カウンターアタック//TMCセクター2/1

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 ──カウンターアタック//TMCセクター2/1



 東雲、八重野、呉、セイレムは調達した車でTMCセクター2/1を目指していた。


「大井海運本社ビルを襲撃するってか」


「らしいぞ。警備が凄いんじゃないか?」


「そりゃそうだ。世界最大のロジスティクス企業だぞ。六大多国籍企業ヘックスの中でも最大級。船を見つけて石を投げればほぼ大井海運の船だ。それだけの企業の本社ビルの警備が脆弱なわけがない」


 東雲が疑問に思って尋ねると呉が太陽は朝になれば昇ると同じくらいの常識を述べるように返した。


「下手するとサンドストーム・タクティカルと大井海運本社警備の大井統合安全保障の両方と戦う羽目になるな。今回はジェーン・ドウが手回ししているわけじゃない」


「勘弁してくれ」


 八重野が悲観的に述べると東雲が盛大にため息を吐いた。


「大井統合安全保障だってそこまで馬鹿じゃないだろ。自社グループの本社ビルを狙って来る相手の方が脅威だと理解するはずだ。それでもあたしたちを殺そうっていうなら、両方皆殺しにしてやる」


「どうにかしてサンドストーム・タクティカルの連中だけ相手したいよ」


 セイレムが言うのに東雲が高速道路を飛ばす。


 セクター2/1には瞬く間に迫っていた。


「ベリア。現地の衛星画像をこっちにも送ってくれ」


『オーキードーキー。そっちに転送する』


 東雲のARデバイスにベリアから偵察衛星の画像が送信されてくる。


「まだ誰も暴れてない。間に合うかね」


「暴れる前に押さえられれば一番いいが。だが、相手は元とは言えプロの軍人だ」


「元イスラエル国防軍IDF生体機械化兵マシナリー・ソルジャー。こういうの相手にしたくないよなあ」


 八重野が言うが、東雲が愚痴るだけだった。


 東雲たちを乗せた車は高速を降りて、セクター2/1に入った。六大多国籍企業の施設が入り混じる超高層ビルの世界だ。空が見えないほどい高いビルが連なっている。


「金持ちエリアへようこそ。俺たちの格好だと職質されちまうぜ」


 東雲はそう言ってセクター2/1を大井海運本社ビルに向けて進む。


『東雲。動きがあった。道路に停車したトラックから生体機械化兵マシナリー・ソルジャーとアーマードスーツが展開。大井海運本社ビルを目指してる』


「来やがった。迎え撃つぞ」


 東雲はそう言うと車を速度違反レベルで加速させ、ベリアが示した位置に向けて突っ込んでいく。


「いたぞ、東雲! サンドストーム・タクティカルだ!」


「くたばれっ!」


 東雲は車で道路に展開して前進しているサンドストーム・タクティカルの部隊に向けて突撃していった。轢き殺すつもりだ。


「馬鹿! 何やってる、東雲! 電磁ライフルで蜂の巣にされるぞ!」


「大丈夫だ! 八重野が乗ってるから爆発することはない!」


 呉が思わず叫ぶのに東雲が叫び返してさらに加速させる。


『ジャッカル・ゼロ・ワンより全部隊! 前方の車両に集中射撃! 撃て!』


 サンドストーム・タクティカルのコントラクターたちが容赦なく東雲たちの乗った車に向けて射撃を始めた。


「やべえ! クソ、ひょっとして見積もりが甘かった!?」


「だから言っただろ!」


 東雲が今頃になって慌てるのに呉が怒鳴った。


 しかし、やはり八重野のおかげか車は大破することはなく電磁ライフルによる銃撃の中を突き抜け、サンドストーム・タクティカルの生体機械化兵マシナリー・ソルジャーを1名轢き殺した。


