第26話 お預かり、お嬢さん
「こうなると真面目に、あの話を進めたいのだが……いいかね? アシュクロフト伯爵」
「守るための手段としては、一番手っ取り早いのも事実ですから」
大人達で何事かの一言二言の確認があったあと、国王はにこりと笑みを作った。息子であるアルフレッドとしては、『父がこの顔をしてるのは無茶ぶりの証』と察して身構える。
「アシュクロフト嬢、スライ嬢。刺客が愚息とお二人の誰を狙っていたのかは、わからず仕舞となってしまった。その中でお二人の身を守るためには、同じところにいていただくのが早い。……ここまでは、わかるかな?」
「はい、陛下」
「その通りです」
アルフレッドは王子なので、住んでいるのはこの城だ。しかしアンジーは学園の寮か孤児院で暮らしていたから、彼女を『満天の聖女様』と敬愛する神殿の人達の警護も万全ではない。彼女が護衛を希望しないところをこっそりつけているために、全ての危険から彼女を守れると言い切れるには距離があるからだ。エスメラルダは、アシュクロフト伯爵家に仕える騎士が今回の都行きにも付いてきている。
「スライ嬢への礼儀作法の『研修先』として、アシュクロフト伯爵家に彼女を預かってほしい」
「……それは」
エスメラルダとアンジーが一緒にアシュクロフト伯爵家に戻り、屋敷で冬休みを過ごすということだ。
「学園の寮に戻るわけにはいかないのですか?」
「スライ嬢が『スライ』である以上、別の後ろ盾も必要だ。そしてその家は、こちらとしてはアシュクロフト伯爵家に担ってほしい」
「『アルフレッド殿下の婚約者である、アシュクロフト伯爵家の娘』を、我が娘エスメラルダからアンジー嬢にしたいとのことですね、陛下」
それは大人の政治も兼ねた話であった。表向きはアシュクロフト伯爵が王にアンジー・スライ嬢の後見人を申し出、令嬢と国王がそれを承認したという形で彼女を庇護下に移す……ということらしい。
「それ、他の家としては面白くないのではありませんか……?」
エスメラルダ・アシュクロフトは『《力》さえあれば婚約者に一番近い人』『覚醒してしまったら彼女になるだろう』と言われていた令嬢だ。
「それで事を起こすようなら、そのような者は貴族であってはいけない」
つまり寄せ餌だろうか。令嬢二人は顔を見合わせ、王子は二人に謝るための手紙を書くべきかと考え始めていた。
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