第31話 到着
アシュクロフト伯爵父娘とアンジー・スライ嬢を乗せた馬車は、取り立てて大きな問題もなく無事に領地に到着した。お邪魔するからにはアンジーとしても怪我人病人が出たらしっかり癒すつもりだったのだが、残念ながらその怪我人が出ない。道中に問題はなく、安全でよかったとはいえアンジーはぽつぽつと「ただお世話になってしまってすみません……」と謝ることがあった。
「いえ、何かあったら一番頼らざるを得ないのは貴女でしょうから」
安全なうちにそれを楽しんでくださいませ、と言ったのはエスメラルダだった。彼女にアシュクロフト領地のことや、母君のことを聞きながら馬車の道を行く。アルフレッドから聞いていたよりは穏やかで話のできる人柄に、アンジーはまたしても首を傾げることとなった。
(どうしてエスメラルダさんは、アルフレッド様と仲良くしようとしなかったのかしら。どうすればいいかわからない、とアルフレッド様は仰っていたけど、エスメラルダさんはご両親が仲良しだからわからないわけではないでしょうに)
エスメラルダ・アシュクロフトには、アンジーのような《力》はない。それが婚約破棄の原因のひとつであったし、そもそも破棄したがってた理由だという噂は、聞いてしまっていた。あの頃は庶民で、お貴族様も大変なんだなと思っていた記憶もある。
「さ、着きましたよ」
「我がアシュクロフト領にようこそ、スライ嬢」
《力》に目覚められなければ、貴族としては不完全だと言われ。強力な《力》があるという予言に反しているからと余計に噂にされながら。それでも、彼女は背筋を伸ばして生きていた。今も心底、アシュクロフトの領地を誇っているとわかる笑顔を浮かべている。
アシュクロフトの領地の人々も、《力》のことなんて気にせず、笑顔で馬車から降りてきた自分たちのお嬢様に手を振っていた。
「おや、初めてのお嬢様もおられる」
「うちのお嬢様のお友達かな? ゆっくりしていってくださいな」
そうにこやかに言ってくれた人々に、アンジーも学校の教えを一時忘れて素直に頭を下げたのであった。
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