「何か知らんが上手くいった! 降りろ、降りろ!」


「滅茶苦茶だぞ、お前!」


 東雲が車から飛び降り、セイレムたちも文句を言いながら降車する。


「邪魔をさせるな! 撃て、撃て!」


「“ネクストワールド”を使用しろ!」


 サンドストーム・タクティカルはアーマードスーツを前方に押し出し、それを遮蔽物にして東雲たちを銃撃した。


 口径35ミリ電磁機関砲が火を噴き、東雲たちを狙うも東雲たちは車で突入したことにより既にサンドストーム・タクティカルの懐に飛び込んでいる。


「行くぜ! ミンチにしてやる!」


 東雲が電磁機関砲の砲撃を弾き、アーマードスーツに肉薄する。


『ジャッカル・ゼロ・フォーから随伴歩兵へ。近接防衛兵器を使用する。警戒せよ!』


「それはもう見抜いちまってるんだよ!」


 アーマードスーツが空中炸裂迫撃砲弾を発射する瞬間を狙って東雲が“月光”を投射した。迫撃砲弾はランチャーの中で暴発し、アーマードスーツにダメージが入る。


『クソ。やられた。“ネクストワールド”で防御を行う』


『ここで止まるわけにはいかない。敵を殺せ!』


 アーマードスーツは東雲を最大の脅威と見做して、火力を集中させて来る。サンドストーム・タクティカルの襲撃部隊には9体のアーマードスーツで、その全てが東雲を狙っていた。


 電磁機関砲からグレネード弾まであらゆる火力が東雲に牙を剥く。


「やべえ。さっさとぶっ潰さないと穴あきチーズにされちまうぜ」


 東雲がそう愚痴りながら“月光”をアーマードスーツに向けて投射する。


 だが、やはり“ネクストワールド”の効果か。“月光”は見えない障壁に阻まれ、アーマードスーツに到達しない。


「頼むから持ってくれよ、俺の血!」


 東雲が血を注ぎ込み“月光”の貫通力を引き上げ、アーマードスーツが展開している障壁を撃ち抜こうとする。ギリギリと音を立てて障壁が裂けていき、ついには障壁を突き破ってアーマードスーツを貫いた。


