コンクリートジャングル・クルーズ//強襲
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──コンクリートジャングル・クルーズ//強襲
ベリアが展開したミーティングモードの空間に東雲はARで、八重野たちはワイヤレスサイバーデッキで参加する。
「状況を整理する。まずこの事件に関係している組織についてだよ」
「ASA、
「そう。まずASAから。ASAは言わずと知れた厄介者。メティスの白鯨派閥とアトランティスのマトリクスの魔導書派閥が合流した超常現象を利用しようとする集団。超知能化した白鯨を保有し、そのマリーゴールドで世界に混乱をもたらしてる」
ASA。超知能化した白鯨によってPerseph-Oneや“ネクストワールド”と言ったマリーゴールドを生み出し、世界にそれを撒き散らすことで、今の混乱を引き起こした元凶。
「彼らの目的は未だ不明。彼らが成し遂げたのは世界規模の混乱。今のところはそれだけ。死者の世界と
ASAは結成された理由も、その組織として目指している目的も分からないという状態だった。分かっているのは彼らは死者の世界を意図して
「次に
その目的は当然六大多国籍企業にとっての利益だろうが、彼らはこの混乱からどのような利益を得ようとしているのか。
「さて、“ケルベロス”については説明する必要はないね。私たちが所属するハッカー集団で混乱に対抗している。雪風も加わったし、それに蘇った死者たちの中でも蘇るのを良しとしない勢力が協力してる」
「マトリクスでもか?」
「そう。ディーが合流したよ。彼らは死者の世界と
「ディーって前にくたばったお前の相棒だったな」
「うん。この
東雲が言うのにベリアが頷いた。
「そして、蘇った死者たちにも派閥が存在する。というか、彼らは滅茶苦茶。シンプルに大きいのは死者の世界と
「インドのホテルでインペラトルの連中とやりあったぜ。そうしたらエイデン・コマツとマスターキーが助けに入ってくれた」
「それが面倒なことになってる。こっちに味方してくれる勢力は助かるけど、敵対する勢力と戦うのは現時点でかなりの困難になるから。だって、すでに死んでいる人間をどうやって排除すればいいの?」
「そいつがデカい問題だ。インペラトルの連中も死ななかった。六大多国籍企業が旧式装備のインド軍に足止めされたのも同じ。死んでるから死なない。ゾンビだよ」
蘇った死者を殺しても死者であるが故に彼らは死なない。
「というより、世界から死という概念が消えてしまった。恐らくは今ちゃんと生きている人間を殺したって、すぐに死者の世界から戻ってきてしまうよ。かつて死は永遠の別れであり、個人の消滅だった。だが、今はその死が消えた」
死がなくなってしまった。死は終わりでも、別れでもなく、あくびや咳といったちょっとした生理現象でしかなく、全ての生き物はこの世に留まり続ける。
「殺しても死なない相手を殺しても退屈だな。自分が死んでも終わりじゃないというのも引っかかる。殺し合いというのは失うものが大きく、不可逆であるからこそ盛り上がる。そうじゃないか……」
「知らねーよ、セイレム。あんたはどうかしてる」
セイレムが愚痴るのに東雲が心底呆れた。
「これからもっと混乱が加速するのは間違いないよ。死者の世界にいるのは様々な思惑を持った人間たちだ。インドのようにヒンドゥー原理主義の勢力が蘇って暴れたり、日本で起きたように昔の軍人たちが生き返るのはとても危険だ」
「さっさと“ネクストワールド”を潰さねーとな。その言ってたDusk-of-The-Deadってのはまだ使えないのか?」
「まだだよ。雪風が適応可能なように改良しようとしている。けど、今や白鯨も雪風と同じ超知能だ。簡単にはいかないと思う」
「じゃあ、手っ取り早くツバルのASAを襲撃して、サーバーか何かぶっ壊すのは?」
「選択肢のひとつとして考えてる。マトリクスじゃDusk-of-The-Deadの開発と同時に
「オーケー。ツバルに突っ込む方法は?」
「それが困ってるんだ。民間航空会社はツバルへのフライトを全面的に停止してる。かといってこれはジェーン・ドウの
東雲が尋ねるのにベリアが眉を歪めて返した。
「参ったな。ツバルなんて飛行機以外でどうやって移動しろってんだ。太平洋の島だろ? 船でも拝借して向かうか?」
「無理。偵察衛星で確認されている限り、ツバルの目的地であるフナフティ・オーシャン・ベースっていうメガフロートには空母だって撃沈できる
「マジかよ」
「それから鯱の生物学的要素を
「打つ手なし、だな」
東雲が盛大にため息を吐いた。
「ハッカーたちに航空機をハックさせて利用するというのは無理なのか?」
「航空産業は軍関係施設に次いで高度な
「不可能ではないだろう?」
「難しいけど不可能ではないと思う」
八重野が尋ねるのにベリアは渋い顔をしていた。
「なあ、セイレム。あんたらシャトルをハイジャックした経験あるじゃん。そのノウハウを発揮してくれねえ?」
