ディア・ヴァンパイア//サイバーサムライ・ストラグル
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──ディア・ヴァンパイア//サイバーサムライ・ストラグル
東雲たちの前に広がる非合法傭兵集団インペラトルのサイバーサムライたち。
ラテン系の男アウグストゥス。
アフリカ系の男ティベリウス。
東ヨーロッパ系の男カリグラ。
そして、姿は見えないがモンゴル系の男クラウディウスがいる。
「あーあ。またお前らかよ。もううんざり。帰ってくれない?」
「そういうわけにはいかんさ。こっちも
「うるせえ。お前らだってデカい顔して表を歩ける御身分じゃないだろ。とっとと失せるか、死にやがれ」
「そういうことならそっちに死んでもらうだけだ」
カリグラがニッと笑ってそう宣言した。
「交渉決裂だな。さて、殺し合いだ。お前らの好きな殺し合いで決めてやるよ」
東雲が“月光”の刃をカリグラに向けてうんざりした様子でそう言った。
「またやり合える日がくるとはな。お前とは縁がありそうだ」
「そうだな。今度はあんたの首を刎ね飛ばしてやるよ」
「いいねえ。そうじゃなくっちゃ」
呉はアウグストゥスの方を向く。
「今度こそ決着をつける。私のプライドのためにも」
「そうか。それが望みか。仕方ないな」
「手加減はしないぞ」
八重野はティベリウスの方を向く。
「それじゃあ、あたしは今回もだんまりしているクソニンジャと踊るか」
セイレムはそう言って音響センサーをアクティブにして限定AIによる解析を開始した。周辺の物理的構造があっという間に分析されて行く。
「レッツ、ダンス!」
「くたばれ」
最初に動いたのはカリグラだった。
カリグラが一瞬で東雲との距離を詰めて超電磁抜刀で切りつける。
東雲の胸が深く切り裂かれて鮮血が散る。
「野郎……! ぶった切る!」
東雲は“月光”を振るってカリグラを攻撃する。カリグラに向けて八本の刃を振るい、カリグラが素早く身を引いて躱し、迫りくる“月光”を超高周波振動刀で退ける。
「どうした? そのサイバネ装備は面白いが宝の持ち腐れのようだぞ?」
「むかつく野郎だぜ。本当にむかつく! ミンチにされても自業自得だからな!」
カリグラの挑発に東雲が“月光”にありったけの血を注ぎ込んで、カリグラに襲い掛かった。
「そうでなければな! 面白いぞ! 血が滾る!」
「殺し合いで興奮してるんじゃないぞ、変態が!」
東雲の猛攻撃を前にカリグラが攻撃を迎撃しつつ、東雲に向けて突撃する。
「そう何度も斬られてたまるか! てめえがスライスされちまえ!」
東雲は突撃してくるカリグラを前に“月光”を高速回転させた。
「ちっ。こいつは面倒だ。だが!」
カリグラは巧みに超高周波振動刀を操り、高速回転する“月光”を押しのける。
「そら! そっちがサシミになっちまうぜ、日本人!」
「ふざけやがって。どうせ刺身食ったこともないんだろう!」
「あるぞ! マグロを食ったことがある!」
「合成品のマグロがてめえにはお似合いだよ!」
カリグラと東雲が激しく剣戟を繰り広げる。
「8対1だってのによくやるぜ」
「そっちもよく八本も剣を操れるな」
「まあな。こいつとは長い付き合いなんでね!」
東雲がニ本の“月光”の刃でカリグラの攻撃を受け止め、残り六本でカリグラを一斉に攻撃した。
「おっと!」
カリグラが身を引くが、その際に左腕を“月光”に切り落とされた。
「しまった。やっちまったぜ」
「観念しろよ、サイバーサムライ?」
東雲が冷や汗をかくカリグラを見て獰猛な笑みを浮かべた。
一方その頃、呉はアウグストゥスと戦っていた。
