれが本命の目的のようだ。
一応確認の意味で美郁を見ると、頷いた。
『分かった。気をつけて来いよ』
そうメッセージを送ると俺も出掛ける準備をするため部屋に戻る。
美郁も楽しそうに準備してくるからと自室に戻っていった。
その後、早めに出掛ける準備を済ませた俺は、リビングでのんびりテレビを見ていると、約束の時間に合わせて美郁が顔を出す。
前回のショッピングモールとは雰囲気が少し変わっていた。
シンプルな白のティアードワンピースに髪は結ばずにおろしたまま。つばの広い帽子でも被っていたらどこぞのご令嬢様と間違われてもおかしく無い。
妹に対して失礼な表現だとわかっているけれど、素の素材が際立った姿に、思わず俺もドキッとさせられた。
改めて容姿の美しさは武器になると実感させられた瞬間でもあった。
「ふっふ、まずは先取点ゲットかな」
そして俺の反応を見ていた美郁が嬉しそうに呟いていた。
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