恋愛ゲームの世界にごく普通な俺が当て馬キャラとして転生してきた話 〜ゲームの世界だなんて知らない俺はハーレム主人公のフラグを無自覚に叩き折って無双します〜

コアラvsラッコ

第1話 目覚めたら別世界でした

 目を覚ますと見慣れない天井、体中が鉛のように重く動くこともままならない。


 動かせる目だけを使い、今の状況を確認する。

 視線の先に綺麗な看護師さんが映る。

 今では珍しいスカートタイプで、おまけに丈が短かい。一瞬いかがわしい店かとも思ったが、設置されていた機材や雰囲気からして病院なのは間違いないようだ。


 俺がじろじろ見ていたことに気付いたのか、看護師さんは俺と目が合うと、その目を大きく見開いて驚いた表情をする。

 慌てて部屋に備え付けられていたインターホンに駆け寄ると、通話先の相手と何やらやり取りを始める。


 すぐに白衣を着た女医さんと思われる人が現れる。しかも、この人も美人だった。しかもタイトスカートって……正直アダルティな映像にしか登場しないような想像上の存在かと思っていた。


 あと、合わせて引き連れてきた他の看護師も美人ばかりだ。しかも、例外なくミニスカートって、そこで一つの結論に辿り着く。


 ああ、俺は死んで天国に来たのだと、確かに俺の記憶には、彼女とデート中に事故に巻き込まれたという、直前の記憶が頭に残っていた。


 美女に囲まれながら、やっぱり思う浮かぶのは生前のことだった。折角長年思いを寄せていた彼女と付き合ったばかりなのに何もできなかった。もちろん男としてはエッチい意味もあるが、それよりも、もっと一緒の時間を過ごして、一緒に笑って楽しい時間を共有したかった。


 そんな俺の感傷など無視するように、美人の女医さんは俺をいろいろ調べ回すと告げた。


「どうやら、本当に意識が戻った。状態も問題ない。急いで家族に連絡を」


 女医からの指示を受け、ひとりの看護師が部屋から出ていく。


「君、私の言葉は聞こえているね。自分の名前は言えるかい?」


 美人だけど少しきつそうな印象の女医さんは思ったより優しく俺に語りかけてくる。


「はい、俺は崇良正巳タカラマサミです」


「……ふむ、どうやら記憶の混濁が見られるな」


「どうされますか先生」


「恐らく、一時的なもなだろう。家族と会えば自然と思い出すだろうが、一時的な記憶喪失の可能性もあり得る。到着した家族にはその旨を伝えておいてくれたまえ」


「はいわかりました」


 ちゃんと名前を伝えたはずなのに、女医さんは大袈裟な対応で理解に苦しむ。だだあの世と思ったここは、どうやら現実の世界だということも何となく分かった。

 どうやら俺はあんな事故に巻き込まれたのにも関わらず生き延びたらしい。


「騒がせてしまって済まないね。意識が戻ったとはいえ君が重症なのは変わらない、家族が来るまではもう少し休んでいるといい」


 キツそうなイメージからは想像出来ない優しい笑みで俺の頭を撫でる。

 実際、体は重く、まだ安静が必要な状態だったのだろう。少し話して、少し話を聞いただけなのに、消耗していた俺は、その声に促されたかのように意識が薄れていき、そのまま暗い闇の中に落ちていった。


 …………

 …………

 …………

 ……夢を見た。


 そこでは俺は全くの別人として、全く知らない家族に囲まれていた。ごくごく平凡な俺の本当の両親とはかけ離れた人達。

 若くして友人とベンチャー企業を立ち上げ、見事に成功したやり手のイケメン父。

 おっとりとした雰囲気の美人で、一見何も考えていなさそうな母。しかし中身はわりと腹黒で俺と妹を溺愛してくれていた。

 妹は父と母の美貌を見事に受け継いだ超絶美少女。なぜか染めてもいないのにピンク色の髪が違和感なく馴染むほどに。

 そしてもうひとり、家族ではないがほぼ産まれたときから一緒に育ってきた幼馴染の女の子。この子も妹と引けを取らない美少女で、両親共に日本人なはずなのに何故か金髪だった。


 そんな人達に囲まれて育った俺は、とても幸せそうに笑っていた。

 

 そして夢から目が覚めた時。

 心配そうに俺を見つめていた三人が目に映る。

 

「諒也……大丈夫なんだな」


「リョウちゃん……よかった、よかった」


「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん」


 三者三様に涙を浮かべ、本当に俺の身を案じてくれていたことが痛いほど分かる。

 ……分かるが俺は完全に置いてけぼりを食らっており、理解できないでいた。

 だってそうだろう、夢の国の住人だった人達がなぜか俺の目の前にいるのだから。


 もし、このとき手が動いていれば間違いなく自分の頬を抓っていただろうけど、そんなことをしなくても身体中を襲う痛みで、今ここが現実世界であることを知ることが出来た訳だが。