「まずは1体!」


 東雲が他のアーマードスーツからの攻撃を防ぎつつ、攻撃の矛先を次のアーマードスーツに向けようとする。


『“ネクストワールド”の攻勢使用を開始。警戒せよ』


 サンドストーム・タクティカルのC4Iにそのような通信が流れた。


「そら! くたばれ!」


 東雲がそれには気づかずにアーマードスーツに“月光”を投射する。


 だが、“月光”は突然生じた謎の衝撃波によって弾き飛ばされ、さらには東雲自身も見えない獣に食われたかのように肉が抉れた。


「なんだよ、これ!?」


「東雲、気を付けろ! 敵は未知の技術を使用している!」


 東雲が抉れた体を見て叫ぶのに八重野がそう言った。


「マジかよ。やってくれるぜ。これ以上何かされる前にぶちのめす!」


 東雲が身体能力強化で傷を強引に回復させ、再び“月光”を投射した。


 さっきと同じように謎の力が“月光”を退けるが、今回は投射した“月光”は一本ではない。アーマードスーツの背面に回り込んだ“月光”がアーマードスーツを貫く。


 さらに──。


「“月光”!」


 東雲が叫び、アーマードスーツの背中に突き刺さった“月光”から青緑色の粒子が流れ始めると、それが“月光”の少女となったのだ。


「来たぞ、主様!」


「オーケー! やってやろうぜ、“月光”!」


 “月光”の少女と東雲がサンドストーム・タクティカルのアーマードスーツ部隊を挟み撃ちにする。


『未確認の敵性勢力を確認した。排除せよ』


『了解』


 挟み撃ちにされたアーマードスーツ部隊の一部が“月光”の少女の方向を向いた。


 そして、“月光”の少女に向けて電磁機関砲を叩き込む。


「そんなもの当たりはせぬ!」


 “月光”の少女は電磁機関砲の射撃を受け付けず、蜃気楼のように機関砲弾は“月光”の少女を抜けていった。


 同時に“月光”の少女がアーマードスーツに切りかかる。


偽装投影デコイホロだと!?』


『“ネクストワールド”を使って防御しろ。冷静にやれば勝てる』


 “月光”の少女がアーマードスーツに突撃するもアーマードスーツが展開した障壁によって攻撃が阻まれる。弾かれた刃が跳ね、“月光”の少女が後方に後ずさった。


「ぬ? なんじゃこれは? ……魔術? それもカルネアデス学派か?」


 “月光”の少女がアーマードスーツを見て呟いた。


「主様。このものたち異世界の魔法を使っておるぞ!」


「ああ。そうらしい。対抗できそうか?」


「こちらも魔術を使えばよい」


 “月光”の少女がそう言うと彼女の握る刃に魔法陣が浮かび、光が強くなる。


「ゼノン学派の障壁砕きペンタクルブレーカー! 受けてみよ!」


 “月光”の少女がそう宣言し、魔法陣を帯びた刃を振るう。


 先ほどまで“月光”の攻撃を弾いていたアーマードスーツの障壁があっさりと破壊され、アーマードスーツ本体も切り裂かれて火花を散らして沈黙。


『まさか。“ネクストワールド”の効果が無力化された……』


『怯むな! 火力で制圧しろ!』


 アーマードスーツ部隊に動揺が走る中、“月光”の少女が暴れまわる。


「使えるのか、魔術……。“月光”が使えたってことは俺も……」


 東雲がしばし逡巡したのち、“月光”の刃を見つめた。


「やってみるか!」


 東雲はそう言うと詠唱し、“月光”に力を注ぐ。


「行くぜ! てめえらが魔術を使うならこっちもだ!」


 東雲が握る“月光”にも“月光”の少女と同じ魔法陣が浮かび、それを宿した刃が“ネクストワールド”で障壁を展開するアーマードスーツに襲い掛かった。


『障壁展開。同時に近接防衛兵器を使用。サイバーサムライを遠ざけろ』


 サンドストーム・タクティカルのアーマードスーツ部隊が“ネクストワールド”を使用した障壁を展開すると同時に近接防衛用の迫撃砲弾を発射する。


「ぶち抜け!」


 東雲が近接すると同時に“月光”を射出し、アーマードスーツを狙う。


 障壁は砕かれ、“月光”の刃はアーマードスーツを貫き破壊した。火花が飛び散り、パイロットが死亡し、制御系が破損したアーマードスーツが沈黙する。


『不味い。敵も同じ技術が使っている。これでは我々の優位性は』


『ジャッカル・ゼロ・ワン! 敵も魔術を使っている! 指示を乞う!』


 アーマードスーツ部隊が混乱し始めた。


『ジャッカル・ゼロ・ワンより全部隊。任務タスクの達成を最優先とする。なんとしても攻撃を成功させる。自分のために死ぬな。戦友たちのために死ね』


『了解。死ぬ覚悟はできています』


 サンドストーム・タクティカルのコントラクターたちが一斉に動いた。


 一部は東雲たちを足止めするように動き、一部は交戦を避けて大井海運本社ビルに向けて強行突破を始める。


「こいつら、味方を見捨ててでもテロをやろうってわけかよ」


「東雲、どうする? こっちも人を分けるか?」


「そうしたらそうしたで不味いしな」


 呉が尋ねてくるのに東雲が唸る。


「ベリア。大井統合安全保障はまだ他所にいってるのか?」


『待って。確認してる。彼らもテロが陽動だと気づいたみたいだ。緊急即応部隊QRFがそっちに向かってるよ。戦況はどう?』


「サンドストーム・タクティカルの連中はイカれてるぜ。味方を見捨ててでも仕事ビズをやろうってつもりだ。しかし、いいニュースもある。こっちの魔術も相手に通用するってことだ」


『本当? 後で詳しく聞かせて』


「あいよ。今はこの状況をどうにかしましょう」


 ベリアにそう言うと東雲はこの場に残ったアーマードスーツを相手にする。


「スクラップにしてやるよ」


 東雲はもはや“ネクストワールド”を恐れる必要はなかった。彼の魔術はサンドストーム・タクティカルの使用する魔術を打ち破る。障壁はあっさりと貫かれ、アーマードスーツはなすすべもなく破壊された。


『全ての兵装を使用せよ! 叩きのめせ!』


 アーマードスーツは不利と見るや彼らのアドバンテージである火力の高さを生かした戦闘を始めた。グレネード弾からロケット弾まであらゆる火力が東雲に牙を剥く。


「うおおお! クソッタレ! いきなり飛ばしやがって!」


 東雲が悲鳴を上げつつもアーマードスーツを攻撃する。


 1体、また1体とアーマードスーツが破壊されるが、アーマードスーツは純粋な火力以外にも魔術を使った攻撃を繰り広げる。


「主様! 連携するのじゃ!」


「ああ! 呼吸を合わせてぶちのめせ!」


 東雲は“月光”の少女と連携してアーマードスーツと戦う。


 アーマードスーツは東雲の方を向けば“月光”の少女に、“月光”の少女の方を向けば東雲に撃破されてしまう。


「敵全滅!」


 そして、厄介なアーマードスーツ部隊が全滅した。


「八重野、呉、セイレム! そっちはどうだ!?」


「まだ交戦中だ! こっちの生体機械化兵マシナリー・ソルジャーも魔術を使っている! 私はまだ大丈夫だが、呉たちが混戦状態だ!」


「オーケー! 援護する!」


 サンドストーム・タクティカルの生体機械化兵マシナリー・ソルジャーと交戦中の八重野たちに向けて東雲が走る。


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