「なかなかの腕前だな。高い機械化率と長年の経験、そして才能か」
「そっちもやるじゃないか。楽しめてるぜ」
呉が呻くのにアウグストゥスが笑う。
「言ってくれる。あんた、いつからサイバーサムライをやってる?」
「16歳の時に機械化した。それからはずっとこの手の
「他人の流血で食っていくのが俺たちサイバーサムライだな」
「イエス。俺たちもある意味じゃ吸血鬼だぜ、兄弟?」
呉が“鮫斬り”を鞘に収め超電磁抜刀の姿勢を取るのにアウグストゥスも同じように超高周波振動刀を鞘に収める。
「本物の吸血鬼は魔術が使えるんだぞ」
「知ってるよ。俺たちは根無し草でね。
「ああ。同意するよ。リスクには気を付けないとな」
「だが、リスクがあってもこの
呉がじりじりと距離を詰めるのにアウグストゥスも近づく。
「死にたがりか」
「死神を傍に感じるのは快感だぞ」
「そして、死神がお前の肩に手を置いたぞ!」
呉が超電磁抜刀でアウグストゥスに切りかかり、アウグストゥスも超電磁抜刀で呉の攻撃を迎撃しようとする。
激しい金属が衝突する音が響き渡った。
「たまらないぜ! 死神がそこにいるぞ! 俺たちを見ているぞ!」
「そうだな! 死神にとっちゃ稼ぎ時だ! 奴の
「その通り! どっちが死んでも恨みっこなしだ! ははっ!」
呉とアウグストゥスは超高周波振動刀を叩きつけるようにぶつけ合う。高度に機械化されたサイバーサムライの繰り出す斬撃の威力は凄まじい。
「テンポを上げるぞ。ゆっくり遊んでいる暇はないんでね」
「上等。楽しもうぜ! 盛り上げって来た!」
呉とアウグストゥスが激しく刀を繰り出す。
「こいつは随分とクソッタレだぜ」
「そうか? 俺にとっては最高のステージだ!」
サイバーサムライ同士の殺し合いが続く。
そして、八重野もティベリウスと斬り合っている。
「ここまでやって死なないとはな。子供とは思えん」
「私はもう子供ではない」
「そうだな。認めるよ」
八重野とティベリウスはいくら斬り合っても八重野は一太刀も浴びていない。
「まあ、正当な勝負ではない。私は吸血鬼の呪いを受けている。2年間は絶対に死なないという呪いだ。だから、ここでお前と殺し合っても私は絶対に死なない。お前が私を殺すのは不可能だ」
「なんとまあ。そいつは卑怯だ。俺に勝ち目はないわけなんだからな。依頼主もこのことを伝えておいてくれればな」
ティベリウスが深々とため息を吐く。
「だが、あんたが死なないことが必ずしも俺が敗北することに繋がっているとは限らない。あんたの足止めはできるはずだ」
「そこまでルナ・ラーウィルに尽くす義理があるのか?」
「義理人情では決して動かない。俺たちはただ
「そうか。確かに信頼は大事だ。私は己を高めるために信頼を獲得し、誇りを持ち、栄誉を得て来た。全ては己が生き残るために」
「ストリート育ちにとっては納得できる話だ。俺もストリートで育った。ストリートというのは人類の築いた文明社会じゃない。野生動物どもが生きる弱肉強食の世界だ」
「分かっているじゃないか。そうだ。そう言う場所だよ、ストリートは」
ティベリウスと八重野が互いに距離を取り合う。
「だが、お前も俺もそこから這い上がった。だろう? 俺は家族を持つという贅沢すら味わった。愛するものを持った。結局それを捨てざるを得なかったとしても文明的な行為を行ったんだ」
「そうか。私は今もストリートにいるような気分だ。騙し、騙され、裏切り、裏切られ。案外、人間に文明などというものはないのかもしれない。全ては人間という名の動物が作った野性的な社会なのか」
「どうであれ、俺は妻を持ち、子供を授かった。満足だよ」
「じゃあ、死ね」
「そうはいかんさ!」
