第17話 正式に、婚約者を
一通り、胸元に飾りを持たなかった人々の胸に勲章が渡された後のこと。例年であれば簡単な挨拶の後に新年を祝うパーティーとなるところ、今年は少し様子が違った。国王が立ち上がって形式ばった例年通りの挨拶をしたところで、「ーーーところで」と話し出したのだ。
「皆、気にしていることがあると思う。我が一人息子、アルフレッドの婚約者についてだ。元々、アシュクロフト伯爵令嬢が第一候補であり、他にも何人か年頃で身分等が近くふさわしい令嬢の何人を、婚約者候補としていた。それは、皆も知っていることだろう」
アルフレッドの婚約者はエスメラルダ一人ではない。身分や周囲の思惑等から彼女の名前が上がることは多かったが、あくまでその一人だ。表向きは《力》に覚醒していないエスメラルダの代わりに、婚約者候補としてパーティーでエスコートされる令嬢は何人かいた。と言っても、彼女達は完全にローテーションであり、《力》にさえ目覚めれば家柄と学業成績、予言から言ってエスメラルダ・アシュクロフト伯爵令嬢が婚約者だろう……というのが、貴族社会の下馬評だった。
《力》なければ貴族にあらず、とは思われていないが、それでも王族の婚約者となれば、その覚醒は必須である。《力》の強い者と婚姻を繰り返してこそ、今の王族があるのだから。
「残念ながら、アシュクロフト伯爵令嬢は《力》に目覚めることができなかった。王族との婚約における規定の未達、および父であるアシュクロフト伯爵からの申し出により、アシュクロフト伯爵令嬢は今後、アルフレッドの婚約者候補より外れる」
薄々察しのあった事態に人々が口々に何事かを話そうとして、「そして、」という王の話の接ぎ穂に押し黙った。
「我が息子の希望、および当人の保護も兼ねて、アンジー・スライ嬢を新しい婚約者候補とする。スライ嬢の治癒の《力》は、先の戦で体感した者もいるだろう。『満天の聖女』と慕われる名声や、孤児でありながら学業に誰より励んだ彼女を、我が息子の婚約者候補としてくわえる。よって、アルフレッドと誰が結婚するかは来年の発表となる」
婚約者決めのレースの中にアンジーは無事に参戦したが、新たな試験がそこには立ちはだかっていた。ゲームであれば「そして、女の子は王子様と結婚していつまでも幸せに暮らしました。めでたしめでたし」となるところだが、これは現実。アンジーはそれまでの努力と名声を、「王子の婚約者としてふさわしいか」改めて秤にかけられることとなったのだ。
「スライ嬢、相違ないな?」
「国王陛下の仰せのままに。どうぞ、私をお試しください」
儀礼通りに一礼したアンジーと、父と共に頭を下げていたエスメラルダ。二人の令嬢に人々の目が向いた中で、密かに動く影がいくつかあった。
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