「そうしたいのやまやまだが、あの時は白鯨がこっちを支援していたし、シャトルの操縦ができたのは経験があるマスターキーがいたからだ」
「マスターキーって前に何やってたの?」
「どこかの国の軍人だと聞いてる。ただし、不名誉除隊したと」
「へえ。まあ、素人にはアーマードスーツもシャトルも扱えないわな」
セイレムの説明に東雲が頷いた。
「誰か飛行機操縦できる知り合いいるか?」
「いない。ハイジャックしてパイロットに操縦を強制するのはどうだ?」
「思考が完全にテロリストだな。でも、そこまで考えないといけないな」
呉が言うのに東雲が考え込む。
「ツバルに行くための手段はこっちでも探してみる。正規の民間航空会社は運航を停止しているけど、航空産業にも非合法な
「台湾に
「それは国が
「ふうん。そいつらとどうやって連絡とるの?」
「マトリクスから。けど、かなり危険な
東雲の問いにベリアが難しそうな顔をして返した。
「パイロットが確保できたとして、機体は? TMCからツバルに飛ぶとなればそれなりの長距離旅客機を使う必要があるぞ」
「直行便は無理だろ。どこかによって補給して、そしてツバルってとこじゃないか」
「となると、経由地でのIDの偽装も必要だな」
呉が言うのに八重野がそう言った。
「今のところは飛行機もないし、パイロットもいない。絵に描いた餅だ。それにツバルにいけば全部解決って決まったわけでもないし。ツバルにいってインドみたいに空振りだったらもうやり直せないぞ」
「分かってるよ。まずは情報を集める。マトリクスで可能な限り。ASAについて、白鯨について、
東雲がぼやくのにベリアがそう返した。
「あと、サンドストーム・タクティカルについても頼むぜ。ツバルに乗り込めば連中とやり合うことになるのは確実だ。どれくらいの部隊がいるのか調べてくれ」
「オーキードーキー。じゃあ、早速──」
そこで突然ミーティングモードの空間に外部からメッセージが飛び込んできた。
『ベリア! 東雲たちもそこにいる!?』
「ロスヴィータ? いるけどどうしたの?」
『大井統合安全保障の部隊がこっちに向かってる! いや、正確には
「まさか」
『ジェーン・ドウはボクたちを
ロスヴィータが叫ぶのにベリアたちが目を見開いた。
「逃げるぞ。荷物を纏めろ。もうここには戻ってこれない」
東雲の反応は早く既に“月光”を手にしていた。
「ワイヤレスサイバーデッキだけ持っていく。前の経験から重要なデータはマトリクス上のストレージにバックアップしてあるからここのサイバーデッキが破壊されても問題はないよ」
「ロスヴィータにもそう言って連れてきてくれ。それから足を頼む」
「了解」
東雲が言うのにベリアがそう返してロスヴィータに連絡する。
「八重野。あんたのワイヤレスサイバーデッキでこの付近の偵察衛星の画像を確保してくれないか。どの程度の連中が、どれくらいで到着するのか確認しておきたい」
「分かった。やっておこう」
八重野が民間宇宙開発企業の運営する偵察衛星の画像を確保し、衛星軌道上から見渡したTMCセクター13/6の映像を共有する。
「向かって来てるのは空中機動部隊だ。規模にして1個大隊。空挺戦車、アーマードスーツ、無人攻撃ヘリ」
「クソ。ベリア、足はまだか?」
八重野が報告し、東雲がベリアを急かした。
「確保した。すぐに来るよ。外に出た方がいい。爆撃されたらひとたまりもない」
「オーケー。こういうときにマイカーがあればよかったんだけどな」
「君、無免許じゃん」
東雲とベリアがそう言い、起きて来たロスヴィータを連れて全員が一斉にアパートの外に飛び出す。
その直後、東雲たちが白鯨事件の
「ああ。住み慣れたわが家が。家賃収入が」
「もうどうでもいいよ! 逃げるよ!」
東雲が悲観した表情を浮かべ、ベリアはハックして呼び寄せた装甲バンの助手席に飛び込んだ。東雲たちも続いて乗り込む。
「どこに逃げる?」
「セーフハウスを目指すべきだね。ジェーン・ドウも私たちのセーフハウスは把握してない。生体認証スキャナーを避けて向かうよ」
「了解」
ベリアがそう言って東雲がハンドルを握る。
装甲バンはセクター13/6の街並みを突き進み、辛うじて機能している生体認証スキャナーを確実に避けつつセーフハウスへと向かった。
『ホーク・ゼロ・ワンより
『
東雲たちの乗った装甲バンをドローンが追跡していた。
「ドローンに見張られてる。どうにかしなきゃ」
「どうするんだ?」
「仲間に頼ろう。“ケルベロス”だよ」
「頼むぜ、ハッカーども」
ベリアがワイヤレスサイバーデッキから“ケルベロス”のハッカーたちに連絡する中、東雲は違法建築だらけのセクター13/6を駆け抜けた。
東雲たちを追跡している大井統合安全保障の軍用ドローンに向けて、別の
「ドローンは片付いた。向かって」
「あいよ」
東雲たちの逃走が始まる。
このコンクリートで出来た複雑な密林の中での逃亡だ。
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