第20話 野郎ファイト!!
「ふぁぁあ、おはようお兄ちゃん」
「ああ、おはよう」
スッキリとしない目覚め。
昨日と同じようになぜか美郁が目の前にいる。
「先に顔、洗ってくるね」
美郁も目覚めがよろしくないらしく、昨日のテンションと打って変わって大人しい。
美郁が俺の部屋から出ていって、改めて昨日の夜の出来事を思い出した。
日が昇ってることもあり恐怖より、気恥ずかしさが先に来た。怪奇現象にビビって妹と一緒に寝てしまったなんて情けなさすぎる。
幸い今日は土曜日で学校が休みなのは助かった。
俺は美郁の後に顔を洗っても重い瞼を引きずってダイニングに顔を出す。そこには俺とは正反対にスッキリ艷やかな美子さん。
ただでさえ若々しいのに瑞々しさまで加わって、誰がどう見ても二児の母とは思わないだろう。
一方の光四郎さんは仕事の疲れもあるのだろうが俺以上に寝不足な感じで精彩を欠いていた。
そんな二人を見て俺は嫌な結論にたどり着く。
髪を梳かし終えた美郁も遅れて来て二人の様子に気付く。
「……昨日母さんの部屋行かなくてよかったな」
小声で美郁に告げる。
「……うん」
その後は二人してモクモクと朝食を済ませる。
美郁は二度寝すると言って自分の部屋に戻って行った。
俺も再度二度寝しようとしたところでメッセージが届いた。
……伯東からだ。
『私決めたから、話がしたいの、出来れば今日会えないかな?』
思ったより早く結論が出たようだ。
別れたときの様子からするとしばらく掛かりそうだと思ったのに。
結論を出せと言った手前、ちゃんと聞かないわけにもいかない。美郁も一緒にと思ったがどうにも二人が絡むと感情的になり過ぎる傾向にある。寝不足もあるだろうから今回は寝かせておこう。
『いいよ、ただカラオケみたいな個室は駄目だ』
『あとちゃんと瀬貝にも俺に会うことを伝えておいてくれ』
要件だけ送る。すぐに既読になると返信がきた。
『ありがとう』
『実は勇人も呼んでて二人にちゃんと伝えておこうと思って』
なるほど、それは好都合かもしれない。
彼氏の前でちゃんと関係をハッキリさせれば、瀬貝の敵意も無くなるだろうから。二人きりになるのも避けられる。
『で、何処に行けば良い?』
『いつもの喫茶店でいいかな』
喫茶店に何度か行った記憶はあるが店の名前までは覚えていなかった。
『名前なんだっけ?』
『もう、いつも忘れるんだから、シックスティーシックスだよ』
『分かった。時間は?』
『11時でいいかな?』
『OK』
『ありがとう。待ってる』
伯東から返ってきたメッセージでやり取りを止める。時間的にはまだ余裕があったので二度寝しようとも考えたが寝過ごす可能性もあるので、眠気覚ましも兼ねて出かける準備をする。
美郁と一緒にショッピングモールに行ったときに買っておいた服に着替え、美子さんに駅前に行ってくると伝えて家を出る。
目的の喫茶店の場所は何となくの記憶しかなかったので地図アプリで場所を確認しておく。
場所的には駅と家との中間地点くらいにあり、周囲には時間を潰せるようなモノは無かったので駅前まで出向き時間をつぶしてから指定の喫茶店に向かった。
何度か来た記憶はあるが印象に残っていないので諒也はあまりこの店は好きではなかったのかもしれない。
実際店内に入るとアメリカンスタイルなのか原色が多い装飾で喫茶店というよりダイナーに近い。
俺的には嫌いでは無いが、これから真面目な話をする雰囲気の店ではない気がする。
そう思って店を間違えたと思ったが先に来ていたらしい瀬貝が目に付き、席へと向う。
「よう、ここでいいのか?」
話は通っていると思うが一応確認を取る。
「ああ」
瀬貝は相変わらず不機嫌そうに答える。
確認は取れたので俺は向かい合う形で席に座る。
「一緒に来てたんじゃないのか?」
単純に一緒に来ると思っていたので何気なく聞いてみた。
「お前の方こそ一緒に来るんじゃなかったのか?」
どうやら瀬貝の方は俺と伯東が一緒に来るものだと思っていたらしい。
いったいどういう伝え方をしていたのか疑問だ。
しかも、呼び出した本人がまだ現れないという状況。気まずい雰囲気が漂う中、美人な店員がオーダーを取りに来る。アメリカンなウエイトレス姿に一瞬男心をくすぐられつつアイスコーヒーを注文する。
「瀬貝、言っておきたいことがあるんだが」
「……なんだ。聞くだけは聞いてやる」
なぜにこうまで上目線なのかは分からないが、もともと瀬貝にはちゃんと説明しておこうと思っていたので伯東のことを俺の口からも伝えておく。
「伯東とは確かに幼馴染だが、今は恋愛感情とかそういったものはない。伯東にも俺に気を遣うより彼氏であるお前の方に気を遣えって言った。俺としても伯東とは距離を置くつもりだから安心してくれ」
「……ミカンの事は理解した。正直言って幼馴染のお前がすぐにミカンを諦めるとは思えないが、今はそういう事にしておこう。それよりもっと問題なのは紅葉の事だ。いくら自分の幼馴染に振られたからといって、他人の幼馴染の関係まで引き裂こうとするのは無粋だとは思わないのか?」
まてまてコイツは何を言っている?
俺の頭にハテナが無数に浮かぶ、こいつも伯東と同類なのは薄々分っていたがいったい何なんだ、どうしてそこまで幼馴染にこだわる。
それに振られたってなんだ? 伯東に告白したなんて諒也の記憶にないぞ。
そもそも振られたのは……。
「いやいや、振られたのはお前の方だろう瀬貝」
「なっ、どうしてそれを……くっ、あれは振られたんじゃない。紅葉はまだ理解していないだけだ。身近に居すぎたせいで自分の本当の感情に気付いてないだけなんだ」
自分に言い聞かせるように力説する瀬貝。
見苦しいと同時に、怒りも湧いてくる。
「そうだとしても、お前は今、伯東と付き合ってるんだろう、その上で楓さんとも付き合うつもりだったのか?」
実際コイツは伯東とキスする間柄になりながら楓にも告白している。いくら伯東がアレでもちゃんと付き合うのなら真剣に付き合って欲しいと思う。
「いまさらなんだ。それの何が悪い。お前だってあわよくばと思っているんだろう」
開き直りとしか思えない瀬貝の態度に、俺は敵意を込めた視線を飛ばす。
さすがに酷すぎる。
これじゃあこいつの事が好きな伯東が余りにも不憫だ。こんなやつを大切にしろと言った自分の言葉をすぐにでも取り消したくなる。
そしてそんな俺と瀬貝に緊張感が走る中、件の女が満を持して登場してきた。
寝不足なのか冴えない表情と、手入れしていないボサボサの髪。意味不明なホモ・サピエンスと書かれたTシャツに下はジャージにサンダル。
そんなすっかり見違えた幼馴染の女が俺と瀬貝を見つけて近づいてくる。
「ゴメンね。遅れちゃって」
そう言うと何故か俺の隣に座った。
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