「あっ、あっだぁ、あだっだっだっだっぁ」


 いち早く、俺の様子に気づいた夢の中での母さんが慌ててナースコールを押して看護師を呼ぶ。


 するとすぐ、最初に目を覚ましたときに来てくれたた女医さんが駆けつけてくれた。すぐに様態を確認して鎮痛剤を注射し、落ちつかせてくれる。


「先生、リョウちゃん……息子は大丈夫なんですか?」


「心配はいりません、意識ははっきりしていますから、ただあれだけの事故でしたので回復にはまだ、まだ時間が……あとは先程説明した通り、記憶が……」


 女医さんによる説明をどこか他人事のように聞きながら、薬が効いていてきたのか意識が再び遠のいていく。

 薄れ行く意識の中で今度こそはちゃんと、夢の中の夢ではなく、現実で目が覚めるように願った。




 しかし……結論から言えば願いは叶わなかった。

 

 目を覚ませば病室で、美人の看護師さんが世話を焼いてくれる。


 見舞いに来るのは、夢の中の住人だった美型の家族達。


 すげ替わった現実が、少しづつ体が回復していく中で繰り返され日常になった。


 そんな中で決定的な事実がひとつ分かった。


 それは、どう美化してもフツメンだった俺の顔が、モッサリ前髪で顔が隠れてわかりにくかったが、驚くほどの超イケメンに変わっていた……というより全くの別人になっていた。


 ずっとベッドで動けない状態が続いていたので気が付かなかったが、ようやく、動けるようになり鏡で自分を見た時に呟いた言葉は「だれ?これ?」だった。


 そして身の回りを確認して分かったことは、どうやら俺は崇良正巳ではなく久方諒也というヤツになっているらしいということだった。

 

 それからだった。俺がまるで現実のようなハッキリとした夢を見るようになったのは…………。


 それは久方諒也という人物の過去を追体験するような感覚で、産まれたときから、今に至るまでの記憶を見せられた。もしかしたら、この体に残された本来の記憶なのかもしれない。

 でも、それとは別に俺が崇良正巳という記憶も間違いなく存在していた。ただそれは記憶というよりは想いに近いもので、本当の両親への愛情や、付き合い始めた彼女への気持ち、告白したときのドキドキした思いなど、その時々の断片的なもので、具体的な記憶としては両親の顔や、彼女の顔ですら思い出せない。それどころか自分の顔すら思い出せ無いのだが間違いなく自分は崇良正巳だと自覚出来ていた。

 ちなみになぜ、自分の顔も覚えていないのに変わったのが分かったのかといえば、俺がこんなイケメンなわけがないという、強烈な違和感があったからだ。


 きっと今の俺は久方諒也という肉体の記憶と、崇良正巳という魂の記憶的なものを両方内包した歪な存在なのだろうということも分かった。


 ちなみにこの結論に至るまで一週間ほど考え続けていた。


 そして同時に確信したことがひとつある。

 スマホが使えるようになってから色々と調べてみたが俺達が巻き込まれた事故は発生しておらず、崇良正巳という人物は存在していない。SNSのアカウントを調べてみたが俺のアカウントは全く見当たらずログインも出来なかった。つまり信じられないことだが俺は、俺が居た世界と似たようで全く違う世界に、別人としてここにいるということだった。


 もちろん、これを表立って言うつもりはない。


 諒也の……久方の家族にも、過去の記憶や見舞いに来てくれたときの人柄を見れば、両親はすごくいい人達なのは分かる。妹も今は思春期真っ盛りのせいか、かなり不安定で諒也とは上手くいっていないところもある。しかし記憶を客観的に見れば、根は優しくいい子だと分かる。


 だから、そんな善良な人達を騙す形になるのはとても心苦しい。でも今の俺には、この世界で一人で生きていくための力や財産、知識など何もかもが足りていない。

 せめて、自立できるまでは一方的な形で申し訳ないが頼らせてもらうしかないと考えている。


 もちろん正直に言うことも検討した。

 でも、いくら気の良い人達でも、俺が置かれている荒唐無稽な状況を説明したとして、信じてもらえるとは思えない。むしろ俺が逆の立場だとしたら、信じるどころか場合によっては精神異常を疑ってしまうだろうから。


 ということで、当面は久方諒也として目立たず騒がず、自立するまで細々と過ごしていこうと決めた。


 


―――――――――――――――


「Gsこえけん」に応募しているので応援してくれると嬉しいです。


 短編になります。

 完結しましたので読んで頂けると嬉しいです。


タイトル


『最愛の幼馴染が僕を暗殺するために送り込まれた刺客だった、それだけの話』


https://kakuyomu.jp/works/16817139557603851062


よろしくおねがいします。 




 

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