ティベリウスが八重野に向けて超電磁抜刀で超高周波振動刀を叩き込む。
だが、八重野は超電磁抜刀を返さず、“鯱食い”を鞘に収めたままティベリウスの斬撃をひらりと身を翻して躱し、一気にティベリウスの懐に飛び込んだ。
「しま──」
「一閃」
八重野がカスタムされた通常の3倍の威力がある超電磁抜刀をティベリウスの体に向けて叩き込んだ。
人工筋肉を初めとする機械化した身体が引き裂かれ、ティベリウスは左わき腹から右肩まで真っ二つにされた。
「ここ、まで……か。ああ……アメ、リア……!」
ティベリウスが崩れ落ちる。
「勝負あり、だ」
八重野がそう宣言した。
そして、セイレムとクラウディウスが戦っている。
「馬鹿のひとつ覚え。熱光学迷彩に単分子ワイヤー。それからショットガン装備の戦闘用アンドロイド。そんなものであたしの首が取れるとでも思ってるのか?」
セイレムが嘲るようにそう言って“竜斬り”を振るう。
火花が飛び散り、肉薄していた戦闘用アンドロイドが切断される。
「そら。残り何体だ? 気合を入れないとあたしは殺せないぞ」
セイレムが残忍な笑みを浮かべて何も映っていない空間を眺める。
第六世代の熱光学迷彩は音以外の全てを覆い隠す。
「──次」
セイレムが虚空に向かって超高周波振動刀を振るった。
戦闘用アンドロイド2体が一気に真っ二つにされ、ショットガンから放たれたスラッグ弾がセイレムの頬を掠めて飛んでいき、床にのめり込む。
「ほらほらほら! もっと殺しに来いよ、ニンジャ! やる気はあるのか!」
セイレムがそう煽りながら“竜斬り”を振るう。
そこで単分子ワイヤーが襲い掛かる。
「おっと。いよいよ本体の攻撃か?」
セイレムが単分子ワイヤーが舞うのを回避する。見えない殺意がセイレムの周りで踊り、セイレムの服が鋭く裂かれる。
「見えないとでも思ってるのか? 既にあたしの音響センサーと解析AIはお前を捉えているぞ。さあ、やってみろよ。踊ってやるぞ。お前がオードブルの生ハムのようにスライスされるまでなっ!」
セイレムがそう言って超高周波振動刀を振るう。
熱光学迷彩を使っている戦闘用アンドロイドがさらに撃破された。
「戦闘用アンドロイドの数が少なくなってきたぞ? どうする? さあ、足掻け」
セイレムが笑いながら次々に戦闘用アンドロイドを斬り伏せ、飛び込んでくるスラッグ弾を回避し、単分子ワイヤーを退ける。
「温い、温い。温すぎる。スリルがないぞ、ニンジャ。もっとあたしを怯えさせてみろ。心臓を激しく脈打たせ、呼吸を荒くし、アドレナリンを放出させろ」
セイレムはまた戦闘用アンドロイドを撃破した。
「おやおや。戦闘用アンドロイドはついに品切れだな? どうする? あたしにはお前は見えているぞ。単分子ワイヤーで襲い掛かろうとすれば、お前の胴体を真っ二つだ。そして、お前は終わり」
セイレムが“竜斬り”を鞘に収めた。
見えない殺意が、単分子ワイヤーが舞い、一斉にセイレムに襲い掛かる。
「無駄だと言ったはずだ。そして、終わりだ」
セイレムが電気の弾ける音を響かせて超電磁抜刀を行う。
「ぐっ!」
セイレムの“竜斬り”はクラウディウスの単分子ワイヤーを繰り出していた腕を完全に切断し、熱光学迷彩が乱れてクラウディウスその姿を現す。
「頑張ったな、ニンジャ。だが、終わりだ」
セイレムが“竜斬り”をクラウディウスの首に叩き込む。
クラウディウスの首が高らかと刎ね飛ばされ、機械化ボディが痙攣しながら地面に崩れ落ちた。
「まあ、ほどほどに楽しめたぞ」
セイレムは“竜斬り”を鞘に収めて小さく笑った。
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